地方銀行による地域商社事業進出の考察
~課題と収益化への道筋~

 

2021年10月20日

金融ビジネスユニット
大野 晃

商社ビジネスユニット
岡本 陽介

1. 地方活性化の中核として期待される地域商社

近年、我が国では、地方から都市への人口流出が続いており、地方の過疎化とともに、地方経済の衰退、都市と地方の格差拡大が社会的な課題となっている。
この解決のため、2014年に政府主導で「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、現在、第2期に入っている。この戦略では、地方における観光資源や魅力ある産品を活用して稼ぐ地域をつくり、地方の魅力を高めることで、都市から地方への人口の流れを創出し、地域の活力を強化し地方創生を実現することを主な目標としている。
なかでも、地域商社は地方創生の担い手の中核と位置づけられ、期待が高まっている。
地域商社とは、都道府県や市町村単位で活動する組織ないしは法人であり、地域内における魅力ある産品を発掘・開発し、販路を開拓、あるいは自ら直営店を開設して販売活動を展開し、地域外からの収益を地域内に呼び込むことを基本的なビジネスモデルとしている。開拓する販路は、多くの需要が見込める都市圏ルートの場合が多いが、ECサイトの併設や、少数ながらアジア圏を中心としたグローバル市場に販路を開拓しているケースもみられる。

図1 地域商社を取り巻く環境

図1 地域商社を取り巻く環境

2.地域商社と地方銀行

地域商社を設立した事例は2021年8月現在、全国で93件確認できた(当社調べ)。出資者の内訳は、地方自治体、民間企業、個人などの事例があるが、なかでも、地方銀行が出資者に名を連ねている事例が全国で26件確認された。うち6件は、地方銀行が銀行業高度化等会社の認可を受けて100%出資し、完全子会社として運営しているケース(共同出資“Shikokuブランド“事例を含む)であり、地域商社事業へのコミットメントが高い事例として注目されている。
直近も、全国で複数の地方銀行が地域商社への進出を検討・準備中とみられる。この流れは、近年、地方銀行を取り巻く環境が厳しさを増しており、地方衰退による市場縮小、及び低金利による従来型の預貸ビジネスの急速な収益悪化に直面していることが背景としてあげられ、地方銀行にとっては地元産業の活性化を主眼にしつつ、同時に収益の多角化なども狙った動きと言える。
地方創生に貢献し、また、地方経済が活性化することで貸出先が拡大し、本業へのシナジーも期待できる地域商社は、地方銀行にとって進出を検討する価値のある事業の一つと言えよう。

図2 地方銀行による地域商社事業進出事例(抜粋)

図2 地方銀行による地域商社事業進出事例(抜粋)

3.地方銀行による地域商社事業進出時の課題

一方で、既存の地域商社ビジネスで成功事例が確立されているとは言い難く、進出にあたっての意義・目的や事業計画などが明確かつ定量的に示されている事例も少ない。
上記を充分に検討することなくトレンドに乗って拙速に進出したとしても、既存の食品卸売業者や都心部のバイヤーとの厳しい仕入れ・販売競争に晒され、収益化の道筋がつけられないことが容易に想定される。地方銀行が進出した場合といえども、この構図に大きな変化はないと考えられる。
一般的に、地域商社のビジネスモデルは商品の企画・開発から流通・小売りに至るまで商流の全領域をカバーし、製造や輸出を行う場合もあることから、一般的な卸売業者よりも、むしろ総合商社の事業モデルに近い。
このため、収益化のためには、商流の各領域において競合となる卸売業者や都市部のバイヤーにはリーチできない地域の優良な仕入先を確保するため、地域内におけるリレーションや信頼関係をきめ細かく築いていくことが必要である。
この点において地方銀行は、本業において地域内における取引先基盤・情報を保有していることや、地方経済の中心として地域企業や住民から信頼を得ていることから、競争優位を確立しやすい環境にあると言えよう。また、貿易や外為関連の知見もあり、販路の確保に課題はあるものの、グローバル展開もしやすいと言える。
しかしながら、地方銀行がこれらのアセットを全面的に活用したビジネス展開を行うことは、既存の卸売業者や他の地域商社を圧迫、淘汰する結果となりかねない点については、銀行による優越的地位の濫用や公共性の観点から慎重な検討を要する。
地域商社事業への進出時には、意義・目的を定義し、納得感のある事業計画を策定するとともに、進出時のスキームとして、地域の優良業者との共同出資やアライアンスなど、地域の事情に応じた柔軟な進出オプションを検討する必要があると考える。
他業者との連携により、一般的に銀行に欠けていると想定される商社パーソンや実商売に関する知見を獲得することができれば、収益化への道筋が開けてくることとなるだろう。

図3 地域商社事業に進出するための必要アセット

図3 地域商社事業に進出するための必要アセット

4.地域商社の将来

地域商社は今後、①参入プレイヤー②地域連携③提供機能の3つの観点で、それぞれ以下の方向に進むと予想される。

① 参入プレイヤー
地方銀行の収益多角化・経営高度化の流れの中で、地方銀行による進出トレンドが継続・拡大する。参入形態として、過半出資をとってコミットメント高く進出するケースから、既存業者の後方支援的な位置づけで参入するケースなどバリエーションが増える。
② 地域連携
収益拡大、コスト削減の視点から、相互販売や共同店舗の運営、共同配送などが進むと予想される。現在、地方銀行間のアライアンス推進の動きがみられるが、この流れの中で、傘下の地域商社間もアライアンスを推進していく流れになる。
③ 提供機能
地方活性化や収益の多角化の視点から、トレーディング以外に、例えば観光業や地域ブランディング事業など地方創生に関連する機能を併有するようになり、“コングロマリット化(複合企業化)”が進む。

 図4 地域商社の将来予想

図4 地域商社の将来予想

5.異業種参入におけるアビームコンサルティングの取組み

アビームコンサルティングでは、多数の地方銀行の支援実績のほか、金融・非金融を問わず多様な業界における異業種参入の支援実績を有しているとともに、地方創生などのSDGsへの取組みも積極的に推進している。そのため、これらアセットの棚卸とそれらに基づく参入先・参入方法・参入ストーリーの提案を強みの一つにしている。また、戦略策定領域の実績も多く、異業種参入については方法論やスタートアップとのリレーションなども保有しており、本領域の支援機会は増加している。今後も業界を問わず、様々な企業の異業種参入という挑戦へ、リアルパートナーとして力強い支援をしていく。
本インサイトでは、地方銀行が地域商社事業に進出する際の課題や収益化への道筋に関して考察した。異業種参入のテーマについては、既に発信をしている「異業種参入のトレンド、および成功に向けたアプローチ [総論編]」 以外にも、特定業種をテーマとした関連内容の発信を予定しているため、ぜひご覧いただきたい。

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