【インド×日本企業】共創と変革が導くこれからのグローバル戦略(第3回) 自社にあったGCC活用の方法でまずは第1歩を

Head of ABeam India Business 大村 泰久
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アビームコンサルティングは2025年7月、インドのアライアンス・パートナーで、およそ4000人のテクノロジー人材を擁するOptimum Infosystemと協働し、グローバルケイパビリティセンター(Global Capability Center、以下GCC)を開設した。

すでにインドには1,800ものGCC拠点があり、欧米企業の活用が先行するが、日本企業の活用はそのうち90拠点にとどまるなどこれからだ。言葉や仕事の進め方の違いなどハードルはあるが、この好機を逃さず利用に踏み切る意義はどこにあるのか。アビームコンサルティングのGCC設立を主導したサステナブルSCM戦略ユニット プリンシパル・Head of ABeam India Businessの大村泰久が分析する。

※本記事は、3回連続企画の最終回です。

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アビームコンサルティング 
プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰

アビームコンサルティング プリンシパル・Head of ABeam India Business サステナブルSCM戦略ユニット 大村 泰久

デジタル立国インドの変ぼうと 急速に高まるGCCへの期待

ここまで、世界からインドに注がれている熱い期待や、実際にGCC(Global Capability Center、以下GCC)を戦略的に取り込むことで、欧米のエンタープライズやビッグテックがどのような成果を上げているのかについて触れてきた。同時に、日本企業がGCCを利用するうえで意識しておきたい点も共有してきた。

これまでインドは、人件費の手ごろさなどから、ITに関するオフショア開発拠点、コールセンターやバックオフィス業務を担うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を担う国として知られてきた。しかし現在は、企業変革のテーマに直結する価値創出サイクルをドライブする実働部隊GCCの中心的存在となった。今ではインド全土に、およそ1,800ものGCCが存在するが、これは世界中に存在するGCCの大半を占める。まずは、今やデジタル立国となったインドのイメージを、これまでの認識から更新しておく必要が来ていることを紹介した。

こうしたインドの躍進の背景には、政治的な安定や経済的発展、AIネイティブともいうべき高度IT人材の豊富さなどがある。アマゾンやグーグル、マイクロソフトなどのグローバル企業はいち早くこうした変化に着目して投資を進め、今やインドには、世界的な企業がこぞってGCCを置く。一時は自社でGCCを内製する動きも見られたが、拠点の維持管理、人材の確保や教育などの負担は大きく、今はインドにあるGCCとの共創が主流となっている。

グローバル企業が、世界中にある拠点の大規模な業務変革に取り組むなど、ベストプラクティスを積み重ねる一方で、日本企業の事例はまだ少ない。こうした現状を踏まえ、日本・アジア発で経営改革やデジタル変革を数多く支援してきたアビームコンサルティングは、長年のインドでの活動から得た知見を生かし、2015年の資本参加以来インドのアライアンス・パートナーとして関係を深めてきたOptimum Solutionsと協働、独自のGCCを2025年7月に開設した。

すでにインドで数多くのGCCが稼働し、それによって自社のイノベーションやトランスフォーメーションを推し進めるグローバル企業があるなかで、日本企業の取り組みが少ない理由は言語や商習慣、オペレーションの違いなどによるところが大きい。これを、アビームコンサルティングが磨いてきた異文化・異なる価値観を橋渡しし、双方の強みを最大限に活かすアプローチによって支援できるとの思いがここにはある。

同時にGCC活用を推奨する理由として指摘しておきたいのは、近年の急激なAIの進化だ。これまでのデジタルテクノロジーでは実現不可能だと思われた領域の変革も、AIによって実現可能性が高まり、およそ考え得る事業活動のすべてがその視野に入ってきた。こうした状況になった瞬間に、世界中で優秀なAI人材の争奪戦が発生、人材がひっ迫する状況となった。インドには、豊富なAI人材を抱えるGCCが数多く存在する。インドに対する期待が一気に高まった理由がここにもある。

日本企業もAIを活用した事業変革を急ぎたいが、自前でリソースを確保するには時間も資金もかかってしまう。こうしたなかで、日本企業のグローバル進出に伴走してきたアビームコンサルティングが立ち上げたGCCで、新たな価値創出に着手する好機をつかんでいただきたいと考えている。

大村泰久

企業規模に応じて支援の形は多様。定型業務からでもまずは検討を

かつてはGCCを内製化する動きが見られたと述べたが、今でも規模が大きな企業であれば不可能ではないだろう。事実そうした例も見受けられるが、言語などの壁が大きく、標準プロセスの省人化など、限定的な成果にとどまると聞く。

一方で中堅企業においても、GCCを活用したイノベーションやトランスフォーメーションに取り組む必要性を感じていながら、どのように第1歩を踏みだしたらよいのか分からないという例が多い。

このようなケースでは、今一歩踏み込んだBOT(ビルド・オペレート・トランスファー)モデルを活用して支援企業の組織内に入り、自走するまでオペレーション遂行の実働部隊になることも可能だ。

さらに、自社で組織を抱えることは難しいという企業については、「マネージドサービス」でGCC機能をサブスクリプションで利用する方法も用意している。

マネージドサービスには別の利点もある。日本企業がGCC活用などでデジタルテクノロジーを用いた変革に踏み出す時、大きな課題となるのが「サイバーセキュリティ」だろう。今やRaaS(Ransomeware as a Service)とも呼ばれる犯罪サービスを提供する国際的な犯罪集団が存在し、企業が大規模かつ甚大なダメージを負う例が後を絶たない時代となった。

GCC活用でデジタル変革に着手しながら、マネージドサービスで高いサイバーセキュリティを担保することで、自社で対応するより圧倒的にコストを抑えることができる。

また、第1歩は定型業務の効率化といったBPO的なアプローチでもいいだろう。利用によって社内的な理解を深めたうえで、マーケティングやR&Dなど、より戦略的な視点で活用の領域を広げていく進め方もある。

GCC活用を通して、インドの知見に学ぶ

ここからは、少し視点を変えてGCCの応用的活用ともいえる知見を共有したい。私はこれまでのインドでの活動を経て、インドから学ぶことも多かったが、ここで紹介するのはその一例である。一言で表現するなら、「セールスイネーブルメントの可視化」とも言えるものである。

インドでの営業スタイルは、ただひたすら1時間でも2時間でも電話で相手に話しかけることで結果につなげていく手法が一般的だ。しかし、どのような会話が成果につながりやすいのかなど、可視化・構造化されてこなかった。

日本では、訪問した日付や顧客先、提案内容、それに対する反応や商談の結果などは営業日報にまとめられ、関係者に共有される。しかしインドでは、電話での会話はレポートに残されることがない。そのため、優れたスキルを発揮するセールスパーソンがいても、資産になっていなかった。

唯一分かるのは、「失注」や「回答延期」などの端的な結果のみであった。そのため現地のマネジメントや日本の経営層に共有されることもなく、まさに「ブラックボックス」だった。ここに着目し、可視化・構造化したいというニーズは、かなり多くの企業から寄せられていた。

ここにブレイクスルーをもたらしたのがAIだ。セールスパーソンの交わした音声をデジタルデータとして録音して要約したり、CRMに連携したりすることで、これまでブラックボックスだった営業活動を可視化し、商談の成功率を高めることが可能になった。

国民性の違いなどを加味する必要はあるが、こうしてインドに眠っていたケイパビリティを標準化すれば、日本を含むアジアなどに横展開できる可能性や、同じ手法で他の国の市場でのベストプラクティスを抽出することも考えられる。こうしたイノベーションも、GCCの利用で実現するだろう。

このように、インドで成果を上げている事例を新しいビジネスモデルとして磨き、他の市場に応用するなど、言わば「インドからの逆輸入」も、GCC活用によって見えてくる副産物である。

製造業こそGCC活用を キーワードは「ヒューマンレス」「タンジブル」

別の原稿でも紹介した、ある製造業向けのIT保守サービスを展開している事例では、AIを活用してオペレーションを可視化し改善に取り組んでいる。日本の拠点はもとより、イギリスにあるCoE拠点に対しても、インドのGCCであぶりだした課題や改善策を共有し、全体でPDCAサイクルを回している。この企業が最終的に目指しているのは、オペレーションの「ヒューマンレス」だ。

ここでいう「ヒューマンレス」は省人化、人員削減という意味ではない。現場で疑問や問題が発生した際に、これまではエンドユーザーが情報システム部門などに連絡し、回答を待つ間は業務がストップするなどのロスが生じていた。しかし、AIを活用することで、現場の担当者がAIに質問し、すぐに対応策を見つけ出し、自己解決につなげる。また、AIが現場が滞る原因や、障害の予兆を発見し、予防的対応や改善方法を提案してくれる。つまり、現場の担当者が困ったときにすぐにAIが助けてくれ、業務が止まることなくスムーズに進められる。こうした、従来はIT部門に頼っていた現場担当者が自力で問題解決できるという世界観を指した言葉だ。

私たちアビームコンサルティングでは、インドに開設したGCC活用について、下図(図1)の左にあるようなユースケースを提案している。金融業界はもともとデジタルと親和性が高くGCC活用のイメージは湧きやすい。しかし、製造業はタンジブル(物理的)なインダストリであるだけに、容易ならざる部分がある。

図1 アビームコンサルティングが勧めるGCC活用のイメージ

製造業は生産設備を持ち、材料、技術者、加工、組み立てなどが関わってくるためだ。ただ、欧米では製造業のデジタルツイン環境がインドのGCCに構築されている例もあるように、製造業の業務プロセスは、通信環境やデジタルテクノロジーの進展、AIの進化・普及で大きく変わろうとしている。これまでGCCによる変革が難しいと思われていた製造業の現場の業務こそ、むしろ大きな恩恵を受けられると考えている。

「まだ先の話ではないか」とも思えるが、実はすでにその準備ができているといえる部分もある。少し前に大いに議論されたIoTによって、生産現場の動きをデジタルで可視化する試みが、多くの製造現場で見られた。この時は、取り組みの多くが可視化・リモート監視にとどまり、取得したデータの活用にまで至らなかった。そこにAIを活用したGCCが機能する余地がある。

IoT基盤で取り出せるようになった世界各地の製造現場のデータを、インドのGCCがAIで管理。不良検知や対応策の検討によって歩留まりの改善はもとより、品質の向上につなげることで収益増の起爆剤にしたり、品薄状態だった製品の供給量を適正化したりするなどの成果が見込めるのではないかと考える。

こうした施策を、日本のヘッドオフィスの意思決定とインドのGCC稼働で実行、さらなる価値向上のサイクルを回していく。また、製造現場のみにとどまらず、図1にある「顧客体験高度化」「R&D機能モダナイゼーション」なども製造業の価値向上の視野に入る。

ここまで全3回にわたってインドのGCC活用の可能性を多角的に紹介してきたが、最後にお伝えできることは1つである。「ビットするならインドをおいて他にない。そして、タイミングは紛れもなく『今』」ということだ。

地政学リスクをはじめ、従前にないボラティリティに混乱が深まるなか、正解の見極めは容易ではない。しかし、資金を滞留させず、積極的に有望な投資先を探すことが重要である。さまざまな観点から好条件がそろうインドは、注目に値する投資先であることは確かだ。そして、その意思決定を支えるサポート体制が、アビームコンサルティングにはすでに整っている。


略歴

大村泰久
アビームコンサルティング プリンシパル・Head of ABeam India Business
サステナブルSCM戦略ユニット

2001年新卒でアビームコンサルティング入社後、日系企業のグローバル基幹システム刷新案件を中心に多業種・多地域の案件に従事。2016年から9年間、アビームコンサルティングのSAPビジネスのグローバル責任者としてアライアンス戦略を推進。2024年にインドビジネス立ち上げのリーダーに就任。40社近い在インドの日系企業の実地調査に基づき、いまインドに求められるオファリングを整備。2025年よりGCC(グローバルケイパビリティセンター)をOptimum Solutions社とインドに設立、運用を開始。

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