FinTech領域の最新動向と
新規事業創出におけるポイント

2022年7月20日

FinTechという言葉が世に出て久しいが、金融業界は今なお先端テクノロジーを活用したビジネスモデル変革を加速させている。この潮流は今後も留まることなく、既存金融機関のみならず非金融機関やテクノロジー企業などの新規参入企業にとっても、FinTechへの対応の巧緻が企業の存続と発展を左右する重要な要素となるであろう。
本インサイトでは、アビームコンサルティングがこれまでにFinTech領域での新規事業創出に関して数多く支援してきた経験から得られた最先端の知見に基づき、昨今のFinTech領域における注目すべきテーマと新規事業創出の要諦を考察する。

1. FinTech領域の新規事業創出の動向

銀行、証券、保険、リースといった伝統的な金融機関は、創設以来、政治、経済、社会、テクノロジーに関する様々な外部環境の変化に適時適切に対応することが求められてきた。特に近年はテクノロジーの進展が著しく、金融業界ではFinTechによるビジネス変革は留まることを知らない。

FinTechによる金融業界への影響としては、テクノロジーと金融の融合が進み異業種から金融業への参入障壁が低下したことで、金融機関にとっての競争相手がこれまでの同業他社から新規参入企業に変わってきた点が挙げられる。スタートアップ企業や異業種からの新規参入企業は、コスト構造や顧客接点などのビジネスモデルが既存金融機関と大きく異なり、各社の強みに特化した金融サービスを廉価に提供することが可能となる。その結果、既存金融機関がフルラインナップで提供してきた金融サービスをアンバンドル化(分解・解体)するケースが増えてきた。

一方で、既存金融機関自身がテクノロジーを活用し新たな金融・非金融サービスに進出し、成長の機会として捉える動きも見受けられる。特に足元では「Embedded Finance(組み込み型金融)」と呼ばれる銀行・保険などの金融機能を事業会社のプラットフォームに組み込む取り組みや、事業会社が金融機関を顧客チャネルとしてサービスを展開する取り組みなど、金融機関と非金融機関が手を組む事例も増えている(図1)。こうした昨今のトレンドを踏まえると、既存金融機関はもとより非金融機関にとってもFintechへの取組みが重要な経営アジェンダの一つであると考えられる。
 

図1 金融機関と非金融業種の協業事例

図1 金融機関と非金融業種の協業事例

2. Fintechに関する今後の注目領域

FinTechには既に実用化・コモディティ化(一般商品化)されているサービスから、今後の実用化に向けて研究が進められているサービスなど、様々な領域が存在する。本章では、マーケットで注目されており、今後大きなビジネスに発展していく可能性があると考えている領域を紹介する(図2)。なお各領域の詳細については、「Fintech領域における新規事業創出支援」の資料を参照いただきたい。

図2 Fintechに関する注目の領域

名称 概要
デジタルバンク デジタルを起点に金融サービスをゼロから再設計し、新たな顧客体験を提供する発想で作られた銀行。実店舗を保有せず、スマホアプリのみで24時間365日、預金や送金などの金融サービスを利用できるのが特徴。非対面で取引が完結するため拡張性が高く、非金融業との親和性も高い。日常のあらゆる場面で活用できるプラットフォームとしての活用も期待される。
日本では2021年5月にふくおかフィナンシャルグループによるみんなの銀行が国内初のデジタルバンクとして開業し、2022年1月には国内2例目となる東京きらぼしフィナンシャルグループによるUI銀行が開業している。今後しばらく、新たなビジネス機会を求める地銀によるデジタルバンクへの参入の流れが続くと予想される。
Embedded Finance
(埋込型金融/組込型金融)
非金融事業者が提供するサービスに金融機能を組み込んで新たなサービスを提供することを指し、「埋込型金融」「組込型金融」「プラグイン金融」などとも呼ばれる。金融機関にとってはこれまでにない顧客接点を活用した新たなビジネスモデルを創出できること、非金融事業者にとっては自らのサービスに金融サービスを組み込むことでより付加価値の高いサービスを提供できるようになることが期待される。また、顧客にとっては、一連の購買体験の中で金融サービスをシームレス・フリクションレスに利用することが可能となる。
シームレス・フリクションレスな購買体験を経験した顧客の志向変化は不可逆的で、Embedded Financeへの取り組みはますます加速・拡大していくと見込まれており、金融・非金融を問わず今後あらゆる事業者に対応が求められる。
DeFi
(分散型金融)
DeFi(Decentralized Finance)とは、従来の中央集権的に管理されてきた金融システムとは異なり、ブロックチェーンを基盤に特定の取引仲介者なしに金融サービスを提供する概念。具体的なサービスとしてはスマートコントラクトやレンディングのほか、後述のNFTやデジタル証券、デジタル通貨などが挙げられる。
DeFiは取引仲介者がいないため従来の金融サービスと比較して低コストで提供することができ、非金融機関やテクノロジー企業にとって参入しやすい市場であると考えられる。また、既存金融機関にとって、勘定系システムや事務処理対応を代替する新たなインフラとしても期待されている。一方で、DeFiは運営主体がおらず誰でも取引できることからテロ資金供与の温床になりやすく、制度面で金融当局の動向に注意を払う必要がある。
NFT
(非代替性トークン)
NFT (Non-Fungible Token)とは、ブロックチェーン上で発行されたデジタルトークンのことで、デジタルデータに固有の価値を持たせることができる(非代替性)、マーケット参加者が誰でも安全に売買・譲渡できる(取引可能性)、共通規格を採用することで複数のプラットフォームを跨いで利用することができる(互換性)、一定の契約内容を取引時に自動的に実行できる(プログラマビリティ)といった特徴が挙げられる。
スポーツやアート、ゲーム、IT分野では既に実用化が始まっており、将来的には金融や不動産など新たな分野への拡大も期待されている。一方、NFTの法的位置付けや仮想空間で行われるNFT取引の法規制・権利関係の整理が十分に追いついていない点が課題として挙げられ、今後NFT市場が健全に拡大するにはユーザーが安全に取引できる環境整備が不可欠と考えられる。
デジタル証券 ブロックチェーンを活用し管理されるデジタル上の権利証で、デジタル証券による資金調達はSTO(Security Token Offering)と呼ばれる。ブロックチェーン上で運営されるため24時間365日証券取引が可能となるほか、有価証券の発行・流通・決済に関わる業務を自動化することによるコスト削減、決済に要する時間の短縮化が可能となる。またデジタル証券は小口化が容易なため少額投資が可能となり、個人投資家への裾野拡大も期待される。
STOによる流動化により、株や債券などの有価証券のみならず、航空機・船舶・不動産といったアセットファイナンスや、従来金融商品化が難しいとされてきた著作権などの無形資産や美術品やワイン・貴金属などの有形資産まで、様々な分野での資金調達方法として期待されている。
デジタル通貨 デジタル通貨とは、サービスやモノの購入が可能なデジタルデータに変換された通貨のことで、電子マネー、暗号資産、CBDC(Central bank digital currency/中央銀行デジタル通貨)に分類される。非接触決済手段としての利用のほか、貧困層への金融包摂、データ活用による幅広いサービスとの連携にも期待されている。
電子マネーは、政府によるキャッシュレス推進施策とコロナ禍を背景に、非接触・決済時間の速さといった利便性から、今後も市場が拡大していくことが予想される。暗号資産は海外での利用は活発ではあるものの、通貨主権やプライバシーなどの問題で投機的な側面が強く、主流の決済手段にはなっていないのが現状である。CBDCは一部の国で既に実運用が始まっており、欧米や日本においても注目されている。市場の安定性や中央銀行の機能の維持などに関する法整備が実施されれば、今後各国での導入が拡大していくことが予想される。
情報銀行 情報銀行とは、認定を受けた事業者が個人に関する様々な情報(以後「パーソナルデータ」)をセキュアに蓄積・管理し、本人の同意に基づいてパーソナルデータを活用したい企業に提供する日本独自の仕組み。 企業は質・量ともに充実した情報を活用でき、個人はデータを提供する対価として自らの嗜好に合ったサービスや商品のオファリングを享受することができる。
企業・個人にとってメリットがある仕組みである一方、重要なパーソナルデータが特定の場所に集まることによる情報漏洩リスクも懸念される。こうしたリスクに対し、情報セキュリティ・プライバシー保護に対して一定水準の対応・対策が取られている事業者を認定する任意制度「情報銀行認定制度」などの環境整備も進められている。情報銀行事業への参入事例も既にいつくか現れており、例えば三菱UFJ信託銀行は2021年に情報銀行アプリ「Dprime」の本格提供を開始した。
現状はユーザー個人が情報銀行事業者に対して能動的に預託対象となるパーソナルデータを指定・提供する仕組みであるが、今後様々な企業サイトやプラットフォームに拡散されたパーソナルデータをより容易に連携できるようになれば、本人確認・認証の簡略化や各種行政手続きの代行、ヘルスケアサービスへの応用といったより付加価値の高いサービスを提供できるようになることが期待される。
金融サービス仲介業 2021年11月に「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、新たな金融サービス仲介業制度が創設された。金融サービス仲介業は、個人が金融商品を分野横断的に比較検討しやすくすることを目的として、業態毎の縦割りだった既存の仲介業とは異なり単一の登録で銀行・証券・保険すべての分野のサービスを仲介可能とする制度である。Fintech企業による異業種参入の一例としても注目されている。
2022年5月17日時点で、金融庁「金融サービス仲介業者登録一覧」に登録されている金融サービス仲介業者は株式会社400F、株式会社SBIネオモバイル証券、SCSKサービスウェア株式会社の3社に留まっている。これは利用者保護の観点から、保証金の供託や利用者財産の受入禁止、取扱可能な商品範囲の限定などの規制が一因になっていると考えられる。今後各種規制が段階的に緩和され、異業種からの参入が一層活発化することで、顧客にとってより幅広い選択肢から自分に合ったサービスを選択できるようになることが期待される。
ポイント活用 ポイントは当初、自社顧客が競合他社へ流出することを防ぐ囲い込み手段として導入され、金融機関においても自社サービス利用によるポイント付与、ポイントによる実質的な利回り優遇、株式や投資信託を購入できるポイント投資といったサービスが展開されてきた。近年は企業固有のポイントプログラムのみならず、ユーザーがより多くの加盟店で利用することができる共通ポイントの導入が活発になっている。また、自治体においても、健康ポイントや地域経済の活性化施策としてポイント活用が模索されている。
キャッシュレス・消費者還元事業を背景としたキャッシュレス決済に紐づいたポイント付与や複数の共通ポイントを導入する事業者の増加などにより、ポイントサービスの国内市場は今後も増加する見込みである。今後、いかに上手くポイントを活用できるかが、個人向けビジネスの成功要因の一つであると考えられる。

3. FinTech領域における新規事業創出へのアプローチ

新規事業の創出は、①コンセプト創造、②事業計画の策定、③実行計画の策定、④事業立上、⑤事業展開という段階的なステップが存在する(図3)。なお過去にアビームコンサルティングが実施した調査結果では、コンセプトを創造した事業の内、事業展開に至り単年度黒字化を達成できた事業は25%程度に留まるという結果が出ている。

図3 新規事業創出のアプローチ全体像

図3 新規事業創出のアプローチ全体像

FinTechに関わる新規事業創出でも大きなステップは変わらないが、コンセプト創造段階において、どのようなテクノロジーを活用し、どこをパートナーとして金融サービスを作り上げるべきかなど、FinTech領域での事業創出における課題がある。アビームコンサルティングでは、そうした課題を乗り越え、事業を成功させるために求められるKSF(Key Success Factor/重要成功要因)を5つ定義している(図4)。

図4 FinTech領域における新規事業創出の課題と5つのKSF

図4 FinTech領域における新規事業創出の課題と5つのKSF

4. 新規事業創出支援サービス

アビームコンサルティングでは5つのKSFを実現するため、通常の新規事業創出に対する支援メニューに加え、デジタル技術を活用したビジネスコンセプトやユースケースを創造するためのワークショップ、アイデアソン、パートナー企業とのマッチングなど、FinTech領域における新規事業創出にあわせた支援ラインナップを用意している(図5)。

図5 FinTech関連の支援ラインナップ

図5 FinTech関連の支援ラインナップ

また、アビームコンサルティングでは提供価値の向上とサービスラインナップの拡充に向けて、部門内に「新規事業創出チーム」を形成し、日々新規事業のアイディアやユースケース案を独自に検討し、企画立案したアイディアを事業会社やスタートアップ企業の方々とディスカッション、ブラッシュアップする取り組みを実施している。新規事業案の検討や事業戦略・計画の策定に当たっては、総合コンサルティングファームとしての知見・経験を活かし、業界の枠を超えた自由な発想で革新的な価値を創出するビジネス案を共創することが出来る(図6)。また、その後の事業立上・事業展開に至るまでトータルで支援することが可能なので、興味・関心がある方は是非お問い合わせいただきたい。

図6 アビームコンサルティングの提供価値

図6 アビームコンサルティングの提供価値

FinTech領域における新規事業創出支援

関連ページ

page top