産業用ロボット向け精密減速機などを製造するナブテスコ。同社は今後10年間の環境変化を見据え、同社らしい独自のビジョンを次代の経営を担うミドル層を中心に策定することを計画。アビームコンサルティングをパートナーに、プロジェクトメンバーは全社視点に立って検討を重ね、経営の羅針盤となる長期ビジョンを策定した。
その後も、中期経営計画への織り込みをはじめ、啓蒙や浸透に取り組んでいる。
産業用ロボット向け精密減速機などを製造するナブテスコ。同社は今後10年間の環境変化を見据え、同社らしい独自のビジョンを次代の経営を担うミドル層を中心に策定することを計画。アビームコンサルティングをパートナーに、プロジェクトメンバーは全社視点に立って検討を重ね、経営の羅針盤となる長期ビジョンを策定した。
その後も、中期経営計画への織り込みをはじめ、啓蒙や浸透に取り組んでいる。
経営/事業上の課題
課題解決に向けたアビームの支援概要
支援の成果
ナブテスコは、帝人製機とナブコの統合により、2003年に誕生したメーカーであり、産業用ロボット向け精密減速機、建設機械向け油圧機器、鉄道車両用ブレーキや自動ドアなどを製造・販売している。同社は「うごかす、とめる。」を実現するモーションコントロール技術を中核として、ものづくり・まちづくり、人やものの移動、日常生活など幅広い事業領域において着実に成長を果たし、国内外の市場でトップシェアを有する多様な製品を提供している。
ナブテスコでは2021年2月、「未来の“欲しい” に挑戦し続けるイノベーションリーダー」を掲げ、「Innovation In Action」をキャッチフレーズにした2021年から2030年までのグループ長期ビジョンを発表した。その中で2030年のあるべき姿として、「独創的なモーションコントロール技術とインテリジェンスで新しい価値を創造している」「想いのままに『うごかす、とめる。』 で豊かな社会と地球環境に貢献している」「人々の生活に安全と安心を提供し笑顔をもたらしている」を打ち出した。
そして、2021年7月にはイノベーション促進を目的に、CEO直轄組織としてCVC推進室を設置、2018年にスイスに設立したコーポレート・ベンチャーキャピタルと連携して、新規事業創出活動の強化と加速への取り組みを開始した。
2012年から2020年までの前長期ビジョンでは「ベストソリューションパートナー」を掲げ、新興国への進出と新規事業の創出を戦略の柱にしていた。「この10年間で中国に複数の現地法人を設立したものの、変化する市場環境のなかで売上は目標には至らず、新規事業も生み出すことができませんでした。この状況を打破するために、新しい長期ビジョンでは従来とは異なるアプローチで検討することが必要だと考えました」と長期ビジョン委員会のリーダーを務めたナブテスコ ものづくり革新推進室 副室長 兼 生産技術部長 理事 油野博行氏は語る。
前長期ビジョンは顧客に寄り添うという側面を強く打ち出していたが、新しい長期ビジョンの策定に当たっては、時代の一歩先を行き、顧客に新たな価値を提案できる会社になることを中心に据えた。
ナブテスコでは、今後10年の環境の変化に耐え得る長期ビジョンを策定し、長期、中期、短期の戦略サイクルを連動させた経営体制の実現を図ることにした。長期ビジョン委員会のメンバーは、独自のビジョンを描くために、次代を牽引する40代を中心としたミドル層の社員を各カンパニーとコーポレート部門から選ぶことにした。
プロジェクトの設計に当たり、今までの延長線上ではない長期ビジョンの策定には伴走するパートナーの役割が重要になると考え、複数のコンサルティング会社から提案を受けた。その中から比較検討した結果、最終的にアビームコンサルティングをパートナーに選んだ。「アビームを選んだ最大の理由は、ディスラプター(破壊的イノベーター)の視点に立って、メンバーの発想の固定化を防ぎ、従来の考え方から脱却するためのたくさんの仕掛けが提案にあったことです。加えて、まず一部のメンバーで討議した後に全体化するのではなく、最初から29人の長期ビジョン委員会メンバー全員で一体となって考えていこうというプロジェクトの進め方も評価しました」と長期ビジョン委員会の事務局メンバーだったナブテスコCVC推進室 参事 山見彰利氏は説明する。
ナブテスコは社内カンパニー制を採用しているため、日常業務の中では所属するカンパニー中心の発想になりがちで、カンパニー間やコーポレートとの間に壁を感じることもある。アビームの提案はその壁を取り払って議論しようというもので、実際に委員会の活動ではさまざまな場面で壁をなくした議論と考えが可能になった。
長期ビジョン委員会は、2019年5月から10カ月間に及ぶプロジェクトでビジョンを策定した。プロジェクトは、テーマごとに少人数で検討を行う分科会と、全体討議の場として毎月開くワークショップを中心に進められた。最初にマクロ環境やメガトレンドに関わる調査や分析を行い、その動きを全社・事業レベルで俯瞰、将来の環境がナブテスコのビジネスに及ぼす影響とそこから得られる示唆について議論。次に、将来のありたい姿や目指すビジョンを描き、ワークショップを通じてまとめていった。「ワークショップは製造、設計、営業、コーポレートなど職種をバラバラにして、4つのグループに分けて行いました。個性の強いメンバーが多いのですが、議論する中で、グループごとに異なる意見に集約することができ、それを全体で分かち合い、共有することができました」(油野氏)。
そのうえで、ディスラプターの視点も踏まえた事業戦略や新規事業の創出に向けた議論を行い、ビジョンの実現に向けたロードマップに落とし込んだ。さらに全社資源配分をシミュレーションし、各カンパニーの利害を超えた全社視点による議論を通して、メンバー全員の納得感の醸成と合意形成を図っていった。
「一番大変だったのが全社資源配分の部分でした。成長が明確な事業領域と競争が厳しく、伸びが期待できない事業領域があります。メンバーはカンパニーの代表として参加しており、自カンパニーの利害を超えた議論はとても難易度が高いものでした。リソースが限られている中で、自分のカンパニーのリソース削減にも踏み込んで、どう資源配分することが長期ビジョンで掲げる目標達成に望ましいのか、経営者目線を意識することで議論を収束することができました」(山見氏)。
それを踏まえてビジョンをとりまとめ、経営会議や取締役会に向けた論点やメッセージを練り上げるとともに、社内浸透のための施策を検討、決定していった。アビームはプロジェクト開始当初はワークショップのファシリテーターを担ったが、中盤以降はメンバーが主体的にワークショップを実施できるようにするために、タスクの設計、議論を活性化する視点やインプットの提供、ワークショップ当日のオブザーブ等にフォーカスし、黒子役に徹した。「最初は途方もない目標を掲げてプロジェクトを始め、本当に長期ビジョンをまとめることができるだろうかと不安でした。けれどもアビームから他社の成功事例や失敗事例を出してもらったことで、それを参考にしながら、ナブテスコの成長のためのリソースの振り分けを議論することができました。その中でメンバーから経営層が聞いたら驚くような、全社的な視点に立った意見が出てきて、これならビジョンをまとめることができると思いました」(油野氏)。
2021年2月の長期ビジョンの発表後、3月に行われた2022年度を初年度とする新中期経営計画作成のための役員合宿に長期ビジョン委員会メンバーが出席し、その思いを再度役員に説明した。このインプットにより中期経営計画の策定は長期ビジョン実現に向けたファーストステップであることを強く認識するとともに、長期ビジョンで示した「未来の“欲しい”に挑戦し続けるイノベーションリーダー」になることにフォーカスし、各カンパニー・コーポレート部門に実現に向けた指示をしている。
並行して、長期ビジョンを社内で啓蒙し、社員一人ひとりに根づかせていくための活動も積極的に展開。各カンパニーや海外現地法人では定期的に各社トップが参加する会議を開催している。その会議の場に、普段は加わっていない長期ビジョン委員会メンバーも参加し、長期ビジョンにかける思いを語ったうえ、意義をアピールした。
次に、「企業理念・行動指針・ナブテスコの約束」をテーマに毎年全社員が職場単位で討議を行う「ナブテスコ・ウェイミーティング」では、2021年度のテーマを“長期ビジョン”に設定した。「ワイガヤ」の雰囲気の中で社員1人ひとりが長期ビジョンを自分ごととして捉え、個人およびチーム単位でのイノベーションを意識してもらうことで、長期ビジョンの認知と理解を得ることを目指した。
本活動のアウトプットとして、職場単位で長期ビジョン達成に向けて設定した活動目標を記した「Innovation In Action宣言」を作成し、10年後のありたい姿の掲示を行っている。
ナブテスコでは、長期ビジョンの実現を目指し2022年度から3カ年の中期経営計画を第一段階に、以降の中期経営計画も順次策定していく予定。1つひとつの取り組みを着実に実行していく中で、長期ビジョンで掲げた時代の一歩先を行くイノベーションリーダーとしてのあるべき姿を実現していく考えだ。
Customer Profile
2022年8月1日
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