医療・ドラッグ業界を激変するオンライン医療改革と
推進すべき DX・ラストワンマイル戦略とは

【連載 第3回】成長を促進する中央薬局によるラストワンマイル戦略の描き方
(DRUG magazine)

2022年12月8日

 前号では、今後ドラッグ業界は、3つの重要成功要因フレームワーク(以下、QVD)のバランスを取りながら施策を推進していく必要があることを具体的な事例と共に解説した。本号では前号に加えて、患者体験(Customer Experience)を高めていくために必要なオンライン薬局と、従来型の対面式薬局の役割を新たに定義し、多様なニーズに対応するための「ラストワンマイル戦略」について解説する。

中央薬局に集約することで効率的な調剤サービスを提供

国内の人口推移をみると、この先40年は高齢化比率が上昇し続けることが予想される(図表①)。

図表① 国内の人口推移

図表① 国内の人口推移

高齢になるほど、より身近な存在の薬局を求める傾向にあるため、対面式薬局は地域包括ケアの中心として、医療、介護、生活支援といった(QVD の“V”)、患者のライフステージにより密接したかかりつけ薬局のように変化していくと考えている(図表②)。

図表② 消費者が薬局を選ぶ視点

図表② 消費者が薬局を選ぶ視点

 一方、年齢階層別の受診者の傾向から分かるように、オンライン診療は40代以下が7割を占めている(図表③)。

図表③ 年齢階層別 電話診療・オンライン診療の受診者割合

図表③ 年齢階層別 電話診療・オンライン診療の受診者割合

 今後は物理的・時間的な制約の少ないオンラインの利便性(QVDの“Q”)を理解している世代が増える傾向にあるため、オンライン薬局の需要は増加するだろう。
 そして、Amazon pharmacy のようなプラットフォーマーの参入によって市場環境はプラットフォーマーへ参加するところと独自のサービスを展開するところに二極化することが想定される。事業者の経営方針や事業規模等によって、最適なスキームを選択し、QVD を確立していく必要があるだろう。
 そのような環境下において、オンライン、オフラインそれぞれの特性を考慮しながら、QVD の中で最も難易度が高いラストワンマイル(D)のサービスレベルを高めていくためには、「中央薬局」の考え方が有効であると考えている(図表④)。

図表④ QVD と薬局の定義

図表④ QVD と薬局の定義

 中央薬局とは、特定エリアのオンライン服薬指導と調剤フルフィルメントを統括する薬局を意味する。対面式薬局と連携しながらオンライン調剤に伴う役割を集約し、効率的な調剤サービスを提供することを目的とした考え方である。
 各薬局にオンライン調剤を導入した場合、薬局単位でオンライン資格確認システムの導入に伴う投資や在庫の分散によって対応できるキャパシティに限界が出てくる。
 一方で、中央薬局にオンライン服薬指導と調剤機能を集約することで、投資と在庫を一括することが可能となり、調剤フルフィルメントの高度な自動化や、在庫保管の幅も広がり、効率的にオンライン対応を実施することができる。また、特定エリアの商圏に特化することで患者からの距離を縮めることにより数時間で配送可能なため、大手IT 小売との競争においても優位性を発揮できる。

規制緩和が進む調剤業務の外部委託

図表⑤ 各国の中央薬局の状況

図表⑤ 各国の中央薬局の状況

 図表⑤で示したように、海外では既に中央薬局の動きがみられているが、現状の日本の法規制では、同一法人であれば実現できる見込みがある。
 今後、ドラッグストアチェーンによる本格的な投資によって競争力が強化され、薬に加えて生活雑貨や生鮮食品等も含めて手軽に入手できる圧倒的なQVD の実現によって大きくシェアを獲得していくことも考えられる。
 また、2022年の政府の規制改革推進会議の答申案では、職種を超えて分担する「タスクシェア」を検討すると明記されている。つまり、薬局の調剤業務の委託についても規制緩和が進み、中小の薬局において調剤機能を外部委託するという選択肢が近い将来実現する見通しがある。
 COVID-19やオンライン医療改革によって、医療・ドラッグ業界は大きな変化点にある。バリューチェーンの川上から川下までDXが進む中で、規制緩和に迅速に対応し、利用者が自社にニーズを俯瞰して捉えていく必要がある。そのアプローチとして、QVD の視点で現在地と将来在るべき姿を再定義しながら、戦略的な投資を行っていくことが有効である。一方で、自社のリソースだけではどうしても解決できない課題も多く存在することが想定される。
 アビームコンサルティングは総合コンサルティングファームとして、ドラッグ業界のみならず、幅広い業界に対して、各分野のプロフェッショナルが客観的な視点からクライアントの課題を整理し、変革の実行まで支援している。
 本稿で紹介した中央薬局構想に有効な小型物流拠点(マイクロフルフィルメントセンター)の導入ソリューションにおいても業界に先駆けて展開しているため、中長期的な戦略検討に取り組みたい事業者は1つの手段として検討いただきたい。

 

永澤 英之

アビームコンサルティング
コンシューマービジネスユニット Manager

永澤 英之(ながさわ・ひでゆき)

金融、通信キャリアの事業企画部門を経て、2016年アビームコンサルティングに入社。小売業を中心に、戦略・構想策定から業務改革、システム導入まで幅広いプロジェクトに参画。近年は、EC チャネルのラストワンマイルを改革するMFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)構築サービスの責任者を兼務。

並河 隆行

アビームコンサルティング
素材・化学ビジネスユニット Senior Consultant

並河 隆行(なみかわ・たかゆき)

製造業を中心に、生産ラインIoT 化/ 製造KPI見える化による製造部門のDX 推進、経営管理部門の業務改革等のプロジェクトに参画。近年は、Sustainability Transformation 推進や、製造DX のグローバル展開、ヘルスケア業界のインサイト発信の取り組みにも従事。

 

  • ※株式会社ドラッグマガジン発行「DRUG magazine 2022年12月号掲載」

関連ページ

page top