味の素社は、ヘルスケア、フード&ウェルネス、ICT(情報通信技術)、グリーンを成長領域に定め、価値創造に向けた事業構造改革を推進。2022年からは全社データ活用のためのデータ基盤の構築に取り組み、グループとしての変革を加速させている。そこにはどのような狙いがあり、成功のポイントは何だったのか。同社の執行役専務CDO(Chief Digital Officer)の香田隆之氏と、データマネジメントを支援するアビームコンサルティング ダイレクターの安藤有紀に話を聞いた。
味の素社は、ヘルスケア、フード&ウェルネス、ICT(情報通信技術)、グリーンを成長領域に定め、価値創造に向けた事業構造改革を推進。2022年からは全社データ活用のためのデータ基盤の構築に取り組み、グループとしての変革を加速させている。そこにはどのような狙いがあり、成功のポイントは何だったのか。同社の執行役専務CDO(Chief Digital Officer)の香田隆之氏と、データマネジメントを支援するアビームコンサルティング ダイレクターの安藤有紀に話を聞いた。
香田 世の中ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されていますが、その多くは従来のIT活用の延長線上にすぎないと感じていました。一人ひとりの業務を便利にするためにシステムが開発されたものの、データは分散されていて、個別最適にとどまっているケースが多く見られます。これでは真のDXとは言えません。
味の素株式会社
執行役専務
Chief Digital Officer(CDO) 生産統括
香田隆之氏
2022年4月に二代目CDOになったときは当社も同じような状態でした。エクセルファイルがメールで飛び交い、データのバケツリレーが行われていました。私が海外にいたときには、日本の本社からデータの提出を求められるたびに担当者が飛び回ってデータをとりまとめて送信していました。これではあまりにも非効率です。
鮮度の高いデータを誰もがすぐに活用できることは、DXの一丁目一番地であり、データがDXの肝であると考えていた私は、CDOになると同時に、データの重複がなくグループ全社員が事業変革や業務高度化に必要なデータが活用できるようなデータ基盤の構築に乗り出しました。
安藤 工場改革・スマート化をお手伝いしてお付き合いがあったことから、データマネジメントの支援についてもお声をかけていただきました。味の素社のビジネスの根っこであるものづくりの支援を通し、味の素社の事業・製品の特性やその課題、グループ企業や組織構成やそのミッション、システム・データの状況をある程度理解していたことが大きかったと思います。表面的にデータ基盤を構築しても業務がわかっていなければ活用されなくなってしまう可能性があります。
アビームコンサルティング株式会社
未来価値創造 戦略ユニット
ダイレクター
安藤有紀
香田 データを入れる器だけつくっても結局は使われないものになってしまいます。そこでビジネス現場にとって価値のあるユースケース(活用事例)の発掘や社内への周知活動も同時に取り組みました。アビームコンサルティングには、データガバナンスを確立するための体制やルール、そしてデータを管理するシステム基盤をワンチームとなって一緒に考えてもらっています。
安藤 データ活用では、戦略、システム、活用支援、ルール策定、教育の5つをバランスよく進めることが重要です。どの領域に注力していくかは状況によって異なります。そこでアジャイル型で施策を回し、反応を見ながら取り組んできました。まさに伴走型の支援でした。
香田 データ基盤で何が実現できるのか、言葉ではメリットが伝えづらいのは確かです。そこで定量的に成果が見えやすいサプライチェーンから着手することにしました。タイムリーな在庫可視化や適切な在庫レベル設定による棚卸資産の削減は、重要な経営課題の一つでした。各担当者にADAMSのプロジェクトに加わってもらい、データの一元化に取り組みました。
安藤 データ活用を推進するための役者をそろえることは大事なポイントです。味の素社の場合、購買、生産、物流など個別業務の担当部門や関連会社、製品毎の需給をコントロールしている各事業部門、サプライチェーン最適化・管理会計高度化などの横串全社活動を推進するコーポレート部門、データを保持するシステムを運用しているシステム子会社や外部のベンダーなど、多くのステークホルダーがいます。
利害が異なるステークホルダーの率直な意見を集めた 上で、データマネジメント推進チームが間を取り持ち、課題をつぶしていく過程で、やりたかったこと、できることが具体的に見えてきます。データがサイロ化していてできなかった、部門を超えた取り組みが進むようになり、ユースケースの実現にこぎ着けられました。
香田 DX推進委員会は横串の推進主体ですが、実行主体は各々の事業本部です。事業本部の担当者がやりたいと言っても本部長や事業部長などが賛同してくれないケースもあります。その説得は私の役割であると考えてきました。一つのテーマに寄り添って、確実に関係者に価値を感じてもらうことを目標に掲げていたので、時間をかけて取り組んできました。
実際にユースケースが増えて成果が目に見える形になり、今はデータの活用が加速するようになってきました。サプライチェーンから着手したことにより、組織の壁を薄くすることの重要性をデータ起点で伝えられたことが大きかったと思います。
「サプライチェーンから着手したことにより、組織の壁を薄くすることの重要性をデータ起点で伝えられたことが大きかったと思います」(香田氏)
香田 データマネジメントで成果を生み出すには時間がかかります。3年くらいは死んだふりをするつもりで取り組んできました。ただ、軸がぶれることはありませんでした。それがよかったのだと思います。
当社は2019年からDX推進委員会を立ち上げてグループ全体のDXを推進してきました。委員会形式にしたのは、DX推進本部として既存の事業本部から独立した体制にしてしまうと他の本部は他人事として受け止めてしまうことがあるからです。今は私が委員長、副事業本部長や事業部長クラスがメンバーとなり、その場で方向性を決めることができるようになっています。
DX推進委員会の下には小委員会を設置しました。最初にサプライチェーン、スマートファクトリー、マーケティングなどテーマ別に5つの小委員会に分かれて議論を進めました。現在は小委員会が9つに増え、関連する部門の役員クラスが委員長になり、全社展開を進めているところです。
事業部のマーケティング担当が活用していた市場データと支社の営業データをつなぐことで市中在庫を見える化し、新製品のつくりすぎを約90%削減することができるなど成果が上がりつつあります。
安藤 データマネジメント、データ基盤整備の活動成果はDX推進委員会に対して報告し全社オーソライズや委員会メンバーからのフィードバックをいただいています。推進現場では、ユースケースごとに必要な体制づくり、必要なリソースやコスト検討、各種関係者説明まで、私たちはその時々で必要な事を、味の素社のメンバーとワンチームで活動しています。
「ワンチームできめ細かく考えてきました。それぞれの体制づくりから社内への説明、システムの導入、ルールづくりなどをサポートしています」(安藤)
香田 国内のユースケース・データ基盤整備が進んできましたが、難しいのは海外のグループ企業です。最終的には経営の意思決定を支援するために、海外を含めたデータを取りまとめる必要があります。ただ、すべてのデータをADAMSに取り込む必要があるかというと、そうではないと考えています。各拠点の事業責任として把握・判断すべき事と、グローバル本社 として把握・判断する事は異なり、グループ共通基盤であるADAMSはグローバル本社視点で拠点・部門を跨(また)いで把握すべきデータを持つべきという考えです。今、対象となるデータの対象範囲・粒度を決めているところです。
安藤 データマネジメント・データ基盤は、ビジネス構造のありたい姿をそのまま概念的に表す様に考えるべきなのだと思います。目指すビジネスとしての全体マップから見て足りていない繋(つな)がり・足りていないデータを積み上げていっています。大事なのは拠点・部門を超えるデータです。
香田 今は部門の都合でつながっていなくても本来はつながるべきデータがある、実はそう言われないと気がつかないものです。ADAMSを通して違う見方ができるようになったことは大きな進歩です。
香田 国内は色々なニーズが表面化してきていますのでそれらのデータをさらにADAMS上で充実させていきます。次のステップはグローバルでどういうデータを入れていくかです。各地域リーダーと対話を進め、取り組みへの合意と各地域データマネジメント責任者(データオフィサー)の任命を進めています。今後も、各地域の責任者とともにデータ活用を推進していきます。
安藤 各拠点・各事業の課題を起点に現場の方たちとデータの使い方を討議しながら適切な粒度のレベルに落とし込んでいきます。これまでと同様に、複数のステークホルダを繋ぎ、一つひとつ解決しながら進化させていくやり方を貫いていきたいですね。
香田 アビームコンサルティングは当社のビジネスを理解したうえで、ワンチームで取り組んでくれています。内製化についても、アビームコンサルティングのメリットにならないことにもかかわらず積極的で、OJTを通じてノウハウを移行してくれています。こうした取り組みはアビームコンサルティングにしかできないと評価しています。組織や文化を変えるために今後も支援してください。
安藤 貴社のビジネスの成長に様々な関わり方やご支援がしていければと思いますし、弊社とのプロジェクトを通じて、貴社の方々がより成長できれば良いと考えています。今後ともよろしくお願いします。
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