縫製産業の拡大が続くベトナムで、業績を伸ばすYKK ベトナム社。アビームコンサルティング(ベトナム)は、同社のRPA 導入を支援した。RPA 導入は、国内では「働き方改革」の文脈で語られることが多いが、同社の取り組みはそれとはまったく異なる。人件費の低い東南アジア市場でRPA を導入する真の狙いと効果について、同社社長の敷田透氏とオペレーションマネジャーの三戸芳和氏に伺った。
縫製産業の拡大が続くベトナムで、業績を伸ばすYKK ベトナム社。アビームコンサルティング(ベトナム)は、同社のRPA 導入を支援した。RPA 導入は、国内では「働き方改革」の文脈で語られることが多いが、同社の取り組みはそれとはまったく異なる。人件費の低い東南アジア市場でRPA を導入する真の狙いと効果について、同社社長の敷田透氏とオペレーションマネジャーの三戸芳和氏に伺った。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
ファスニング(ファスナー)とAP(建材)の2大事業を手掛けるYKKグループは、世界72カ国・地域に拠点を持ち、北中米、南米、EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)、中国、アジア、日本の世界6極による経営体制でグローバルにビジネスを展開している。
ファスニングを中核事業とするYKKベトナム社は1998年に設立された。2010年以降、地政学リスクの高まりや若年層の製造業離れ、円高などの問題を背景に「チャイナプラスワン」の動きが加速する中で、中国地域を補完する筆頭拠点として浮上したのがベトナムであり、過去10年の成長ぶりは目覚ましいものがある。「2009年に赴任しましたが、ビジネスの規模は当時の10倍ぐらいになったでしょうか」。YKKベトナム社の代表取締役社長 敷田 透氏はこう話す。現在、ホーチミンとハノイというベトナムの南北に工場を構える他、2018年4月にはR&Dセンターも開設。加工輸出向け以外にも、近年、ベトナムへの進出が相次ぐ欧米のスポーツメーカーやカジュアルウエアメーカーに対して、現地で企画・開発から製造・販売までを一貫して行っている。
縫製産業の需要増大に伴い、生産体制の増強を続けてきたYKKベトナム社だが、さらなる供給力の強化とサービス向上を図るべく、業務効率化を主眼として、2018年10月にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に踏み切った。その経緯を、敷田氏は次のように振り返る。
「ファスナーはご要望や用途によって千差万別であり、典型的な少量多品種の製品です。それに加え、アナログのプロセスが多い業界でもあります。お客様からのご注文はファクスで届いたり、電話による口頭のご注文の場合もあります。ベトナムに赴任する前は、私は上海にいたのですが、市場が右肩上がりの時は、ひと晩で注文書の山が積み上がるくらいでした。それを、現地の従業員が基幹システムに入力していくわけですが、短大や大学を卒業した優秀な人材が夢と希望を持って日本企業に入社したのに、繁忙期になると入力作業に忙殺されていました。『さばききれないほど受注があるとはいえ、こんな状態でいいのか』と疑問に感じていました。ベトナムに赴任して5年ほど経ち、今度はベトナムで同様の状況になり、何か良い方法はないかと考え始めたのがきっかけでした」
注文書が届くと自社の基幹システムに入力するまでに2、3日、ピーク時には4日から1週間程度を要していたという。「お客様から納期を1日でも早くしてほしいと言われる今の時代に、順番待ちの注文書が山のようにあったわけです。しかし従業員に無理を強いることはできません。何とか打開策を見つけなければと、いろいろ情報収集していくうちにたどり着いたのがRPAでした」と敷田氏は打ち明ける。ベトナムでは今、人材確保が大きな課題となっている。ハイパフォーマンスな人材の争奪戦は激しく、人材の流動性が高まっているため、ES(従業員満足度)の視点が急浮上している。「出発点はあくまでも従業員の幸せです。導入に当たって『RPAは人員削減の手段ではない』と従業員にはっきりと宣言しました」と敷田氏は語る。
「RPA導入前に業務分析を行ったのですが、業務全体の約6割が入力などの単純作業でした。伸び盛りの会社ですから、そういった業務だけを行う人材を雇い続けることは将来的にも難しいため、単純作業の自動化による業務の効率化は喫緊の課題でした。一方で、当時バズワードにもなっていたRPAで、どれだけの効果が得られるかは未知数でした。まずはトライアルで導入してみようというのが正直なところでした」。こう話すのは、RPA導入プロジェクトを指揮した同社オペレーションマネジャーの三戸芳和氏。プロジェクトの推進に当たってアビームコンサルティング(ベトナム)が支援した。
プロジェクトは、10週間で①BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の検討とRPAの導入、②OCR(光学的文字認識)のトライアル導入、③統制・運用ルールの策定と体制整備の3つを並行して行うというものだった。RPA化に成功した代表的な業務としては、前述の注文書の入力作業(オーダー入力)が挙げられる。「お客様からエクセルで届いたものを、コピー&ペーストして基幹システムに入力する作業でした。面倒なのは、お客様によってデータの仕様やエクセルの中身が全然違うことです。当社で統一したフォーマットで作成を依頼すればよいという考え方もありますが、当社はサプライヤーですし、そこまでの負荷をかけるわけにはいきません。そこで書式の異なる注文書をそのまま受け入れ、RPAが処理する方法を採りました」(三戸氏)。
何を出荷したかを記録した「デリバリーノート」や、輸出入に関する書類の出力も自動化しました。また、OCRツールを併用することでPDFなどからテキスト情報を読み取ることができる。「社内外のシステムから情報を取得して書類を作成する業務は、ひと通り自動化できるよう、プロジェクトを進めています」と三戸氏は説明する。当初10週間で、3体程度のロボット導入をアビームコンサルティング(ベトナム)自らが行い、それ以降の開発はYKKベトナム社に引き継いだ。プロジェクトはスタートから1年も経っていないが、すでに50体のロボットが稼働しているという。
「新しいものを入れるときはスタッフ間で盛り上がるんですが、時間につれて熱が冷めてきます。ただ初期の思いから、RPA導入のスピードは落としたくないと考えています。そこで、トップとしてプロジェクト継続の号令をかけ続けました。また、毎月1回開催される製販会議で、各部署のRPAの活用状況について報告の時間を設けました。そうして使い続ける雰囲気をつくっていきました」と敷田氏。トップのこうした強いコミットメントが、RPA導入プロジェクトの自走力を高めたかっこうだ。
一連のプロジェクトで、YKKベトナム社が選定したRPAツールは、UiPathのソリューションだった。その理由について、三戸氏は「もともと他社製品を使ったこともありましたが、どちらかというとエンジニア向けのインターフェースになっていて、社内で使いづらい印象がありました。UiPathの方がユーザーフレンドリーで、YouTubeなどで開発手法を公開しており、それらを見て学習することも容易でした」と話す。
ベトナムの労働市場ではIT人材がひっ迫しており、ITリテラシーの高い人材を獲得するとは難しい。そこで、ITリテラシーがそれほど高くなくても開発に取り組めるようなUiPathを選んだ背景がある。今回のRPA導入に伴走したアビームコンサルティング(ベトナム)について、両者は次のようにコメントしている。「アビームコンサルティングは、当社の目線に立って導入をリードしてくれました。ベトナム人とビジネスをすることについても、アビームコンサルティング自体がそれを実践しており、要点を押さえた支援が得られ感謝しています」(三戸氏)
「変化の激しい今の時代に対応すべくRPAを導入しましたが、導入して終わりではなく、これからも継続して取り組むべきだと考えています。ただ、社内だけで進めていると視野が狭まり、時代に取り残される可能性があります。アビームコンサルティングには、これからも進捗をレビューしてもらいながら、われわれが進んでいる方向をチェックしてもらいたいと思います」(敷田氏)
RPA導入促進に向けて、YKKベトナム社では現在、ロボットコンテストの開催を準備している。「ユーザーである従業員に、RPAをもっと理解してもらいたいというのが第一の目的です。従来はトップダウンで業務分析を行ってRPAの開発を行っていたのですが、ある程度のロボットが出そろった現在、今後はユーザー側からもどんどんリクエストしてほしいと考え、このコンテスト開催に至りました」(三戸氏)。
エントリーした従業員は、RPA開発に必要な研修を受け、自ら業務分析やロボットの要件定義を行う。これによって、自身の単純作業をさらに自動化し、価値ある業務にシフトさせていくのが狙いだ。RPAの導入効果について敷田氏は言う。「経営の観点からは、従業員が働きやすくなったことは間違いありません。当社は、自身でも信じられないような勢いで事業が拡大しています。ただ、昨年度を振り返ったときに、あれだけ業績が伸びたのに、社内が意外とバタついていなかったのは、RPAによるところが大きいと感じています」。生産能力を増やすのであれば設備を増強し、稼働時間を延ばせばいい。しかし、工場に至る前段階の間接業務が滞っていたのでは、生産能力をフルに活用することはできない。RPAはその間接業務を効率化した。
YKKベトナム社が見据える先には、事業のさらなる拡大がある。そして、ベトナムだけでなく、インドシナ半島全体に市場を広げたいとの思いがある。そうすることで、従業員にさらなる活躍の場を与えたいと、同社を率いる敷田氏は考えている。
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2019年10月1日
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