従来の調達領域では、非効率な業務プロセスが人員不足を生み、人員が不足しているが故に業務効率化ができないという悪循環が見られた。それは人海戦術やベテランのノウハウに頼った業務形態、陳腐化したシステム、形式的なBCP対応、慢性的な人員不足による過重労働、高度戦略の実行力不足、優秀人材流出による士気の低下など、複数の要因が連鎖している。
これらの課題解決の鍵となるのが、AI活用によるデジタル武装である。もちろん、ツールの導入だけではなく、業務目的に即した改革構想や組織改革、人事施策などの連動は必要だが、AI活用で生み出した余力が、他の改革の推進力となることは間違いない。
例えば、多くの企業が共通の悩みとして抱える見積もり作成業務は、AI活用でどのように効率化できるのだろうか。
まず、要求部門やサプライヤーとのやりとりは、チャットGPTに代表される生成AIに代替させる。また、ベテランのノウハウに頼りがちなソーシング業務にも、AIによる該当案件のリコメンド機能を充てることができる。サプライヤーとの交渉では、AI議事録などを活用し省力化することで、人的リソースをロジック作成などの高度な業務に集中することが可能になるのである。
AI活用・デジタル実装の際には、ツールありきではなくプロセス全体を俯瞰し、業務負荷や課題感の大きな部分を見極めた上で、適切なデジタル技術を適用していくことが肝要だ。概して業務量の多い領域のAI活用やアウトソースの効果は大きく、余力を生み出しやすい。こうした改革は、プロジェクト体制をつくった上で、基本構想、設計、実現とフェーズを切り分けて進めるのが基本だ。なお、最初期に改革機会算定のアセスメントを行うと、ある程度の費用対効果を見通すことができ、具体化しやすくなる。
また、AI活用で創出した余力をBSQCD戦略に振り向ける前に、現状を明らかにすることが重要である。在るべき姿と現状のギャップを分析・可視化し、組織的な課題を明確にして優先順位をつけながら適切な打ち手を策定できるようにするためである。
当社では「BSQCD対応力診断」を用意し、現状の可視化、あるべき姿とのギャップ(課題)抽出、あるべき姿の実現に向けた施策の検討までを有機的にとらえ推進している。
事例としてある電気機器メーカーで診断を行った結果、まず部材別対応力において、現状と在るべき姿のギャップが大きいことが分かった。GHG排出目標量に関して経営層と現場の認識に大きなギャップがあったり、導入済みシステムにおける担当間での認識の違いがあったりしたことも判明した。すでに始めている取り組みが、組織内に浸透していないという課題をあぶり出した点で、「BSQCD対応力診断」は有用なツールの一つである(図4)。