企業は「パーパス経営」の実現を阻む課題をどう乗り越えるべきか 〜 企業理念を現場に根付かせるための3つのヒント 〜

インサイト
2026.01.07
  • 経営戦略/経営改革
  • 人材/組織マネジメント
1336046093

アビームコンサルティングでは、人事部門の管理職層を対象に「パーパス経営の実現に向けた企業理念の規定と浸透」をテーマとした勉強会を開催した。顧客価値戦略ユニット ダイレクターの渡邊 丈祐が登壇し、パーパス経営の本質、日本企業が直面する推進課題、そして理念を現場の行動へ接続するための実践ポイントを解説。後半のワークショップでは、参加企業が直面する「理念を行動に落とし込めない」「共感が進まない」といったリアルな悩みが共有され、浸透の難しさが具体的に浮き彫りとなった。
本インサイトでは、当日の内容をもとに「パーパス経営とは何か」「なぜいま求められているのか」に加え、企業が陥りやすい“3つの罠(規定・浸透・定着)”とその解決策を軸に、3つの観点から整理して紹介する。
(本稿は勉強会での当社講演内容を元に再構成しています。)

執筆者情報

1. パーパス経営とは何か

企業におけるパーパスとは、「社会における志・存在意義」、すなわち「自社はなぜ存在し、社会にどう貢献していくのか」という根本的な目的である。パーパス経営は、この目的を起点に、パーパスの体現・実現に向けて、顧客に提供する価値を通じて社会に貢献することを経営の指針とするあり方である。
では、従来型の企業経営と何が違うのか——。

1つ目の違いは、企業が目指す目標(ゴール)である。
従来の経営では、企業利益の最大化に焦点が当たりがちだった。しかし、パーパス経営では「企業としての利益」と「社会にとっての利益」を両立させることが前提になる。

2つ目の違いは時間軸である。
短期的な利益追求ではなく、長期的・安定的に持続可能な利益を生み出し続けること、その過程で社会価値を創出し続けることが求められる。

つまり、「世の中にどのように貢献しながら、持続可能なかたちで事業を続けていけるのか」という視点を組み込んだ経営が、パーパス経営の特徴である。(図1)。

図1 従来の経営とパーパス経営の違い

2. パーパス経営が求められる背景と推進課題

では、なぜいま多くの企業がパーパス経営への対応を迫られているのか。その背景には、次の4点の要因がある。

  • 投資家からのニーズ(ESG投資の拡大)
  • 社会の価値観変化(企業の「姿勢」への注目)
  • 収益構造の変化(社会課題解決型ビジネスの台頭)
  • リスクマネジメント(炎上・不祥事への備え)

以下、それぞれについて見ていく。

(1)投資家からのニーズ(ESG投資の拡大)
1点目は、投資獲得の観点からパーパス経営の重要性が高まっていることである。
世界全体のESG投資残高は、一説には40兆ドルを超える規模に達していると言われており、投資家は財務指標だけでなく、「社会にどれだけ価値を生み出しているか」「パーパスに基づいて経営しているか」を投資判断の基準とし始めている。

もはや企業側としても、この問いに「答えないわけにはいかない」状況になっており、そのため従来の経営理念を社会的な観点から高度化し、パーパスを起点にした価値創造ストーリーを、統合報告書などを通じて社外に説明することが求められている。

(2)社会の価値観変化(企業の「姿勢」への注目)
2点目は、社会全体の価値観の変化である。
近年の酷暑や異常気象などを背景に、自然環境に関する不安や、社会課題への関心が一層高まっている中、「自社の利益だけを追求する」経営は、もはや社会から許容されにくくなっている。

企業に対しては、「社会に対して責任を持って経営しているのか」「どのような姿勢で社会課題に向き合っているのか」が、消費者・従業員・地域社会から厳しく問われている。
パーパスは、そうした企業の姿勢を言語化し、「自社は何のために存在し、社会にどう貢献しようとしているのか」を内外に示す役割を担うようになっている。

(3)収益構造の変化(社会課題解決型ビジネスの台頭)
3点目は、「社会への貢献責任」にとどまらず、社会課題の解決そのものがビジネスチャンスになりつつある点である。
講義では、パーパスを掲げ、社会価値の創出に貢献するブランドの成長率が、社内の他ブランドに比べて2倍に達していた、という海外の事例が紹介された。社会課題の解決を軸にしたブランドや事業の方が、むしろ高い成長を遂げているということだ。

このように、「社会課題の解決」は、企業にとって単なる責任やコストではなく、収益機会そのものになりつつある。
自社はどのような社会課題に向き合い、どのような強みで解決に貢献していくのか——その方向性を定める羅針盤がパーパスであり、新たなビジネス機会を構想する出発点にもなっている。

(4)リスクマネジメント(炎上・不祥事への備え)
4点目は、リスクマネジメントの観点である。
「社会的・道義的な責任と反する経営をしているのではないか」という疑念を、世の中から一度持たれてしまうと、ブランド毀損や信頼低下など、企業のレピテーション(評判)に深刻なダメージを与え、中長期的な経営リスクにつながる。
パーパスを明確に定め、その実現に向けた行動原則を社内で共有しておくことは、日々の意思決定やコミュニケーションの拠り所となり、予防的なリスクマネジメントの仕組みとしても機能する。


しかし、多くの企業はここで共通の壁に直面している。
経営陣が議論を重ねて「パーパス」「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を定義し、文書としては整備できているものの、ある調査では6割以上の経営者が「従業員が自社のパーパスをうまく行動に落とし込めていない」と回答している。つまり「MVVは策定できたが、現場の行動変容まで至っていない」というギャップの存在が明らかになった。さらに、以下のような課題も挙げられる。

  • パーパスの内容が抽象的でわかりにくい
  • パーパスに触れる機会が少ない
  • どのように発信すればよいかわからない
  • 浸透状況を測る指標や目標が定まっていない

本質的な推進課題は、パーパスやMVVを策定することではなく、それらをいかに行動にまで落とし込むかという点にある(図2)。

図2 企業におけるパーパス経営の推進課題

(出典:株式会社オリゾ「パーパス&MVVの導入・浸透実態調査」[https://orizo.co.jp/]の調査結果をもとに、アビームコンサルティングにて再作図)

パーパス経営の難所と解決策

「規定」:自社らしさと社会課題をつなぐ

パーパスを社内に根付かせる第一歩は、理念の「規定」である。この段階で押さえるべきポイントは、次の3つだと考える。

  • 自社らしさや強み(これまで培ってきた価値)
  • 将来に向けた意思(自分たちは何をしていきたいのか」
  • 外部の期待(顧客や社会から何を求められているのか」

これらを掛け合わせ、「社会のどのような課題に向き合い、どんな価値をもたらす存在でありたいのか」を言語化することが出発点となる。

しかし、この段階には「規定の罠」がある。
ある製造業の企業では、自社の技術資産とアイデンティティを反映した企業理念を掲げていたが、10年近く経っても社内で十分に浸透されなかった。調査をしてみると、社員は理念の方向性には共感している一方で、この理念から、具体的に自分は何をすべきかを見出せず、行動に結びついていないことが判明した。背景には、理念の背後にある「理論構造の不足」があった。

企業理念はしばしば「What(自社の使命・目指す姿)」だけが語られるが、次の2つをセットで設計する必要がある。

  • Why:なぜその使命に至ったのか(社会・業界に対する課題意識や理想像)
  • How:それを自社がどう実現できるのか(強みやケイパビリティ)

「Why―What―How」の関係性を明確にすることで、社員は自社のパーパスを自分事として理解しやすくなる。また、検討プロセスでは社内目線に偏りがちだが、「社会や顧客から自社はどう見えているか」という客観的視点を加えることが不可欠である。

①「浸透」:時間をかけて行動につなげる

理念を定義した後に必要になのが「浸透」である。
パーパスや企業理念は、抽象度が高く、一度伝えただけでは行動に結びつかない。浸透は次の3段階で進める。

  1. 理解浸透フェーズ:理念の内容を知り、方向性を理解する
  2. 行動促進フェーズ:業務や意思決定に理念を当てはめる
  3. 継続・定着化フェーズ:習慣化し、改善サイクルを回す

この設計を欠いたまま、「ワークショップを開けば浸透する」という発想で進めると、失敗する。
ある企業では、現場リーダーがファシリテーターとなり「働く目的を考えるワークショップ」を実施した。しかし、多くの社員にとって仕事=生活のためという感覚が強かったため、議論は形骸化し、「何となく気恥ずかしい」「やらされているだけ」という空気が生まれ、逆にモチベーション低下を招いた。

また、別の企業では、事業部門長が自分の言葉でパーパスを語り、社員に伝える取り組みを行った。これ自体は、方向性としては望ましいアプローチではある。しかし、「どのように語るか」を事業部長に一任したことで、理念の理解や解釈にバラつきが生まれ、事業部ごとの温度差を助長したケースもある。

こうした失敗に共通するのは、「どの段階で、誰に、何を目的に浸透させるのか」という設計の不足である。効果的な浸透には次のポイントが重要となる。

  • 管理職・リーダークラスが理念を深く理解し、自分の言葉で語れるようになる
  • 上長から部下へ、会社の方向性を丁寧に伝える
  • 目的に応じて、研修・ワークショップ・トップメッセージを組み合わせる

社員のエンゲージメントやモチベーションを高める施策は、「理念の方向性を共有できていること」が前提になって初めて効果を発揮する。浸透施策を単発イベントではなく、段階的に積み上げる設計が重要である。

③「定着」:日常業務と断絶した「掛け声」で終わらせない

理念の浸透に取り組んでも、「現場の行動」が変わらなければパーパス経営は実現しない。ここで立ちはだかるのが「定着の罠」である。

ある企業の調査では、理念の実践度を階層別に評価したところ、トップ層>部門長>部長>管理職・一般社員と階層が下がるにつれて、理念の実践度が右肩下がりになる傾向が見られた。その背景には、次のような要因が挙げられる。

  • 浸透活動への「やらされ感」や「浸透疲れ」
  • 業務に理念を後付けし、「もうできている」と判断する
  • 理念を通常業務とは別物と捉える

この「最後の一歩」を超えるには、理念を業務や制度と結びつけることが不可欠である。具体的には、次のようなアプローチが有効となる。

  • 行動ガイドラインの策定(理念をどう実践するかを明示)
  • 目標管理に理念と紐づいた項目を組み込む
  • 評価・育成研修に理念の理解を組み込む
  • 年次・階層別研修で理念を定期的に取り上げる

実際に成功している企業では、ガイドラインを作成した上で、評価制度や研修に組み込み仕組化することで、「理念の実践=仕事の一部」という認識を醸成している。制度との接続こそが、パーパス経営を掛け声で終わらせない鍵である(図3)。

図3 活動の成功を阻む3つの罠

4. まとめ:行動に落とし込めるパーパス経営へ

前述までの内容をまとめると、パーパス経営を実現するためには、次の3つの視点が不可欠です。

  • ステートメントだけでなく、その背後にある考え方や理論構造を言語化すること
    • Why・What・Howの関係性を明確にし、社員が自分事として理解できる基盤をつくる
  • 理念の実践は「会社が社員に求める行動」であるという前提に立ち、社員を巻き込む仕掛けを設計すること
    • 浸透施策を単発イベントではなく、段階的に積み上げる
  • 人事制度や業務プロセスと結び付け、日常業務の中で実践できるレベルまで落とし込むこと
    • 評価制度や研修に組み込み、「理念の実践=仕事の一部」という認識を醸成する
図4 理念の定着とパーパス経営の実現

当社が実施したワークショップでは、多くの参加企業が自社の段階を「浸透フェーズ」と捉えながらも、次のような共通の悩みの共有があった。

  • 理念を行動に落とし込めない
  • 理念の理解や共感が進まない
  • ワークショップを実施しても、通常業務とは別物と見なされる

企業ごとに事情は異なるものの、「MVVはあるが行動変容に結びついていない」という本質的な課題は共通していることが浮き彫りになった。

アビームコンサルティングは、「Build Beyond As One®.」というブランドスローガンのもと、こうした企業のリアルな悩みに寄り添いながら、パーパス経営の実現と企業変革を支援している。パーパスを単なるスローガンで終わらせるのか、現場の一人ひとりの行動にまで落とし込み、企業の競争力へとつなげていくのか——その分かれ目は、「規定」「浸透」「定着」という3つの難所を、自社らしい形乗り越えられるかにかかっている。

本領域にご関心をお持ちの企業担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合せいただきたい。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ