2040年からのバックキャストで考える新規事業 開発に向けたアプローチ ~BANI時代を生き抜くためのシナリオプランニング~

インサイト
2025.08.14
  • 経営戦略/経営改革
  • 新規事業開発
694983359

近年、ビジネス環境は、変動性や不確実性を特徴とする「VUCA」から、より複雑で予測困難な「BANI」へと急速に移行している。地政学リスクや政策の急変など、突発的な事象が企業活動に深刻な影響を与える中、従来の延長線上の発想では変化に対応しきれない。
本インサイトでは、2040年の未来像から逆算して戦略を描く「バックキャスト思考」を軸に、アビームコンサルティングが提供する「シナリオプランニング」に基づく新規事業開発のアプローチを紹介する。

執筆者情報

  • 髙木 良一

    Director
  • 原田 竜輔

    原田 竜輔

    Manager
  • 羽田 康孝

    羽田 康孝

    Consultant

1. VUCAからBANI時代へ

近年、ビジネスを取り巻く環境は「VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)」の段階を超えて、より複雑で不安定な「BANI(Brittle・Anxious・Non-Linear・Incomprehensible)」へ移行しつつある。
VUCAが変動性や不確実性を焦点としていたのに対し、BANIでは構造的に壊れやすい環境や人々の不安、予測困難で急激な変化(非線形)、さらには理解困難なまでに複雑な状況がより色濃く現れることを意味する。ロックダウンによる物流網の混乱やウクライナや中東における地政学リスクの顕在化、さらにはトランプ政権下での急激な関税政策によって、国際貿易を巡る不透明感を一気に高まったことは記憶に新しい。
こうした突発的な事象により情勢が急変する社会では、従来のリスク管理に基づく受動的な対応や、既存事業だけで顧客の要請に応えていくことが難しくなる。企業が長期的に競争優位を維持するには、変化を恐れず新規事業開発への取り組みがますます重要になっている。

2. バックキャストで考える新規事業開発

不安定で予測不能、かつ複雑な環境下において、既存事業のノウハウや既知の顧客ニーズといった現状の延長線上の未来を想定した新規事業開発では、BANIな時代の機会や脅威を捉えることはできない。未来のあるべき姿から逆算して、今後取るべき行動を定める「バックキャスト思考」がカギとなる。
テクノロジー、環境、社会課題などのマクロトレンドや、それらが引き起こす社会、業界、事業構造の劇的な変化を踏まえ、新たな価値や事業の兆しを捉えることで、不安定性や不確実性、非合理性の中にも確かな方向性を描くことが可能になる。
現時点で自社が保有する資産(技術や人材など)や強みを出発点とするのではなく、未来の社会で求められる本質的な価値を見通したうえで、価値提供に必要な資産・強みを再構築していく姿勢こそが、変化の激しいBANI時代の新規事業開発の成功には不可欠である。

3. アビームコンサルティングの新規事業開発アプローチ

バックキャスト思考で新規事業開発を進める際のアプローチとして、シナリオプランニングの手法が効果的である。シナリオプランニングとは、将来起こりうるマクロトレンドを洗い出し、不確実性や影響度の大きさを評価したうえで複数のシナリオを描き、それを戦略策定に活用する手法である。完璧な予測を目指すのではなく、多面的な視点を取り入れ、柔軟な対応策を検討することで、変化の激しい時代にも競争優位を築くことが可能になる。
アビームコンサルティングのシナリオプランニングでは、マクロトレンドの収集から戦略策定に至る一連のプロセスを、独自のフレームワークも活用しながら、経営層を含むステークホルダーとの合意を形成することで、新規事業 開発の戦略を策定していく(図1) 。

図1 シナリオプランニングを活用した新事業開発の戦略策定アプローチ
  • マクロトレンド収集
    政治・経済・技術・社会(PEST)などの観点から幅広くマクロトレンドを 収集し、トレンド間の関係性まで踏み込んで構造を整理することで、社会全体において将来起こりうる変化の方向性を複数洗い出す。

  • 変革ドライバーの特定
    影響度と不確実性に基づき、シナリオ作成の核となる変革ドライバーを選定する。社会全体の変化の中でも、業界特有の影響を踏まえることで、注視すべきシナリオを特定する。

  • 未来シナリオの描画
    変革ドライバーを組み合わせ、起こりうる未来シナリオを複数描く。トリガーから変化の波及までを一連のストーリーとして記述することで、将来起こりうる社会変化を具体的に想像できるようにする。

  • 新規事業開発の戦略策定
    描いたシナリオを前提に、企業として取るべきアクションを検討する。どの企業にも該当するような一般的な戦略ではなく、自社の強みやユニークネスを踏まえた固有解としての新規事業開発の戦略を策定する。

さらに、アビームコンサルティングは戦略の実行に向けて、事業計画レベルでの具体化(担当者、タスク、スケジュール、進捗管理方法など)や、実行組織のケイパビリティ構築まで支援している(図2)。抽象度の高い戦略に留まらず、具体的かつ実行可能なプランまで落とし込むことで、「千三つ」とも言われるほど困難な新規事業開発の立ち上げ、さらには黒字化の実現を目指す。

図2 事業計画策定イメージ

4. 最後に:2040年の未来に向けて

アビームコンサルティングは、長年にわたりシナリオプランニングを活用した新規事業開発の戦略 策定の支援実績を重ねてきた。2035年から2040年にかけて想定される100以上のマクロトレンドを特定してきており、例えばAIやロボティクスの高度化によって、「クリエイティビティ」や「対人コミュニケーション」といった人的資源の価値が高まると予測している 。そのほかにも、気候変動と食糧不足から、現在は代替原料と位置付けられている「植物性原料の主流化」など、価値観の変容も想定している (図3) 。

図3 アビームコンサルティングが特定しているマクロトレンドに基づくシナリオ作成イメージ

BANI時代の混沌は、企業にとってかつてない脅威であると同時に、非連続な成長機会を生み出す好機でもある。バックキャスト思考を土台とするシナリオプランニングを活用し、既存事業に捉われず大胆に新規事業開発へ挑むことで、未来の不確実性を競争優位に 転換できる。
アビームコンサルティングはReal Partner®として、これからも新規事業開発に挑む企業を伴走支援していく。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ