カテゴリー戦略で切り拓く市場の再定義 ──市場の境界を問い直し、次の成長をどう描くか

インサイト
2026.04.30
  • 不動産・建設・住宅
  • 経営戦略/経営改革
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
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事業成長を追求する中で、多くの企業が市場シェアの拡大と新規顧客の獲得に取り組んでいる。既存の市場の中で差別化を図り、顧客にとっての価値を磨き込むことは、正しいアプローチであり、欠くことのできない取り組みである。
しかし、その努力を重ねても「ある水準から先の成長が描きにくい」と感じる場面はないだろうか。施策を改善し、精度を上げているにもかかわらず、獲得の天井が動かない。こうした壁にぶつかるとき、問題は施策の巧拙ではなく、そもそも「どの市場で、どのように戦っているか」という前提にある場合が少なくない。
本インサイトでは、「カテゴリー戦略」という視点からこの構造的な問題を捉え直し、そこから見いだされる成長余地を、顧客接点やマーケティングの実装につなげるための考え方を解説していく。

執筆者情報

  • 清水 慶尚

    清水 慶尚

    Principal

ユーザーはどのように市場を動いているか

デジタル化が進んだ現在、ユーザーが商品やサービスを探す行動は、検索エンジンだけでなく、特定のポータルサイトや専用アプリを起点とするケースが増えている。その結果、ユーザーの探索行動は、多くの場合、何らかの「カテゴリー」の中で完結する構造を持つようになった。例えば、住まいを探す人は賃貸物件のポータルサイトを開き、家電を買いたい人は家電量販店やECサイトの該当カテゴリーを見る。通信サービスを比較したい人も、料金比較サイトやキャリアごとの案内ページを起点に検討を始めることが多い。ユーザーは多くの場合、自分の頭の中にある「これはこういうジャンルだ」という認識に沿って調べ、探し、選んでいる。

ここで注意すべきは、ユーザーがそのカテゴリーを「自覚的に選んでいる」とは限らないことである。サービス提供者側がカテゴリーごとにポータルやプラットフォームを構築しているため、ユーザーは自然とその枠組みの中で探索を始める。隣接するカテゴリーの選択肢が横断的に提示されていることは少なく、結果として、ユーザーの検討行動はカテゴリー内で閉じやすい構造になっている。

こうした構造は、ユーザー自身のリテラシーが上がるにつれて徐々に崩れていく。最初はある分野のカテゴリーで探し始めた人が、比較検討を重ねる中で別のカテゴリーの存在を知り、そちらも見に行くようになる。しかし、最初から市場全体を俯瞰して選択肢を比較しているユーザーはごく少数である。多くの人は、見えている範囲の中で最善を探しているにすぎない。

一方、売り手の側もまた、この構造に最適化しがちである。業界慣行や流通構造で定義されたカテゴリーを前提に、その中での差別化やシェア獲得を考える。カテゴリーの母数が、事実上、自社の市場規模の上限であるかのように捉えられやすい。

ユーザーはカテゴリーの中で商品や情報を探し、企業もカテゴリーの中で競い合う。この構造が固定化されると、マーケティングの精度をどれだけ高めても、成長余地はそのカテゴリーの枠を超えない。ここに、もう一段上の視座から戦略を考え直す余地がある。

賃貸住宅市場で見る、カテゴリー内競争の限界

ここからは、賃貸住宅市場を事例にとりながら、カテゴリー内競争の構造と限界を具体的に紐解いていく。

賃貸住宅市場には、一般賃貸のほか、公営住宅、ウィークリー・マンスリーマンション、民泊など複数のカテゴリーが存在する。市場規模には大きな差があり、一般賃貸が市場の中心的なボリュームを占める一方で、その他のカテゴリーは相対的に小さい。住まいを探すユーザーにとっては、いずれも「住む場所を確保する」という同じ課題に対する選択肢であるが、カテゴリーごとにポータルサイトや申込窓口が分かれているため、横断的に比較することは容易ではない。

この市場で最もボリュームが大きいのが一般賃貸であり、住まいを探す多くの人は、まず大手賃貸ポータルや物件検索アプリを起点に行動する。そこで条件を絞り込み、内見し、契約する。この動線はきわめて確立されたものであり、多くのユーザーはこの一般賃貸というカテゴリーの中で検討を完結させている。

一方、UR賃貸や公営住宅、ウィークリー・マンスリーマンションなどは、それぞれ独自の申込ルートやポータルを持っている。一般賃貸のポータルで検索しても、これらのカテゴリーの物件がすべて表示されるわけではない。つまり、ユーザーから見ると、住まいの選択肢は本来カテゴリーを超えて広がっているにもかかわらず、実際にはカテゴリーごとに分断された探索体験の中にいることになる。

こうした構造のもとで、各カテゴリーの事業者はそれぞれのカテゴリー内での競争に最適化していく。同じカテゴリーの中で設備や料金、サービスの差別化を図り、限られたパイの中でシェアを争う。しかし、カテゴリーの規模が相対的に小さい場合、その中でどれだけ精度の高いマーケティングを行っても、獲得の上限はカテゴリーの母数に制約される。

こうした構造は、賃貸住宅市場に限った話ではない。多くの市場で、カテゴリーの定義は流通構造やサービス提供者側の分類によって決まっており、企業はその中で最適化を繰り返している。しかし、ユーザーの「課題」は本来、カテゴリーの境界を超えている場合が多い。

ゲームチェンジは「市場の再定義」から始まる

では、カテゴリー内の競争だけに留まらず、市場全体の構造を変えるには何が必要か。ここで鍵になるのが、「市場の定義そのものを変える」という発想である。これは単なるマーケティング施策の見直しではなく、どの成長機会を自社の事業機会として捉え直すかという、経営レベルの意思決定に関わるテーマでもある。

ユーザーは必ずしも「このカテゴリーの中で最善のものを選びたい」と考えているわけではない。初期費用を抑えたい、導入のハードルが低い選択肢がほしい、自分の条件に合う住まいを見つけたい──こうした課題の解決こそが、意思決定の本質である。そしてその課題に応えうる選択肢は、必ずしもユーザーが現在探しているカテゴリーの中にあるとは限らない。

この視点に立つと、マーケティング戦略には少なくとも3つのレイヤーが見えてくる。

第一に、既存カテゴリー内での競争である。自社が属するカテゴリーの中で、どうポジションをとり、どうシェアを獲得するか。これは従来のマーケティングの基本であり、当然ながら欠かすことはできない。

第二に、別カテゴリーからの流入を創出することである。他カテゴリーにいるユーザーが、自社の属するカテゴリーに移動する可能性を見据え、その流入を戦略的に作り出す。

第三に、流入してきたユーザーにとって、自社が最も選ばれる存在になることである。別カテゴリーから流入するユーザーは、新しいカテゴリーについてまだ十分な知識を持っていない。だからこそ、その移動の動機として「自社の特徴」が最も強く想起される状態をつくることができれば、流入した新しい市場の中で圧倒的な優位を築くことができる。

第二・第三のレイヤーを加えることで、カテゴリー内のパイの奪い合いから、市場そのものを拡張する戦い方へとゲームが変わる。これが「カテゴリー戦略」の核心である(図1)。

図1 カテゴリー戦略

どのカテゴリーから、どんな理由で流入をつくるのか

カテゴリー戦略を具体的に設計するには、「どのカテゴリーから」「どのような理由で」流入を作るのかを明確にする必要がある。再び、賃貸住宅市場を例にとって考えてみよう。

賃貸住宅の各カテゴリーには、それぞれ異なる特性がある。初期費用の水準、契約期間の柔軟性、設備の充実度、申込時に求められる条件など、カテゴリーごとにハードルの構造が異なっている。

こうした特性の違いは、裏を返せば、あるカテゴリーのユーザーが「別のカテゴリーに移動する理由」の候補でもある。
例えば、一般賃貸で物件を探しているユーザーの中には、「初期費用の負担を減らしたい」「家具や設備が備わった住まいがほしい」「短期間だけ柔軟に借りたい」といったニーズを持つ層がいる。一般賃貸はカテゴリー全体のボリュームが大きいため、こうしたニーズを持つユーザーの絶対数も多い。しかし、一般賃貸の標準的な契約構造では、これらのニーズが十分に満たされるとは限らない(図2)。

図2 カテゴリー間移動のイメージ

一方、他のカテゴリーに目を向けると、初期費用が比較的軽い、家具付き物件が多い、短期契約に柔軟に対応できるなど、一般賃貸とは異なる特性を持つ選択肢が存在する。つまり、一般賃貸のユーザーが重視する条件を、別カテゴリーの特性が満たしている場合がある。同様に、他カテゴリーのユーザーの中にも、現在利用しているカテゴリーでは満たしきれないニーズを潜在的に抱えている層が存在しうる。

ここで重要なのは、ユーザー自身がカテゴリーを横断して比較しているわけではないという点である。前述のとおり、多くのユーザーはまず見えているカテゴリーの中で探索を始める。したがって、カテゴリー間の移動は、ユーザーの自発的な行動に委ねるのではなく、事業者側が意図的に設計すべきものである。

具体的には、次のような問いを立てることが出発点となる。一般賃貸を起点に探しているマジョリティの中で、どのようなニーズや制約を持つ層が、自社カテゴリーの特性によって課題を解決できるのか。その「移動の理由」を明確に定義し、訴求の軸として設計することが、カテゴリー戦略の核となるターゲティングである。

なお付言すれば、こうしたカテゴリー間の分断は、将来的に生成AIの普及によって変化していく可能性がある。「私はこういう暮らしを、どんな場所で、どのようにしたい」という自然言語での探索が一般化すれば、カテゴリーの壁を超えた横断的な情報取得が日常のものになるだろう。しかし現時点では、ポータルやアプリによる分断が市場の構造を規定しているのが実態であり、カテゴリー間の移動は事業者側の戦略設計に委ねられている。

リード創出は、カテゴリー間の移動をどう実装するかで決まる

カテゴリー戦略によってターゲットと「移動の理由」が定まったとしても、それだけでは事業成長にはつながらない。「理論上、そこにターゲットがいる」ことと、「実際にそのターゲットにアプローチできる」ことは、まったく別の問題だからである。

ここからは、戦略を施策へと変換する実装のフェーズに入る。ここで重要なのは、カテゴリー戦略の価値が「市場をどう見直すか」という発想そのものだけで決まるわけではない、という点である。どのカテゴリーから、どのような理由でユーザーを移動させるかを定めても、実際にそのユーザーへ届く接点を持てなければ、戦略は成果に変わらない。言い換えれば、カテゴリー戦略は、他カテゴリーからの流入をデジタル上でどう設計し、どう獲得につなげるかまで落とし込めて初めて、事業成長の実装論になる。

賃貸住宅市場の場合、最大のボリュームを持つ一般賃貸の検討層は、大手ポータルサイトや物件検索アプリの中で行動を完結させていることが多い。この層は、物件情報を都度検索エンジンで調べるというより、専用のアプリやサービスに直接アクセスして検索する傾向が強い。そのため、検索エンジン経由のリスティング広告やSEO施策だけでは、この層に十分にリーチすることが難しい。

つまり、カテゴリー戦略で「一般賃貸の検討層から流入を作る」と設計しても、その検討層がポータルやアプリに囲い込まれている以上、通常の検索起点施策だけでは接触できないという構造的な問題がある(図3)。

図3 リーチできていない他カテゴリーのユーザーへのリーチ方法

しかし、ターゲットが定まっていれば、届く接点を設計する方法は存在する。

一般的な検索起点施策だけでは届きにくい相手であっても、別の接点から認知や比較検討のきっかけをつくる設計は可能である。重要なのは、特定の媒体や手法そのものではなく、ターゲットがどのような文脈で情報に触れ、どの段階で別カテゴリーを選択肢として受け入れやすいかを見極めたうえで、接点を組み立てることである。

ここで重要なのは、こうした個別の手法の仕組みを詳しく理解すること自体ではない。大切なのは、「狙うカテゴリーとターゲットに応じて、届けるための接点を設計する」という認識を持つことである。ターゲットを明確に定義し、そのカスタマージャーニーに即した接点を選定していくことが、実装設計の基本となる。

ただし、広告配信によって接触できたとしても、それだけでカテゴリー間の移動が完了するわけではない。他カテゴリーから流入するユーザーは、新しいカテゴリーについてまだ知識が浅い。一般賃貸で探していた人が別カテゴリーの選択肢に初めて触れたとき、「なぜそのカテゴリーが自分に合うのか」が即座に理解できなければ、関心を持ってもらうことはできない。

したがって、流入後の導線設計が不可欠である。広告メッセージと整合したランディングページを用意し、「初期費用を抑えたい人にはこの選択肢がある」「家具付きで短期間から住みたい人にはこのカテゴリーが合う」といった形で、ユーザーのニーズとカテゴリーの特性を接続する情報設計を行う。ユーザーが流入した直後に「自分が探していたものがここにある」と感じられる状態をつくれるかどうかが、カテゴリー間移動の成否を分ける。

トップページに遷移させて自力で探させる設計では、せっかくの流入を取りこぼす可能性が高い。広告の配信設計、訴求メッセージ、ランディングページの構成、条件に応じた情報提示を、一連のプロセスとして設計することが求められる。

このように、カテゴリー戦略の実装とは、「どの市場から、どんな理由で、どうやってユーザーを連れてくるか」を一貫して設計することである。戦略を描くだけでは不十分であり、ターゲットへのアプローチ方法と、カテゴリー間の移動を実際に促す接点・導線の設計まで落とし込んではじめて、戦略は成果に変わる点に留意すべきである。この一連の設計(戦略策定・データ活用・メディア実装まで)を横断して統合的に設計できるかが、実行力の差を生む重要なポイントとなる。

アビームコンサルティングは、これらを分断することなく一体として捉え、設計から実装まで支援している。

おわりに

本インサイトでは、カテゴリー戦略の考え方と、その実装プロセスを賃貸住宅市場の事例を交えて整理した。

改めて要点を振り返ると、ユーザーは思っている以上にカテゴリーの中で調べ、探し、決めている。企業もまた、カテゴリー内の取り合いに最適化しやすい。この構造を打ち破るには、カテゴリー内の競争だけでなく、市場の定義そのものを見直し、カテゴリー間の競争を意図的に設計する必要がある。

そして、戦略を描いた後には、ターゲットにどうアプローチし、カテゴリー間の移動をどう促すかという実装の設計が欠かせない。戦略と施策が分断された瞬間に、カテゴリー戦略は机上の空論に戻ってしまう。カテゴリー戦略の議論にとどまらず、実際に他カテゴリーからどうユーザーを取り込むかの設計までを視野に入れることが、次の成長につなげるうえで重要となる。

もし、既存市場の中で競争を続けてもなかなか成長の打ち手が見えないという課題があるならば、まず「自社が戦っている市場の定義は正しいのか」という問いを立ててみることを勧めたい。市場の境界を問い直すことが、新たな成長余地を見出す出発点になるはずである。限られた市場の中での最適化に閉じず、どこに成長余地を見いだし、どう実装へつなげるか。カテゴリー戦略は、その問いに向き合うための有効な視座となる。
アビームコンサルティングでは、こうしたカテゴリー戦略の構築から、狙うべきカテゴリーとターゲットの設計、マーケティング施策、デジタルアドを活用したリード創出までを一貫して支援している。

また、顧客ニーズや利用シーン(オケージョン)を切り出すペルソナ構築において、「AIペルソナ」を活用して市場分析と施策の有用性評価を行うアプローチも有効である。この方法は、自社データのみならず、外部の鮮度の高い大規模なデータを用いて、生成AIによってクラスターベースのペルソナを構築するものである。これにより、顧客ニーズや商品・サービスに対する需要度の解像度を飛躍的に高めることが可能となる。詳細に関しては、ぜひお問合せいただきたい。

さらに、新たなカテゴリーの創出や、既存のカテゴリーに対して競争軸・対比軸を提示し、新たにカテゴリーを切り出す際に有効な手段が、戦略PRである。広告を活用してカテゴリーそのものの認知や、新たなカテゴリー内における自社のNo.1のポジションを訴求することは可能ではあるが、その実現には多大なコストを要する。
これに対し戦略PRは、第三者機関や行政、メディアとの連携を通じて、社会的な争点や課題と自社の提供価値を結びつけ、世論形成を図るアプローチである。いわば、社会的文脈の中で、「トレンド」を戦略的に生み出していく手段と言える。

アビームコンサルティングでは、データに基づく社会論点の設計から、第三者機関やメディアとの連携に至るまでを統合的に設計し、「カテゴリーそのものを立ち上げる」コミュニケーション設計の支援も行っている。具体的な手法については、別の機会に紹介したい。


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