【イベントレポート】技術革新で進化するサブスクリプションビジネス

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2026.01.06
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製造業を取り巻く環境は、デジタル技術やAIの進展、そして「所有から利用へ」という消費者行動の変化により、大きな転換期を迎えている。従来の製品販売モデルではプロダクト単体での差別化が難しく、顧客との長期的な関係を築くためには、「利用体験を通じた価値提供」への転換が求められる。
こうした潮流の中で改めて注目されているのが、サブスクリプションビジネスである。決して新しい概念ではないものの、継続的な価値提供を通じて収益を安定化させ、サービス進化を促す仕組みとしてその重要性が高まっている。
一方で、日本の製造業ではサブスクリプションビジネス導入の動きが進みつつあるが、多くの場合、限定的な製品・部門単位にとどまり、事業全体を再設計する段階には至っていないのが実情だ。
本稿では、アビームコンサルティングが持つ知見や実例をもとに、製造業におけるサブスクリプションビジネスの最新トレンドを踏まえ、「顧客価値の進化」「収益モデルの確立」「基盤整備」の三層をいかに連動させるかについて考察し、持続的にサブスクリプションサービスを提供・発展させるための仕組みを明らかにする。

(本稿は、2025年10月15日に開催されたアビームコンサルティングとSAPジャパン株式会社の共催セミナー「技術革新で進化するサブスクリプションビジネス」での講演内容をもとに再構成しています。)

執筆者情報

製造業における継続的な価値提供への転換

製造業各社では、IoTやAIの進展を背景に、これまでの製品販売中心のビジネスから、顧客との継続的な関係を前提とするモデルへの転換が進んでいる。単にモノを提供するだけでなく、利用データを起点に運用支援や性能改善を行うなど、“使われ続けることで価値を高める”仕組みを模索する動きが広がっている。
こうした変化を支える枠組みとして注目されるのが、「サブスクリプションモデル」である。その特徴は、製品を提供した時点で完結していた価値提供を、利用後も継続的に磨き続けられる点にある。現場の稼働データや利用状況を基に改良や新機能開発が行われ、製品とサービスが一体となって成長していく。この“運用を通じて進化する製品・サービスづくり”こそが、いま製造業に求められている。
こうした“運用を通じて価値を高める流れ”は、IoTやAIの発展によって一段と加速している。
その具体例として、現場では次の2つの取り組みが広がっている。

  • 予測保全:設備や部品の過去の劣化データを解析し、故障時期を推定することで、定期点検に頼らない保守を可能にする。
  • 運用最適化:稼働データをもとに、最適な稼働条件や加工パラメーターを提示し、品質向上やコスト削減につなげる。

例えば、設備メーカーでは稼働データを収集し、利用量ベースの課金や保守支援を行っている。また、部品や装置の状態を常時計測し、交換時期を予測することで、運用コストやダウンタイムの最小化を実現する事例も増加している。このように、データ活用による顧客提供価値向上が進み、運用を通じて製品・サービスを磨き続ける流れが生まれつつある。

一方で、多くの製造業では依然として所有型モデルとして「モノを売る」前提で価値提供・開発プロセス・社内システムが構築されており、利用型モデルを継続的に運営するための裏側の仕組みが追いついていない。製品提供後の改善を前提とした開発体制やリソース確保が不十分であるほか、ワンタイム販売向けの既存システムでは継続課金や利用状況に応じた請求への対応が難しい。こうした内部構造の制約が、サブスクリプションビジネスを本格展開する際の大きな障壁となっている。(図1)

図1 製造業におけるサブスクビジネスの落とし穴

成功の鍵は顧客体験・投資回収モデル・サービス運用基盤の三層構造

前章で述べた通り、製造業では「モノを売る」ことを前提に形成されてきた価値提供・開発プロセス・社内システムが、サブスクリプションビジネスを継続的に展開する上で大きな制約となっている。こうした制約は、個別施策や部分的な改善だけでは解消しづらく、ビジネス全体の設計そのものを見直すことが不可欠となる。
その上で重要になるのが、①顧客体験を継続的に磨く仕組み、②長期的な投資回収モデル、③拡張性と効率を両立するサービス運用基盤の3つを一体で設計する視点である。
以下では、それぞれの要素が果たす役割と、三層構造で設計する意義について整理する。(図2)

図2 顧客体験・投資回収モデル・サービス運用基盤の三層構造

①顧客体験を継続的に磨く仕組み

製造業のサブスクリプションビジネスでは、製品販売後も継続的に価値を高める仕組みが求められる。その基盤となるのが、稼働データを活用してサービスを改善・拡張していく運用構造である。
稼働データや利用ログを活用し、性能改善、運用支援、新サービス提案へとつなげることで、「使われ続けるほど価値が上がる」関係を構築できる。重要なのは、データを活かす技術そのものにとどまらず、データを継続的に改善に回す運用をどれだけ定着させられるかである。
顧客接点で得た情報をサービス改善に反映し、その成果を再び顧客に還元するプロセスを確立することで、解約防止やアップセルにとどまらず、顧客との関係性そのものを長期的な価値の源泉へと発展させるのである。(図3)

図3 顧客体験を継続的に磨く仕組み

②長期的な投資回収モデルの設計

一般的なサブスクリプションビジネスは、短期的な収益性よりも、長期的な価値提供と投資回収を両立する設計が求められる。製造業においても、初期売上で完結させず、継続的なサービス開発・改善への投資を前提に収益モデルを構築する必要がある。
LTV(顧客生涯価値)や解約率、NRR(売上維持率)などの指標を軸に利益を積み上げ、得られた収益を再投資へ循環させることで、「価値創出 → 収益 → 再投資 → 価値向上」という好循環を形成できる。
こうした価値と収益の循環構造こそが、サブスクリプションビジネスを持続可能な事業として確立する基盤となるのだ。(図4)

図4 長期的な投資回収モデル

③運用基盤の整備

サブスクリプションビジネスを継続的に成長させるためには、契約・請求・利用データを一元的に管理し、顧客接点とバックオフィスをシームレスにつなぐ運用基盤が欠かせない。
そこで、後述の SAP Subscription Billingのようなサブスクリプション管理パッケージを利用することにより契約・請求・利用データといった情報を統合的に管理することで、解約率や売上などのKPIをリアルタイムに把握でき、経営層から現場まで同じデータをもとに改善を進めることが可能になる。
また、サービスの拡張や契約内容の変更といった変化にも柔軟かつ迅速に対応でき、オペレーションの負荷を抑えつつ、持続的な成長を実現できるだろう。
このような運用基盤は、単なる業務効率化にとどまらず、拡張性と効率を両立し、事業全体の成長を安定的に支えられることが重要である。(図5)

図5 拡張性と効率を両立するサービス運用基盤

契約から収益管理までを最適化する柔軟な運用基盤

上述のとおり、サブスクリプションビジネスを支えるためには、契約・請求・収益を一元的に管理し、顧客ニーズに応じた価格設計や契約更新に柔軟に対応できる仕組みが不可欠である。こうした要件に応えるソリューションとして、SAP社が提供する「SAP Subscription Billing」が挙げられる。これは、契約情報・利用データ・請求明細を連携し、リアルタイムで課金処理を実行できる点が特長だ。
製造業では、ハードウェアとソフトウェア、さらには保守・サービスを跨ぐ複雑な契約構造が課題である。その解決策として、SAP Subscription Billingは、SAP S/4HANA®と組み合わせることでそれらを単一の契約体系の中で扱えるように設計されており、例えば「機器の基本利用料+従量課金+付帯サービス」といった複合プランも標準機能で設定可能である。また契約管理だけでなく、その後の請求、会計処理までを一貫して自動化できる。
このように、事業運営全体を支える柔軟で拡張性の高い基盤を構築できる点もSAP Subscription Billingの強みである。

サブスクリプションビジネス実践に向けたまとめ

サブスクリプションビジネスの成功に向け重要なポイントは、顧客接点を基点とし、顧客体験・投資回収モデル・サービス運用基盤の三層を連動させることである。三層を連動させ、継続的にサブスクリプションビジネスを最適化できる体制とプロセスを整えることが、変化の速い市場環境にも柔軟に対応し、持続的なビジネス成長を可能にする。
また、三層連動の仕組みを整えることで、足元の課題解決だけにとどまらず、将来的なサービス発展の土台にもなる。今後は、生成AIやIoTの活用により、「利用状況に応じた価格変動」や「自動最適化型の契約更新」など、リアルタイムデータを基盤とした高度な運用が進むと考えられ、サブスクリプションを“顧客との関係を継続的に進化させる仕組み”として実装できるかどうかが、今後の競争力の鍵となるだろう。

アビームコンサルティングでは、企業のサブスクリプションビジネスへの移行を戦略策定から業務設計、運用定着まで一貫して支援している。さらに、単なるシステム導入にとどまらず、ビジネスモデルの再構築や収益構造の最適化、顧客体験の向上を実現するための変革を伴走型で推進している。


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