COVID-19の影響によってリモートワークが推進され、コア業務に対してオンラインで執務するためのインフラが整備され、ニューノーマルな働き方が定着しつつある。加えて、労働人口の減少に伴うリソース配置・活用が注目されてきていることを背景に、業務運用のペーパーレス化やデジタル化が進められている。
一方、経理業務では、紙の請求書の受領、申請・承認時の押印、決算処理、小口現金の管理など物理的に出社が必要な業務や対面を前提としたオペレーションが残されたままとなっているケースが散見され、コア業務と比較してもペーパーレス化やデジタル化に向けた取り組みが滞っている企業も多かったものと捉える。
しかし、今回のテーマとなる電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の施行によって、多くの企業はペーパレス化・デジタル化を喫緊に取り組まなければならない課題として捉え、対応方法を模索している状況と考える。
本インサイトでは、経理業務の中でも当該法制度に関連する経費業務(請求・立替)にフォーカスして、その法制度による業務影響と今後の変革の方向性について述べていく。
電子帳簿保存法の税制改正とインボイス制度それぞれの内容とその業務影響について説明する。
電子帳簿保存法では2021年度の税制改正により、帳簿書類の電子的保存に関するスキャナ保存の大幅な要件緩和と電子取引における電子データ保存の義務化がなされた。これまでの法制度下では手続きの手間や厳しい電子化要件があり、広くペーパーレス化は浸透したとは言えない状況であったが、本改正を契機に、本格的に電子保存に向けた検討や導入に踏み切るケースが増えている。
インボイス制度は、2023年10月から義務化する適格請求書等保存方式の導入を指す。インボイス制度の導入により、売り手側の業務としては、必須記載事項の具備や端数処理などの必要な条件を満たす適格請求書を用意する必要があり、買い手側の業務としては、課税事業者と免税事業者からの課税仕入の区分や、免税事業者からの課税仕入れにかかる経過措置への対応、適格請求書の確からしさの確認と証憑の保存が求められるようになる。
また証憑の保存に関しては、紙の請求書と電子請求書が認められているが、国際標準規格「Peppol」をベースとした国内標準規格「JP PINT」のデジタルインボイスの普及が注目されている。「Peppol」は、請求書などの電子文書をネットワーク上でやりとりするための世界規格で、売り手のシステムから買い手のシステムへ自動連携することを想定したプロトコルである。それらを日本の標準仕様としたものが「JP PINT」として提唱されており、主要な電子請求プラットフォームが対応を表明している。こうしたプロトコルの浸透とインボイス制度導入を併せて俯瞰すると、複数税率の計算や適格請求書か否かの取り扱いなど、電子化していないオペレーションが例外的なものとして切り出されて残っていく可能性は高いと言えよう。一方で、標準化された電子請求書の活用浸透により、将来の取引慣行への適応や、計算・確認がシンプルになることに加え、請求・立替処理を行うシステムと会計・税務システムの間でのシームレスな連携が期待されている。
次にこれら電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の導入に伴う変革の方向性として、経費業務(請求・立替)における特徴的なソリューション機能の一例を紹介する。
① Back to Backでの取引明細取得の浸透
従来の経費業務では、取引の実在性を紙の請求書や領収書に依存していたが、現在は取引明細を過不足なく経費精算システムに取り込む仕組みの浸透により、担当者が証憑を取得しない運用も可能となった。
例:法人カード決済、旅行代理店との取引、交通系ICカード乗車、レンタカー、タクシーアプリなど
② AI-OCR
電子取引に寄せきれない取引における紙の請求書については、AI-OCR機能という文字認識スキャンを用いて、紙を電子化するスキャナ保存が可能となった。従来のOCR機能は、発行元によって異なるフォーマットの文書の取り扱いに制約があり、実運用上の課題があったが、AI-OCRでは、機械学習によりフォームの柔軟性が向上している。また、OCR機能に対応した専用アプリのカメラを利用して、経費の必要項目が自動で入力され、経費システムでのレポート作成そのものが簡略される「入力レス」も実現できる仕組みも登場している。これらを活用することで申請者の入力を省力化し、ヒューマンエラーを防ぐため、承認のチェックを大幅に簡素化することが期待できる。
③ 電子帳簿保存法に対応した電子化機能
複合機やスマートフォンで撮影により電子化した領収書、電子の請求書では、電子帳簿保存法に対応した経費精算システムで申請することで、法令要件を満たしたタイムスタンプなどの付与が行われたうえでのペーパーレスを実現できる。
システム上で経費申請を行うため、申請者・承認者共に、時間・場所を問わない手続きが可能となり、証憑類の物流が発生しない。