DXが広げる共創と新ビジネスの可能性

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2019.11.05
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競争優位性の獲得を目的にデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが注目を集めるなか、自社での実現に向けて各社の試行錯誤が続いている。例えば、スモールスタートで着手を試みるも、次への展開に至らない。CDOを任命するも権限やミッションが不明確。人材不足で最適な組織構成ができない。数多く寄せられるそのような悩みに対して、本稿では製造業での事例をとおして示唆をご提供したい。
(本稿は2019年9月16日「CEATEC 2019」での講演「共創による新ビジネス創出とは?~データ流通による価値/利益の連鎖を考える~」をもとに再構成しています。)

DX成功のカギを握る「3つのS」

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新たな構造・組織
Structure of the new Biz
  • トップダウンで意思決定
  • エコシステム(組み先、共存共栄の関係性)
  • ビジネスモデル(マネタイズ
ビジネス感度・価値
Sense of values
  • デマンド起点で価値提供・テーマ設定
    (課題発見型テーマ設定、デジタル活用による知財化)
  • プロセス変革で考える(バリューチェーン全体での価値)
  • プロダクト&サービス変革で考える(ビジネスモデルでの価値)
未来への道筋
Story to the future
  • Manufacturing DX推進のための戦略方針ゴール設定
  • ストーリー(ゴールまでの道筋)、デジタル導入アプローチ(業務適用方法)
  • ポートフォリオ(シナリオ実施の優先順位)

DXの取り組みを現場の業務改善レベル(自律自走)にとどまらず、ビジネスモデル変革にどう着地させるか。その実現には、”Structure”、”Sense”、”Story” の三つのSがキーファクターになる。“Sense”と”Story”は、前稿でプロセス変革、プロダクト変革の二つのアプローチによる競争優位確立への道筋を立てる“Transformation Journey”の考え方と概要のなかで触れているため割愛し、ここでは組織構造について言及したい。

企業におけるデジタル組織の歩みは2015~16年が第一フェーズだ。この時期は、経営企画内に部署を設置したり横断型組織を構成したりするなどの形が主流だったが、権限が与えられていないこと、生産・製造の現場の実情との乖離が目立つことなどを理由に、デジタルの取り組みを加速度的に推進する力を持ちにくい構造であった。この時期を経て、先駆的な企業では、現在デジタル推進組織の第二フェーズを迎えている。我々が推奨する組織の在り方としてのポイントは、まず第一フェーズの反省を活かし、あらゆるチェーン(Supply,Eng chainなど)の要にある生産・製造現場を中心に据えてDX実現を考えることが、製造業にとって理にかなうということ。二つ目に、バリューチェーン全体をデータでつなぎ、その組み合わせで生み出す新たな効率化と付加価値づくりに向けて加速していくことの重要性である。さらに三つ目として、内外問わず多岐にわたる連携を積極的に進め、お互いのリソースを掛け合わせた新たな提供価値を創出することである。とくにこの三点目は、競争優位獲得の決定打になることが確実視されているものの、多くの企業で取組みあぐねている難関でもある。ここでは、すでに、他企業と組み、新たな組織体でデジタル化に挑戦している一つの事例を見てみよう。

新ビジネス創出に向けた住宅設備機器メーカーの事例

ある住宅設備機器メーカーでは、DXへの取り組みとして、IoTプラットフォームを構築し、製品のIoT化を図り、ユーザーの機器利用時間や動作情報などのデータを得ることで、新商品開発に生かすほか、製品に関連したアプリ開発やAIスピーカーなどのスマートデバイスへの対応など、付加価値ビジネスの展開を構想していた。

しかし、この企業ではそこにとどまらず、得られたデータを活用すると生活者の利用シーンに合わせて最適化された商品やサービスを提供できる、つまりデータから利用者の潜在的なニーズに気づくことができる点に、あらためて着目した。他企業とつながり、プラットフォーム上のデータを活用することで、例えば健康経営に貢献できる生活習慣や、スポーツトレーニングメニューとして個人最適化された食事・睡眠のとり方をアドバイスするといったビジネスの可能性が広がる。住宅設備機器メーカーとしての強みを持続させながら、フィービジネスという新たな収益源を得ることができるのだ。ここに、自社も他社もデータを共有・活用していくことで共存共栄の関係を取り結ぶ、デジタルエコシステムが構築されていく。

新ビジネス創出に向けた住宅設備機器メーカーの事例

このエコシステムの実現に向けては、単にアライアンス先を発掘するだけではなく、マーケティング、商品・サービスづくり、研究・開発など、複数の機能がワンチームとして融合し、連携できる形になったことが重要なポイントであった。これにより、視点や思考が多様化され、クリエイティブな問題発見と解決によって、ものづくりの確かさという自社のコアに下支えされた創造的な商品・サービスを開発することができるようになった。これは新規事業の組織機能として、DX推進だけでなく、今後の企業の組織のあり方や他社との協業を考える際にも、非常に示唆的である。

顧客視点

プロダクトアウトの視点の回避、顧客視点や価値視点でサービスを構想

顧客満足

最低限の機能で市場リリース、顧客の反応をフィードバックするプロセスの構築

差別化

自社のコアとノンコアを明確化、積極的にアライアンス企業とのエコシステム化を検討

ローンチサイクル

短期サイクルのサービスのロードマップと長期サイクルの製品のロードマップを統合

他社に開かれる機会づくりとしてのDX

DXで自社だけでは実現し得ない領域の変革に取り組み、ビジネスを他社と共に創出しあうこと。それがDXに期待される最大の成果の一つといっても過言ではない。いわばDXは、単一部門の業務の壁を越え、自社に閉じた取り組みの枠を取り外し、他社に開かれる契機をもたらすときに、最大の効力を発揮する可能性を秘めているのである。

その道標を示し、道案内の役割を果たすのがコンサルタントだ。多くの企業に通じる考え方や世の中の事例を提示する一方で、各社の現場に寄り添うべく議論を重ねて、ロードマップを描き、施策に落とし込むまで伴走する。のみならず、そのプロセスのなかで、他社と共創して目指すべき変革、新ビジネスのすがたを描き出すのも我々の役目であると認識している。

自社の生産現場から出発しつつも、部署・部門の枠、さらには自社の枠を超えて、他社のビジネスや人材の力とのシナジー創出に舵を切ることができるかどうか、DX成功の分水嶺に立つ日本の製造業に向けられた課題である。

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