第一部では、「大企業とスタートアップとのオープンイノベーションに今後、必要なものとは?」と題して、経済産業省 イノベーション・環境局 イノベーション創出新規事業推進課 スタートアップ推進室 課長補佐 長谷川寛晃氏、アビームコンサルティング株式会社 執行役員 プリンシパル 未来価値創造戦略ユニット長 橘知志、ファシリテーターとして株式会社ゼロワンブースターホールディングス 取締役/株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 合田ジョージ氏の3名にて、パネルディスカッションを実施した。
まず、ディスカッションに先立ち、長谷川氏より政府の掲げるスタートアップ育成5か年計画の3年目を迎えた現在において、政府の現状の取り組みと今後の展望について共有がなされた。
スタートアップ育成5か年計画とは、今後5か年間の官民によるスタートアップ集中支援の全体像を取りまとめたもので、スタートアップへの投資額を5年で10倍にすることで、「人材・ネットワークの構築」「資金供給の強化と出口戦略の多様化」「オープンイノベーションの推進」を目指すものだ。この計画の対象は当然ながらスタートアップ企業だが、スタートアップの技術を活用して大企業の新たな事業創出を支援するという狙いもある。
このような支援の背景には、日本企業における事業転換やイノベーションが起きにくい現状があると指摘。米国企業に比べ、企業年齢が古いほどROA(総資産利益率)が低下する傾向があるという。この状況を打破するために、既存企業の稼ぐ力を継続的に向上させる「両利きの経営」、すなわち既存事業の収益性を高める「知の進化」と将来の収益の柱となる新規事業を開拓する「知の探究」とが必要であり、後者の「知の探究」においてこそ、スタートアップが持つ技術やビジネスモデルが有用であると述べた。
実際の経済産業省の取り組みとして、主に①オープンイノベーション促進や研究開発への税制優遇といった財政的負担の軽減、②事業連携の推進事例やモデル契約書の公開、情報収集の場の提供といった手続き負担の緩和、③ディープテックやスタートアップ企業の経営資源の活用の3点を紹介した。さらに事業会社からのカーブアウトの必要性に言及。現在日本企業では民間部門の研究開発投資のうち9割が大企業によって担われているものの、事業化されない場合は、開発された技術の約6割が活用に至らないという。一方このような技術は社会課題の解決、経済成長につながるものも多く、それらをしっかり事業化につなげることで、イノベーションの実現が期待できることから、そのモデルケースの公開や支援を積極的に行っているとのことだ。
そのほか、経済産業省は、事業会社がスタートアップの研究開発成果の調達を通じて新規事業を促進する仕組みづくりにも力を入れている。スタートアップの支援、成長はもちろんであるが、それを通じた新規事業創出のために、スタートアップの技術を戦略的に活用するような連携の在り方を追求しようと検討している。これらは総じて、スタートアップの支援にはじまり、事業会社との連携を通じて、新しい事業、製品、サービスを生み出すというサイクルの創出を狙うものであると述べた。