【インド×日本企業】共創と変革が導くこれからのグローバル戦略(第1回) なぜ今、インドなのか。GCCに見るグローバル戦略の新たな潮流

Head of ABeam India Business 大村 泰久
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多極化・複雑化する地政学リスクなど、世界を揺さぶる変化のスピードや振れ幅は、あらゆる経済活動の大きな脅威となっている。そのなかにあって企業は、国境を越えた柔軟かつ迅速な対応と、新たな価値の創造を迫られる。突破の鍵を握るのはデジタルテクノロジーであり、AIの活用であることは疑いようがない。
グローバルのこうした情勢のなかで、いま輝きを放っているのがインドだ。これまでIT領域では、コストメリットの大きいBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)先として注目されてきたインドだが、現在は優秀かつ豊富なIT人材を背景に、企業の成長戦略に直結するグローバルケイパビリティセンター(Global Capability Center、以下GCC)にシフトし、いっそう熱い視線が注がれている。
ビッグテックなど、すでにGCCの活用を大胆に進めているグローバル企業がある一方で、日本企業の活用はどうか。2025年7月、アビームコンサルティングのGCC設立をリードしたサステナブルSCM戦略ユニット プリンシパル・Head of ABeam India Businessの大村泰久が、インド市場の最新動向とGCCの戦略的活用について明らかにする。

※本記事は、3回連続企画の第1回です。

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アビームコンサルティング 
プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰

アビームコンサルティング プリンシパル・Head of ABeam India Business サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰久

グローバル企業のGCCがインドに集中 最大の魅力は、高度IT人材層の厚さ

2025年7月、アビームコンサルティングはベリングポイント(オランダ アムステルダム)との従来の戦略的提携を強化するとともに、グローバルのコンサルティングサービス体制を刷新した。その一環として、アライアンス・パートナーであるインドのITソリューション企業Optimum Solutionsと連携し、グローバルケイパビリティセンター(Global Capability Center、以下GCC)を、独自に開設した。(注1)

すでにインドには、約1800拠点のGCCが集積しており、その数は世界に存在するGCCの大半を占める。ジェトロ(日本貿易振興機構)の推計では、2030年には2550拠点に達し、市場規模は1100億ドルにも上るとされる(注2)。地域別では「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロールに全体の3割ほどが集中しているが、マイクロソフト、アマゾン、グーグルなどのビッグテックがGCCを置くハイデラバード、欧米企業のR&D拠点が増えているプネー、自動車産業とIT産業が共存する学究都市チェンナイもGCCの増加が目覚ましい。今回、アビームコンサルティングが拠点を設置したのは、Optimum Solutionsが拠点とするハイデラバードとチェンナイである。

インド南東部に位置するチェンナイには、インド工科大学群(IIT)のなかでもトップクラスのマドラス校がある他、優秀なIT人材を輩出する大学が多く存在する。こうした教育機関は研究開発力が高く、国際交流や企業連携も盛んなため、インドに着目するグローバル企業にとっても注目の都市といえる。すでに過熱状態にあるバンガロールなどと比べコストメリットがあることや、優秀な人材の開拓余地がまだあること、地域経済が安定しており比較的離職率が低い地域であることも付記しておきたい。

インドは10年以上続く現政権が長期的な安定をもたらし、重視してきた経済対策が奏功。今も高い成長率を維持している。一方で多くの先進国に比べ物価は安定しており、人件費や賃料など、事業活動に直結するコストも低く抑えられている。そして最大の魅力は、圧倒的な労働力人口だ。なかでも他国と比較して抜きんでているのは、「英語を話す優秀なIT人材」の多さである。

こうした好環境を背景に発達してきたのが、IT企業のオフショア開発拠点、コールセンターやバックオフィス業務を担うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)としての機能だ。今もインドと言ったらBPO拠点と認識している日本企業も少なくないだろう。しかし、現在脚光を浴びているGCCは、これまでのBPOと同じ文脈で捉えることはできない。

明確に異なるのは、GCCが業務改革やエンジニアリング、またR&D(研究開発)やデジタル戦略など、経営上重要性の高い業務を担う点だ。安価な人件費に着目し、コスト削減や業務効率化を主たる目的に定型業務を委託するBPOとは、根本的に目的が違う。GCCは、インドの豊富な高度IT人材を原動力に、企業のイノベーションやデジタルトランスフォーメーションをドライブする「共創のパートナー」となり得る点を理解しておく必要がある。

さらにインドのGCCに対するグローバルの期待が熱を帯びている理由は、今やいずれの企業も最重要経営アジェンダの1つと位置づける「AI活用」に対しても、圧倒的な強みを持っているということだ。大学でAIを専攻、グローバル企業でAIを扱った経験を持つなど、いわば「AIネイティブ」ともいえる人材は、各国で激しい争奪戦が繰り広げられている。

そのため、個々の企業が自社で人材を確保することは難しいうえ、ゼロから育成していたのでは間に合わない。こうした人材を抱えたGCCと連携することで、より迅速にAIを活用した施策を打ち、変化に対応できる強靭さを備えるだけでなく、自社の新たな価値を創出できる。さらに好都合なのは、こうしたリソースを物理的な距離に関係なく、リモートで活用できる環境が整備されていることだ。

大村泰久

GCCによる価値創造のロールモデル アマゾンADCIの成功事例

ではこうした好機を捉え、どのようにGCCを活用すればよいのか。ここからは、具体的な活用事例を見ていきたい。

アマゾンは、バンガロールに同社のGCCである「Amazon Development Center India」(ADCI)を設立した。ここはアマゾンのソフトウエア開発、AI研究、AWS関連技術の開発・運用の中核拠点であるだけでなく、EC事業の物流・サプライチェーンの最適化も担っている。

例えば、ADCIで開発された生成AIベースのロボット最適化モデル「DeepFleet」は、世界300カ所以上の物流センターに配備されたロボット100万台に搭載され、ロボット群の移動効率を10%向上させた。また、ビッグデータとAIを活用した需要予測モデルによって、在庫配置と補充タイミングを最適化する物流ネットワーク設計もADCIで行っている。このように、アマゾンのGCCであるADCIによる提案でグローバルのオペレーションが改善され、注文処理の迅速化や配送時間の短縮に大きく貢献している(注3)

従来のBPOやオフショア開発では、「依頼主の要求通りのものを納めて完了」という「一方向」のオペレーションに終始することがほとんどだったが、このようにGCCでは、「ここにAIを使えば業務を大幅に改善/変革できる可能性がある」など、要求を上回る提案が得られる。これを起点に、企業では実現可能性を磨き実装。下図の左で示す「変革テーマ創出」→「変革構想策定」→「変革実現」という「価値創出サイクル」をドライブする実働部隊がGCCとなる。これを本社機能とGCCでシームレスかつ「双方向」の意思疎通によって推進し、CxOアジェンダに直結する戦略を、スピーディーに打ち出せる。ここにGCCの大きな価値がある。

図1 アビームコンサルティングは、アジアと欧米がシームレスに連携する新たなグローバル支援体制を構築、インドに新設したGCCはそのなかで大きな役割を果たしている

立ち上がって間もない私たちのGCCでも、すでに共有すべき事例が見られる。製造業向けのシステム保守を請け負ったこの事例では、日本にある本社のCIOから「最新のデジタルテクノロジーを用いて、新たな保守の方法を提案してほしい」という要請があった。これに対してGCCでは、この企業の保守のオペレーションを全てモニタリングしたうえで課題を洗い出し、AIをはじめとする技術の適用を検討した。日本本社と連携してROIを算出しながら優先順位をつけ、戦略的な価値創出を、双方向のコミュニケーションで導き出した。

だが、日本企業の経営陣には、「果たして異文化であるインドのリソースとのコミュニケーションで、日本が求める高い要求を満たせるのか」という声もあるだろう。

「ラストワンマイルの課題」を解消する 「イネーブラーハブ」の存在

確かに、インドのGCCリソースをより積極的に生かすには、本社側で戦略を描き、インド側に実行を任せる形が望ましい。これは、トップダウン型の指揮系統が強い欧米の企業に適しているといえる。

対して日本企業は、現場主導のボトムアップで緻密にオペレーションを設計、世界に誇る品質の高さを維持してきた。欧米式がよいとしても、GCC活用のためにこのカルチャーを根本から変えることは難しい。

こうした実情は、当社が行ったリサーチからも浮き彫りになった。2024年、インドに拠点を置く日本企業約50社にヒアリングを行ったところ、見えてきたのは「ラストワンマイルの課題」であった。

これは、「自社で標準化されたグローバルテンプレートを現地に当てはめて研修・トレーニングを実施、日本人スタッフが一定期間伴走してサポートしても、いざ本番運用を始めるとグローバルテンプレートとローカルオペレーションの間にギャップが生じて噛み合わない」といったものだ。例えるなら、工場で検収品を収める棚が部品ごとに指定されていても、現場ではその辺りの床や空いている棚に適当に入れられてしまう、といった事態が発生するイメージだ。日本側から見れば「間違っている」が、現地では「最終的に問題なければよい」など、意識のズレが生じ互いがストレスを覚えることになりかねない。

私がリサーチを経て導き出した結論は、「日本人が考える期待値を強いても解決しない」というものであり、日本企業の期待値を理解しながら現地の文化・考え方に通じたキーパーソンとの緊密なコミュニケーションから、現地で実行可能なハイブリッドなオペレーションを模索する必要があるということだ。

従来からアビームコンサルティングは、日本から帯同するコンサルタントがナショナルメンバー(現地メンバー)と連携して支援するスタイルを大切にしてきたが、今回のリサーチから得た知見から、日本企業のGCC積極活用においても、このアプローチが有効だと感じるに至った。

その課題を解決するために組織したのが、日本とインドのハイブリッドで構成された「Enabler Hub」(イネーブラーハブ)である。中心になるのは、日本側のインド人メンバーと日本人スタッフ約30人と、インド側のメンバーだ。この組織が「日本のやり方」と「インドのやり方」を融合させ、日本人が求める品質や管理の在り方を、インド側とすり合わせながら実現していく。こうした機能は、アビームコンサルティングが設立したGCCならではのものであり、日本とインドのシームレスなビジネス促進に、大いに貢献するものと考える。

特に日本企業のGCC活用初期において、「イネーブラーハブ」のような日本とインドの文化の違い、感覚の違いを埋める機能がなければ、インド側に依頼できる作業は標準的なルーティンワークに限られてしまいかねない。これではインドの高度IT人材を持て余すことになり、企業にとっても大きな損失となる。

アビームコンサルティングは、日本・アジア発で経営改革やデジタル変革を数多く支援してきた。インドにおいても、2015年のOptimum Solutionsへの資本参加を皮切りに、現地で事業を推進してきた。同社との満を持してのGCC設立は、アビームコンサルティングが進めてきたコンサルティングサービスを次のステージにシフトする意味においても、大きな一歩となる。

第2回では、共にGCC設立に当たったOptimum SolutionsのキーパーソンであるNanda Kishore氏との対話から、インド進出のより深いインサイトをひもといていきたい。

■注釈


略歴

大村泰久
アビームコンサルティング プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット

2001年新卒でアビームコンサルティング入社後、日系企業のグローバル基幹システム刷新案件を中心に多業種・多地域の案件に従事。2016年から9年間、アビームコンサルティングのSAPビジネスのグローバル責任者としてアライアンス戦略を推進。2024年にインドビジネス立ち上げのリーダーに就任。40社近い在インドの日系企業の実地調査に基づき、いまインドに求められるオファリングを整備。2025年よりGCC(グローバルケイパビリティセンター)をOptimum Solutions社とインドに設立、運用を開始。

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