プロサッカー選手本田圭佑氏がプロデュースする、ソルティーロファミリアサッカースクールは、2012年の誕生以来、国内70カ所、海外4カ国でサッカースクールを運営している。運営会社のHONDAESTILOは、さらなる飛躍のためにコーチの質の維持・向上を目指して、評価システムの構築を決定。
アビームコンサルティングをパートナーにプロジェクトに取り組み、コンピテンシーとそれにもとづく評価制度を策定、それを運用するシステムを導入した。
プロサッカー選手本田圭佑氏がプロデュースする、ソルティーロファミリアサッカースクールは、2012年の誕生以来、国内70カ所、海外4カ国でサッカースクールを運営している。運営会社のHONDAESTILOは、さらなる飛躍のためにコーチの質の維持・向上を目指して、評価システムの構築を決定。
アビームコンサルティングをパートナーにプロジェクトに取り組み、コンピテンシーとそれにもとづく評価制度を策定、それを運用するシステムを導入した。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
ソルティーロファミリアサッカースクール(以下、ソルティーロ)は2012年5月、「サッカーを通じて、夢を持つことの大切さを伝えたい」という想いのもと、本田圭佑氏のプロデュースで誕生したサッカースクールである。ソルティーロではサッカーに関する技術向上のみでなく、サッカーというツールを使い、子どもたちが大人になる過程で大切なことを学び、サッカーを通じた人格形成の場としたいと考えている。こうした考え方のもと、ソルティーロは国内では関西、関東、九州の各エリアで約70校、海外では10月開校のオーストラリア・ハイデルバーグ校を含め、4カ国に展開。2018年4月以降には新たなエリアで開校する計画で、最終的には国内外で300校の設立を目指している。
ソルティーロを運営するHONDA ESTILOでは、子どもたちを教える指導者(コーチ)が高いレベルの人間性と指導力を併せ持つことが、スピード感を持ったスクール展開を可能にすると考えている。一般的に、小学生を指導する組織で事業体としてスクールを運営しているケースは、非常に少ない。サッカースクールのコーチの他に仕事をして収入を得たり、アルバイトで稼いでいたりするケースが多い。一方HONDA ESTILOでは、「人材がすべて」という観点から、コーチの多くを正社員として雇用している。スポーツスクール界において、極めて稀なケースだ。「コーチがサッカーを教えることできちんと収入を得て、社会人として一人前に見られるようにしていきたい。サッカーの世界にだけ閉じこもっているのではなく、ビジネスも学んで、人間として成長できるようにしたい。こうした想いから、私たちは、コーチの多くを正社員で雇用しています」とHONDA ESTILO 執行役員 SOLTILO事業部General Manager 鈴木良介氏は語る。
ソルティーロのコーチはスクールだけで国内約70名、海外、ユースチームも含めると100名弱だ。Jリーガーのキャリアはあるが、指導者としての経験はないコーチ。あるいは、プロ選手としてのキャリアはないが、指導者の経験があるコーチ。どちらの経験もないコーチなど、キャリアは様々である。そのため、子どもたちへの向き合い方や指導法、自分たちの経験の伝え方などを一律に決められない難しさがある。「世界で300校、日本一、世界一のサッカースクールを目指すという目標の中で、私たちはコーチ一人ひとりが力をつけて、活躍できるようになってもらいたいと考えています。ただコーチ数が10人、20人ならともかく、60人、70人と拡大していく中で、マネージャー層がコーチ一人ひとりとタイムリーに向き合うのは現実的ではありません。そこですべてのコーチを対象にして、彼らが納得して行動し、成長することのできる人材マネジメントの仕組みを作りたいと考えました」と、元プロサッカー選手であり、Jリーグチームで指導経験がある、現在はSOLTILO事業部 ディレクターを務める、太田亮氏は語る。
そこで、以前からプロジェクトでパートナー関係にあったアビームコンサルティングに、コーチの質の維持・向上を図るための「人材マネジメントシステム」の構築を依頼。アビームコンサルティングには、スポーツ分野に詳しいコンサルタントが在籍していることも、要因となった。
「アビームコンサルティングは、コンサルタント一人ひとりが大変な熱意を持っていました。親身になって私たちに寄り添ってくれる姿勢には、正直に申し上げて、とても驚いたくらいです。アビームとなら、私たちの組織もともに成長できるのではないかという信頼感が生まれ、パートナーとして一緒にプロジェクトに取り組むことにしたのです」(鈴木氏)。
人材マネジメントシステムの構築にあたって、目標にしたのはエリアマネージャーからメインコーチ、ブロックマネージャー、アシスタントコーチまでコーチ全員の意識改革だ。指導者としてだけでなく、ひとりのビジネスマンとして、スクールや子どもたちをマネージする方法を学ぶ契機にすることだった。そうした目的意識を持ったスタッフが増え、良質な人材が継続的に育っていくことが海外展開をはじめとする組織作りを加速させ、ひいては「世界一のサッカースクール」という目標への近道だと考えている。
構築プロジェクトは、①目指すべき人材像を具体化した人材要件・タイプ(コンピテンシー)の整理と、②成果やコンピテンシーの充足度を可視化する評価の仕組みの構築、そして、③その運用のためのシステム導入の3段階で進められた。コンピテンシーとそれにもとづく評価項目の設計は、企業の人材マネジメントではよく利用されているところだ。そこで本プロジェクトでもその考え方を応用してシステムを構築することにしたが、最も難しかったのは本田圭佑氏が思い描く理念と、指導の現場とのギャップを調整することだった。
「その理念は、サッカースクールを設立する際に、本田と侃々諤々に話し合って考えたものでした。しかしコンピテンシーとして明文化したのは、今回が初めてのこと。そのコンピテンシーと、本田が考えていた理念には大きな差があったのです。そこで本田がイタリアセリエA・ACミランでプレーしていた時に私がイタリアに行き、コンピテンシーについて話し合いました。本田は目標を設定する際にとても大きな目標を立てるのですが、コーチが皆、それに向かって行動できるわけではありませんでした。そうした課題も、コンピテンシーを作り、改めて組織の理念を明確にする過程で浮き彫りになりました。本田とも、膝を突き合わせて率直に話し合うことができて、結果的にコンピテンシーを明確にしたことで、指導の指針がクリアになり、より現場に寄り添った形で指導に生かせるものにできたと思います。」(鈴木氏)。
プロジェクトは、現場のコーチに参加してもらう形で進められた。コンピテンシーの設計では、対象業務の決定、業務ごとのコンピテンシー事例の整理、ソルティーロらしさの整理、業務ごとのコンピテンシー仮説の作成を行った。
「はじめは戸惑いがありましたが、プロジェクトを進める中で、アビームコンサルティングの人たちは私たち以上にソルティーロのことを分かってくれていると感じました。サッカーの指導やソルティーロのことを非常に熱心に学んで、色々な提案もしてくれました。私たちのペースに寄り添って丁寧に説明してくれたのは有り難かったです。」と元JリーガーのSOLTILO事業部 関東エリアマネージャー 市川雅彦氏は語る。
とはいえ、参加したメンバーは当初、“コンピテンシー”など専門的な用語にも馴染みがなく、戸惑いを覚えたという。「私のように、現役のフットサル選手で、それこそサッカーとフットサル以外を知らない人間がこのプロジェクトに関わってよいものかと本気で思いました。一番頭を抱えたのが、コンピテンシーを決めることが実際に指導する上でどのように役立つのかが把握できないことでした。それでも、コンサルタントとマネージャー陣の会話に必死についていくことで、アビームコンサルティングが真剣になってアイデアを出してくれていることがわかりました。次第に、会話の内容を理解できるようになってくると、会社の未来が見えるようになって、議論が楽しくなっていきました」とSOLTILO事業部 東京ブロック長(Fリーグ バルドラール浦安所属)中島孝氏は語る。
プロジェクトでは、例えば「サッカーの楽しさ」などHONDA ESTILOのスタッフが当たり前のように使っている言葉の意味まで踏み込んで、徹底的に議論を重ねた。そして、評価制度の設計では、公平感、わかりやすさ、行動変革、育成重視をキーワードにして、本人が納得して行動できる育成重視の評価制度を目指した。
現場で経験を重ねてきたコーチたちは、ものごとを感覚的に判断する面が強い。そのためHONDA ESTILOでは、コーチたちに徐々に理解を得ていきながら、人材マネジメントシステムを定着させようと計画している。「コンピテンシーを細かく策定したことで、これを材料にして、コーチたちは現場で指導にあたることができます。その中で、コーチ自身も指導者として成長することを期待しています」(太田氏)。
従来の評価指針には曖昧な部分があり、評価内容も不明確だった。それを今回、コンピテンシーとそれにもとづく評価基準や取り組み方が明確になったことで、評価する側も評価される側も納得感を得ることができ、大きな効果を上げられると考えている。
「サッカースクールで学ぶ子どもたちの中で、将来Jリーガーになるのはほんの一握りです。ほとんどは社会に出て、ビジネスの世界に入っていくわけです。そうした子どもたちを預かっている私たちがサッカーしか知らないようでは、子どもたちに夢を伝えることはできません。今回、企業における人材評価制度を応用した人材マネジメントシステムを導入したことで、私たちもビジネスの世界を学ぶことができました。コーチも、自信を持って子どもたちに夢を伝えていくことができると思います」(鈴木氏)。
HONDA ESTILOでは、今後、一人ひとりのコーチが組織の中での自分の立ち位置を認識して、キャリア形成に役立てていくために、人材マネジメントシステムを活用して行く考えだ。
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2017年11月1日
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