サステナビリティ経営とは?
企業が取り組む意義やメリット、実現に向けた道筋を解説

2023年10月13日

企業がどのように社会的責任を果たすかというテーマはこれまでも議論されてきた。しかし、あくまで企業イメージの向上策とも捉えられていた。
近年は「サステナビリティ経営」というキーワードが一般化し、様々な企業が従来の社会貢献の取り組みに留まらず、社会課題への対応を経営アジェンダとして捉えその実現に取り組んでいる。2023年1月には、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の「企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)」が公布・施行され、企業のサステナビリティ情報開示が義務化されるなど、その動きは加速している。一方、現状では多くの日本企業でサステナビリティ経営の実現は道半ばとも言える。
関連ホワイトペーパー:アビームコンサルティング「サステナビリティを企業全体の「変革」に結び付けるには ~700社の調査結果から見えた課題と処方箋~」

本インサイトでは、基本的な知識としてサステナビリティ経営とは何かを解説した上で、ステークホルダーにどのようなメリットをもたらすのか、またどのように実現させていくのかの道筋を解説していく。

サステナビリティ経営とは?SDGs、ESGなどとの関係は?

まずはサステナビリティ経営とは何かについて、SDGs、ESGなどの類似するキーワードとの違いも含め解説していく。

「サステナビリティ」「サステナビリティ経営」とは

サステナビリティは日本語では「持続可能性」と訳されることが多く、地球の資源を限りあるものと見なして、良好な環境の維持と経済発展を両立させようとする考え方を意味する。
一般的にサステナビリティ経営とは、「環境・社会・経済の持続可能性に配慮することで、事業の持続可能性向上を図る経営」のことを指す。サステナビリティ経営では、環境・社会などの課題が経済市場に与える影響を理解し、その課題に対してどのように企業が価値提供するかが求められると言える。

1987年に国連が「持続可能な開発」という概念を提唱していたため、サステナビリティについては元々一定程度認知されていた。加えて、近年は深刻化する地球温暖化や激甚化する自然災害などの影響もあり、社会の持続可能性の向上に取り組むことは待ったなしの状況である。このことから、個人の生活スタイルから企業経営まであらゆる広い分野でサステナビリティを重視した活動が行われている。

また、従来は企業経営の目的は株主の利益の最大化という「株主資本主義」という考えが主であったが、昨今では従業員や取引先、地域社会といった株主以外の利益にも配慮する「ステークホルダー資本主義」という考え方が広まっている。実際、2019年の世界経済フォーラム(WEF)では、企業の目的は株主だけではなく社会全体の全てのステークホルダーに価値を提供することだと定義されている。さらに、2021年には日本企業を含む61のグローバル企業で、ESGの指標と開示・報告の枠組み(ステークホルダー資本主義指標)に沿った情報開示に取り組むことが発表された。

そうした潮流の中で生まれてきたものが、「サステナビリティ経営」という概念である。企業経営は投資に対する経済的リターンを追求するものであり、これは今も変わらない。だが、近年は環境や社会への配慮と経済的リターンを両立させる「コーポレート・サステナビリティ」という考え方に則った経営が求められているのだ(図1)。
近年一般的になりつつあるサステナビリティ経営では、環境や社会への配慮と価値提供は経済的リターンの獲得と矛盾しないという考えの下で、経営戦略のひとつとして捉えられ始めている。

また、サステナビリティ経営の大きな特徴に「長期的な視点が求められる」という点がある。サステナビリティ経営では環境や社会への配慮と企業利益の追求を両立することを目指すが、これは短期的な利益追求とは両立しえない。短期的な利益追求を目的としたサステナビリティ経営は、環境や社会への配慮の面でうわべだけの活動と化して本来の意味を失いがちとなる。重要なのは、社会課題の本質的な解決に向けた企業経営を実践することである。

サステナビリティの3要素

サステナビリティは、「環境」「社会」「経済」の3つの要素から構成されると考えられる。この3要素は互いに影響しあうものであり、これらの観点から社会を持続可能にしていくという考え方である(図1)。

「経済」は市場全体が成長を続けることを目指す概念だ。サステナビリティ経営の観点では、「プラスチックの不使用」「エネルギー効率の高い設備への改良」など、環境・社会に配慮した企業活動への投資という観点で語られることが多い。
「環境」は、再生可能エネルギーの利用をはじめとした「脱炭素社会の実現に向けた取り組み」など、環境保護に貢献する活動を指す。
「社会」は、住宅、交通、医療といった社会的なサービスの改良を通してサステナビリティの実現を目指すものである。例えば、企業における「働き方改革による労働環境改善」や「多様性の実現」なども該当する。

 

図1 サステナビリティの定義とコーポレート・サステナビリティの高まり

図1 サステナビリティの定義とコーポレート・サステナビリティの高まり

SDGs、ESG、CSRとの違いや関係

サステナビリティ経営の文脈で、SDGs、ESG、CSRといった用語が出てくることがある。

近年メディアなどでも毎日のように取り上げられている用語の一つが「SDGs」である。SDGsは「Sustainable Development Goals」の略であり、2030年までにサステナビリティの3要素を統合的に解決しながら、持続可能なより良い未来を築くことを目標としている。

SDGsはサステナビリティと近い意味を持つ用語であるが、2030年までに実現すべき事項が国連によって17の目標にまとめられていることが特徴だ。SDGsは対象とする範囲が広く、網羅的に社会課題を捉えているため、SDGsをそのままの形で個々の企業の指針に落とし込むことは難しいだろう。あくまで、サステナビリティ経営について考える際のフレームワークとして活用するのが良いと考える。

「ESG」は持続可能な社会の3要素である環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった造語である。ESGにおいては「環境」と「社会」の要素はサステナビリティと共通するが、「ガバナンス」の要素が含まれることが大きな違いだ。ESGに配慮した経営を行う企業に投資を行う「ESG投資」という言葉があるように、対株主の文脈で語られることも多い。

「CSR」とは企業が持つ社会的責任を意味する。CSRには社会貢献という意味が含まれ、企業経営において環境や社会への配慮と経済的リターンを両立させるというサステナビリティ経営の考え方に対して、各企業が環境や社会への配慮として自主的に行う活動という側面が強い。サステナビリティ経営が一般的になるまでは、一部の先進的な企業や大企業がCSRとして環境保護などの活動を行っていた。また混同されやすいもので、「CSV」という概念が存在する。これは社会的価値と経済的価値の両方に目を向けた考え方で、CSRの目的が企業としての社会責任を果たすことであるのに対し、CSVは事業を通じた社会問題の解決によって社会的価値と経済的価値の双方を創造することを指している。

これらを踏まえてサステナビリティの全体像をまとめたものが、図2である。
サステナビリティ経営を実現するためには、従来の経営課題以外にも多様なステークホルダーが持つ社会課題を解決するための知見や取り組み姿勢を持たなければならない。

 

図2 企業におけるサステナビリティ関連の活動の全体像

図2 企業におけるサステナビリティ関連の活動の全体像

サステナビリティ経営を実現するメリット

サステナビリティ経営を実現する最大のメリットは、「中長期視点での企業価値の向上」と言えるだろう。ここでは具体的に、各ステークホルダーの視点に分けてどのような効果が期待できるのかを解説していく。

投資家からの評価

社会全体でサステナビリティ経営への注目が集まっている中で、サステナビリティ経営に取り組むことは市場や投資家からの評価にも良い影響をもたらす。

三菱総合研究所の調査によると、2015年末時点で662億ドルであった世界全体のESG投資額は、2021年末には9,281億ドルと大幅に拡大している。この結果からも、多くの投資家がサステナビリティ経営を通して中長期的な視点で企業価値が高まることに期待していることが分かる。サステナビリティ経営の実現に向けた取り組みには、ESG関連指標に含まれる多様性の実現や研究開発費の増加などがあり、これらの実現には中長期的な取り組みが求められる。

逆に、短期的なコスト削減のためにサステナビリティ経営の取り組みを縮小させてしまっては、直近の業績が改善したとしても投資家からの評価が得られない可能性があるため注意が必要だ。

近年は「ESG関連指標」をはじめ、サステナビリティ経営の成果を客観的に示す指標が次々と現れており、投資家はそうした指標に注目している。そのため、企業には財務諸表には現れない目に見えない価値をいかに可視化・増幅していくかが、ひとつの大きなテーマになっている。

顧客からの評価

サステナビリティ経営の取り組みは、顧客から見たブランドイメージの向上にも繋がるだろう。
特にBtoCの分野でビジネスを行う企業であれば、サステナビリティへの取り組みが顧客からの評価に直結するケースがある。消費者の中には商品を選ぶ基準に環境や社会への配慮などをはじめとしたサステナビリティの視点を持つ人々もいる。そのため、より良いサービスや商品をつくるための企業努力に加えて、サステナビリティ経営に積極的に取り組むことが企業の競争力を高める要素となり得る。

取引先からの評価

取引先からの評価という観点でも、サステナビリティ経営を実現することのメリットは大きい。サステナブル調達(サプライチェーンにおいて環境や人権といった社会的要請に配慮しながら、持続可能な調達を達成するための取り組み)という考えが今後ますます浸透していくことから、取引先との円滑な取り引きの実現を通じたビジネスの加速化に向けて、サステナビリティ経営の実現は不可欠とも言える。

具体的な例として、近年企業による温室効果ガス(二酸化炭素等)の排出に関連して、Scope3と言われる取引先を含めたサプライチェーン全体でのGHG(温室効果ガス)排出量を算出していくことなども求められているため、サステナビリティへの取り組みが不十分なことで取引先から選ばれなくなるリスクもある。

従業員のエンゲージメント向上

サステナビリティ経営の実現に向けた取り組みは、環境保護に留まらず、社会の観点においても多様性や働きやすさの実現など自社の従業員にとっても良い影響をもたらす。そのため、先進的なサステナビリティ経営が行われている企業では従業員のエンゲージメントも高い傾向にある。企業の持続可能性を高める取り組みとして、企業経営における有形の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の中で「ヒト」の部分を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」にも注目が集まっている。

従業員のエンゲージメントや帰属意識が高まれば、離職率の低下や業務の生産性向上や新たなイノベーションの創出も期待できる。

また、採用力強化という観点でも従業員のエンゲージメントは重要だ。働く場所として選ばれる企業になるためには、採用候補者や従業員といった社内外の関係者を惹きつけるためのエンプロイヤーブランディングを高める取り組みが欠かせない。
サステナビリティ経営の取り組みは、それらにも大きく貢献するだろう。
関連インサイト:人的資本経営が重視される理由と実現に向けたポイント 
エンプロイヤーブランディングとは?社内外から選ばれる企業になるためのアプローチ

サステナビリティ経営を実現するための道筋

サステナビリティ経営を実現するためには、様々な観点があることは言うまでもない。アビームコンサルティングでは、真のサステナビリティ経営の実現に向けては、昨今着目されているサステナビリティ方針策定や開示などの経営戦略/コーポレートによる対応の範囲に留まらず、その方針を事業や経営基盤まで落とし込むことが必要と考えている(図3)。
ここでは、サステナビリティ経営を実現するためのポイントを3つに絞って解説していく。

 

図3 アビームコンサルティングが考える真のサステナビリティ経営に向けた道筋

図3 アビームコンサルティングが考える真のサステナビリティ経営に向けた道筋

経営変革ストーリーの策定

サステナビリティ経営の取り組みを進めるにあたって、大前提となるのはサステナビリティ経営の方針(サステナビリティビジョン)である。
サステナビリティビジョンを策定する際には、多岐に渡る社会課題の中で、自社の経営にインパクトを与えるテーマに対してどのような方針で取り組んでいくかを明確にする必要がある。また、どのような形で経済的価値の追求との両立を図るかの指針を示すことも重要になるだろう。
ビジョンが明確になった後は、ビジョンと現状の間に存在するギャップを重要課題(マテリアリティ)として特定する必要がある。さらにギャップ解消に向けた活動を具体化するためには、重要課題に基づいてKPIを設定しなければならない。
また、策定したビジョンや重要課題・KPIを分かりやすい形で対外開示することで、投資家を始めとしたステークホルダーの信頼を得ることも求められる。

社会課題起点での既存事業変革、新規事業開発

真のサステナビリティ経営の実現に向けては、経営方針の策定に留まらず、策定した方針に基づき既存のビジネスモデルやオペレーションを変革していくことが求められる。
これらのビジネスモデルやオペレーションの変革は環境や社会の観点に基づいて行われる必要があり、具体的には脱炭素化を実現するための生産プロセス見直し、需要予測向上による食品廃棄ロス削減など多岐に渡る。自社が営むビジネス状況を加味して、社会課題の解決とビジネスとしての収益性・持続性を上手く両立する形で取り組みを進めることが重要である。
また、経営方針にて特定した社会課題を起点にして、新規事業を創造するというアプローチも存在する。例えばCO2排出量を大幅に抑える製造ライン構築に成功した企業が、その製造ラインを他社にも外販するというケースは、サステナビリティ経営による新規事業創出の一例と言えるだろう。
関連インサイト:『社会課題』を起点とした事業開発を成功させるには 第1回 社会課題起点での事業開発の6つのポイント

経営基盤の変革

サステナビリティ経営を実現するためには、事業変革に着実に取り組むための経営基盤の変革も欠かせない。「社会的インパクト/経済的インパクトの両立」というゴール実現に向けて、企業内の人材・組織・制度の見直しや、収集したデータを可視化し経営方針にフィードバックできるような新たな経営基盤の構築・運用が欠かせない。例えば、我々が提供する「Digital ESG」では非財務情報と企業価値の相関を明らかにする基盤を提供している。その分析結果から導出される企業価値向上に向けて取り組む変革テーマとしては、「人材マネジメント改革」「サステナブルサプライチェーン構築」などが頻出しており、企業価値へのインパクトを可視化するだけでなく、新たな変革テーマの発見にも繋がっている。
課題の解決に必要な人材の確保やスムーズな意思決定が可能な組織体系の整備を含む、経営基盤の変革がサステナビリティ経営を実践していくためのカギを握るだろう。

まとめ ~真のサステナビリティ経営の実現に向けて~

多様な社会課題が山積する現代社会において、企業経営は従来の「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」へと変遷している。そうした中、企業には、従業員・顧客・サプライヤー・地域社会など関連する全てのステークホルダーの期待値に応えながら、中長期視点での企業価値向上を目指すことが求められている。サステナビリティ情報開示の義務化など社会的要請を受け、実際にサステナビリティ経営に向けた方針策定に着手する企業は増えつつある。
しかし、サステナビリティ経営を実現するための根本的な企業改革にまで至っていないケースが多いのが実情である。なぜ抜本的な事業改革に至ることができないのか、アビームコンサルティングでは、サステナビリティ経営の実現に向けた障壁と重要成功要因を、図4のように考えている。詳細は、関連ホワイトペーパー「サステナビリティを企業全体の「変革」に結び付けるには ~700社の調査結果から見えた課題と処方箋~」をご覧いただきたい。

 

図4 サステナビリティ経営の障壁と突破のための成功要因

図4 サステナビリティ経営の障壁と突破のための成功要因

アビームコンサルティングは、サステナビリティをこれからの企業経営・事業推進における前提条件・土台だと考えている。さらに、真のサステナビリティ経営とは、「社会課題起点で企業のビジネスモデル・オペレーションや経営基盤を変革することで、企業が社会的/経済的インパクトの両立を実現し、企業価値を高める結果として『社会課題解決の実現』に貢献すること」だと考えている。そのためには、あらゆる企業活動にサステナビリティの視点を組み入れ、デジタルテクノロジーも駆使しながら変革を推進していく必要がある。この機運を全社変革のチャンスとしてポジティブに捉え、社外のネットワークや知見をうまく活用し、中長期的に企業が社会的価値と経済的価値を両立して存続・成長するための道筋をつけていくことが重要である。
アビームコンサルティングは、これからも企業の社会的/経済的価値を両立するサステナビリティ経営の実現とその変革を通じた社会課題の解決に貢献していく。

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