【イベントレポート】Umios株式会社(旧マルハニチロ)が推進する「社員が主役のカルチャー改革」と人財ポートフォリオ経営

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2026.03.12
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変化の激しい時代に即応して事業ポートフォリオを機動的に変革していくことは、企業に持続的成長をもたらすために欠かせない。これと連動して不可欠となるのが、「人財ポートフォリオの変革」である。ただ、「そもそも、何から着手すべきか」と悩んでいる企業は少なくない。
2025年11月に開催された「日本の人事部 HRカンファレンス2025-秋-」では、2026年3月に社名を「Umios」(ウミオス)に変更し、「第3の創業」を目指すUmios株式会社(旧マルハニチロ)執行役員の古田昌代氏と、アビームコンサルティング 人的資本経営戦略ユニット長 久保田勇輝が登壇。「人財ポートフォリオを起点とした事業変革」をテーマに、「社員が主役のカルチャー改革」と「人的資本経営の実践」について語った。その内容をダイジェストでお伝えする。
(本稿は、本セミナーを再構成しています。)

※本動画は撮影当時の社名(マルハニチロ株式会社)で収録しています。現在の社名はUmios株式会社です。

「第3の創業」に向けた企業変革をDX推進部が主導する理由

セッション冒頭、UmiosでDX推進を主導する古田氏は、2026年3月の社名変更について触れ、「新社名である『Umios』(ウミオス)には、『海を起点にステークホルダーと一体となり、食を通じて社会課題を解決するソリューションカンパニー』との決意が込められている」と語った。

同社は明治時代の漁業から始まった「第1創業」、2007年の経営統合を機に総合食品企業へと転換した「第2創業」を経て、現在は日本市場の縮小、天然水産資源の減少、コストの上昇という3つの新たな課題に直面しつつある。

「その解決に向けて今回の『第3創業』では、食の提供を通じた『課題解決企業』への変革を目指しています。具体的には、海の環境や地球の環境、そして食と命を守る観点から、気候変動や海洋環境、生態系バランス、食の安全・安心、さらにはサステナブルな事業性といった課題に取り組むべく、『挑戦と共創』をキーワードに社内で議論を重ねています」(古田氏)

注目すべきは、「第3創業」の鍵を握る人的資本経営の推進を、DX推進部が主導しているという点だ。通常は、人的資本経営は人事部が主導することが多い。これについて古田氏は同社ならではの狙いを語る。

「まず、デジタルをフルに活用した変革のスピードを上げるため、IT部門をDX推進部に統合しました。DX推進とITとの間に分断があると、DXの主目的である『X』、すなわちトランスフォーメーションの進捗に影響を及ぼしかねないと考えたからです。そのうえで、業務の徹底したデータ化とその蓄積に取り組みました。これがデータドリブン経営の基盤となり、データにもとづく事業変革が可能になります。ただ、全社を巻き込んだこうした大きな変化に欠かせないのは、社員一人一人のカルチャー変革です。これを支えるのが人的資本経営であり、DXと人的資本経営は不可分だと考えました」(古田氏)

社長との対話ミーティングで「社員が主役のカルチャー改革」をスタート

Umiosでは、「第3創業」と位置づけるUmiosを駆動する軸の1つとして、「社員が主役のカルチャー改革」を挙げ、これを実現する仕組みが人的資本経営となる。同社では、コロナ禍以前から「新しい働き方プロジェクト」や「紙改革」(紙書類の削減・廃止)といった変革を進めてきたが、これらを第3創業に向けて加速させるため、経営陣が2025年3月に全社員向けのムービーを配信。「社員が主役のカルチャー改革」を鮮明に打ち出した。(図1)

図1 食の提供を通じた課題解決企業「Umios」(ウミオス)に向けた変革のコンセプト

出典:Umios 提供資料(本イベント登壇時使用資料)

このムービー制作では、DX推進部内の「カルチャー改革推進室」に所属する入社1年目の社員が経営陣にインタビューを実施。その内容をもとに「社員と経営陣で、次の100年を想像しましょう」というトップメッセージを発信した。

さらに、社長自らが国内全拠点を訪れるタウンホールミーティングも実施。代表取締役社長の池見賢氏が国内全拠点を訪れ、社員一人一人の声に耳を傾けた。

「社長からの一方通行にならないよう、社員から思いを提案する時間を設け、双方向の対話を図りました。その結果、社員から自律型の挑戦テーマが数多く出され、社員が実はこんなに生き生きと考え、動いているという実感が得られました」(古田氏)

社員の意見をもとに立ち上げられた、多彩な分科会活動が変革を推進

カルチャー改革のもう1つの柱となったのが、本社移転である。社員に変革を求めるだけでなく、会社自身も積極的に変わる姿勢を示すため、2026年3月に東京・豊洲から高輪ゲートウェイへの移転を決定した。

高輪ゲートウェイは、JR東日本が「実験、挑戦、共創の街」として開発するエリアだ。同社では、そのコンセプトに共感して移転を決定。これまでも「Umiosを知ってもらう」ため、2000人規模のイベントや、キッチンカーによる海鮮丼販売を通じて、お客様の声に直接触れる活動を行ってきた。

こうした取り組みを支えているのが、タウンホールミーティングで得られた社員の提案をもとに立ち上げられた分科会である。分科会メンバーは社内公募で組織され、現在も新たな分科会が約3カ月に1件のペースで立ち上げられているという。(図2)

図2 「社員が主役」のカルチャー改革は、さまざまな分科会によって推進

出典:Umios 提供資料(本イベント登壇時使用資料)

「分科会のテーマは社員からの提案によるものであるため、必ず誰かが手を挙げてくれます。また、これを見た若手や工場・支社の社員が『自分たちの意見で、本当に会社が動いてくれる』と気づき、自発的に参加してくれるようになりました」(古田氏)

こうした自発的な参加を促すプロジェクトは以前から存在していたものの、いつも同じ顔ぶれだったという。古田氏は「それがタウンホールミーティングを機に、工場や支社の人たちからも『私たちも参加したい』という声が出てくるようになった」と振り返る。

本社移転に伴う「ワークプレイス変革」においても社員が率先して提案を行い、経営者は口を出さず、提案に対して意見を述べるスタンスをとった。こうした取り組みを通じて、社員の間には「経営陣との対話は、結果として報われる」という信頼感が醸成され、さらなる自発的な提案や変革につながる好循環が生まれている。

人財ポートフォリオ作成の第一歩は、仕事と能力を言語化すること

カルチャー改革と並行してUmiosでは、「人財ポートフォリオの構築」に着手した。久保田はこの同社の取り組みについて「経営、事業、社員の三者がバランスを持って全体最適を図っている点が大きな特徴だ」と評価する。

「『経営』の視点では、非連続の成長を実現するための中核人財の輩出。『事業』の視点では、戦略実行に必要な人財確保や生産性向上。そして『社員』の視点では、いかに変革実現に向けた施策に魅力を感じて自発的に活動し、社員が自らのキャリアを形成していくことです。これら3つが重なるポイントを起点に、異動や育成といった具体的施策につなげています」(久保田)

人財ポートフォリオをつくる第一歩として久保田は、「仕事と能力を言語化すること」を挙げる。これを「量の可視化」と「質の可視化」という2つの側面から整理する。

「まず量の可視化では、各自が担当している職務を一定レベルまで言語化します。ここでどういった仕事や役割を、どんな人が担っているのかを正確に把握することが目的です」(久保田)

一方、質の可視化では、職務に対してどんな専門性が必要かを示す「専門スキル」と、他の領域でも発揮できる「汎用スキル」を定義する。ここでUmiosが特徴的なのは、スキルレベルの定義を職務ごとにAIで生成した点だ。

「汎用的なスキルレベル定義では、個々の部署長が可視化しにくいという声があったため、職務・スキルごとに専用の定義をつくりました。それには膨大な工数がかかりますが、AIの活用で飛躍的に効率化できました」(久保田)

可視化の前提となる「3つのポイント」と、見えてきた「4つの課題」

Umiosでは、コンセプトや定義を踏まえたうえで可視化を実施していったが、その過程でもいくつか注目すべきポイントがあった。

1つ目は、可視化は人事考査と切り離し、処遇に影響しないことを明確にした点だ。あくまで人財ポートフォリオ作成のための可視化であることを周知徹底し、可視化に対する心理的安全性を社員に担保した。

2つ目は、社員のセルフチェックではなく、部署長が5段階で可視化する方式を採用した点である。これにより、部署長自身が人財ポートフォリオ作成を「自分ごと」として捉え、可視化プロセスを通じて自部署の人財状況を深く理解する効果が生まれた。

そして3つ目は、人財タイプの整理だ。可視化結果は、4つの人財タイプに分類される。職務に必要なスキルを高いレベルで満たしている「模範人財」、すぐに活躍できる「即戦力人財」、今後の自発的な学びが期待される「成長期待人財」、そしてスキルアップへの後押しが必要な「育成支援人財」だ。

こうして作成された人財ポートフォリオは、経営層、事業部門長、コーポレート部門長が共通のデータとして活用し、建設的な議論を行う基盤となった。久保田は「単にデータを眺めるのではなく、どういう課題があり、どう解決していくかを対話できる軸として使うことが重要だ」と強調する。

こうした対話を通じて、最終的にUmiosに特有の「4つの課題」が浮かび上がった。

課題1:属人化した育成による、部門間の育成格差

まず「育成」では、同じ職務であっても部署によって育成手法が異なり、担当者や上長による属人的な育成が行われていることが明らかになった。その結果、部門間での育成レベルの格差も可視化された。

課題2:人財の抱え込みによる、流動性の不足

次に人財の「抱え込み」である。各職務に求められるスキルレベルに対して、担当している社員の保有スキルの方が高く、かつ滞留年数が長いケースを「オーバースペック人財」として可視化した。この結果、部署長間でも「人財育成・活用には流動性が重要だ」と認識するようになった。

課題3:キャリアの魅力が伝わっていないことによる、モチベーション低下

「キャリア形成」では、本来は挑戦的で魅力のある仕事であっても、その価値が社員に十分に伝わっておらず、モチベーションにつながらないケースが多いことが分かった。Umiosは魚、肉に加え、冷凍食品や調味料など広い事業領域を持ち、「隣の部に行けば転職できる」と言われるほどだが、それが社員の間で十分に認知されていなかった。

課題4:業務・ITの標準化不足による、非効率の顕在化

最後の「業務標準化」では、部署ごとの職務について聞き取りを進めた結果、業務の分散や非効率が可視化された。また、ITにおいても、個々の事業に特化したシステムを構築してきた結果、標準化が進んでいない課題が浮き彫りになった。

人的データの分析・議論から見えた課題への多面的アプローチ

前述の4つの課題に対し、現在Umiosでは多面的なアプローチで取り組んでいる。なかでも注目したいのが、異動希望と退職リスクの関係を分析したデータの活用だ。

久保田は「30~40代の退職者の傾向を調査・分析したところ、異動を希望すると回答した人の方が、希望しない人に比べて退職リスクが低いという結果を得られました」と説明する。(図3)

図3 退職リスクは、異動希望がかなうことではなく、異動希望を言える環境で低減

ここで重要な点は、異動希望が叶うかではなく、「異動希望を言えたか、言えなかったか」にある。すなわち、「異動したい」と言える=自分のキャリアについて上司と対話できる環境があること自体が、退職を防ぐ大きな要因になっている。

「この数字を見て驚きましたが、現在はその要因に合わせた体制を構築しています。キャリアに悩む社員に対し、人事部だけでなく私を含む3人が相談窓口として対応していますが、相談者の多くが異動希望にチェックを入れています」(古田氏)

ワークプレイス変革でも、社内の会話を促進するための工夫が進められている。現在のオフィスは、FAXや複合機など全ての機能が各人の周囲に配置され、社員が動かなくても業務ができる「効率的な」環境になっている。しかし、その半面、会話が生まれにくいと判断した。

新しい高輪ゲートウェイのオフィスでは、コーヒーサーバーや複合機を1カ所に集約し、あえて社員を動かす設計を採用。他部署の社員と自然と交流する機会を創出しようとしている。

業務標準化についても、具体的な取り組みが始まっている。事業個別最適と全社最適のバランスを見ながら、組織設計、業務設計、IT設計を一体的に推進している。「例えば、貿易業務を一部のサンプル部署で標準化し、うまくいけば他の事業にも展開していく。一つ一つ当てはめながら、人的リソース、標準化、将来の生産性を検討しています」(古田氏)

さらに注目すべきはAI活用とシニア活躍という、一見すると正反対のアプローチを同時に進めている点だ。同社では、既存の生成AIサービスは情報漏えいやセキュリティの懸念があると判断し、社員による分科会を立ち上げ、自社独自のAIを開発・活用している。

その一方では、人財ポートフォリオの分析から、60代が4割を占める部署があることも判明している。

「60代の方々は組織への帰属意識が非常に強く愛社精神があり、20~40代の人を育て上げる力を持っています。AI活用とシニア活躍は対極の位置に見えますが、両方をしっかり設計しなければならないと強く感じています」(古田氏)

久保田は「人財ポートフォリオを可視化・検討したことで、育成、シニア活躍、AI活用のいずれが最適解なのか、あるいは新規採用すべきか、異動で対応できるのかといった、さまざまな選択肢を想定した議論が可能になりました。これが、Umiosの『人財ポートフォリオの構築』の大きな成果の1つです」と評価する。

そのうえで、アビームコンサルティングが提唱する「ケイパビリティ型人材マネジメント」の視点から以下のように補足する。
「『ケイパビリティ型人材マネジメント』では、経営と事業の対話を通じて必要なケイパビリティと人財ポートフォリオを定義し、社員をどうマッチングさせるかなどを継続的にモニタリングしていきます。Umiosの事例は、まさにこのフレームワークを実践した好例と言えるでしょう」(久保田)

関連リンク:「ケイパビリティ型人材マネジメント」で日本企業の低生産性・人材不足に挑む 第1回 なぜ今ケイパビリティ型なのか、背景とアプローチの全体像

人財循環と共創のエコシステム実現に向けて

セッションの締めくくりとして、古田氏は今後の展望を次のように語った。

「人事施策の基本ポリシーとして、経営、事業、社員という3つの視点を引き続き堅持していきたい。そのうえで『自律的キャリア形成』と『成長の実感』を重視し、社員一人一人が自律型に成長していけば、おのずと会社全体のトランスフォーメーションが起き、それがデジタル活用や人的資本経営につながっていくと信じています」(古田氏)

採用や育成、配置、処遇についても、過去にとらわれない方法を追究していく考えだ。同質性の高い人財ばかりにならないよう、「異物」も広く受け入れる文化を醸成していくという。

人財交流についても新しい試みが始まっている。グループ会社間にとどまらず、グループ外の企業との人財交流はその一例だ。「自分の会社だけでうまくいっていることが、他社には通じない可能性もあります。他社の状況を知るためにも、社内外のさまざまな企業との交流を進めています」と古田氏は説明する。

さらにはアカデミアや企業のキーパーソン、そしてUmios union(労働組合)といった多様なステークホルダーとの共創も視野に入れている。こうした取り組みを通じて、国内外のグループ会社全体で人財を循環させ、持続的な人財の流動性を実現したいとしている。(図4)

図4 基本ポリシーと課題を踏まえ、グループ内外を巻き込んだ多様な改革を推進

まとめ

本稿で紹介したUmiosの取り組みは、「社員が主役のカルチャー改革」を起点に、DXと人的資本経営を不可分のものとして捉えた点、人財ポートフォリオの可視化と対話を通じて組織変革を前に進めている点に特徴がある。可視化設計における心理的安全性の確保、データに基づく課題抽出、多面的な打ち手の検討といったプロセスは、人的資本経営を実装へとつなげるうえで示唆に富む。

アビームコンサルティングは、「ケイパビリティ型人材マネジメント」の視点から、経営と事業の対話を軸に必要な人財ポートフォリオを定義し、継続的にモニタリングしながら実行につなげる取り組みを支援していく。


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