【イベントレポート】シェアードサービスセンターとは?日本型SSCの再生と共創型BPXによるコーポレート機能の進化

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2025.08.13
  • アウトソーシング
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構造的な人材不足やコーポレートガバナンス強化の要請など、さまざまな外部環境の変化に伴って、企業におけるコーポレート機能のさらなる進化が求められている。

アビームコンサルティングは、2025年3月に日本企業におけるシェアードサービスの取り組み状況や今後の方向性を調査する目的で、ホワイトペーパー「日本型シェアードサービスの再生と進化2.0」を発行した。
本セミナーでは、調査レポートの結果をもとに、アビームコンサルティング オペレーショナルエクセレンス ビジネスユニット長 原市郎が現在のシェアードサービスセンター(SSC)における課題や、新たな日本型SSCのあり方についての分析、および提言を行った。

第二部では同ユニットの髙橋克嘉より当社が提供する企業価値を最大化するための業務変革モデル「共創型BPX」の具体的なサービス内容とアプローチ方法について、事例も交えて解説した。本記事では、その内容をダイジェストで紹介する。
(本稿は、2025年5月21日開催セミナー「~日本型シェアードサービスの再生と進化」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 原 市郎

    Principal オペレーショナルエクセレンスビジネスユニット長
  • 髙橋 克嘉

    髙橋 克嘉

    Principal

シェアードサービスセンター(SSC)とは?定義と役割の再確認

シェアードサービスとは、企業グループ内における間接業務(人事・経理・財務などのバックオフィス業務)を集約・統合し、標準化および効率化を図る経営手法である。この仕組みにより、企業はコストの削減、業務品質の向上、迅速な意思決定の実現を目指す。
シェアードサービスの中核を担うのが「SSC(シェアードサービスセンター)」であり、グループ全体の間接業務を集中的に管理・運用する専門組織である。

近年、企業の業務効率化やDX推進の潮流の中で、「シェアードサービスセンター(SSC)」の重要性が再認識されている。SSCは単なる業務集約の拠点ではなく、企業の競争力を高める戦略的機能として位置づけられており、「業務効率化」「コスト削減」「バックオフィス改革」「DX」「標準化」「ガバナンス強化」など、企業経営における重要なキーワードと密接に関連している。これらの観点から、SSCの導入および再構築は、多くの企業にとって喫緊の課題である。

この10年で激変したビジネス環境と、SSCの成長を阻む要因

最初に登壇した原は、今回の調査レポート「日本型シェアードサービスの再生と進化2.0」の背景と趣旨について、「2011年にもSSCに関する同様の調査レポートを発表したが、ビジネス環境の変化への対応や戦略変更の遅れが見られ、当時提言したSSCの成長が停滞しているのではないかと感じられた。そのため直近の実態と根本課題を明らかにするため、今回のリサーチを実施した」と紹介した。

なお、今回の調査は日本に本社を置きSSCを保有する、大手グローバル企業15社へのインタビューからレポートをまとめている。

原は、「この10年で、大きくビジネス環境が変わった」とし、具体的な変化を5項目に整理した。

まず挙げられるのが、「人口動態と人件費」だ。日本の少子高齢化が急激に進展しているのは周知の通りだが、その一方では、BPOの主要なアウトソーシング先である中国の人件費高騰が続いている。この結果、リショアリングなどの影響による国内派遣市場のリソースひっ迫とそれによるコスト上昇が起きているという。

2つ目は「コーポレートガバナンス」である。マーケットからの厳格化の要請が増している上、日系企業の海外売上高がここ10年で約1.5倍に伸長、海外子会社などのガバナンスを強化する必要性が生じている。具体例として原は「開示のための情報収集や、モニタリング業務の負荷が増大している」と補足した。

3つ目は「人不足と人余り」だ。現在、人材需給ではこうした矛盾が起きており、有効求人倍率1.3倍という一方で、多くの企業で早期退職を募るなどの余剰人員整理が行われている。これは、「欲しい人材」と「今いる人材」のアンマッチが、各所で生じている状況を示している。

4つ目の「テクノロジー」では、RPAによる業務改善に端を発し、現在は生成AIを使った業務の抜本的改革までが可能となってきたことが、この10年の見逃せない変化として挙げられる。またSaaSが広く使われるようになった結果、個々の企業を超えた「業務の標準化」が進んだ。

そして5つ目には「働き方」を挙げる。新型コロナを契機としたリモートワークの定着、また大企業を中心としたジョブ型人事制度の導入が進んでいる。

原は、これらがこの10年のビジネス環境の見逃せない変化であるとした。

日本企業のSSCが抱える「7つの課題」とその背景

上の変化を踏まえて原は、調査レポートの分析から得られた日系企業のSSCが直面する課題とその背景を、以下の7項目に整理した。

1. 効率化の壁

「初期の集約効果やRPAなどによる効率化は一定レベルまで進んだが、継続的な成果創出が困難になってきている」と原は指摘する。中国の人件費増大でアービトラージ効果が消失して利益が減る一方、企業側からはコスト削減がより求められ、多くのSSCが閉塞感を感じている。

2. 標準化・高度化の壁

SSC設立時のミッションだった標準化・高度化が、期待通りに進んでいない。その背景には、「推進する権限がない」「人材がいない」「事業部の抵抗で標準化が進まない」といった構造的な課題が隠れている。

3. 人材の課題

質的・量的両面で、課題の深刻化が進んでいる。業務改革人材や中間層のリーダーが不足。非正規雇用への依存が高まるが、こちらも採用難とコスト上昇で、適正かつタイムリーな人材確保が困難になっている。

4. 業務マネジメントのブラックボックス化

業務をBPOベンダーに委託しているSSCでは、その内容のブラックボックス化が発生している。逆に、内製の場合は属人性が高まり、業務のスコープが曖昧化・増大化する問題が発生している。

5. 人材活用における人口ピラミッドの崩壊

業務量が変わらないSSCでは、年齢層の上昇でコストが増大。また上層が詰まってしまう結果、優秀な中間層の退職が起こる。その穴を、上の「3.人材の課題」同様、非正規採用で埋めても、結局はスキル不足でベテランの負担増になる。「あるSSCのシミュレーションでは、数年後には人員が半分になり、現在の業務を受けきれなくなる」と推測する。

6. 外販の停滞

多くのSSCが設立時には外販をゴールに掲げていたが、ほぼ達成できていないのが現状である。最大の要因は投資不足で、外販の実現に必要な投資がほとんど行われておらず、ほとんどのSSCは外販を断念せざるを得ない状況となっている。

7. グローバルの壁

日系企業の海外売り上げの伸びに伴って、SSCのグローバル展開ニーズも増えているが、多くの日系企業のSSCが欧米グローバル企業をTo-Beとしてベンチマークしており、ギャップの大きさを痛感して断念してしまう傾向がある、と原は分析する。

コーポレート変革実現に向けた3つの提言

こうした山積みともいえる日系企業のSSCに関連する課題を克服する手立てについて、原はアビームコンサルティングが提唱する3つの提言を紹介した。

提言1:「EVRレイヤー」モデルの活用

「EVR(エンタープライズ・バリュー・ロール)レイヤー」とは、アビームコンサルティングが提唱する企業の活動を期待・役割で整理したフレームワークとなる。コーポレート部門やSSCが担う機能を、「BP」(ビジネスパートナー)、「CoE」(センター・オブ・エクセレンス)、「サービスデリバリー」の3つに分け、これらを3層のレイヤーからなるピラミッド型の「EVR」として構成している。

最上位のBPレイヤーは、売り上げ・利益成長を直接けん引する事業固有性の高い領域だ。中間のCoEレイヤーは、プロセス・ガバナンスの設計・監視・高度化を担う機能のプロフェッショナル領域。そしてサービスデリバリーレイヤーは、テクノロジーとグローバル最適を活用したオペレーション領域をそれぞれ担っている。

「現状、多くのSSCは『サービスデリバリー』がメインになってしまっているが、本来はCoEとして機能することが求められている」と、原は強調する。SSCをCoE として位置づけることで、例えば、権限や人材のキャリアまでを含んだ変革が実現し、その結果、必要な人材も集まりやすくなるからだ。

もちろん、単純に「サービスデリバリー」の領域を、CoEから切り離せばよいというわけではない。むしろCoEが、後述するインテリジェンスセンター(IC)として、さまざまな業務のノウハウを蓄積し、積極的にサービスデリバリーに提供していくことで、効率化を継続的に支援していく必要がある。

提言2:インテリジェンスセンター(IC)の構築

上でも触れた、AI活用と業務改革の現場浸透を継続的に提供する「インテリジェンスセンター」(IC)の構築を、アビームコンサルティングは強く推奨している。ICとは、業務改革を継続的に推進する基盤や人材、機能を備えたその名の通り、SSCの「知恵袋」となる組織である。

支援事例では、ICの構築・活用によって、有人の問い合わせ業務を90%以上自動化した例があると原は紹介した。

ただし、単独組織内でのプラットフォーム構築・運用、ノウハウ収集には限界があるとした。その対策として、ソリューションベンダーや他SSCとの協業、外部のIC活用の検討などをすることが望ましい。

提言3:日本型SSCのバージョンアップ

日系企業は欧米企業に比べてグローバルのガバナンスが弱い、事業が多岐にわたっており固有性が高い、ベテラン人材の労働参加率が高い、欧米企業とはコスト構造自体が異なるなどの特徴がある。原はさらに「外資系ベンダーと組む際、契約ベースの水平分業よりも、協働型・共創型を好む傾向があり、これらを理解した上で改革を進める必要がある」と指摘。こうした点を踏まえ、具体的な取り組みのポイントを4つ挙げた。

  • ジョブ型の推進:徹底的にジョブ型を推進することで、優秀な人材の流動性を高めるだけでなく、各人がそのパフォーマンスに適したペイを受け取れるようになる。

  • SaaSの活用:冒頭でも触れたように、SaaSを活用することで標準化が進んでいく。標準化は業務のシンプル化の鍵となるため、SaaS活用を継続的に推奨することが必要となる。

  • 異業種SSCとの協業:異なる業種との協業を通じて、ノウハウの相互活用や、人材の流動性を担保するなどの取り組みを推進していく。

  • 共創型アウトソーシングの活用:「提言1」で触れたように、BPOを担うサービスデリバリーとCoEのパートナー関係構築に注力し、水平分業の下、中長期でWin-Winを目指せるパートナーシップを構築していく。

これらの提言に加えて、グローバル展開についても言及。日系企業のグローバルSSCは、コスト効率化には限界があると割り切るべきだとし、「ガバナンス、コンプライアンス強化とBCP観点でのSSC活用、CoEとしての基盤・ノウハウ提供による全体レベル向上に寄与することが、日系企業のSSCのあり方の1つ」とした。

原はまとめとして、「日本のSSCは、活動領域をノンコアからコアにシフトすることが最も重要なポイントであり、それこそが本来の期待値となる。企業価値の向上を直接支える存在を目指すことで、『SSC』改め『BIO』(ビジネスインテリジェンスオフィス)に進化していくことを提案したい」とした。

共創型BPXによるSSC再生とコーポレート機能の高度化

続いて髙橋は、第1部で明らかとなった課題の解決を支援する「共創型BPX」を紹介した。まず、共創型BPXを提案する背景として、従来型BPOの限界を次のように指摘した。

「従来のBPOは、単にサービスデリバリー部分のコスト削減が主たる目的であった。しかしこれからは、CoEの機能である業務改革やガバナンスによって、積極的に事業貢献し、さらには新規事業創出や競争優位性特化に寄与する段階まで、EVRの3レイヤーを意識しながら進める必要がある」(髙橋)

アビームコンサルティングが提供する「共創型BPX」は、企業の業務変革を戦略的かつ実行力をもって支援するための包括的なサービスモデルである。業務の効率化にとどまらず、企業価値の向上を目指した変革を可能にする。

本モデルでは、以下の5つのサービスメニューをワンストップで提供している。

  • BPX(Business Process Transformation)
    戦略企画から実行までを一貫して支援し、業務とシステムの両面から変革を推進する。

  • BPO+DX
    従来のSSCやBPOに内在するブラックボックスを解消し、デジタル技術を活用したSSCの機能強化や業務の高度化を実現する。

  • SSC・BPOアドバイザリー
    業務委託やセンター設立の企画段階から支援を行い、最適な業務設計と運営体制の構築をサポートする。

  • BPaaS(Business Process as a Service)
    SaaS(Software as a Service)を活用し、特定の業界や業務プロセスに特化した高付加価値サービスを提供する。

  • 業界特化プラットフォーム
    業界ごとのニーズに応じて、業務とシステムを一体化したプラットフォームを提供し、迅速かつ柔軟な業務運営を可能にする。

これらのサービスは、企業の変革を加速させるために相互に連携し、共創型のアプローチで提供される。この中でも、軸となるのがBPXだ。髙橋は、アビームコンサルティングの共創型BPXの差別化ポイントとして、「統合的な変革アプローチ」「IC(インテリジェンスセンター)の活用」「Win-Winなサービス提供とコミットメント」の3つを挙げ、次のように補足する。

「BPOでは、業務改革やシステム刷新だけでは何も変わらない。組織、システム、人のマインドまでも統合的に変革することが必要。共創型BPXでは、その全てにわたって支援し、実現に向けたサポートを提供。そこには、最新・最適なテクノロジーの提供と運用を支援するためのIT活用や、従来からのコスト削減だけでなく、人のリスキルや再配置なども含めたサービスによって、変革を共にドライブし、クライアントのゴールにコミットしていく」(髙橋)

アビームコンサルティングでは、すでに複数の企業と共創型BPXを開始している。
ある大手グローバル製造業は、かねてから効率化が進まず、新事業での人手不足に悩んでいた。アビームコンサルティングは、グループ全社のバックオフィス業務を集約することを目指しSSCの機能・役割を再定義。業務を抜本的に見直す業務改革機能を重要視し、バックオフィス業務を非効率な運営を見直しグループSSCに集約化した。加えて、リスキリングやOJTなどの人材育成の仕組み化を支援したことで人材不足の解消とともにSSCのサービス提供のQCDが向上した。

アビームコンサルティングでは、この事例のようなSSCのトランスフォーメーション支援のニーズに応えるべく、コンサルタント、オペレーションセンターを含めた約1100名の支援体制を構築。経理・人事・調達などのバックオフィスから、カスタマーサービスやマーケティングなどのミドルオフィスまで、幅広くカバーしていると、髙橋は説明した。

まとめ

日本企業のさらなる価値向上が求められている中、コーポレート組織機能の再編が必須なのは言うまでもない。今回のセミナーを通し、SSCを従来のサービスデリバリーの中心からCoE機能へと進化させ、最終的にBIO(ビジネス・インテリジェンス・オフィス)として、企業価値向上を支える存在への転換が求められていることが共有された。

アビームコンサルティングでは、企業の変革を実現するパートナーとして、クライアントの中長期戦略に沿った変革テーマの設定から、その実行までを一貫してサポートしている。SSCの再生に向けても、単なる機能/業務の集約化の支援に留まらず、経営視点に立ったあるべきオペレーティングモデルの構想から、その実現に向けた伴走支援まで行っている。

アビームコンサルティングが、日本企業におけるシェアードサービスの取り組み状況や今後の方向性を調査したホワイトペーパーは以下。
日本型シェアードサービスの再生と進化 2.0 ~シェアードサービスの再生を通じて企業変革をリードし、社会課題を解決する~

コーポレート機能の進化・高度化を支援するソリューションは以下をご覧ください。
コーポレート機能の進化を実現する共創型BPX


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