空飛ぶクルマの社会実装――eVTOLの一般利用に向けた段階的アプローチと構造課題

インサイト
2026.03.30
  • DX
  • エンジニアリングチェーンマネジメント
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次世代モビリティとして期待が高まるeVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing)だが、需要の立ち上がり方や規模を見通しにくく、事業化にあたっては依然として不確実性がともなっている。本稿では、eVTOLが持続的なビジネスとして成立するために求められる条件や普及を阻む要因を軸に、市場の現状やユースケースの制約、設計・生産・調達における構造的な課題を整理する。さらに、段階的な社会実装プロセスを俯瞰し、企業が今取るべき戦略的対応の方向性と産業立ち上げに向けた実務的示唆を提示する。

執筆者情報

  • 西 崇宏

    西 崇宏

    Director
  • 橘 悟

    武井 宏允

    Manager
  • 橘 悟

    田口 凌

    Senior Consultant
  • 橘 悟

    塩田 海渡

    Senior Consultant
  • 橘 悟

    竹花 諒

    Consultant

eVTOLの現状と将来像

eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing)とは、電動で垂直に離着陸が可能な次世代航空機である。滑走路を必要とせず、騒音も少ないことから、都市部における新たな移動手段として期待が高まっている。現在は実証段階にあるものの、各国で開発や投資が進み、多くの企業が参入し投資が拡大している。今後、認証が整えば2030年代に商業運航が本格化すると見込まれている。
eVTOLの機体は、大きく「少人数・短距離」型と「大人数・長距離」型に分けられる。前者のSkyDrive、Volocopter、EHangなどは都市内移動や観光用途を主眼とし、後者のJoby、Lilium、Vertical Aerospaceなどは都市間移動など、ビジネス需要も含んだより広域での利用を想定する。こうした違いは、航続距離や搭載人数といった性能設計に反映されており、各メーカーの事業戦略と密接に結びついている(図1)。

図1 各eVTOLメーカーの機体性能分布図

多くのeVTOLメーカーは、最終的には自動車の代替となる一般的な移動手段としての普及を目指している。しかし、インフラ整備や経済性、安全性、規制対応といった課題は多く、短期間で急速に普及することは困難な状況である。そのため、段階的に利用範囲を広げながら実績を積み重ねていく戦略が不可欠である。
本稿では、eVTOLの社会実装プロセスを「STEP1立ち上げフェーズ」「STEP2特殊利用フェーズ(中量生産)」「STEP3一般利用フェーズ(大量生産)」の3段階に整理する(図2)。各フェーズで顕在化する課題と、それに対する対応の方向性を示すことで、eVTOLの社会実装を継続的に進めるための条件を明らかにする。

図2 eVTOLの段階的な活用進展イメージ

社会実装を阻む構造課題

活用拡大にともなう課題の整理

eVTOLの活用拡大に向けた現状を把握するため、アビームコンサルティングは2024年9月から2025年12月にかけて、eVTOLメーカー4社に対しインタビューを実施した。本調査では、企画・調達・製造の各観点から、市場全体に共通する課題を整理している(図3)。

図3 インタビュー結果と課題感

インタビューの結果、「ユースケース」の観点では、各社とも都市内移動手段としての普及に重点が置かれていることが明らかになった。一方で、医療・観光・都市間移動・軍事・海上輸送といった用途は限定的な検討にとどまっており、現時点では都市内移動を主軸とする戦略が多く、用途拡張に向けた体系的な検討は発展途上にある可能性が示唆された。
「調達」の観点では、主要構成部品の多くが特注品で汎用部品の活用が進んでいないことから、部品コストが高止まりしやすく、将来的な価格低減や安定供給に向けた制約となる可能性が想定される。
また「生産形態」に目を向けると、現時点では手作業を中心としたセル生産やショップ生産が主流であり、本格的な製造ラインの整備は途上段階にある。今後、中量生産へ移行するにあたり、生産体制の高度化やサプライチェーン構築が課題となることが想定される。
インタビュー結果から見えてきた課題に加えて、eVTOLの活用が進むにつれて今後新たな課題も顕在化すると考えられる。課題は大きく「特殊利用フェーズ(中量生産)に向けて解決すべきもの」と、「一般利用フェーズ(大量生産)に向けて解決すべきもの」に整理できる(図4)。

図4 活用拡大にともなう課題の全体像

特殊利用フェーズでは、インフラや法制度の整備の遅れや、利用拡大にともなう設計変更の増加が予測される。また、利用地域や用途が定まらない中で、仕様や生産量の変動に柔軟に対応できる体制が求められる。
一般利用フェーズでは、社会受容性の確保や認証基準の高度化に加え、量産体制の確立や調達リスクの増大といった、より産業化に直結する課題が前面に現れることが予見される。

現時点で優先すべき課題と対応方針

本節では、前節で整理した「特殊利用フェーズに向けた課題」を踏まえ、現時点で優先的に取り組むべき課題と、その対応の方向性を示す(図5)。なお、ここで示す内容は全体方針であり、具体的なアプローチは次章以降で詳述する。

図5 課題と対応方針

課題①ユースケースが未確立

現在、eVTOLは事業としての立ち上げフェーズにあり、まずは初期市場において有効なユースケースを見出し、確立していくことが求められる。そのためには、高速移動・低騒音・垂直離着陸といったeVTOLの特性が最大限に発揮され、かつ一定の需要が見込める用途を選定していく必要がある。
市場投入にあたっては、多様なユースケースを同時に追求するのではなく、フェーズごとに適したユースケースに絞り込み、段階的に展開していくアプローチが現実的である。どのフェーズで、どのユースケースを優先的に取り組むべきかを見定めながら、実証と実績を着実に積み重ね、その成果を次のフェーズへとつなげていくことが重要となる。

課題②課題対応にともなう設計工数の増加

ユースケース拡大や仕様変更にともない、設計工数の増加は避けられない課題となる。これに対しては、モジュール化や標準パーツの採用といった従来手法に加え、AIなどのデジタル技術を用いたフロントローディング型開発プロセスの導入が有効である。設計初期段階で検討の精度を高めることで、手戻りを抑制し、設計・開発プロセスの効率化と品質向上の両立を図る必要がある。

課題③ユースケース・量産拠点の不明瞭性 / 課題④部品調達価格の高騰

現時点ではどの地域でどのユースケースが本格化するかを見通すことは難しく、仕様や需要の変動に対して柔軟に対応可能な生産体制が求められる。また、特注部品への依存度が高い状況では、調達コストの上昇が量産化の制約となり得る。これらに対しては、地域特性に応じた生産体制の構築に加え、部品の共通化やサプライヤー管理の高度化、他産業との連携によるコスト低減といった視点が重要となる。

eVTOL活用拡大に向けたユースケース戦略

既存輸送手段との比較による導入適合性評価

eVTOLの活用拡大を検討するにあたっては、特性を最大限に生かせる用途を見極めることが重要である。そのため本章では、各ユースケースにおいて既存の輸送手段と比較した際に、導入に値する優位性があるかを多角的に評価する。
評価のポイントとして、下図に示す6つの観点を設定した(図6)。輸送手段としての基本性能である航行距離・積載重量・速達性に加え、飛行音による周囲への影響(静寂性)や離発着場所を含むインフラ整備の容易性といった環境面、さらに運用コストの妥当性といった経済性の観点も評価軸に含めている。

図6 ユースケース検討における評価観点

これらの観点から、eVTOLメーカー各社が想定するユースケースに加え、アビームコンサルティングにて検討した活用用途についても整理した。その結果、既存の輸送手段に対するeVTOLの優位性を図7に示す。

図7 ユースケース評価結果

フェーズ別ユースケースの整理

上記の評価結果を踏まえると、eVTOLの社会実装は、すべての用途を同時に狙うのではなく、フェーズごとに適したユースケースから段階的に進めることが現実的である(図8)。

図8 各フェーズで想定されるユースケース

まずSTEP1の「立ち上げフェーズ」では、既存インフラの範囲で導入可能な用途を中心に、eVTOLの安全性や有用性を実証する段階に位置づけられる。このフェーズでは、既存の輸送手段と比較して明確な優位性を持ち、社会的・経済的な要件を満たすユースケースから導入を進めていくべきである。具体的には、都市内や郊外・離島・山間部での旅客輸送、医療現場へのフライトドクター派遣、軍事用途での人員・物資輸送、観光・エンタメ用途などが想定される。これらの用途では、速達性や機動性といったeVTOLの特性を活かしやすく、実績の蓄積につながりやすい。
次にSTEP2の「特殊利用フェーズ」は、部分的なインフラ整備を進めながら、特定用途での活用を広げていく段階である。このフェーズでは、必ずしも既存手段に対して明確な優位性がなくとも、行政や民間企業との連携により採算性が見込める用途での展開が重要となる。具体的にはインフラ技術者の緊急対応やラグジュアリー層向けのエアタクシー、警察官の現場出動などが想定され、限定的な領域で運用実績やノウハウを積み重ねることで、社会的受容性の向上につなげていく。
最終的なSTEP3の「一般利用フェーズ」では、これまでに積み重ねた飛行実績と段階的に整備されたインフラを基盤に、eVTOLが一般市民の日常的な移動手段として定着する段階へと移行する。利用拡大と量産化が進むことでコスト低減が進み、インフラ普及との相乗効果により、eVTOLの一般利用が現実的な選択肢となることが期待される。

市場ニーズの変化に直面する設計・開発の課題

設計工数増大の背景と構造要因

前章で述べたように、ユースケースや利用条件が流動的な状況下では、設計・開発に求められる対応も複雑化する。その結果eVTOLの設計工数は増大しており、その背景には大きく2つの要因がある。
1つ目に、十分な基礎データが蓄積されておらず、試作と修正を繰り返しながら開発を進めざるを得ない点である。航空機としての新規性が高いことから、設計初期段階での検証負荷が大きく、結果として工数が膨らみやすい構造となっている。この課題に対しては、公共機関などによるデータ集約・公開が進むことで、設計精度の向上や作業負荷の軽減が期待される。また、解析に基づく認証(CbA : Certification by Analysis)を活用できる余地も広がる。
2つ目に、市場ニーズが設計に十分反映されず、ニーズの変化に応じた改良が後追いになりやすい点が挙げられる。ユースケースが拡大する過程では利用者からの要望や運用条件の変化が継続的に発生するため、設計と市場との距離が開くほど、手戻りや追加工数が増加する要因となる。今後は、市場ニーズを継続的に設計へフィードバックする仕組みが競争力を左右する鍵となる。

市場ニーズ起点の設計プロセス高度化

こうした課題に対応するためには、要求事項を早期に設計へ落とし込み、試作・検証を短いサイクルで回せる体制の構築が不可欠である。その前提として、設計に必要な情報を一元的に蓄積し、初期設計のスピードと精度を高めていくことが求められる。
このような基盤が整えば、設計変更にともなう手戻りを抑制しつつ、市場の変化に応じて柔軟に仕様を見直すことが可能となる。結果として、設計工数の削減と品質向上を両立させるとともに、ユースケース拡大に耐えうる開発体制を実現できる(図9)。

図9 市場ニーズ起点の高速開発サイクル

市場ニーズの変化に迅速に対応するためには、必要な情報を整理し、設計に反映するまでのプロセスを短縮することが重要である。そのためには、蓄積した市場データや過去の設計情報を活用し、開発初期段階で仕様を迅速に決定できる仕組みを整える必要がある。
また、試作・検証を短いサイクルで回せるデジタル技術を導入することで、設計精度の向上や手戻り削減が期待できる。こうした取り組みにより、開発期間の短縮、品質向上、コスト抑制を同時に実現し、eVTOL事業全体の競争力強化につながる(図10)。

図10 市場ニーズ×設計パターンによる開発効率化

※PLM:Product Lifecycle Management(製品ライフサイクル管理)
※MBSE:Model-Based Systems Engineering(モデルベースシステムズエンジニアリング)

eVTOL量産化を見据えた製造・調達の構造課題

需要変動に対応する製造・調達戦略

特殊利用フェーズでは、どの国・地域でどの用途が広がるかが読みにくく、需要の違いに柔軟に対応できる製造体制が求められる。一方で、現状は特注部品の比率が高く、特定サプライヤーへの依存も大きいため、部品コストが高止まりしやすい状況にある。
こうした環境下では、国や地域ごとに最適な生産拠点を組み合わせ、計画・製造・調達を一体で管理できる仕組みを整える必要がある。加えて、仕入れ方法の工夫や複数企業での共同調達など、調達戦略の見直しも重要となる。
地域ごとの需要や用途の不確実性に対応する有力な戦略として、分散生産が挙げられる。モジュールやサブアッセンブリー(中間部品)を特定拠点で集中生産し、最終組立を各国・地域で行うことで、輸送コストを抑えつつ、現地仕様への柔軟な対応が可能となる。この生産形態は、部品の標準化と生産効率を確保しながら、地域ごとの差異に対応できる点で有効である。(図11)。

図11 需要地×生産量に応じた製造体制

分散生産・共同調達を支える運営基盤

分散生産は柔軟性の高い生産体制を実現できる一方で、拠点が分かれることによる運営の複雑化という課題をともなう(図12)。需要予測やサブアッセンブリーの生産計画が複雑になりやすく、部品供給の遅延が最終組立全体に影響を及ぼすリスクも高まる。また、自動化の推進や品質管理の観点からも、複数拠点を横断した製造データの一元管理が不可欠となる。
これらの課題を踏まえ、分散生産を有効に機能させるためには、計画・実行・管理を横断する運営体制の整備が前提となる。

図12 分散生産における工程別メリットと課題

分散生産を安定的に運用するための鍵となるのがDXの活用である(図13)。販売情報を起点に調達計画を最適化し、ロットサイズを調整することで供給効率を高めるとともに、製造現場では自動化や柔軟な組立方式を取り入れることが求められる。

図13 DXによる分散生産プロセスの統合

※BOM:Bill of Materials(部品表)
※BOP:Bill of Process(製造工程表)

さらに、在庫、製造、出荷状況を可視化し、品質管理やトレーサビリティを強化することで、調達から最終組立までのプロセスを同期させることが可能となる(図14)。こうしたデジタル基盤は、分散生産の複雑性を吸収し、安定した量産体制を支える重要な要素となる。

図14 工程別DX技術と対応策

eVTOLが量産段階へと移行するにあたり、部品調達の最適は競争力を左右する主要課題となる。その解決策として、複数企業による共同調達の活用が挙げられる。機体性能に直結するコア部品は各社が個別に調達しつつ、汎用性の高いノンコア部品を共同調達することで、規模効果によるコスト低減と供給安定性の向上が期待できる(図15)。
さらに、サプライヤーの集約や共通物流、在庫管理の連携へと発展させることで、調達から在庫管理までを統合した効率的なサプライチェーンの構築につながる。

図15 共同調達によるコスト低減

まとめ:eVTOL社会実装に向けた解決アプローチ

本稿では、eVTOLの社会実装に向けた課題を、ユースケース・設計開発・製造・調達といった複数の観点から整理してきた。これらは個別の論点として捉えられがちであるが、実際には相互に影響し合う、連動した課題群として存在する点に特徴がある。こうした課題構造を踏まえると、eVTOL業界の今後は、特定の領域を個別に最適化するのではなく、ユースケース、設計、製造を横断した戦略設計が成否を左右すると考えられる。
当社が整理した今後のeVTOL業界の見通しは以下のとおりである。
ユースケース創出においては、利用者・場所・目的を起点に導入優先度を整理し、段階的に社会実装を進めていくことで、最終的な一般利用が実現される。設計面では、基礎データや市場ニーズの不足が工数増大の要因となるため、AI活用やモジュール化、設計データのパターン化によるフロントローディング型開発への転換が求められる。製造面では、共通部品の集中生産と現地最終組立を組み合わせた分散生産モデルや、ノンコア部品の共同調達を通じて、競争力のある量産体制の構築が鍵となる。
アビームコンサルティングは、デジタル技術と製造領域の知見を融合させ、ユースケース戦略の具体化から、設計開発を支えるデータ活用基盤の構築、量産化を見据えたサプライチェーン設計・運営の高度化までを一貫して支援している。構想段階にとどまらず、実行フェーズまでを見据えた伴走型の支援を通じて、eVTOLの社会実装に向けた取り組みを推進していく。


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