AI時代において、顧客の付き人が担う3つの隙間へのアプローチ(信頼関係の構築、企業固有の文脈理解、合意形成の支援)を組織知として継承することは、営業改革の中核課題である。
しかし、この領域は長らく個人の経験やセンスに依存してきた。優れた営業パーソンは、顧客との会話や現場観察を通じて、言語化されていない課題や組織の文脈を直感的に把握し、意思決定プロセスに寄り添いながら合意形成を進めていく。多くの場合、彼ら自身もその判断の背景を体系的に説明できない。
さらに、「自分だけができること」が自身の価値や地位を支えているという心理や、日々の業務に追われ育成に時間を割けないといった現実的制約も、暗黙知の共有を難しくしている。その結果、営業組織ではトップ営業の能力が属人化し、組織として再現性を持った営業プロセスが確立されないという課題が生じやすい。
こうした状況を打破するために、組織として取り組むべき方向性は大きく2つある。
第1は、暗黙知の可視化とデジタル化である。
3つの隙間へのアプローチを言語化し、プレイブックやチェックリストとして整理するだけでなく、CRMや営業データと連動させながら、組織知として蓄積していくことが重要となる。これにより、優れた営業パーソンの行動パターンや意思決定の勘所をデータとして捉え、再現可能な営業プロセスへ昇華させることが可能となる。
第2は、適材適所の配置戦略である。
すべての営業パーソンに3つの隙間への対応を求めるのではなく、営業タイプごとに役割とKPIを設計し、チームとして補完関係を構築することが重要である。例えば、戦略パートナー型営業が課題構造化や提案設計を担い、顧客の付き人型営業が顧客内部の文脈理解や合意形成を支援するなど、役割を分担することで組織全体として意思決定プロセスを支援する体制を構築できる。
結論として、AI時代に営業が不要になるわけではない。不要になるのは、情報仲介依存型の従来型モデルである。3つの構造的隙間の存在は、人間が価値を発揮すべき領域を明確にし、営業という職能の再定義を迫っている。
人間固有の価値を組織資産として設計できる企業こそが、持続的な競争優位を確立する。営業改革の本質はテクノロジー導入ではなく、人間価値の再定義と制度設計にある。
次回以降は、AIと人間それぞれの強みを生かし合いながら、AI時代において目指す営業の最適解の一つの姿(第2回)と、その世界観を実現するために必要なチェンジマネジメント(第3回)について論じる。