近年、M&Aのニーズが急速に高まる一方で、実施後に期待通りの統合効果を獲得できていない、また効果創出まで想定以上に時間を要したという声をよく耳にする。
多くの企業がM&Aのシナジーを創出できず最低限の統合で終わってしまう原因として、日本企業特有の現場重視のマネジメントやシナジー発揮までを見据えた計画性の欠如などが考えられる。
本インサイトでは、アビームコンサルティングのこれまでの実績から導き出した示唆や当社独自調査の結果を基に、M&Aのシナジー効果を最大化するための要諦について紹介する。
近年、M&Aのニーズが急速に高まる一方で、実施後に期待通りの統合効果を獲得できていない、また効果創出まで想定以上に時間を要したという声をよく耳にする。
多くの企業がM&Aのシナジーを創出できず最低限の統合で終わってしまう原因として、日本企業特有の現場重視のマネジメントやシナジー発揮までを見据えた計画性の欠如などが考えられる。
本インサイトでは、アビームコンサルティングのこれまでの実績から導き出した示唆や当社独自調査の結果を基に、M&Aのシナジー効果を最大化するための要諦について紹介する。
近年、日本企業が関わるM&Aは急速に増加し、2023年は約4,000件、2024年上半期の件数は2,321件と過去最高を記録した。経済産業省も、M&A(合併・買収)促進に向けた公正なルール形成を目的として「企業買収における行動指針」(2023年8月)を策定。中小企業向けには中小企業庁が「中小PMIガイドライン」(2022年3月)、「中小M&Aガイドライン」(2023年9月)の策定・改訂を実施。日本企業の成長に向けて、M&Aによる企業再編や事業承継を重要な手段と位置付け、その促進を後押している。
しかし、現在M&Aそのものの成果に肯定的な「自己評価」をする企業は少ない。2021年の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると「想定した以上のシナジーが生まれた」と回答した企業は、各項目で数%~10数%程度の割合に留まる。特に、M&Aの実施件数が5件未満の企業においては、各項目で数%の低い数値が並ぶが、「想定した以上のシナジーが生まれたものは特にない」という回答が約半数を占めている。(図1)実際、各企業の経営者との対話においても「会社規模は大きくなったが、シナジーの創出がなかなか進まない」という悩みを聞くことが多い。なぜ、M&Aによるシナジー創出に苦悩しているのだろうか。
アビームコンサルティングは、「期待通りの効果が得られていない」大きな理由の一つはM&A成立後に実施される企業統合のプロセス(Post Merger Integration: ポスト・マージャー・インテグレーション、以下PMI)にあると考える。
当社にご相談いただいた企業においても、統合後も一枚岩とならず個社別の事業経営が続いた実態は数えきれないほど多い。
GE、ノバルティス、デュポン、バンク・オブ・アメリカといった名だたるグローバル企業の経営コンサルタントを務めてきた元ハーバード・ビジネススクール教授のラム・チャラン氏が「戦略の失敗の70%は実行のまずさによる。知性やビジョンの欠如によるのではない。」と述べるように、M&Aにおいても、その実行フェーズに位置付けられるPMIの重要度は極めて高い。
もちろんM&A戦略を「1+1=2」と捉え、自社グループの規模拡大自体が目的であれば、プロセスやシステムの統合によるシナジーを期待する必要はない。しかし、M&Aを実施する多くの企業は、検討段階では大きなビジョンを描いているはずであり、多額の資金や多大な労力を投じて、果敢にチャレンジしたのは、大きな果実(=シナジー創出)を得ようとしたからであろう。少なくても、コスト観点において、単純に両社のコストが合算された状態のままであることは、統合に関わる多くのステークホルダーの納得を得難いと思われる。弊社のプロジェクト実績からも、統合直後は両社で重複する機能やリソースも多く、30%程度のコスト削減は達成可能と考える。
M&Aはこれまでの延長線上にない、自社の経営資源では成し遂げられない外部資源を活用した成長手法である。異質の経営資源を統合するため、元々難易度は非常に高い手法である。
アビームコンサルティングにおける過去の多くの案件実績から、日本企業においては「両社の擦り合せを過度に重要視し、現場の意見を尊重することで、思い切った意思決定がされない」という日本企業特有のマネジメントスタイル・カルチャーがボトルネックになっていると推察する。つまり、日本特有の丁寧な意思決定の仕組みや人に依存した業務への考慮が、短期間での急激な変化を困難にしているというのが実態である。その結果、”シナジー効果を創出すること”がゴールとならず、そのかなり前段階である”統合すること”自体がゴールとなっていると想定される。(図2)
通常、買収が決定した段階で統合に向け「統合計画書」が作成される。PMIは経営全般に影響するため、計画は広範なものになるはずだが、実態としては会社によって対象とする領域や範囲が異なる。
統合後、法的な要件をクリアし、ビジネスを停滞させないことは必須のため、組織や規定、人事労務、経理、法務、システム、取引先対応といった企業活動の維持に関する領域はしっかりと計画されている。しかし、M&Aで期待する「どのようにシナジーを創出するか、すなわち、想定される課題をどのように乗り越えるか」まで策定されるケースは極めて稀である。実際、弊社調査によると、PMI後に統合計画を振り返ったときに「統合計画に盛り込むべきだった/より詳細まで計画すべきだった」と感じた事項において、「統合後の業務におけるマネジメント体制」「組織文化・風土融合に向けたアプローチ」「期待するシナジー効果」など、単に日常業務が回る状態を構築する目的以外の事項が上位に挙がってきている(図3)。
アビームコンサルティングのPMIにおける統合計画書では、一般的な統合計画の範囲を超え、統合後に期待される成果と最終的に目指す姿を明確化し、盛り込むことを重要視している。これは最終的に目指す姿を見据え、それに向けた企業のトランスフォーメーションを実現するための具体的なアクションプランまでを包含する。また、迅速かつ効果的な意思決定を行うために体制整備も同じく重要である。つまり、意思決定プロセスの迅速化や、外部専門家も含む関係者間のコミュニケーション強化までも含んだ計画となっている。
当社は、PMIを超えた概念として、PMT(Post Merger Transformation)という枠組みで統合からシナジー創出までを一貫して推進することが重要と考える。(図4)
‐目指す姿(=統合後に企業が構造改革された姿)を明確にする
‐統合計画書策定時に統合をゴールとするのではなく、シナジー創出までのステップまでを計画化する
‐意思決定の迅速化を図るための意思決定プロセスの明確化・再整備をする
‐組織横断で推進できる人材の抜擢、及び、その人材が機能するチームを組成する
アビームコンサルティングはPMT(Post Merger Transformation)を通じて、PMIを単なる統合プロセスにとどめず、企業変革の起点として捉え、企業の成長を支援します。Real Partnerとして、総合的なサポートを提供し、お客様とともに新たな未来を創造します。
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