組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)に対する
顧客ニーズの在りか

~全国消費者アンケート調査結果から見えた業種/属性別の利用意向~

2023年9月22日

金融業、非金融業を問わず、オープンイノベーションの観点から、新たな変革テーマとして捉えられている組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)。組込型金融とは、消費者が自ら金融事業者にアクセスしなくても、普段利用している非金融事業者の提供するサービスから決済・貯蓄・ローンといった金融機能を利用できることを指す。そのポテンシャルを測るために、アビームコンサルティングでは、各事業者のサービス利用者に対して「組込型金融サービスに対する顧客意識のアンケート調査」を2022年12月に実施した。 
本インサイトでは、調査結果に基づく利用者ニーズについて考察し、将来、非金融事業者が自社のサービスに金融を組み込み、金融事業に進出する際の参入見極めのポイントをご紹介する。 

1. 組込型金融サービスのトレンド

近年、非金融事業者が自社サービスに金融機能を組み込み、新たなサービスを提供する組込型金融サービスへの関心が高まっている。 
組込型金融サービスを巡る動向が活発となってきている背景の一つに、法整備がある。2018年6月の銀行法の改正では、金融機関に対し、オープンAPI(Application Programming Interface)に係る体制整備の努力義務が課され、オープンイノベーション推進に向けての基盤が構築された。また、2021年11月に施行された金融サービス仲介に関する法律では、銀行・証券・保険のすべての領域において、1つのライセンス登録で、金融サービスのワンストップでの仲介が可能となった。本法律により、非金融事業者による複数の金融サービス提供の機会が拡大し、組込型金融サービス発展のための下地がつくられた。 
組込型金融サービスはFinTechの潮流の一つと捉えられるが、その変遷は、大きく三つの段階に分けられる(図1)。 

 

図1 組込型金融サービスの変遷 

組込型金融サービスの変遷

第一段階は、決済や融資、投資などの金融サービスを、金融機関内で全て包括し、一つに集約し提供するものである。第二段階はFinTech企業による、決済機能や融資機能など、得意領域に特化したサービスの分解である。第三段階は、第二段階で分解された金融機能を、非金融事業者で組み直し(リバンドル)する段階である。例えば、非金融事業者A社のスマホアプリに、金融機能として決済サービスを組み込むようなケースである。金融機関の業務がオープンAPIとして提供されたことで、外部サービスとの接続が標準化され、より高度な金融サービスの提供が可能となった。 
次に、組込型金融サービスを取り巻くステークホルダーのメリットについて考察する。組込型金融サービスはエンドユーザーに提供するサービスの形態であるのに対し、BaaS(Banking as a Service)はそれを支える銀行側のビジネスモデルである。 
金融機関側は、BaaSの仕組みを提供する代わりに、非金融事業者のパートナーを介した、新規顧客の獲得が実現可能となる。加えて、非金融事業者からの手数料で収益化する利点もある。非金融事業者側は、独自に銀行免許を取得することなく、自社サービスに金融機能を包含することで、新しい価値を創り出せる。消費者は、一連の購買行動のなかで、シームレス・フリクションレスに金融サービスを享受することができる。例えば、従来、ある商品の決済時、銀行サイトへの遷移及び振込のオペレーションが必要であったのが、サービス内において一連の流れで、操作を完了させることができる。 
このようなステークホルダーのメリットを受け、組込型金融サービスは、国内外を問わず複数事例が登場しており、普及が進んでいることがわかる(図2)。 

 

図2 組込型金融サービス事例 

金融機関名 提携企業名 サービス名 ()内はリリース時期 提供サービス
Goldman Sachs Apple Apple Card(2019)、預金サービス(2023) クレジットカードサービス、預金サービス
Green Dots Uber Instant Pay(2016) 報酬支払サービス
カシコン銀行 Grab Grab Pay (2016) モバイル決済サービス
損害保険ジャパン Shopify Shopifyでの保険サービス(2021) ストア運営リスク保険サービス

出典:各社HPより

2.組込型金融サービスに対する顧客ニーズ

アビームコンサルティングでは、2022年12月に「組込型金融サービスに対する顧客意識のアンケート調査」を、日本国内に居住する16歳以上の個人3,396名を対象に実施した。 

本アンケートでは、17業種において利用意向があると見込まれる組込型金融サービスを仮説立て、各業種の商品・サービスの購買経験がある回答者に対して、当該組込型金融サービスの利用意向を調査した(※1)。業種別に見ると、商品・サービスの購買頻度が多く、購買単価が安い業種ではキャッシュレス決済の利用意向が消費者の60%以上と特に高く、また購買頻度が少なく、購買単価が高い業種では保険の利用意向が40%以上で相対的に高いなど、業種毎に組込型金融サービスの利用意向が異なることが分かった(図3)。 

  • (※1)各業種における回答者数(n値)は以下の通り。 

    スーパーマーケット:3,246、コンビニ:3,192、ドラッグストア:3,204、外食:3,147、インターネットショッピング・通販:3,011、ガソリンスタンド:2,577、病院・クリニック:3,099、家具・ホームセンター:3,093、百貨店・デパート:2,970、レンタカー・カーシェア:1,087、タクシー:2,871、家電量販店:3,177、アパレル:2,798、旅行代理店・宿泊:2,549、航空:2,362、自動車・バイク:2,548、住宅メーカー・不動産会社:1,981 

図3 業種別の組込型金融サービス利用意向

業種別の組込型金融サービス利用意向

加えて、商品・サービスの購買頻度と購買単価により回答者を分類し、各組込型金融サービスの利用意向を分析したところ、同じ業種の中でも、商品・サービスの購買頻度が多く、購買単価が高い優良顧客ほど、組込型金融サービスの利用意向が高い傾向があることが分かった。コンビニの場合、優良顧客の71%がキャッシュレス決済の組込型金融の利用意向があるが、来店頻度が低くかつ購買単価の少ないマス顧客だと、同サービスで、利用意向が54%と低下する。 

 

図4 コンビニ | 購買頻度・購買単価別の組込型金融サービス利用意向 

コンビニ | 購買頻度・購買単価別の組込型金融サービス利用意向

また、回答者の年代別に見ると、一部の組込型金融サービスを除き、20代以下の層では他の年代に比べてキャッシュレス決済の利用意向が72%と高いなど、若年層ほど組込型金融サービスの利用意向が高くなる傾向が確認された(図5)。 

 

図5 年代別の組込型金融サービス利用意向

年代別の組込型金融サービス利用意向

調査結果から、組込型金融サービスの提供にあたっては、特に若年層や優良顧客などの利用意向が高い顧客に対して、業種毎の特性に応じた組込型金融サービスを提供することが効果的と考えられる。

3.組込型金融サービスへの進出の見極め

前述のアンケート調査結果の通り、組込型金融サービスは、業種や顧客属性(優良顧客、若年層など)によっては、サービスの利用意向が高く、売上の増加に寄与する可能性が高いと考えられる。しかしながら、顧客ニーズを見誤り、顧客ニーズに適さないサービスを構築してしまった場合、サービスを十分に利用されず、金融事業立ち上げの投資に対して、効果が見合わなくなる恐れがある。そのため、組込型金融サービスへの進出を見極める際には、適切に顧客ニーズの調査を行う必要がある。 
実際に、進出を見極める際には、本アンケート調査の対象である、組込型金融サービスの利用意向の把握に加え、既存事業とのシナジー効果(組込型金融サービスによる利便性の向上に伴う、既存事業におけるサービス利用頻度の改善など)や、他社サービス(○○PAYなど)からの乗換えの可能性についても、業種や顧客属性に応じて、調査を実施することが重要と考える。 

<進出の見極めにおける主な検証項目> 

  1. 組込型金融サービスの利用意向(本アンケートの範囲) 
  2. 既存事業とのシナジー効果 
  3. 他社サービスからの乗換えの可能性 

これらの顧客ニーズの調査結果に基づき、市場規模や、決済手数料のコスト削減効果、乗換えのプロモーション費用などについて、定量的にシミュレーションを行い、投資対効果を適切に把握することが、組込型金融サービスへの進出の見極めにおける鍵となる。

一方で、金融業界の知見が少ない非金融事業者が、組込型金融サービスへの進出の見極めにおける上記の検証を自社単独で行うのはハードルが高いケースもある。
アビームコンサルティングは、金融業界/非金融業界における専門知見をはじめ、新規事業進出においても豊富な支援実績を有する。組込型金融サービスへの進出を円滑に進めるサポートを行うことで、金融領域の発展に寄与していきたい。 

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