【イベントインサイト】生成AIとデザインの境界線 ~AI活用を成功させるための価値起点の役割分担~

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2026.01.23
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生成AIの進化は、今回取り上げるデザイン領域にとどまらず、DXや事業変革に関わる多くの現場で「人とAIの役割」を問い直している。どこまでAIに任せ、どこから人が担うべきか──この問いは、ツール選定や技術論では答えが出ない。
本稿では、アビームコンサルティングのプロジェクト事例をもとに、生成AIが価値を発揮する場面と、人の洞察が不可欠な場面を「速さ」と「深さ」という二つの軸で整理する。AIが当たり前に存在する時代において、デザインを起点とした業務全体で、価値を最大化する役割分担と境界線のあり方を提示する。

(本稿は2025年8月21日、株式会社ビビビット主催イベントKyoto Creative Collectionのサイドイベント「AIで変わるUXデザイン」における当社講演を基に再構成しています)

執筆者情報

  • 滝本 真

    Senior Manager
  • 羽田 康孝

    濱口 菜々

    Manager

1. 生成AIの浸透が問い直す「デザインの役割」

生成AIの急速な進化により、デザインの現場は大きな変化の渦中にある。
画像生成、コピーの作成、UIパーツの作成、調査ログの要約など、従来多くの工数を要した作業は、今や短時間で自動化が可能になった。デザインプロセスの一部は確実に高速化し、人間の能力を補完する領域が広がりつつある。
この変化の中で、多くのデザイナーが共通して抱く疑問は「どこまでをAIに任せ、どこからがデザイナーの役割なのか」ということである。
これはAI活用のテクニックやツール紹介では触れられない、本質的な問いである。
アビームコンサルティングでは、事業戦略の策定からリサーチ、UX/サービスデザイン、実装・評価、そしてグロースまで、一貫したプロセスでプロジェクトを推進している。その全体像を示したものが図1であり、Strategy、Research、Design、Growth の4フェーズを循環させ、デザイン・ビジネス・テクノロジーの3観点を短期間で反復評価することで、実現性と成長性を備えた最適なソリューションの創出を目指している(図1)。

図1 アビームコンサルティングにおける新サービス創出プロセス

その中には、生成AIが多方面で活用され、プロジェクトの進行速度を大きく高めた事例もあれば、同じプロセスを踏んでいるにもかかわらず、AIの出番がほとんどなかった事例も存在する。この違いを観察すると、AIとデザイナーの間には、特定領域に限らない根源的な「境界線」が浮かび上がる。それはツールの使い方ではなく、デザインが提供すべき価値のあり方と深く関係している。
本稿では、当社での実プロジェクトを例に取りながら、

  • AIが価値を発揮する場面
  • デザイナーが不可欠になる場面
  • 生成AIの進化によって境界線がどのように動き始めているか

を、「速さ」と「深さ」という視点から整理する。
AIがデザイナーの仕事を置き換えるかという単純な問いではなく、AIが当たり前に存在する時代において、デザインがどのように価値を生み出していくのかを捉える視点を共有したい。

2.「速さ」が価値になるデザイン領域

生成AIが大きな効果を発揮する場面としてまず挙げられるのは「速さ」が求められるプロジェクトであり、アビームコンサルティングが手掛けた業務システム上で金融資産を可視化するダッシュボードをデザインするプロジェクトは、その典型例である。
このプロジェクトの目的は、金融リテラシーの高低に関わらず、誰もが資産動向を直感的に理解できるダッシュボードを実現することであった。対象ユーザーは幅広く、多様な行動パターンや価値観を踏まえ、共通する使いやすさを見出す必要があった。
そのため、初期ステップでは多くのユーザーにヒアリングを行い、資産の確認頻度、チェックするポイント、リスク認識などの傾向を収集した。ここで重要なのは、数多くの意見を「素早く」捉え、全体像を把握することである。広く浅い情報を収集し、ユーザーの大枠の行動パターンを把握する作業が中心となった。
こうした場面では、生成AIは強力に機能する(図2)。

  • 設問案のドラフト
  • ヒアリングの文字起こし
  • ログの要約
  • 膨大な意見の分類
  • 初期UIデザインにおけるマイクロコピーの候補出し

人手では時間を要するこれらのタスクも、AIを活用することで高速かつ一定品質で処理できる。特に、数十件規模のインタビューが続く場合、要約と分析のスピードが後続のデザイン作業全体に大きく影響する。
金融資産ダッシュボードのように、多様なユーザーの意見を短時間で集約し、共通パターンを見出す場面では、AIの「処理速度」がそのままプロジェクトの価値になる。結果として、より多くのユーザーの声を短期間で取り込み、初期のデザイン検討を迅速に進めることができた。
このように、「広く集め、大枠をつかむ」プロセスでは、生成AIとの相性は非常に良い。

図2 金融ダッシュボード検討におけるUXデザインフローとAI登場シーン

3.「深さ」が価値になるデザイン領域

生成AIが強く活用される場面がある一方、活用が限定的になるケースもある。
スマートフォン上でAIを活用し、従業員の業務効率を高めるサービスを企画したプロジェクトは、その典型例である(図3)。※ただし、このプロジェクトは2024年に実施され、当時の生成AIは現在と比べると意図の深読みや文脈の補完といった領域がまだ発展途上にあったという前提を踏まえる必要がある。
このプロジェクトでは、営業職の従業員が移動中にスマートフォンで次の業務のヒントを探す行動に着目した。その際、どの情報を確認し、なぜその順序で行動し、どのような期待や不安を抱えているのかを深く理解することが求められた。
その上で鍵となったのは、ユーザーの言葉や行動の背後にある「意図」を解釈することであった。
具体的には、

  • なぜその行動を選ぶのか
  • どのような心理状態が背後にあるのか
  • 本人が気付いていない欲求や価値観は何か
  • それらからどのような新しい体験価値が導けるか

といった、ヒアリング対象者から明言されていない情報を読み解くプロセスが重視された。
こうした場面では、ヒアリングログの整理やキーワード抽出といった「表層的な処理」だけでは不十分である。
2024年当時の生成AIは、テキストの要約や分類には強みがあったものの、ユーザーが語らないニュアンスや心的背景を確度高く読み解くには課題があり、分析の中核は人間の洞察が担っていた。
最終的に、「ユーザーが新しい情報に『出会える』スマートフォンアプリ」というサービスコンセプトが導かれたが、これは表面上のニーズからは直接導けない、行動観察と背景理解を踏まえた非連続の発想によるものである。
このプロジェクトが示すのは、生成AIの限界ではなく、「広く捉える」と「深く読み解く」では求められる思考の質が根本的に異なるという点である。
2024年当時においては、この「深さ」を扱う作業は人間による観察と洞察が中心だったが、現在では生成AIの能力が進化により、深い領域への適用可能性が広がりつつある。ただし、ユーザーの「意図」をどのように読み解き、どの解釈を価値につなげるかという判断は、プロジェクトの文脈や目的に応じて慎重に行う必要がある。

図3 業務効率化AIサービスの創出におけるUXデザインフローとAI登場シーン

4. 生成AIとデザインの境界線

ここまでの2つの事例は、いずれもアビームコンサルティングが採用する同一のデザインプロセス──ユーザー調査、課題設定、UX/サービスデザイン、検証という一連の流れ──の中で進められたものである。それにもかかわらず、AIが強く活用されたプロジェクトと、ほとんど活用されなかったプロジェクトが明確に分かれた。
この違いを整理すると、AIとデザイナーの間には「速さ」と「深さ」という軸を用いた境界線の存在が見えてくる。

AIが強みを発揮するのは「速さ」を優先する場面

金融資産ダッシュボードの事例では、大量のヒアリング結果を短時間で整理し、ユーザーの共通パターンを把握する必要があった。このような「広く・速く」情報を扱うプロセスにおいて、生成AIは大きな効果を発揮した。
AIが得意とするのは、

  • 大量データの処理
  • 表層的な傾向の抽出
  • テキストの要約
  • マイクロコピーの候補出し
  • パターンの類似性を見つける作業

など、スピードと網羅性が価値に直結するタスクである。
こうした領域では、AI活用により、デザインの前提となる情報理解を短期間で進めることができる。

デザイナーが中心となるのは「深さ」が必要な場面

一方、2024年のサービス企画事例では、ユーザーの行動や発言の裏側にある動機・価値観を読み解く必要があった。このような「深く・意図へ踏み込む」プロセスでは、生成AIの活用範囲は限定的だった。
深い理解を求めるプロセスには、

  • 言葉にされない感情の推測
  • 行動と心理の関連づけ
  • 背景にある文脈の解釈
  • 解釈をどのように価値へ接続するかという判断
  • 新しい体験価値への「発想の跳躍」

といった、非連続で文脈依存の思考が求められる。

AIとデザインの境界線は「AIの限界」ではなく、「価値を最大化するための判断」

2つのプロセスを比較すると、AIとデザインの境界線は技術的制約ではなく、プロジェクトが必要とする価値の質によって決まることが分かる。

  • 速さが価値となる場面 → AIが主導
  • 深さが価値となる場面 → デザイナーが主導

これは固定的な役割分担ではなく、プロジェクトが求める価値に応じて最適な主体が異なるという考え方である。重要なのは、境界線がAIの性能で決まるのではなく、

  • 価値を生み出す局面はどこか
  • どのプロセスで速度が求められるのか
  • どの段階で深い理解が必要なのか

といった価値起点の判断によって決まるという点である。
つまり、境界線とは「ここから先はAIができない」という話ではなく、「どの主体が、その局面で価値を最大化できるか」という視点で変動し続ける線である。
この境界線を誤れば、プロジェクトは簡単に失速する。
例えば、AIが担える「広く・速く」進めるべき工程を人のみで処理すれば、調査や初期検討に時間がかかり、意思決定のスピードが落ちる。一方で、AIに任せるべきではない「深い解釈」──ユーザーの意図を読み解く判断──や「価値判断」まで機械的に処理すれば、ユーザー理解が浅くなり、表層的な解釈にもとづいた体験設計につながりかねない。
また、境界線は単なる役割分担ではなく、誤れば 「スピードの劣化」または「深さの喪失」 両面のリスクをともなう。
だからこそ、この境界線を適切に認識し、価値起点で判断する姿勢がこれまで以上に重要である。

5. 変わり続ける境界線:深さへのアプローチを変えるAIの進化

前章で整理した「速さ」と「深さ」の境界線は固定的ではなく、生成AIの進化によって絶えず変化し続ける性質を持っている。
近年のAIは、文章生成や画像生成にとどまらず、文脈理解やユーザー属性の推定、簡易的な洞察抽出など、より高次の領域へと踏み込みつつある。これは、「深さ」が求められる領域の一部に、AIが補助的に関与できる余地が生まれはじめていることを示している。

深さへのアプローチを高速化するAI:Lightning Insight

アビームコンサルティングでは、その一例として「Lightning Insight」というAIツールを独自に開発・提供している(図4)。特定のセグメント属性をAIに設定し、その人物像として応答させることで、ユーザー傾向を迅速に把握する仕組みである。
例えば、「都内在住・26歳男性・デスクワーク中心・車の購入経験なし」という属性を設定すると、AIはその人物像になりきり、価値観や思考傾向を模擬的に回答する。それは「本物のユーザーの意見」ではないが、深さに向かう入口となる初期仮説を短時間で形成する点で価値がある。
これは、従来はデザイナーが時間をかけて行っていた作業の一部が、AIにより補助されるようになったことを意味する。

図4 Lightning Insight利用イメージ

HCDサイクル初期工程の高速化という位置づけ

人間中心設計(Human-Centered Design: HCD)では、「利用状況の把握と明示」 → 「ユーザーの要求事項の明示」という初期フェーズが定義されている。この段階では、ユーザーを取り巻く文脈を理解し、どのような要求が生まれるのかを捉えるために広範な情報収集と仮説立案が求められる。
Lightning Insightはまさにこの局面を支援している。利用状況を模擬的に把握し、要求事項の初期仮説を短時間で引き出すことで、プロジェクトの出発点を迅速に整える役割を果たす(図5)。
ここでAIが担うのは、意図の深読みや非連続の発想といった深層のデザイン判断ではなく、深さに向かうための準備工程である。

図5 HCDサイクルとLightning Insightの価値

深さそのものの代替ではなく、深さへの「入口」を広げるAI

生成AIは「解釈」や「洞察」といったプロセスを完全に代替するわけではない。重要なのは、深さに至るための前工程がAIによって加速されることである。
AIの活用により、

  • 仮説の幅を素早く広げられる
  • ユーザー像を多面的にシミュレートできる
  • 深い分析に着手するための「入口」が迅速に整う

といった変化が生まれ、デザイナーは本来注力すべき判断・解釈により多くの時間とエネルギーを割くことができる。
AIが構築した初期仮説は深い洞察に至るための足掛かりに過ぎず、どの深さが価値につながるか、どの解釈を採用すべきかといった判断は、プロジェクトの文脈や目的に応じて変わるため、人間が引き続き重要な役割を担う。同時に、AIは質の高い解釈に導く「共創的なパートナー」として位置づく。

境界線は変わり続ける

こうした状況を踏まえると、AIとデザイナーの境界線は、技術的な限界を示すものではなく、プロジェクトの目的や求められる価値に応じて常に変動する性質を持つといえる。
生成AIが進化するほどAIの役割は広がるが、その変化はデザイナーの役割を置き換えるのではなく、深い価値判断や意図設計により集中できる環境を整える方向へ進んでいる。

6. 境界線そのものをデザインする時代へ

生成AIがデザインの現場に浸透する中で、「どこまでAIに任せ、どこからデザイナーが担うべきか」という問いは、今後も繰り返し現れるテーマである。本稿ではデザイン領域を例に取り、「速さ」と「深さ」という視点から境界線を整理したが、既存業務とAIの境界線が揺れ動いているのはデザインに限られた話ではない。
現在、多くの産業・業務領域において、同じ問いが立ち上がりつつある。
企業のバックオフィス業務、営業活動、システム開発、クリエイティブ制作、コールセンター、研究開発など、あらゆる現場で「どこまでAIに任せるべきか」という検討が進んでいる。しかし、技術的にAIが「できる」からといって、その領域すべてをAIに置き換えれば良いわけではない。
求められるのは、技術の限界ではなく、価値を最大化する線を見極めることだ。デザインでは「速さ」と「深さ」が軸だったが、他業界では異なる要素が境界線を規定する。

  • コールセンター業務:「処理量」と「感情理解」
    大量の問い合わせの一次対応はAIが担えたとしても、感情ケアや例外判断は人が担う、といった線引きが生まれる。
  • 営業領域:「情報収集の効率」と「関係構築の質」
    顧客情報の整理や提案ドラフトはAIが高速に実施できる一方で、顧客との信頼関係を築く行為は依然として人が担うべき領域として残る。
  • バックオフィス業務:「正確性・再現性」と「例外処理の複雑さ」定型処理はAIが代替し、例外や文脈判断が必要な場面は人が担うといった分岐が生まれる。

このように、業務の種類によって境界線を決める基準は異なるが、共通するのはどの業界・どのプロセスであっても「価値起点で判断する」ことである。そして同時に、その境界線は技術進化とともに継続的に動き続ける。
生成AIは急速に進化しており、同じ業務においても数カ月前までは人が中心だった工程が、現在ではAIに置き換わる場面も少なくない。つまり、境界線は技術進化や業務環境の変化に応じて常に描き変わり続ける「動的な線」である。AIが担える領域は広がり続け、人が担う領域は「より高度な価値判断」へとシフトしていく。
境界線とは、AIと人の役割を固定的に切り分けるものではなく、価値の源泉がどこにあるかを見極めながら、その都度再設計すべき対象である。
では、実務において何から着手すべきか。
一つの出発点として、自社のAI活用プロジェクトを「速さが価値となる領域か」「深さが価値となる領域か」という視点で棚卸しすることが挙げられる。その上で、各工程でAIと人のどちらが主導すべきかを明示的に線引きすることが重要となる。この線引きは一度決めて終わりではなく、技術の進化や業務環境の変化に応じて、継続的に見直す必要がある。
生成AIが当たり前に存在する時代、私たちの仕事は、AIと人の優劣を比較することではない。むしろ、プロジェクトの目的、求められる価値、業務特性に応じて、どの段階を誰が担うのが最適か──その境界線そのものをデザインすることが、新しい実務の姿である。
AIが加速させる「速さ」と、人間が紡ぎ出す「深さ」。両者を価値起点で適切に組み合わせることで、デザインを含むあらゆる業務は、これからも新しい地平へと広がっていく。
アビームコンサルティングは、戦略策定からUXデザイン、実装・運用まで、AIと人の役割を現場で設計してきた。 AIを「使えるから使う」のではなく、どの工程でどの主体が価値を生み出すかを見極めながら活用してきた知見は、境界線を動的に再設計するための実践的な判断材料となる。今後もクライアントの支援を通じて、AIと人の協働による新しい業務のあり方を切り拓き、企業と社会の価値創造に貢献していきたい。


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