AIエージェントの力を最大限に活用するためには? ~企業が考えるべきアーキテクチャ~

インサイト
2025.07.01
  • テクノロジー・トランスフォーメーション
  • AI
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近年、多くの企業でAI活用が進む中、さらなる業務プロセスの自動化・高度化を実現するために注目されているのが、AIエージェントである。AIエージェントの活用によって、特定のタスク実行やリアルタイムな意思決定を自律的に行うことで、定型業務のみならず、コア業務の効率化・自動化にもつなげることができる。一方で、期待感の高まるAIエージェントに対して、導入を試みたが思うような効果が得られず、頓挫している企業が多いと思われる。それらの失敗に対して欠如しているのは、AIエージェントを導入した企業全体のシステムアーキテクチャの思想である。
本インサイトでは、AIエージェントの登場が企業の情報システムをどう変化させ、その中でAIエージェントがどのような役割を果たすべきかを語る。さらに、AIエージェントの活用に必要な事項を処方箋として3点お伝えし、その処方箋に対してアビームコンサルティングが支援できることを紹介する。

  • 木村 浩平

    木村 浩平

    Manager
  • 小林 俊介

    小林 俊介

    Senior Expert
  • 飯田  一紀

    飯田 一紀

    Senior Manager

背景:高まるAIエージェントへの期待

対話型生成AI「ChatGPT」の公開から約2年半が経過し、業務アシスタントとして生成AIを活用するケースが増加している。一方で、現時点での活用範囲は、文章の要約や調査といった特定業務の支援にとどまっている。そうした中、さらなる業務プロセスの自動化・高度化を実現し、労働人口が減少する日本における新たな打ち手として期待されているのが、AIエージェントである。
AIエージェントとは、特定のタスク実行やリアルタイムな意思決定を自律的に行える人工知能システムで、単純な繰り返しの定型業務のみならず、判断力を要するコア業務まで効率化・自動化することが期待されている。このようなAIエージェントを効果的に企業経営活動に取り入れることで、労働生産性の向上だけではなく、より良い意思決定、よりスピード感を持った事業推進による企業の競争力強化が可能と考える。

課題:AIエージェントの活用にあたり押さえておくべきことは?

労働生産性向上や企業の競争力強化において、AIエージェントが有効であることは、すでに多くの識者により示されつつあるため、そこに疑問の余地はほとんどないだろう。しかし現実には、大きな成果を上げている企業は決して多くない。
多くの企業では、AI技術の導入自体が目的化してしまい、効果よりも導入のしやすさを重視した結果、局所的な業務への適用に留まり、従来のRPAや全文検索エンジンと大差ない成果しか得られていない状況に陥っている。さらに、企業内のデータやナレッジがサイロ化されているため、AIが十分な判断を行うために必要な情報を得られず、本来の性能を発揮できていないという課題も存在する。加えて、AI技術を理解・運用できる人材の育成や組織体制の整備が追いついておらず、部門間の連携も不十分なまま運用を開始してしまうケースも多く見られる。これらの課題により、AIエージェントに対する期待が失望に転じ、導入が停滞する企業が見受けられる。

これらの問題を引き起こしている企業に共通して欠けているのが、企業全体におけるシステムアーキテクチャの思想である。より多くの効果を引き出すためには、AIエージェントを単なるツールとして導入するのではなく、情報システム全体の中でどのような位置付けを与え、運用していくかという視点が不可欠だ。
この状況を解消するためには、まず、AIエージェントの登場が企業の情報システムをどのように変化させるか、特にシステムパッケージを提供する企業の動向を通じて、そのトレンドを理解する必要がある。次に、企業内でAIエージェントを活用するにあたり、どのような役割やタスクを担わせるべきか、複数のエージェントが協調的に業務を遂行する際に、どのように各エージェントの役割を設計するべきかを理解することが求められる。

AIエージェントが企業システムにもたらす変化

この2年間で生成AIの利用は、大きく進んできたが、あくまで、企業システムと生成AIとは分断されており、ヒトはそれぞれを扱い業務を遂行するという形にとどまっている。
しかし、現在、進められているのは、基幹システムへの生成AIの統合である。例えば、独SAP社はAIアシスタント「Joule」の機能強化として米Perplexity社との連携を発表し、米Salesforce社はInformatica社の買収と共に「Agent Force」の強化を発表している。AIネイティブなサービスを持つシステムが増えつつあり、各システムに組み込まれたエージェントが非定型業務や意思決定を自律的に支援できる状態になりつつある。
各システムへのAIエージェント搭載に加え、Agent2Agent プロトコル(A2A)やModel Context Protocol(MCP)といった連携技術の標準化も進んでいる。これからはAIエージェント同士やシステムが横断的に連携し、システムの垣根を越えて協業し、業務全体を遂行できる世界観が想定される。さらには、企業の垣根を越えてAIエージェント同士が協業し、そこで新たな競争優位性を獲得する企業も現れ始めるだろう。

この世界観においても、発注時の承認や対面での交渉など責任を伴う場面での、人間による業務は一部残るが、業務の大部分はAIエージェントによって代替可能になると考えられる。そのため、AIエージェントの活用は、今後の競争環境において重要な要素となり、活用できなければ競合に劣後することになる。したがって、企業は、AIエージェントと協業した業務遂行を前提とした世界観にアップデートしていく必要がある(図1)。

図1 AIエージェントの登場による企業システムの変化

これからの変化に向けてAIエージェントに持たせるべき役割

それでは、企業システムの中で、横断的にAIエージェントを活躍させるためには、どのような機能配置が適切なのか。 大規模言語モデル(LLM)に、複数の目的や制約条件を同時に処理させるプロンプトを与えると、モデルは本来の意図を誤解することや、論理の整合性が取れない出力を返すリスクがあることは良く知られている。さらに、将来的な拡張性を踏まえると、単一のAIエージェントが全ての領域をカバーして機能ごとの独立性が低くなるのは避けるべきである。
そのため、役割を分担した複数のAIエージェントが協調することで、初めてその真価を発揮すると考えている。目的達成に向けて、複数ドメイン間の連携と最適化を実現する統括者、特定領域の知見を活かす専門家、さらに各アクションを正確に実行する実働者までを、それぞれの層に適切にロールを割り振ることで、それぞれのモデルが得意領域に集中した働きをすることができる。
そして、それらのAIエージェントが個々に動くのではなく、タスクを全体統括するオーガナイザーエージェントが特定業務領域の知見を持つドメインエージェントと協調し、さらにそのドメインエージェントが、システムを利用するアプリケーションエージェントと連携する。これらのAIエージェント同士の協調を企業システムに組み込むことが、AI時代の経営基盤獲得に繋がり、複雑化する業務課題の解決に寄与すると考えられる(図2)。

図2 複数エージェントの協調イメージと役割

AI時代の経営基盤獲得に向けた処方箋

この複数ロールのエージェントが協業し合う未来は、企業の競争力強化するための今後の経営基盤にとって必要なものになると思われる。しかし、この理想的な全社横断のAIエージェント連携体制を築き、高い導効果を得られる状態に一足飛びで実現することは現実的ではない。まずは、各AIエージェントの役割ごとの品質を段階的に高めていくことで、全体の業務プロセスを円滑に回すことができるようになると考える。
そこで、各ロールのエージェントの力を最大限引き出すために、必要な動きを処方箋として記述する(図3)。企業として、暫定的な対応に留まらないためにも、将来のシステムアーキテクチャを踏まえた打ち手を解説する。

図3 処方箋のテーマ一覧

①プロセス推論の質を上げる"組織ノウハウ"

オーガナイザーエージェントが、ユーザーの目的を満たすために必要なプロセスを正しく計画し、タスク状況に合わせて自律的に計画を再構築するためには、高い推論能力が必要になる。
推論というと大規模言語モデル(LLM)の性能に注目が集まりがちだが、実際にはOpenAI、Anthropic、Google、AWS、Metaなどが提供するマネージドモデルを多くの組織が利用するため、そこでの差別化は難しいのが実情である。
真に必要なのは、組織ノウハウ、つまりアウトプットを出すまでのプロセスを言語化した文書になる。この組織ノウハウにより、オーガナイザーエージェントは、ユーザーの要求を単なる言葉の表面ではなく、文脈や企業独自の業務背景も含めて深く理解し、正しいプロセスに則り推論を進められることが可能になる。
その組織ノウハウの品質を高める鍵になるのが、組織内に蓄積された暗黙知の言語化である。業務の現場では、ベテラン社員の判断基準や工夫といった言語化されていない知見が多く存在し、これらを言語化し、AIエージェントに学習させることが必要である。
とはいえ、こうした暗黙知の言語化は簡単ではない。現場担当者の時間的な制約はもちろんのこと、本人にとっては当たり前の思考プロセスであるため、第三者がそれを引き出して体系化するのは容易ではないのである。
そこで、まず第1段階としては、生成AIによる情報の集約と整理が有効になる。企業内に点在するデータや業務記録から、共通項や再現性のあるパターンを抽出・構造化することで、組織ノウハウの初期的な「素案」を生成する。もちろん、一度で完成度の高いノウハウができあがるわけではないが、ゼロから人手で作り上げるよりも、はるかに効率的にスタートラインに立つことができる。
次に第2段階として、AIエージェントが業務プロセスの中で活用し、現場からのフィードバックを継続的に取り込みながら内容を洗練させていく必要がある。ここでは、頻繁に寄せられるフィードバックなどを元に改修案を生成AIに作成させ、それを人間が精査した上で組織ノウハウとして確定させる運用を想定する。
このような二段階のアプローチによって、暗黙知を有効に形式知化し、実用的なナレッジとして組織に定着させることが可能になる。

②インプットの質を上げるためのデータマネジメント

ドメインエージェントのパフォーマンスと業務適合性に最も大きな影響を与えるのがデータマネジメントである。この領域は、これまでも多くの組織で重要な取り組みとして認識され、一定の努力がなされてきた。そして、AIの活用が本格化する昨今、その重要性はさらに増している。データが整っていない環境では、ドメインエージェントは誤った判断を下し、アプリケーションエージェントに指示を出す可能性が高く、業務の効率化どころか混乱を引き起こすリスクすらあるためである。例えば、品目のマスタが統一されていない場合、同一品目にも関わらず、別物として扱われ、調達における重複発注や売上分析のミスなどを発生させる可能性がある。
そういったリスクを低減し、正しいインプットをドメインエージェントに保有させるためには、以下の3点を押さえることが重要となる。

  1. 主要業務におけるマスタデータの統合
    部署やシステムごとに分断されたマスタデータを統一し、全社共通で利用可能な基盤を構築する。
  2. メタデータの整理
    AIエージェントが各データの意味・構造・利用方法を正しく理解するための説明を記述する。
  3. データガバナンス体制の構築
    管理者を明確化し、品質基準に沿った正しいデータが生成され続ける仕組みを作る。
    これらの取り組みにより、AIエージェントがデータを正確かつ効率的に活用できる基盤を構築する。

③シームレスな実行に向けたAIネイティブなシステム選定

現在、企業は、業務領域に応じて、それぞれ適切なシステムをオンプレミスまたはクラウド上での構築や、SaaS型のシステムを利用している。 ここで重要なのは、システムを提供するパッケージ企業やSaaS企業自身の提供するアプリケーションエージェントをいかに有効活用していくかである。これまでも多くの企業は「Fit to Standard」という発想で、パッケージやSaaSの標準を利用してきたが、エージェントを有効活用するためには、これまで以上にその意識が必要となる。もちろん、自社で機能を追加した場合にも、エージェントに追加で学習させることは可能と考えられるが、その学習コストと追加したい機能が生み出す自社のメリットを天秤にかけることが必要となる。
AI ネイティブなサービスでは、自システムにおけるエージェントの標準装備だけでなく、AIエージェントとAIエージェントを繋ぐ「Agent2Agent プロトコル(A2A)」や、AIエージェントとシステムを繋ぐ「Model Context Protocol(MCP)」の機能を備えられるものも多い。複数エージェントが連携する未来を想定し、企業のパッケージやSaaSを選択する際には、そのサービスが、将来のエージェントを想定したAIネイティブなサービスを提供しているか否かを重要な選定基準にすべきと思われる。


上述した3点の中で、最も重要かつ難易度が高いのは、「①推論の質の向上」である。推論は、単なる情報参照や命令実行とは異なり、複数の文脈や前提を統合し、矛盾なく計画を立てる高度な処理を伴う。そのため、品質担保が難しく、誤りが発生したときのリスクも大きい。さらに、生成AIを活用した暗黙知の形式知化は、多くの企業にとって未経験の領域であり、設計と評価には慎重を期する必要がある。その点を承知した上で、取り組みを進めることが各社に求められている。

まとめ:AIエージェントが経営基盤に組み込まれる時代にむけて

AI技術の進化に伴い、エンタープライズアーキテクチャにAIを組み込むことが現実的な未来となっている。これまでの企業活動は人とプログラムの協働により実現されてきたが、今後はそこにAIエージェントという新たなパーツが組み込まれることになる。そのとき、AIエージェントが代替するのは、これまでプログラムが実現していた領域ではなく、人が実施してきた部分となる。そして、その変化を捉え、AI時代の経営基盤を構築するためには、「①組織ノウハウの形式知化によるプロセス推論の強化」「②データマネジメントによるインプットの質向上」「③ AIネイティブなシステム選定による実行力の確保」を進めていくことが肝要となる。

一方で、この流れを極端に推し進めると、究極的には企業理念の実現をゴールに設定し、そのための最適解を全てAIに任せてしまうことで、企業活動に人は不要となる可能性すら示唆されている。実際に「AIの力により1人で時価総額1,500億円(約10億ドル超)の会社が作れる」といった未来も語られており、AIの可能性は計り知れないものがある。しかし、目的を設定する意思決定や、問いを立てることは、依然として人が実施すべき重要な領分である。AIエージェントに使われるのではなく、人が企業を主体的に運営していくために、AIとの適切な付き合い方を考え、学んでいく必要もある。その学びの中で業務をAIエージェントとの協調を意識して修練させていく。そういった取り組みの中で、人間はより創造的で戦略的な役割に集中できるようになり、AIはその実現を支援するパートナーとして機能することになる。

アビームコンサルティングでは、これまでにさまざまな企業や公共団体の生成AIの活用による課題解決やテクノロジーを起点とした企業変革、業務変革をその戦略策定からアーキテクチャ設計、データマネジメント基盤整備まで伴走支援してきた。さらに今回の処方箋の肝となる「プロセス推論の質を上げる"組織ノウハウ"」の蓄積に関しては、当社において既にAIエージェントを用いた実証的な取り組みを複数実現しており、そこで培われた方法論に基づく効率的なサービス提供を行える。これらの知見・実績を生かし、さらに、AIと協働しながらどのようにヒトが豊かに働き生きるべきかという本質的な問いを持ちつつ、労働人口減少下における企業の打ち手としてのAIエージェント活用はもちろん、企業の競争力強化に貢献していく。


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