物流2024年問題の先を見据え 荷主企業がとるべき物流戦略とは

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2024.12.02
  • 交通・運輸・物流
  • サプライチェーンマネジメント
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トラック運転手の時間外労働時間の上限が年間960時間まで規制され、物流の停滞が懸念される「物流の2024年問題」。多くのマスメディアが取り上げ、社会的な注目を集めた「物流の2024年問題」であるが、物流業界の現場においては、荷主企業主導の本格的な物流改革の取り組みが加速している。
本稿では、「物流2024年問題の先を見据え 荷主企業がとるべき物流戦略」と題し、物流改革に必要な4つの戦略とそれを実現するために必要なポイントについて解説する。
(本稿は2024年11月22日株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催イベント「シン・物流大改革フォーラム2024“物流クライシス最前線”~テクノロジー×イノベーションが創出する新たな一手~」での当社講演「物流2024年問題の先を見据え荷主企業がとるべき物流戦略とは~4つの基本戦略と乗り越えるべき3つの壁~」をもとに再構成しています。)

物流2024年問題を受けた物流業界の現状

2024年4月に適用された、トラック運転手の時間外労働時間の上限規制。これにより、物流業界はもちろん、食品・小売り・自動車・半導体・商社・電力といった、日本でモノを運ぶ必要があるほぼ全ての業種が影響を受けている。本規制を受けた物流業界の実態としては、単なる規制対策を講じるだけではなく、規制をきっかけとした本格的な物流改革が加速するというポジティブな機運が高まっている。
具体的には、従来主流であった物流会社主導の物流改革から、荷主企業主導の物流改革へシフトしている。また、荷主企業内においても物流部門単独ではなくサプライチェーンを含めた全体での取り組みや、自社や一部企業間に留まらず複数の企業間で協調するといった横断的な協力体制が拡大している。さらにシステム面では、従来の現場最適なアナログの仕組みを脱却し、企業間協調に向けたデジタルを活用した仕組みづくりに踏み出している。

図1 物流2024問題を受けた物流業界の現状

物流改革に必要な4つの戦略

当社は、2024年4月の規制導入によって変化した物流動向、荷主企業の実態や直面している課題を踏まえ、荷主企業がとるべき今後の物流戦略を、「繋げる」「延ばす」「縮める」「緩める」の4つに整理した(図2)。

図2 物流2024問題の先を見据えた 4つの基本戦略

物流を「繋げる」

1台のトラックで運べなくなった距離を他の物流手段で補う戦略である。
他の物流手段としては、トレーラーやドライバーを交代したトラックの中継輸送、他社との共同配送、航空便や船舶などを活用したモーダルシフト、将来的にはドローンなどを活用した完全自動化などがある。本稿では、企業・業界横断型の協調的な物流へのシフトを背景に、さらなる本格化が見込まれる共同配送にフォーカスする。共同配送を実現するために整理したい要点として、配送要件と情報連携基盤(共同配送プラットフォーム)の整備の2つがある。
まず、配送要件の標準化や各社の利害調整である。具体的には、輸配送モデル・物流資材、物流事業者への委託内容、顧客提供サービスレベルといった各観点で標準化を進める必要がある。また、事故や遅延発生時における瑕疵対応や責任分界点の整理に加え、従来自社一社ゆえに柔軟に対応できていたことが、共同配送によって対応できなくなる場合の対応方針の策定も求められる。さらに、独占禁止法に抵触しない共同物流ルールの検討も重要である。次に情報連携基盤の整備においても同様に多岐にわたる観点があり、業界毎に存在する規制を加味した標準ユースケースの検討、どのデータをどう連携するのか、どのようにプラットフォームを運用するのかといった点を具体的にクリアにしていくことが求められる。一部企業間では部分的に動き始めているが、実際の稼働から運用までの実現における難易度は相応に高いのが実態である。

物流を「延ばす」

荷待ちや荷役といった運送以外の時間を削減し、運転時間を効率化・最大化する戦略である。
まず運転自体の効率化として、ドライバーの経験や勘ではなくリアルタイムの道路交通情報に基づいた運転を促す運行管理システムの導入や、配送条件(時間・ルート)の緩和が有効である。次に、荷待ち時間の削減として、配送業務のBPR(Business Process Re-engineering)やバース予約システムの導入、着荷主との運行・位置情報の連携による正確な時間把握が効果的である。ただし、バース予約システムは導入のハードルは低い一方で、効果を得るには各ドライバーや倉庫側の従業員による適切な利用が必須となり、周知徹底できないと効果が期待できないので注意が必要だ。
荷役時間の削減には、パレットの導入や倉庫側での荷下ろし業務の巻き取りの拡大が有益である。当社が行った実証実験では、デジタルテクノロジーを駆使した倉庫内業務の可視化と業務効率化によって12%の倉庫内作業工数が削減でき、創出した工数でドライバーの作業時間の巻き取りを実現した。AI活用によるオペレーション計画最適化によりさらなる工数捻出も期待できるため、生産性最大化に向けたデジタルテクノロジーの活用は急務である。

物流を「縮める」

エリア/ブロック内で完結する需給を実現し、長距離輸送自体を減らす戦略である。これはCO2削減といったサステナビリティの観点からも有益である。
実際の物流現場では、荷主企業のオーダーにより、北海道から九州までといった日本を横断する形の長距離輸送が頻繁に発生している。一方、荷主企業のオーダーを紐解きひとつひとつの制約を取り除くと、実は小規模なエリア内の輸送で完結できる場合もある。地産地消型のコンパクトなサプライチェーンの構築には、どこの工場のどんな生産ラインで何をつくっているのか、それらがどこの物流拠点でどう積み替えて、どう運ばれているのか、といったデータを実際に現地に出向きリサーチし、収集したデータを活用しながら、拠点の見直しを含めたサプライチェーンの最適化を進めていく。当社の支援事例として、最大34%の輸送距離(≒CO2)を削減できたケースもある。

物流を「緩める」

取引先・工場とのサービスレベルを緩和させ、輸送を平易化する戦略である。具体的には、開発・調達・製造・営業といった各部門の要望を一手に引き受けるのではなく、部門横断・全体最適へシフトしていく。
特に、もっとも改善のハードルが高いと考えられるのが顧客対応である。配達の指定日時や頻度など、個々のオーダーに応えるべく各社最大限の企業努力を重ねているのが実情である。その結果として、貨物自動車の平均積載率40%という「空気を運ぶ」非効率な物流となっているのだ。今後、物流改革を加速させるためには、物流効率の観点から顧客サービスを見直すことも視野にいれる必要がある。

物流改革において乗り越えるべき3つの壁

ここまで4つの基本戦略を示してきた。一方で、いざ実行するとなるとなかなか進められないという企業も少なくない。そこで当社では、企業が実際に物流改革を進めていく際に直面しうる壁を「部門間の壁」「会社間の壁」「情報断絶の壁」の3つに分類し、それらを具体的にどう乗り越えていくべきかを解説する。

部門間の壁の打破:CLOによる全体最適

先に紹介のとおり、梱包方法・引取ルート・積載方法・納期といった各部門からのさまざまな指定に物流部門が応じた結果、物流現場の実態は低積載・高コスト・高リスクとなっている。また、各部門が独立的に個別最適化しており、物流部門から各部門への働きかけも一筋縄ではいかないケースが多い。こうした企業内の「部門間の壁」を打破し、部門横断した全社視点での物流改革を進めるために、専任の責任者としてCLO(Chief Logistics Officer)の配置が効果的である。その際のポイントとしては、CLOを単なる物流統括管理者という役割に留めず、サプライチェーン全体の統括者として物流改革をリードする権限を付与することだ。全社的な経営戦略として、物流改革というミッションに特化した責任者を設けることで、組織間の壁を越えた全社的な取り組みを推進しやすくなる。
さらにCLOは会社の顔としての機能もある。特に、会社間で共同配送の推進を行う際には、物流部門同士ではなかなか進まないのが実態であり、物流を超えた範囲にまで責任を持つCLOレベル同士が連携することで社内外への影響力が増し、双方が抱えるハードルが乗り越えられる。

会社間の壁の打破:物流組織の役割再定義とマネジメント体制構築

物流改革を阻む壁として、物流部門の組織構造に起因する課題を抱えるケースも多い。自社の物流部門、物流子会社、3PL、下請け企業といった物流組織の多重構造によって、各物流のオペレーションやコスト構造がブラックボックス化し、実態の正確な把握が困難となり改革に着手できないという「会社間の壁」があるのだ。
その壁を乗り越えるために、まずは物流組織の役割の再定義が有効な一手である。具体的には、物流部門は戦略部隊として、物流ネットワーク全体の視点から、サービスレベルを加味したトータルコストの削減やリスクマネジメントを担い、物流全体の最適化をミッションとする。また、物流子会社は戦術部隊として、3PLと協同した改善プロセスの推進をミッションとし、3PLのマネジメントを含むリスクの可視化や、生産性向上を通じたオペレーショナル・エクセレンスを確立していく。これにより、物流構造の透明化やマネジメント体制の構築を実現し、物流改革を円滑に進める体制を整えることができる。
また、役割の再定義と同時に企業に求められる対応が、マネジメントサイクルの設計である。組織を真に機能させ、物流改革の取り組みを定着させるためには、物理的な指標としてのKPI設定や、どの部門がどのようにPDCAサイクルを回していくのかを含めたマネジメントサイクルの設計が欠かせない。

※3PL:
3rd Party Logisticsの略。ノウハウを持った事業者が、荷主の立場になってロジスティクスの企画・設計・運営する事業。運送業者と同一の場合もある。

情報断絶の壁の打破:SCMコントロールタワーによる情報連携

統括者の選任や各組織の役割を再設定しても、それだけでは実際の改革は進められない。具体的な情報がなければ、雲をつかむ状態に留まってしまう。それが、物流改革を阻む3つめの要因「情報断絶の壁」であり、開発・営業・生産・調達といった各部門の業務プロセスを経た最新の物流計画や実績情報を、物流部門が正確に把握できていないという実態がある。
そこで鍵となるのが、サプライチェーン全体の可視化である。具体的には、開発計画や販売計画、需給予測を通じた在庫計画、生産計画、調達計画といった一連の計画情報や、輸送するモノの重量、荷姿、納期条件、さらに倉庫のキャパシティを含めた仕様情報を可視化する。これにより、各工程や部門を横断した正確な情報連携と各工程を遡った情報確認が可能になり、物流部門が正確な情報を把握することで、サプライチェーン全体最適の観点を有する物流部門起点での改善提案や改革推進が実現できる。

企業価値最大化や競争力強化を担う物流変革のパートナーへ

数多くの物流現場を支援してきた中で、企業にとって物流そのものが経営戦略の1つであり、物流の高度化がビジネス成長を牽引する競争優位性の確立につながることを確信している。現在、グローバルのリーディングカンパニーを中心に先行している物流の取り組みであるが、多くの日本企業が抜本的な物流改革を追求する未来は、すぐそこにある。
アビームコンサルティングは、サプライチェーン領域を熟知した専門家と、40年以上にわたるサプライチェーン改革支援の豊富な実績や経験を有している。物流業務や部門間連携のメカニズム、さらに最新のデジタルテクノロジーへの深い理解に裏付けられた確かなノウハウや知見を駆使し、今後も経済価値(事業継続性)・顧客価値・社会価値の向上に向けた物流変革を支援していく。


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