2015年5月にプロジェクトをスタートさせた財務会計システムは、フィット・アンド・ギャップのギャップが特に大きく、そのために課題も多かった。一般企業における財務会計システムでは、予算と実績の管理は必要でも期中における案件の処理段階ごとの把握は求められない。それに対してOISTでは、予算は国からの補助金で賄われているため、案件別に単年度で予算を確保し、執行される都度、厳格に管理しなければならない。
「OISTでは、まず使用を目論む段階で、何にいくらかかるのかを合理的かつ詳細に見積もらなくてはなりません。さらに実際に使った金額や用途が当初の計画と少しでも異なれば、その都度訂正処理が必要です。例えば企業では、出張費や会議費を申請する際、申請時点で予算を執行することはあまりなく、出張から帰ってきてから経費を精算するときや、会議が終わってから総額で精算処理をするタイミングで、予算が執行されることが多いと思います。しかしながら本学園では、申請時点で予算が執行されます。物品購入であれば納品されていなくても発注時点で予算を執行します。精算時に申請金額を上回っていた場合や、会議の参加人数が申請と異なる場合は、伝票の修正が必要です。このような処理を通常の企業の会計処理と同じように実行しようとすると、ギャップが生まれるのです」(太田氏)。それを解決するためにアドオンを行おうとするが、アドオンは最小限に抑えるという方針があるため、どこまでアドオンを許容するのか、現実的で経済的なワークアラウンドは何か、例外処理として残すのかという問題が生じた。また、レビュー結果にもとづくビジネスプロセスを実際の業務やシステムでどう実現するかにも壁があった。レビューと実際にシステムを実装しようとする際のズレの解決のために、プロジェクト全体で粘り強い取り組みを進めていった。
加えてOISTは、他の大学と比べてユニークな組織構成で、教員の半分は外国人、学長も外国人、エグゼクティブも半分は外国人だ。そのため、プロジェクトマネジメントもグローバルスタンダードであるうえに大学組織という要素が加わった、特別なやり方が求められる。「例えば、日本では問題が発生した時にもすぐにエグゼクティブに諮らず、現場で解決のために懸命に取り組むケースが少なくありません。それに対して、OISTでは、問題が生じたらすぐに上長にエスカレーションする必要がある。ステアリングコミッティー内のオーナーは副学長で、問題がある場合には『早く判断してください』と副学長にプッシュしなければいけないのです」(ダイス氏)。アビームコンサルティングは海外での民間企業のプロジェクト経験はあるものの、外国人が大半を占める大学組織でのプロジェクトの経験は多くなかった。そのため、開発当初はプロジェクトマネジメントにおいて従来以上の認識合わせを要したが、プロジェクトが進むにつれてこの課題は徐々に解決していき、最終的にはプロジェクトをスムーズに進めることができた。
こうした財務会計システムでの1年間の経験がベースになって、2016年4月に開始した人事システム・プロジェクトでは、課題の出し方や確認の仕方、プレゼンテーションおよび議論の進め方なども含めて、OISTのスタイルに沿う形で、効率的にステアリングコミッティーを運営することができるようになった。