大手自動車OEMも同様の戦略でテスラに追従しており、フォルクスワーゲンは既に統合ECU、自社のビークルOSを搭載した電気自動車を既に販売しており※2、トヨタ自動車も電気・電子プラットフォームを統合し、車両ソフトウェアをグループ会社で一元的に開発を行う戦略を取り始めている※3。
大手自動車OEMも「ソフトとハードの分離」に基づく開発戦略にシフトし始めている背景として、次世代自動車におけるコスト競争とニーズへの追従、自動車ビジネスの変化の変化があげられる。
OEM間のコスト競争の激化
新興メーカーは、コスト競争力の高い電気自動車をグローバルで提供している。例えば、2021年2月に、テスラのモデル3のロングレンジモデルは、航続距離500km以上で500万円以下の販売価格を実現した※4。
これに対して、大半の自動車OEMにとって電気自動車の展開は始まったばかりで、台数規模によるコストダウンは限定的であり、テスラの価格競争力は脅威である。
テスラは、ECUの統合化によって部品点数の削減、ソフトとハードの分離によって調達対象の切り出し、仕様の標準化によって調達コストの削減、単一のプラットフォーム管理によって年度モデルごとの開発を行わず、より安いサプライヤーへの継続的な切り替えを行って、コストを下げている可能性が高い。
従って、今後、電気自動車が主戦場になることを考慮すると、自動車OEMにとってソフトとハードの分離はグローバルで競争力を高めるために必要な条件となる。
消費者ニーズの変化
従来、車の機能価値は、顧客にとって車両購入時が最も高く、数年で劣化するのが当たり前だった。しかし、昨今、スマートフォンの普及によって、最新の機能や情報が常に提供・更新される「鮮度維持」のユーザーエクスペリエンスが当たり前になっている。そのため、そのエクスペリエンスが自動車にも求められるようになってきた。つまり、車両販売後も継続的なアップデート、ユーザごとに機能をカスタマイズできるパーソナライゼーションが求められるようになってきた。
これまでも自動車販売後のアップデートは、ナビの地図更新など、限定的な領域のみで行われていた。しかし、自動運転を始めとした車両機能の多くは、複数の車両デバイス(センサーなど)と連携しながら膨大な計算処理が必要になるため、アップデートを行うには横断的なモジュール連携が必要になる。
従来の車では、各モジュールでECUを持ち、サプライヤーも異なるため、1つの機能を追加・更新するだけで膨大な開発コストと調整が必要になる。そのため、継続的かつ短期間でのアップデート提供が難しい現実がある。
一方、テスラは統合ECUで各モジュールを統合的に管理・制御しているため、モジュール間でのすり合わせ開発が不要になり、継続的かつ短い周期で機能を追加提供できている。
自動車OEMのビジネスモデルの変化
電気自動車へのシフトにより、部品数の減少、システムの簡素化が進み、故障率が低下することや、シェアリングを含めたモビリティサービスの進展により、アフターセールスを含めた自動車ビジネスの収益は悪化していく可能性が高い。
一方で、ソフトとハードの分離によって、売り切りではなく、スマートフォンのようにライフサイクルで継続的に収益を生み出す新たなビジネスモデルが生まれてくる。
従来は、前述の通り、モジュールごとにサプライヤーとのすり合わせによる開発を前提としていたため、ライフサイクルで継続的に収益を生み出すビジネス検討はかなり限定的だった。
しかし、テスラはOTA(Over The Air)を使うことで、価値の高いアップデート機能に課金するビジネス、下位グレードを購入した顧客が追加料金を支払うことで上位グレードの機能にアップデートできるサービスを米国で展開している※5。また、トヨタ自動車はソフトウェアだけでなく、ハードウェアもセットでアップグレードするサービスを始めている※6。
アビームコンサルティングでは、従来の自動車販売とアフターサービスだけでなく、ライフサイクル全体を捉えたビジネスモデルはサプライヤーの生き残り戦略に向けた大きなチャンスと捉えている。次回の第2回では、「ソフトとハードの分離」の変化をチャンスと捉えることで、サプライヤーがビジネスモデル変革に向けて取るべきアクションの方向性を解説する。