【イベントレポート】ART MEETS BUSINESS Vol.4 Creating with Machines ― 機械との共創 ―  写真芸術から考える、人間とテクノロジーの未来

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2026.06.01
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2025年10月14日、アビームコンサルティング本社にて、「ART MEETS BUSINESS Vol.4」が開催された。今回のテーマは「Creating with Machines ― 機械との共創」。国際写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」との連携のもと、T3のファウンダーである速水惟広氏、写真芸術研究者の北桂樹氏を迎え、アビームコンサルティング Principalの小山元が聞き手を務めた。
本セッションで扱われたのは写真芸術だが、議論は写真にとどまらず、人間とテクノロジーの関係、さらにAI時代の価値創造をどう捉えるかという問いまで及んだ。写真を単なる「記録メディア」としてではなく、カメラという装置との関係のなかで「世界の見え方を変える営み」として捉えること。そこから、これからの時代に人間が果たす役割についての議論が立ち上がった。

写真:イベントの様子(左からアビームコンサルティング小山、速水氏、北氏)

執筆者情報

  • 小山 元

    小山 元

    Principal

1. 写真は「何が写っているか」だけでは定義できない

議論の出発点となったのは、写真を見る際に一般的に重視されがちな「被写体=何が写っているか」という観点を問い直すことだった。写真は被写体そのものだけで成立するのではなく、「どう撮影されているか」「どのような装置を介しているか」「どのように受け取られるか」といった複数の要素によって成り立つということである。
一例として、1970年代のアメリカにおいてカラー写真表現を開拓した Stephen Shore がミッキーマウス型のカメラを用いて撮影した写真が紹介された。ミッキーマウス型のカメラを用いて人物を撮影すると被写体はそのカメラに反応し、自然に笑顔になる。
彼の実践を通じて示されたのは、「写真が現実(被写体)をそのまま写すものではなく、カメラという装置の介入によって現実(被写体)の見え方そのものを変える」ということである。写真において重要なのは被写体だけではない。撮影に用いられる装置、その装置が場に与える影響、さらにそこから立ち上がる全体の関係性まで含めて、写真は成立している。
目の前にある結果だけを見るのではなく、結果を生み出した条件やプロセスにも目を向けること。これが最初の論点となった。

2. 写真を「装置が生み出すもの」として捉える

議論は写真家の紹介にとどまらない。次に取り上げられたのはメディア哲学者 Vilém Flusser だ。彼は写真を「目に見えた結果としての画像」ではなく、カメラという装置によって生成された表現として捉えた。その捉え方を前提に、人間の認識や思考がテクノロジーによってどのように変化しうるのかを論じた思想家である。
この視点に立てば、写真は「目に見えている像」そのものではなく、「入力」「変換」「出力」という一連のプロセスとして理解される。つまり、写真とは被写体を写した結果ではなく、カメラという装置がどのような入力情報を受け取り、どのように処理し、どのような形で出力したのかまでを含む、生成のプロセスとして考えられる。
この整理は、テクノロジーやAIとの関わりを考える際にも示唆的だ。AIの出力結果だけを見ていては、その価値やリスクを十分に把握することはできない。重要なのは、どのような入力が与えられ、どのようなモデルや変換を経て、その出力が生まれたのかというプロセスに目を向けることである。写真をめぐるFlusserの議論は、「結果」ではなく「結果を生み出すプロセス(仕組み)」に着目する視点の重要性を示しており、アートの一類型としてもビジネスパーソンとの関りが深くなり得ると言える。

3. 価値は完成品だけではなく、プロセスにも宿る

次に、「結果を生み出すプロセス(仕組み)」を作品の主題としたアーティストとして紹介されたのが、ロサンゼルスを拠点に活動する現代美術家のWalead Beshty である。彼は写真、彫刻、インスタレーションを横断しながら、作品が生まれ、流通し、展示されるまでの制度やプロセスそのものを中心的な問いとして制作を続けてきた。
代表作である《FedEx》シリーズでは、ガラス作品を通常の物流網に載せ、輸送中に生じた割れや傷までも作品として提示している。ここで焦点となるのは、制作スタジオで完成したオブジェだけではない。制作スタジオから展示会場へ至るまでの物流や輸送、取り扱い、さらにはそれを支える制度的な枠組みそのものが、作品の価値生成プロセスの一部として可視化されている。
この事例が示すのは、価値が最終成果だけに存在するのではなく、その過程にある関係性や変換の中にも生まれるということだ。製品やサービスだけに限らず、顧客接点、オペレーション、流通、社内外の連携、さらには解釈や編集のプロセスまで含めて価値は形づくられていく。アクターネットワーク理論※1にも通じるようなこの問いかけは、VUCAの時代と呼ばれて久しい今日のビジネス界にとっても示唆に富むものだといえる。

※1 アクターネットワーク理論:人間とモノ/技術を同等の「アクター(行為主体)」として捉え、それらが結びつくネットワークの相互作用から社会や知識、価値が立ち上がる過程を説明する考え方。

4. Creating with Machines - 機械を使うことと、機械と考えることは異なる

会の終盤では、Vilém Flusser の「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」という考え方が紹介された。Flusserは写真家を「装置をただ正しく使いこなす存在ではなく、その特性を意図的にずらし、新しい可能性を引き出す存在」として捉えたのである。この視点は、人間とテクノロジーの関係を問い直すものであり、今日の AI との向き合い方にも応用できる。
現在、人間とテクノロジーとの関係は、単純な効率化や代替手段としてだけでは捉えきれなくなっている。AIを既存業務の効率化に使うことは有効である一方、それだけでは価値創造の幅は広がりにくい。より重要なのは、AIを通じて何を見直し、どこに違和感を見出し、どのような新しい問いを立てられるかという点にある。単に「機械を使う」ことと、「機械と考える」ことは異なる。その差異のなかに、人間の創造性が関わる余地がある。

写真芸術の先に見える、人間とテクノロジーの未来

今回の「ART MEETS BUSINESS Vol.4」は、写真芸術をテーマにしながら、最終的には人間とテクノロジーの未来に関する議論へと接続した。議論を通じて、テクノロジーが高度化するほど、人間の役割は結果を生み出すことだけではなくなることが示された。必要になるのは、結果に至るまでの関係を考えること、見えないプロセスを読み解くこと、何を問いにするかを決めること、そして機械との関係そのものを問い直し続けることである。
こうした視点こそが、AI時代の価値創造を考えるうえでの基礎になる、と総括できるだろう。

開催概要

  • 日時:2025年10月14日(火)18:00〜19:30
  • 会場:アビームコンサルティング本社「As One Stage」
  • 登壇者:速水 惟広 氏、北 桂樹 氏
  • モデレーター:小山 元(Principal/Creativity Teamリーダー)
  • 主催:アビームコンサルティング株式会社

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