プラント設備管理の高度化をどう実現するか──高経年化・人手不足下での全体最適化の進め方

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2026.06.16
  • プロセス産業
  • 石油
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石油製品、化学品、電力などを生み出すプラントは生活に欠かせないインフラであるが、近年、その運営を取り巻く環境は大きく変化している。設備の高経年化に伴う故障率の上昇、人員不足の深刻化、資材価格の高止まりといった要因により、重大トラブルの発生リスクや保全費用の増大リスクが高まっている(図1)。
こうした環境下においては、従来業務の踏襲から脱却し、中長期の視点で設備のパフォーマンスとコストを最適化する、精度の高い戦略・計画の策定と実行が不可欠である。すなわち、“高度な設備管理”への転換が求められている。
一方で、プラントの設備管理は、経営層、本社、工場マネジメント、現場作業員といった複数階層に加え、製造・保全・技術などの多様な組織が関与する複雑なプロセスであるため、全体像を把握しづらい。その結果、「全体最適に向けて何を目指すべきか分からない」、「課題が多岐にわたり、どこに注力すべきか判断できない」といった課題が生じやすく、業務単位・組織単位での個別最適に陥りやすい構造となっている。
そこで本稿では、アビームコンサルティングの支援実績に基づき、プラントの設備管理高度化に向けた要諦を実践的に解説する。

図1 プラントを取り巻く環境

執筆者情報

  • 高添 有佳子

    Director
  • 関根 崇

    関根 崇

    Manager
  • 平井 太一朗

    平井 太一朗

    Manager

今、プラント設備管理はどのレベルを目指すべきか(高度化Lv4の全体像)

プラントの設備管理においては、設備パフォーマンス(安定かつ効率的な操業)とコスト(新設投資・保全費用・運転コスト)を統合的に捉え、両立させていくことが重要となる。その実現には、属人的な管理からの脱却と業務・データの標準化・整合化を前提に、最終的には経営・マネジメント層の戦略と現場の実行をデータでつなぎ、PDCAサイクルを一体的かつ自律的に循環させる仕組みの構築が不可欠である(図2)。
この仕組みにより、保全や設備投資に関する意思決定は、従来の経験や属人的判断に依存するものから、リスクおよびコストに基づくデータドリブンな意思決定へと転換される。
これまでは、関係者の多さやデータ処理負荷の高さに起因してPDCAの断絶や停滞が生じていたが、生成AIの活用により、循環を維持・高速化することが現実的となりつつある。
こうした背景を踏まえると、設備管理はLv4の「自立最適化」を志向すべき段階に来ていると言える。

図2 設備管理の高度化Lv

設備管理の高度化を阻む「個別最適化のワナ」とは何か

前述の通り、Lv4の方向性は明らかである一方、基盤が整備されていない段階で生成AI活用のみに着手することは得策ではない。設備の高度化は段階的に進めるべきであり、まずはLv3の全体整合化を実現した上でLv4を目指す必要がある。
Lvが低い状態でAI活用を進めた場合、「部門に閉じたAI活用による部分最適化」「データ分断・未整備に起因する不十分な示唆」「判断基準がないことで、AIの出力が業務判断に活用されない」といった問題が生じやすい。結果として、かえって個別最適化を助長するリスクが高まる。
特にLv2からLv3への移行、すなわち全体整合化のフェーズには、複数の難所が存在する。
本稿では、それらの難所と克服方法を、プロセス製造業界における設備管理プロセスに沿って、アビームコンサルティングの複数の支援事例をもとに解説する(図3)。

図3 設備管理プロセスの全体像と難所

難所①:縦割り組織による計画間の不整合 (PLAN Lv.2→Lv.3)

プラントでは、製造・保全・技術といった各部門がそれぞれの専門性に基づいて個別に計画を策定しているため、計画間の連動性が欠如しやすい。その結果、「製造部門の運転変更により劣化速度が変化しているにもかかわらず保全計画に反映されない」「重要設備であるにもかかわらず適切なタイミングで補修が実施されない」といった、設備単位で最適化されていない問題が顕在化する。

<克服例:部門別計画から機器単位の“機器管理計画”への一元化>
本ケースでは、各部署に閉じた計画を見直し、機器単位で各部門の計画を統合した“機器管理計画”を中心に業務プロセスおよび体制を再構築した。これにより、設備の信頼性と補修費の最適化を踏まえた意思決定とそれに基づくアクションの実行が可能となった。
各部門が共通のリスク評価手法に基づき計画を策定できるようにした点に加え、機器管理計画を起点としなければ工事起案ができない仕組みを構築することで、従来の個別最適な業務への回帰を防止した点が重要である。

図4 機器管理計画を中心とした設備管理

難所②:紙/Excel起点によるデータの断裂(Do Lv.2→Lv.3)

保全業務では、計画から発注、実行、記録に至るまでのデータを一貫して活用することで、業務の効率化が可能となる。しかし、紙や独自のExcelが利用されていること、さらに各業務で必要とされるデータの粒度が異なることから、業務プロセス間でデータが分断されている。その結果、紙やExcelを収集した上で、次工程のシステムに適合する粒度へ人手で加工・転記する非効率な作業が発生している。

<克服例:必要情報のデジタル化とデータが一貫して繋がる粒度の定義>
このケースは、次工程で必要となる情報がデジタル化されていない、またはデータ粒度が揃っていないことが主な原因である。これらを踏まえ、データが一貫して流れることを前提に、業務プロセスおよびデータ粒度の再設計を実施し、それに適合するシステムを導入した。これにより、次回工事の立案における情報収集や劣化速度の算出といった業務が効率化され、所要時間の削減が可能となる。
本ケースの重要成功要因は、必要となるデータ粒度が設備種別や業務パターンによって異なる点を踏まえ、現場の業務担当者とともに、業務パターン全体をカバーする標準化されたデータ粒度を定義することである。
加えて、データ量が膨大となることを見据えた計画的な整備と、最新データを維持する運用体制の確立が不可欠である。

難所③:現場に届かない意思決定(Check/Action Lv.2→Lv.3)

経営・マネジメントへの報告を目的として、操業や保全データを収集・加工したレポートを定期的に作成しているものの、「データがリアルタイムでない」「意思決定の基準が明確でない」といった課題により、判断が滞り、具体的なアクションに繋がらないケースが多い。

<克服例:リアルタイムデータに基づく意思決定の設計>
本ケースでは、KPIおよび閾値超過時のアクションを再定義するとともに、必要な操業・保全データをダッシュボード上に集約することで、経営・マネジメント層がリアルタイムデータに基づいて迅速に意思決定できる環境を整備した。これにより、データ収集・加工にかかる工数を削減するとともに、意思決定に基づく具体的なアクションの実行が可能となった。
意思決定の設計にあたっては、5W1H(何を目的に、どの指標を、いつ、誰が、どの画面で確認し、どのような基準で判断し、どのようなアクションを取るのか)を明確化することが不可欠である。これが不十分な場合、ツールが導入されても意思決定に活用されないリスクがある。

図5 リアルタイムデータに基づく意思決定

難所④:物差し不在による限定的な改善活動(仕組み/組織 Lv.2→Lv.3)

設備管理に関する改善活動を自社独自の手法で構築・運用しているものの、比較対象や評価基準が存在しないため、業務全体を客観的に評価・改善することが困難である。その結果、工場ごとの業務品質のばらつきや、個別最適化の進化、さらには改善活動の形骸化といった問題が発生する。

<克服例:体系的なアセットマネジメントシステムの評価方法の適用>
このケースでは、ISO55000シリーズをベースに、マネジメントの観点から設備管理の強み・弱みを全体的かつ体系的に可視化したうえで、改善施策を実行した。これにより、アセットマネジメントシステムの成熟度が向上し、設備のパフォーマンスとコストの最適化につながった。
評価にあたっては、ISO55000シリーズの各要求事項に対して、成熟度定義を具体化したうえで、社内規定や要領の確認、関係者へのヒアリングを通じて網羅的に数値化を行い、強み・弱みについて関係者間で共通認識を形成することが重要である。

Lv.4:生成AI活用による自律最適化

Lv3の実現によりデータが統合・蓄積されると、次にボトルネックとなるのは人による検討・判断の処理能力である。これに対し、生成AIは単なる調査・相談ツールとしてではなく、検討業務の自動化および意思決定支援の基盤として、設備管理プロセス(図3)の中に組み込むことが重要である。これにより、PDCAの自律的な循環が実現し、設備の信頼性の向上、保全費の最適化、業務効率化のさらなる高度化が可能となる。

設備管理業務における生成AI活用案

  • PLAN:機器管理計画の自動策定
    機器管理計画の策定では、戦略、過去の保全・トラブル履歴、各種規定・要領など多様な情報を参照しながらリスクや対応策を検討する必要があるが、設備数や情報量の多さから人の判断には限界がある。生成AIによりリスク評価や対応策検討の一部を代替することで、重要設備への判断リソースを集中させ、工場全体の信頼性向上を図る。
  • Do:定期修理期間中の保全報告書のリアルタイム作成
    長期の定期修理では、工事対応を優先するため報告書作成が後追いとなり、事後的に記憶に依存した作業が発生しやすい。機器管理計画や過去報告書、最新の工事実績を生成AIに取り込むことで、保全報告書をリアルタイムに自動生成し、エンジニアは次回施策の検討など高付加価値業務に集中できる。
  • Check&Action:テキストデータを用いた操業・工事進捗・予算の予実分析
    ダッシュボードにより予実差異は把握できる一方、その原因分析は依然として人に依存している。操業日報や保全報告書などのテキストデータを生成AIに読み込ませることで、予実差異の要因分析に加え、改善施策や戦略見直しに関する示唆を得ることが可能となる。
  • 仕組み/組織:アセットマネジメントシステム(Asset Management System)監査の一次スクリーニング
    アセットマネジメントシステムの監査では、膨大な資料をもとに要求事項との適合性を確認する必要があり、多くの工数を要する。生成AIにより関連資料を解析し、要求事項との対応関係を一次的にスクリーニングすることで、監査業務の効率化とシステム全体の健全性向上が期待できる。

設備管理の高度化に向け、何から始めるべきか

Lv4の自律最適化の世界と、そこに至る過程で直面する難所について述べてきたが、高度化に向けた第一歩として重要なのは、自社の現在地を正しく把握することである。具体的には、高度化Lvのチェックリスト(図6)を活用し、現状の到達度と次のLvとのギャップ(課題)を可視化することが出発点となる。そのうえで、一足飛びではなく、現実的に到達可能なステップを積み重ねるかたちで、段階的にLvを引き上げるロードマップを描くことが肝要である。各フェーズにおいて直面する難所を着実に乗り越えていくことが設備管理高度化の実現に直結する。

図6 プラントの設備管理における高度化Lvのチェックリスト
各問いに対し、Yesであれば到達、Noであれば未達であり改善の余地がある

設備管理の高度化を実現するために:Lv4自律最適化に向けた進化の要点

本稿では、設備管理において目指すべき姿としてLv4の自律最適化を提示するとともに、その前段となる全体整合化(Lv3)に向けて乗り越えるべき難所について解説した。実際に高度化Lvを引き上げていくためには、多くのステークホルダーとの調整や、長年手を付けられてこなかった構造的な課題への対応が必要となるため、強固なプロジェクト推進力と本質的な課題を捉える問題解決力の両輪が不可欠である。
アビームコンサルティングでは、これまで多くの設備管理変革に携わる中で、

  • 現場実態に即した実行性の高い業務構想および業務プロセスの設計
  • 業務プロセスと連動したデータの抽出および粒度設計
  • 構想に適合するITシステムおよびAIの選定・導入

といった取り組みを支援してきた。こうした知見に基づき、各企業の高度化レベルに応じた適切なゴール設定と難所で停滞しない最適化プログラムの推進を支援することで、設備管理の持続的な進化に貢献していく。


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