ベトナムにおける日系企業の現在地と成長への展望 ― 市場拡大への期待と魅力、そして企業に求められる多様な課題

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2023.03.15
  • グローバル
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1.コロナ禍の影響をひとまず脱したベトナムの日系企業 ~製造業を中心とした成長継続

日本とベトナムが外交関係を樹立したのは1973年、以来50年にわたって、政治、経済・文化、スポーツと幅広い分野で両国の友好・協力関係は発展し続けている。ベトナムの2022年の実質GDP成長率(推計値)は前年比8.02%と近年最も高い成長率を達成した※1。国民所得も着実に増加する中、とくに中間層の増加で内需拡大が期待され、約1億の人口に占める若年層の割合が大きい特徴もあいまって、市場のさらなる成長が見込まれる。
ベトナムは日系企業の進出も盛んで、進出企業数は東南アジアの中でタイに次ぐ。具体的には2020年時点では約2,000社がベトナムへ進出している。市場成長性と若く安価な労働力を魅力に、生産・製造拠点としての日系企業の進出が先行していたが、米中貿易摩擦やウクライナ戦争等の影響から、チャイナプラス・ワン(中国以外の国・地域への投資分散)が加速しており、日系・非日系を問わず、ベトナムへの工場移転が増えている。
コロナ禍は、ベトナムを生産拠点として位置付けている日系製造業にとってはサプライチェーンが断絶し、ビジネスが止まるほどの大きな打撃をもたらした。政府による工場の操業休止命令、操業再開のための隔離施策への対応、労働者数の確保困難による稼働率の低下なども見られた。加えて、中国からの部品の輸入が滞り、生産が止まるケースもあった。これを受け、現地調達率を上げるべく、現地の優良サプライヤーを探したり、中国以外の国からの調達を検討したりした企業もあったが、その間に経済活動が復調し、オフィスや工場への出勤を基本とする働き方にも戻り、コロナ禍による影響をいったん脱した様相だ。しかしながら、製造業はサプライチェーンの断絶を大きなリスクとして認識したものの、対症療法的アプローチで乗り切ったというのが実状で、将来も見越した持続性のあるレジリエンスの強化に取り組んでいる企業は少ない。
製造業以外では、ベトナム日系企業が注目している成長分野として、金融業、小売業が挙げられる。例えば、SMBCコンシューマーファイナンス株式会社がベトナム民間商業銀行のFE Creditへ出資する※2など、日系金融業によるベトナム金融業への出資が相次いでいる。また、ベトナムでは中産階級の人口増を受けて消費意欲が旺盛で、日系小売業の進出も増えている。

2.ベトナムの日系企業が抱える、多種多様かつ広範な課題

ベトナムに進出する外国企業にとっての投資環境上のリスクには、人件費の高騰による人材確保、法整備の未整備・不透明な運用、税務・行政手続きの煩雑さが一般的に挙げられる。そのなかで、在ベトナム日系企業の動向やよくある課題として下の5つを解説する。

1)サプライチェーン断絶を避けるためのレジリエンス向上
前述のような対症療法的で一過性の効果に限られる対処法ではなく、サプライチェーンの課題抽出から着手する必要があると我々は考える。そのうえで、サプライチェーンネットワークの再設計、グローバル競争強化のためのFTA(自由貿易協定)活用推進のニーズが高まってくると想定している。

2)賃金急上昇を見据えたDXを活用した労働制生産性の向上
ベトナムで賃金上昇による生産コスト増に悩んでいるのは日系企業も同様である。とりわけ製造業では、生産量は増え続ける一方、日系企業の本社の方針で現地工場の拡大がなかなか適わないなか、既存の従業員や設備でいかに対応するかが重い課題になっている。
人件費については、賃金上昇分を他のコスト低減で吸収し、原価率の上昇を抑えることに各社は腐心している。それには、RPA/OCRを活用した業務自動化等のデジタル変革が有効である。例えば、デジタル変革において先進的な企業では、RPA導入を前提で業務を再設計し、他の工場の1/3の人員で同水準の生産性を達成している。
また設備面では、限られたスペースで最大の生産性を実現するために、生産性を最大化する工場レイアウト、生産ラインの設計にこれまで以上の精査が求められる。というのも、一度構築したレイアウトやラインは変更が容易ではなくコストも発生するためで、この精査の助けとして、デジタルツイン等を活用したシミュレーションソリューションが導入されることもある。

3)コンプライアンス意識の向上
今、ベトナムでは外国投資家のために、ファム・ミン・チン首相主導のもと、改革、腐敗・不正撲滅を徹底している。その一方、ルールや手続きの厳格化が外国企業のベトナムへの投資を停滞させる可能性も指摘されている。その動向に加え、日系大手製造企業がベトナム子会社の税金追徴を免れようと現地公務員に賄賂を渡した事件もあり、在ベトナム日系企業のコンプライアンス意識は高まっている。
不正防止には、人の手を介在させない業務プロセスの実現が有効手段の一つになる。例えば、RPAを活用すると、不正につながる情報変更パターンを検知し、取引先の口座情報の不正な差し替え等を防止できる。

4)個人情報保護法施行に向けた対応
ベトナムには個人情報保護法やGDPRに相当する包括的な個人情報保護法令はないが、2021年に個人データ保護に関する政令案が公表された。日系企業にとっては、ベトナム国内の従業員や顧客の個人情報を日本本社や他国拠点と共有する際のルールが大きく変わる可能性がある。その動向はベトナムでビジネスを展開する外国企業からも注目を集めているところで、今後法令が施行されれば個人情報に紐づくあらゆる業務のシステムやプロセスの変更が生じることになり、その変更の影響範囲や度合いによっては業務の抜本的な見直しに迫られる。

5)優秀な人材のリテンション
現在、ベトナムでは賃金が上昇しており、優れた人材が外国企業に流れていくなど流動性が高まり、退職を防ぐ「リテンション」に腐心している。一方、在籍する従業員の育成も重要な人事施策で、優秀な従業員が備えている資質や経験してきたキャリアパスをデータで分析し、パターンを導き出して他の従業員に適用する方法も採られている。現在、在ベトナム日系企業は比較的少人数の法人・拠点が多く、配置や登用が勘と経験に委ねられがちで、それでも一定の効果を挙げられてはいるものの、今後ビジネスの規模が大きくなってきた際には、優秀人材の見える化と最適配置のロジック構築を両立できるタレントマネジメントツールを導入するなどの投資が予測される。

このように、ベトナムの政治・経済・社会の動向は、ビジネスにも大きな影響を与えかねないものであり、日系企業にも情報収集のアンテナを常時張り、適時対応が迫られる。確実性、効率、仕組化等を考慮したとき、多様な対応アプローチがあり得る中で、デジタル技術を援用した対策が有効な選択肢になり得ることも上記からご理解いただけることだろう。

ここでデジタル化についていえば、ベトナムでも、政府が「Industrial Revolution 4.0」を標榜し、2030年までにデジタル国家になるビジョンを掲げてDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推奨している。それを受けて、自社のDXがいかに進んでいるか、政府の政策にいかに対応しているかを対外的にアピールしているベトナム企業も多くある。しかしながら蓋を開けてみると、アプリの開発、SAPなどの基幹システムの導入といったIT技術の導入にとどまっている実態も散見される。DXの本質である「デジタル技術を活用した会社や社会の変革」を掲げて実行しているベトナム企業は、まだほとんど存在していないと言ってよい。
一方、在ベトナム日系企業でDXが進んでいるかというと、そこもまた発展の途上にある。DXを推し進め、成果を挙げている企業はもちろん存在するが、ごく少数派である。多くの企業では、日本本社からDXがミッションとして発せられても、現地責任者や幹部の多くが年代的にデジタル世代ではない。DXとは何かを理解し、その名のとおり「変革」までの道筋を構想し、実現まで導くのは容易なことではない。
そこで、多岐にわたる課題を解決し、デジタル技術による真の変革を実現するためのパートナーとしてコンサルティングファームの存在価値が生まれる。

3.課題発見を支援し、高いプロジェクト推進力でビジネス変革を支援するABVN

今、ベトナムでビジネスを展開する日系企業に求められるのは、政治・経済・社会のあらゆる課題に対応する力である。国家主導による政策、市場経済メカニズムのもとでは、企業の対応力のベクトルとしては、スピード至上主義というよりも、ルールや変化に着実に対応すること、そして、それを確実に運用し続けることがビジネスの基盤の維持の要件となる。
例えば、ベトナムで意識が高まるガバナンス強化や個人情報保護関連法令の整備では、いかに精緻にルールを整え、社内で啓発活動をしたとしても、それがどれだけ遵守されているのか、されていないとしたらどこに問題があるのかに気が付き、手を打たなければ、万全な運用は難しい。対応範囲が広く業務で細部まで影響が及ぶならば、デジタル技術の活用無しにはなかなか対応できないであろう。
このとき、企業が真の問題に気づく課題発見力、局所的な応急処置に留めず全体をとらえる視点、リソースを駆使してミッションを遂行するプロジェクトマネジメント力、プロジェクト完了後も効果を継続できる仕組み化が揃って、はじめて変化対応は実現する。その実現の支援をベトナムで助けるパートナーが、私たちアビームコンサルティングだ。

ABeam Consulting (Vietnam)(以下ABVN)は2018年6月にアジア地域の7番目の拠点として開設された。現在約80名の体制で、自動車、電機、化学、住設などの製造業の他、銀行、商社など幅広い業界のクライアントを支援している。在ベトナム日系企業や日本の独立行政法人だけではなく、ベトナム企業、ベトナムに拠点を置く外国企業にも多くのクライアントをもつ。
実績の一例をあげると、商社、小売業での企業買収後のPMI(M&A後の統合プロセス)、事業戦略策定支援、自動車・電機・化学・住設などの製造業企業でのSAP S/4HANA、SAP SuccessFactorsの導入、その他、システム導入時のPMO(プロジェクト管理)、現状業務・課題の可視化、業務改善案の策定・導入(BPR)等がある。
このように見ると、戦略策定よりもプロジェクトの実務推進が多い印象を受けるかもしれない。しかし、実際のところ、ベトナムの日系企業拠点あるいは現地法人は、まさにプロジェクトをどのように進めていったらよいのか悩んでいる。
というのも、クライアント企業の多くは通常業務が中心で、プロジェクト単位で働く組織がクライアントにはないため、プロジェクトがどういうものであり、どのように進めればよいのかというノウハウを持ちづらい。また、技術・職業訓練教育に力を入れているベトナムの教育制度の特性もあり、現地採用のスタッフには専門領域のスペシャリストが多く、部門や領域を横断した課題発見・課題解決のスキルが必ずしも高くないという側面もある。
我々が見たところでは、プロジェクトチームを立ち上げるも、全体として何を目指し、何をするのかが明確にならず、断片的ないくつかの施策に取り組んだところでプロジェクトが停止してしまい、真の課題解決には至っていないという状況が決して珍しくはない。
だからこそ、プロジェクト形式での動き方を熟知しているABVNには、プロジェクト経験が少ないクライアント企業のケイパビリティを補完できる、という期待が大きく寄せられている。加えて、日系企業にとっては、日本語でプロジェクトが進められ、ベトナム語で現地のメンバーやスタッフとも意思疎通ができるため、一貫して任せられる安心感もある。
クライアントニーズの期待に応えるPMOスキルの高さがABVNの大きな強みである。

もう一つのABVNの中心的な強みは、デジタルコンサルティングと実装のノウハウだ。RPA、OCR、ワークフロー、ローコードプラットフォームなどのデジタル技術導入、ITDD( ITデューデリジェンス)、データマネジメント、SAP基盤構築・ソリューション導入等、多様な領域でデジタルソリューションを提供している。
こうしたデジタルソリューションを提供するITベンダーはベトナムにも数多くある。彼らはスモールスタートとしてPoC(概念実証)を企業に提案し、企業も課題解決につながればと提案されたPoCをいくつも試してみる。しかし、先述のプロジェクト推進と同様に、ここでも課題の全体像や解決の道筋が描けていないために、デジタル技術が成果に結びついていないという事象が起こりがちだ。
また、日系企業の現地責任者には、デジタル技術の知識や業務経験を十分にはもっていない方も多く、本来デジタル技術で解決できる課題の存在に、そもそも気づいていないこともある。また、課題に気づいているとしても、その解決にデジタル技術がどれほど有効なのか知る機会がないということもある。
そのため、デジタル領域の業務改革や業務改善は、デジタル関連の専門業務を担っている現地スタッフに一任されることになる。ただ、現地スタッフの彼らも、ネットワークに強い、プログラミングができる、サーバー管理を専門に担っている等、特定の業務では高いスキルを発揮していても、デジタル領域の業務全体や課題を正確にとらえてアーキテクチャを描くことができる人材は、ごく少数に限られる。それでは、改善や改革の効果は部分的な水準にとどまり、本来デジタル技術に期待される水準からは程遠いものになってしまう。
このような状況を打破するには、デジタルの専門知識よりもむしろ、課題発見能力や課題解決能力などのスキルが求められる。一見課題がないようでありながら、実は問題点が内在していることもあり、外部の客観的な視点がその気づきを提供できることもある。あらゆる業界の幅広い領域で課題解決を支援してきたABVNが得意とし、重視しているのはクライアントとの対話力をとおした、課題発見をサポートする力である。

大きな可能性を秘めるベトナムにおいて、課題の発見を助ける啓発役、課題解決の効果の定着まで導く伴走者として、ABVNは日系企業のビジネスを支え続けていく。

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