【イベントレポート】ART MEETS BUSINESS Vol.3 世界に響き、未来へつながる「和」の音色 ――日本の伝統芸能「邦楽」から考える、「日本発」の価値創造

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2025.11.21
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「和」の響きが問いかける、日本発の創造性
2025年8月6日、アビームコンサルティング本社「As One Stage」にて、第3回となる ART MEETS BUSINESS を開催した。
今回のテーマは「世界に響き、未来へつながる和の音色」。日本の伝統芸能「邦楽・長唄」を題材に、“日本発の創造性”が現代のビジネスにどう生きるのかを探求した。
我々はこのシリーズを通じて、アートを「鑑賞するもの」ではなく、「思考や組織のあり方を再定義する“体験装置”」として捉え、その体験が生む「感性の変化」こそ、変革の出発点になると考えている。

写真:イベントの様子

執筆者情報

  • 小山 元

    小山 元

    Principal

八重洲・京橋という、文化と創造の交差点

アビームコンサルティングが本社をおく東京、八重洲・京橋エリアは、古くから商業と文化が交わる地である。
江戸初期、この界隈で初代中村勘三郎が「中村座」を旗揚げし、のちに歌舞伎の隆盛を導いた歴史がある。近くにはその発祥を記す碑が今も残り、かつて蔦屋重三郎が浮世絵師・喜多川歌麿らとともに江戸文化を広めた出版活動に勤しんだのも、この周辺であった。
芸術と商業、感性と構想、職人技と経営が自然に交差し、互いを高め合ってきた京橋の風土は、まさに「日本的創造性」の象徴といえるだろう。
当社も日本発のコンサルティングファームとして、世界で活動する企業に向けてこの地から価値を届けている。その原点にあるのは、「文化を理解する力こそ、変革を支える力である」という思想だ。
その精神を現代に受け継ぐ取り組みとして、アートとビジネスの交点を探るシリーズ「ART MEETS BUSINESS」を開催している。

伝統が教える「続ける力」と「変化する勇気」

ステージの幕開けを飾ったのは、五穀豊穣や天下泰平を祈る祝言曲「操三番叟(あやつりさんばそう)」である。三番叟が人形のように操られる独特の所作が特徴で、祝いの場で演じられる伝統的な演目である。三味線と唄が織りなす清冽な音色が、会場の空気を研ぎ澄ませた。
続くトークセッションでは、長唄 杵勝会より杵屋勝壽氏、杵屋勝乃夫氏、堅田喜三久氏他を迎え、当社プリンシパル/Creativity Teamリーダーの小山 元と、プリンシパル/CXセクター長の磯貝 智崇がモデレーターを務め、長唄を題材に、文化と変革をテーマに対談した。
勝壽氏は「長唄は、効率ではなく時間の積み重ねによって伝わる文化。人から人へ“間”を感じながら受け継がれる」と語り、勝乃夫氏も「オンライン稽古など形式は変わっても、直接のやり取りの中に“生命”が宿る」と述べた。
この言葉は、ビジネスにおける知の継承や組織文化のあり方への示唆に富んでいる。
AIやオンラインコミュニケーションが普及する時代だからこそ、人と人が時間を共有しながら育む信頼と感性が、真の競争優位を生み出す。それが、伝統芸能の世界が教える「続ける力」と「変化する勇気」であることが共有された。

感性を言語化する、共創のデザイン

トークセッションの後半では、参加者が長唄の一節を聴き、思い浮かぶ情景を言葉にする「対話型鑑賞ワーク」を実施した。このワークは、単なる音楽鑑賞ではなく、“感じる”ことを通じて、他者の視点と交わるプロセスそのものが目的となっている。

華やかで躍動感のある構成が特徴の「神田祭」、『吾妻八景』などに登場する三味線の間奏部分(合方)のひとつである「佃の合方」、そして、秋の虫の音を模した旋律が特徴の「虫の合方」などが演奏された。参加者は江戸の四季を映す旋律に耳を傾けながら、自らの感覚を言語化し、他者と共有した。
多様化が重視される現代において、異なる価値観を「理解」ではなく「共感」によってつなぐ力が、チームづくりやリーダーシップにおける中核的スキルといえるだろう。

伝統は止まらない:変化が生む未来の創造力

杵勝会は邦楽とテクノロジーの融合として、フランス・アルルやパリでの国際公演、大阪・関西万博でのボーカロイドとの共演など、積極的に新たな表現を模索している。こうした活動になぞらえて、堅田喜三久氏は「文化は守るものではなく、生きるもの。変わり続けることでこそ、伝統は未来に残る」と語った。

伝統とは、変化を止めない意志そのもの」。
この言葉は、企業経営にも通じると考えられ、事業構造や価値提供のあり方を変え続ける“動的な持続性”こそ、真の競争力を生む条件である。

クライマックスでは、三味線五挺・唄五名による「勧進帳」が披露された。この曲は、歌舞伎の名作『勧進帳』の場面をもとにした長唄で、義経と弁慶の忠義と知恵、そして緊張感あふれる関所突破のドラマを、三味線と唄によって力強く描き出している。
長唄ならではの緻密な旋律と迫力ある構成が、物語の緊張感と人間ドラマを鮮やかに浮かび上がらせた。
指揮者のいない舞台で、呼吸と視線だけで全体を調和させる演者たちの姿は、まさに“共創のリーダーシップ”そのものだ。
一人ひとりが自律しつつ、全体の流れを感じ取って動く。そこには、当社が掲げる「As One」—多様な個が共鳴し、ひとつの目的に向かって進む組織のあり方が重なる。
リーダーが全てを指揮するのではなく、信頼をベースにした暗黙の連携が成果を生む。
この“呼吸の経営”こそ、複雑な環境下にある現代の企業に求められる姿勢だろう。

フィナーレで勝壽氏が語った「伝統は止まらない。続けることこそ革新である」という言葉は、会場全体に静かな余韻を残した。アートは過去と未来をつなぐ鏡であり、文化を理解しながら新しい価値を生み出す姿勢は、当社のビジョンにも通じる。

アートとビジネス。一見異なるようでいて、どちらも「人間の創造力」を信じる営みだ。
アビームコンサルティングは、アートを通じて人と組織の感性を解き放ち、“日本的感性を源泉とした企業変革と社会変革”を実現していく。

開催概要

  • 日時:2025年8月6日(水)18:00–19:30
  • 会場:アビームコンサルティング本社「As One Stage」
  • 出演:杵屋勝壽、杵屋勝乃夫、堅田喜三久、ほか杵勝会一門
  • モデレーター:小山 元(プリンシパル/Creativity Teamリーダー)、磯貝 智崇(プリンシパル/CXセクター長)
  • 主催:アビームコンサルティング株式会社

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