次に、阿部はS&OPの重要性が高まっている現状を指摘する。2010年代までは需要動向や原料価格が比較的安定しており、期初に立てた事業計画をSCM計画の微調整で達成することが可能であった。しかし現在では、期初の事業計画と直近のSCM計画が大きく乖離するケースが増えており、SCM計画をいくら高精度につくり込んだとしても、事業計画が未達に終わる状況が常態化しつつある。
ここで必要なのは、SCM計画を事業ポートフォリオの見直しと連携させ、経営層が戦略的な意思決定を行える新たなS&OPプロセスを構築することである。
「サプライチェーンをいかに高精度に設計しても、経営判断と連動していなければ在庫が積み上がり、キャッシュフローを圧迫する事態が繰り返されることになります。実際、私が経験した事例の中には、半導体部品の調達リードタイムが半年以上に延び、見込んでいた売り上げが実現しないまま部品在庫が膨らみ、企業のキャッシュフローを直撃したプロジェクトがありました」(阿部)
しかし、S&OPの実現には高い壁がある。阿部はその「4つの落とし穴と対応策」を以下のように述べる。
1つ目は、「収益性の可視化が難しい」という点だ。販売価格や製造原価といった金額情報は、営業部門や経理部門などが個別に管理しており、SCM部門では最新の金額情報を十分に把握できないケースが多い。その結果、SCM計画と事業収益にどのような影響を与えるのかを経営に示せず、意思決定につながらない。この対応策としては、会計・原価システムから財務データを収集したうえで、KPIや原価構成を起点に計算式を紐解きながらシミュレーション式を定義し、関連部門を巻き込みながら金額情報を一元的に扱えるデータ基盤を整備することが挙げられる。
2つ目は、「シミュレーション負荷が大きい」点だ。経営層に複数プランを提示するためにはそれぞれのプランが実行可能であることを担保する必要があり、生産能力や段取り替え時間などの制約条件を踏まえた生産計画を複数パターン作成することが求められる。その結果、計画精度を高めようとするあまり、担当者が徹夜対応を余儀なくされるケースもある。この対応策としては、段取り替え時間や仕掛かり在庫の保管スペースといった制約条件をあらかじめデータ化し、生産計画のシステムによって自動立案できる仕組みを可能にしておくことが有効である。
3つ目は、「経営層の巻き込み不足」である。需給調整の結果が事業収益にどの程度影響するのかをSCM部門が即座に示せなければ、経営層は適切な判断を下すことができない。こうした状況に対しては、「利益最大化」「稼働率最大化」など、あえて極端な比較プランを提示する手法がある。「ここから現状維持バイアスを崩し、段階的に計画変更の判断を引き出せるようになる」と、阿部はその効果に触れた。
そして4つ目の落とし穴が、「事業計画・部門予算との乖離」である。外部環境が変化してSCM計画と当初予算の乖離が拡大しても、予算修正が進まず、計画が形骸化してしまうケースは少なくない。対応策は、SCM計画を四半期・半期といったサイクルで事業予算に反映し、全社に展開するプロセスをルールとして明文化することが挙げられる。