今泉:金利が徐々に上昇する中、かつてのように短期金融市場で余剰資金を管理することを含め、企業は資金効率の意識を高めています。キャッシュマネジメントの効率化・高度化を進めるうえで、金融のデジタル化は重要な手段になるでしょう。一部のグローバル企業はすでにそうした取り組みを始めています。
鈴木:代表的な事例の一つはJPモルガン・チェースです。ブロックチェーンを活用したキャッシュマネジメントサービスを、シーメンスなどのグローバル企業に提供しています。各国の拠点で発生する資金の余剰と不足を自動的にマッチングさせ、リアルタイムで最適化するサービスです。今後は、日本企業の間でもキャッシュマネジメント高度化へのニーズは高まるでしょう。
今泉:グローバルで資金が行き交う時代ですが、金融は基本的にはローカルなビジネスだと思います。法人は各国の商慣習を踏まえて活動しますし、個人はそれぞれのライフプランに応じて金融取引をするなど、各国の文化が反映されます。金融機関の強みの多くは、そうした顧客に向き合う中で培った知見やノウハウに基礎があるのではないでしょうか。それらは、デジタル化の進展によって一気に消失してしまうようなものではありません。その意味で、デジタルを得意とするプレーヤーと既存金融機関とのコラボレーションは有効だと思いますし、実際にさまざまな連携が生まれています。デジタル化が進む中で、金融機関は長年にわたる顧客との信頼関係などの強みを、いかにマネタイズするかが問われているといえるでしょう。
鈴木:アメリカではステーブルコインの流通量が急増しています。この分野の規制枠組みを定める「ジーニアス法」の準備が進んでいますが、法が施行されればこの動きはさらに加速するでしょう。ウォルマートやアマゾン・ドットコムはクレジットカードなど既存決済手段の手数料負担を嫌って、自前のステーブルコインを準備中と伝えられています。既存金融機関がこうした動きにどう対応するかは、一つの大きな論点です。場合によっては、競合関係になることもあるでしょう。トークン化預金は預金が裏付けになるので預金取扱金融機関が介在しますが、ステーブルコインの場合はそうとは限りません。トークンエコノミーが拡大する将来に向け、金融機関はどのような役割を担うべきか真剣に検討すべき時期だと考えます。顧客企業に対するNFTなどのトークンを活用したビジネスモデル創出のコンサルティング支援サービスを始めようとしている地域金融機関もあります。