InsureTech Connect Asia 2025サマリレポート

インサイト
2025.11.06
  • 保険
  • グローバル
  • AI
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東南アジア最大級の保険関連イベントであるInsureTech Connect Asia 2025が6月3 日~6月5日にシンガポールで開催され、今年度もアビームコンサルティングはオフィシャルスポンサーとして参加した。
本インサイトでは、同イベントで議論された保険関連の先進テーマの一部を紹介するとともに、主要テーマにおけるアビームコンサルティングの支援領域を提示する。
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執筆者情報

  • Atsuyuki Mori

    Director Head of Insurance sector in Southeast Asia

1. InsureTech Connect Asia概要

アビームコンサルティングは3年連続でInsureTech Connect Asiaのオフィシャルスポンサーに

InsureTech Connect Asiaは年1回シンガポールで開催される東南アジア最大級の保険関連イベントで、2025年度は保険会社(日系保険会社も多数参加)、再保険会社、保険ブローカー、InsureTech、VC (Venture Capital) 、コンサルティングファームなど、42カ国から1,200名以上の業界関係者が参加した。アビームコンサルティングは3年連続でオフィシャルスポンサーを務め、Salesforceと共同ブースを設置した。
保険関連の先進テーマについて約100のセッションが行われ、アビームコンサルティングは「AIによる引受業務の変革」をテーマにしたパネルディスカッションのスピーカー・モデレーターとして登壇した。

2. 2025年の主要テーマ・トレンド

2025年は主に次の4テーマについて議論された(図1)。

  1. AI & Data Utilization - 保険ビジネス(アンダーライティング、販売、クレーム等)におけるAI・データの活用方法と期待効果
  2. Ecosystem & Partnership – 強固なエコシステム・パートナーシップの構築による顧客価値の最大化
  3. Digital Modernization - モダナイゼーションとInsureTechの融合による業務と顧客体験の変革
  4. Customer Experience – 顧客ニーズに基づく保険商品・サービスの高度なパーソナライズ化
図1 InsureTech Connect Asia 2025の4つの主要テーマ

出典 : InsureTech Connect Asia 2025のセッション内容をもとにアビームコンサルティング作成

上記4テーマのうち「01.AI & Data Utilization」が全体で28セッションと最多を占め、依然として業界最大の関心領域である(図2)。
一方、その議論の焦点は、単なるPoCから実用化・具体化フェーズへと移行しつつあり、論点も「どのように活用するか」から「活用してどのように成果を出すか」へとシフトしている。特にアンダーライティングやクレーム領域では、すでに複数のユースケースが成果を上げ始めている。

図2 InsureTech Connect Asia 2025における主要テーマ・トレンド

出典 : InsureTech Connect Asia 2025のセッション内容をもとにアビームコンサルティング作成

次に、カテゴリ毎に一部のセッションを取り上げて、詳細を説明する。

(1) AI & Data Utilization

AI・データの活用はPoC段階を越え、実用化・具体化フェーズへと移行しつつある。実際の業務プロセスに焦点を当て、導入事例を踏まえた効果・課題・展望が議論された。

「How AI will transform Underwriters’ roles in the next 12 months(AIによる引受業務の変革 - 今後12か月の展望)」では、Salesforce社、Sompo Holdings(Asia)社およびアビームコンサルティングがアンダーライティングへのAI活用可能性を議論した。
アビームコンサルティングは、「AIはアンダーライティング領域における次の3フェーズに変革をもたらし、今後も深化が加速していく」と予見する。

  • データ収集フェーズ:従来時間を要していたデータの収集・整形をAIツールで自動化

  • リスク評価フェーズ:保険金請求、行動履歴、健康データ等をもとに、AI分析によりリスク予測・評価精度を向上

  • 補償設計フェーズ:気象情報や経済指標などの外部データを組み合わせ、商品のパーソナライズ化やダイナミックプライシングを実現

Sompo Holdings(Asia)社はAIを活用した業務フローの自動化が、効率性と一貫性の向上をもたらすとし、具体的なユースケースとして「申込書の自動入力」「提出書類の不整合検知」「不正検知・リスク管理」を挙げる。

<How AI will transform Underwriters’ roles in the next 12 months>
  • Ili Setu, Senior Manager, Insurance – ABeam Consulting
  • Dennis Lee, Principal, Insurance Solutions, ASEAN – Salesforce
  • Jeffrey Sheng, SVP, Head of IT, Asia Pacific – Sompo Holdings (Asia)
  • Atsuyuki Mori, Director, Head of Insurance Sector, Southeast Asia – ABeam Consulting
クレーム領域では、AXA XL社、Prudential社、MSI China社、Google Cloud社、FileAI社が登壇し、「AI-Powered Claims: Efficiency, FWA (Fraud, Waste, Abuse), and Customer Satisfaction(AIを活用した保険金請求 - 効率化・FWA対策・顧客満足度の向上)」をテーマに議論が展開された。
業務効率の観点において、すでにAIは劇的な変化をもたらしている。例えば、「従来48時間かかった請求処理がわずか5分で完了した」「AIを通じ、2億件以上の請求処理を実行した」といった事例は、クレーム領域におけるAI活用のスケーラビリティと実用性を示す証左と言える。さらに、AIはFWA(不正・無駄・濫用)対策にも活用され、人力では見逃しやすい兆候を検知することで、不正の早期発見にも寄与している。
加えて、AIは保険金請求の“可能性”が生じた段階で顧客通知を行うなど、よりパーソナライズ化されたクレーム対応を可能としている。こうした設計は、クレーム対応を単なる支払いプロセスから、顧客エンゲージメントやロイヤリティ向上につなげる重要な接点へと進化させつつある。
一方、AIの役割は、人間を“代替”するものではない。あくまで人間の意思決定を支援する“副操縦士(Co-pilot)”として機能し、最終的な意思決定は人間が担うべきであることが強調された。
  • 保険業界におけるAI・データ活用は実用化・具体化フェーズに突入し、その有用性を示す先行事例も現れている
  • AIは業務の効率化のみならず、人力では困難であった不正検知や、パーソナライズされた顧客体験を可能とする
  • あくまで意思決定主体は人間であり、AIは“副操縦士(Co-pilot)”として機能する

(2) Ecosystem & Partnership

強固なエコシステム・パートナーシップを構築し、連携を通じてデジタル化の効果を最大化する動きが加速している。複数のセッションで、その成功要因が語られた。

エコシステム全体を支えるシステム基盤について、「Seamless Integration: Next-Gen Cloud Solutions Across the Insurance Ecosystem(シームレスな統合 - 保険エコシステム全体を支える次世代クラウドソリューション)」にて議論された。
MSIG Asia社は、成功の鍵として「単なるAPI連携に留まらない、パートナーとのデータ連携による高度なインサイト活用」を挙げている。事例として取り上げられたのが、Grabによる配車遅延時のマイクロ保険である。Grabは自社アプリの到着予定時間と実際の運行データを保険会社と連携し、遅延が一定時間を超えると即座に補償を付与する仕組みを構築している。これは、リアルタイムのデータ連携と迅速な検証が、顧客課題を解決するためのインサイトを生み、新たな顧客価値を創出した事例と言える。
効果的な組み込み型保険(Embedded Insurance)は、単なるチャネル戦略に留まらず、新たな顧客体験の創造にも繋がることを示している。

<Seamless Integration: Next-Gen Cloud Solutions Across the Insurance Ecosystem>
  • Ben Truscello, Corporate Business Development & Ventures Asia - Microsoft
  • Sandeep Pandey, Group Chief Technology and Operation Officer - FWD Group
  • Bill Song, CEO & Co-Founder - Peak3
  • Didier Lamour, CEO - Sunlight Solutions
  • Adrian Hill, Chief Digital & Consumer Officer - MSIG Asia

KASKO社・VIG platform partners社が登壇した「Why You Should NOT Do Embedded Insurance(なぜ“Embedded Insurance”を始めるべきでないのか)」では、効果的なEmbedded Insuranceを生み出すための方策が語られた。
変化の激しい市場環境で競争優位を確立するには、Embedded Insuranceの検討・実装においてもスピードが重要となる。先進的なプレーヤーは、90日以内の市場投入と、実利用に基づく反復的な改善を通じ、顧客ニーズに即した迅速な商品展開を実現している。過度な社内調整を排し、迅速な意思決定を可能とするための要件として、以下の2点が示された。

  1. リーダーシップの明確化:収益およびパートナーシップに対して明確な責任を持つリーダーを任命すること
  2. 機動力のある組織体制:部門横断的な少人数のチームを編成し、法務・IT・ビジネスを横断したスリムなガバナンス体制を構築することで、迅速な実行と部門間調整を可能とすること
  • パートナーとのデータ連携が高度なインサイトを生み、新たな顧客価値を創出できる。その基盤となるシステム構築が不可欠となる
  • Embedded Insuranceには検討・市場投入のスピード感が成功要因であり、明確なリーダーシップと機動力のある組織体制が求められる

(3) Digital Modernization

コアシステムをはじめとしたレガシーシステムからの脱却は、依然として保険業界における重要テーマの一つである。しかし、その実現には数多く障壁が存在し、その克服に向けた実践的な示唆が共有された。

「Overcoming the Fear Factor: Mitigating Risks in Core Modernization(コアシステムモダナイゼーションのリスクとその克服策)」では、登壇者自らの経験に基づくコアシステム刷新の課題と対応策が提示された。
MSIG社は2度のコアシステム刷新プロジェクトを振り返り、コスト超過が起こりやすい点を課題として指摘した。完璧を求めるあまり要件やアーキテクチャが過度に複雑化する一方、計画段階での工数は過小に見積もられる傾向にあるとする。
Celent社、Duck Creek Technologies社は心理的な「恐れ」を根本課題として挙げた。「変化への抵抗から、現在の非効率な業務プロセスを、刷新後のシステムに再現してしまう」ケースや、「CIOなどの経営陣が失敗リスクを過度に恐れ、自らの立場を守るために慎重すぎる判断を下す」ケースに警鐘を鳴らした。
これらの課題を最小化するため、Duck Creek Technologies社、United Overseas Insurance社は、IT・プロセス・マインドの3つの観点から実践的な対応策を提示した。

1 IT
  • データ構造の不整合を避けるため、不要なデータ移行は極力回避すること
  • 本番稼働に向け、手順書やシナリオを事前に精緻化しておくこと
2 プロセス
  • 明確なプロジェクトスコープを定義し、アジャイル型の段階的な導入を行うこと
  • ビジネスケースを構築し、既存慣習を見直した刷新後の業務プロセス(BPR含む)を定義すること
3 マインド
  • 経営層が強力なコミットメントを示し、本気度を明確に打ち出すこと
  • 全社的な変革マインドセットを醸成し、組織全体を巻き込むこと

「Digital Transformation in a Cost-Conscious Market: Achieving ROI from Technology Investments(テクノロジー投資からROIを実現する要点)」では、コアシステム刷新を含むあらゆるテクノロジー投資において、ROIを明確にすることの重要性が強調された。特に、MVP(Minimum Viable Product:最小限の機能を持つプロトタイプ)の定義や成功基準の認識齟齬は、ITとビジネス間で障壁となりやすい。初期段階からの認識統一が成果創出の前提条件であると指摘された。

「Technology-Driven Efficiency: Surviving Economic Headwinds with Lean Digital Operation(デジタルで乗り切る経済逆風- テクノロジーによるリーンデジタルオペレーション)」では、ROIを意識したリーンデジタルオペレーション(無駄を省いた効率的なデジタル業務運営)の実践も、変化に柔軟かつ持続的に対応するうえで必要な要素として語られた。具体的には、コア業務に直結する領域に投資を集中し、高額な初期投資やインフラ負担を避けつつ、クラウドやSaaSを活用して可用性・拡張性を担保する設計が推奨された。
さらに、保守・運用コストの削減に向けては、RPAやAIによる自動化が有効であることが共有された。一方で、保険業務のように高度かつ慎重な判断が求められる領域では、「80%自動化/20%人による判断」といった現実的なバランス設計が不可欠である点も強調された。

<Technology-Driven Efficiency: Surviving Economic Headwinds with Lean Digital Operation>
  • Ned Lowe, Mission+, CTO & Co-Founder
  • Tasneem Nasrulla, BMS Asia Risk Solutions, Head of Asia Operation 
  • Benny Jioe, Zurich Indonesia, Head of Digital Business Solution
  • Ronnie Brown, DirectAsia, GM and Chief Technology Officer
  • Tomoo Yano, Nippon Life Insurance Japan, General Manager 
  • レガシーシステムからの脱却には、IT・プロセス・マインド3観点からの対応策が不可欠となる
  • テクノロジー投資のROIを適切に測定・評価し、最大化するには、初期段階からIT・ビジネス双方を巻き込んだ設計が求められる

(4) Customer Experience

顧客接点がデジタルへ移行する中、保険会社におけるCustomer Experience(CX)の在り方も変化を続けている。AIを活用したCX向上への期待が高まる一方で、「顧客への共感」という伝統的な価値の重要性が改めて浮き彫りになった。

Smart Communication社、Capgemini社が登壇した「Enhancing Loyalty: Rethinking Propositions and Customer Experiences(提案内容と体験価値の見直しによる顧客ロイヤルティ向上)」では、パーソナライズされた顧客体験設計の重要性が強調された。
Z世代を中心に、顧客体験の主戦場は「紙ベース+有人対応」から「モバイル+セルフサービス」へと移行しており、限られた接点の質がロイヤリティを決定づける要因となりつつある。Capgemini社はFMOT(First Moment of Truth:顧客が初めてブランドと接点を持つ瞬間)やSMOT(Second Moment of Truth:購入後の体験を通じて信頼や継続利用が形成される瞬間)など、重要な顧客接点の設計がロイヤルティを大きく左右すると指摘した。
より優れた顧客体験を実現するため、AIによる業務の効率化や、付加価値の低い業務の自動化が推奨された。また、スマート化されたコミュニケーションプラットフォームを活用することで、即応性が高く、顧客感情に響くパーソナライズされたコミュニケーションが可能になることが語られた。

<Enhancing Loyalty: Rethinking Propositions and Customer Experiences>
  • Nick Smith, VP Sales & General Manager, Smart Communications
  • Ravi Makhija, Executive Vice President & Managing Director, Capgemini Financial Services South East Asia

「Experience as the Differentiator: Redefining Customer Engagement in Insurance(顧客体験が差を生む時代へ - 保険業界におけるエンゲージメントの再構築)」では、Genesys Cloud Services社が請求手続における共感の欠如や手続きの煩雑さを顧客体験の課題として指摘した。同社はこうした課題に対応し、共感力を持ち、リアルタイムかつパーソナライズ化されたサポートを可能とする仮想エージェントを紹介した。保険会社に向けた今後の提言として、「テクノロジーと共感を軸にした近代化」が求められると語っている。

これらセッションから、単なるテクノロジーの導入に留まらない「顧客への共感」という伝統的な価値が改めて重要視され、今後の顧客エンゲージメント向上における差別化要因となることが示唆された。

  • FMOT / SMOTといった重要な顧客体験が、顧客ロイヤルティおよびエンゲージメント向上を左右する
  • 顧客体験設計に集中するためにはAIや自動化による業務効率化が不可欠であり、同時に「顧客への共感」という伝統的な価値が改めて重要性を増している

3. 主要4テーマサマリとアビームコンサルティングの支援領域

最後に、今回の4テーマが直近の保険業界における大きなトレンドであるという前提で、アビームコンサルティングの支援領域を紹介する。

  1. AI & Data Utilization – 生成AIを活用した保険会社のビジネス変革支援実績を有し、実運用を見据えたPoCから導入・運用まで一貫した支援が可能
  2. Ecosystem & Partnership – アジア圏での豊富な業務知見と市場トレンドの理解に基づき、ビジネスニーズを勘案したパートナーシップの探索・ビジネスデューデリジェンス・保険エコシステムの構想策定支援が可能
  3. Digital Modernization – アジア圏におけるIT・コアシステム戦略策定支援の実績を有し、IT・プロセス・マインドの3観点から総合的な支援が可能
  4. Customer Experience – 営業・代理店チャネルでのソリューション導入、東南アジアの顧客基盤を持つプラットフォーマ調査、並びに同地域内でのCRMマーケティング施策の支援実績を有し、顧客体験の向上を目的とした各種ご支援が可能

アビームコンサルティングは日本・アジアの保険業界向けに豊富な支援実績を有し、4テーマに即して保険ビジネスモデルを高度化させるための各種支援を行っている。ご興味のある企業担当者の方はディスカッションや意見交換の実施など、お問い合わせいただきたい。

※本インサイトは、InsureTech Connect Asia事務局からの許諾を得たうえで、情報発信を行っています


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