山中:サプライチェーン全体で理想を共有してCE実現の共創モデルを標準化する意義は大きいと、あらためて感じました。事務機器業界では従前より共創モデルを先進的に推進してきていると承知しています。たとえば、JBMIA(一般社団法人ビジネス機会・情報システム産業協会)によるルール形成や情報流通フレームワークへの標準対応などがあります。
一方でヨーロッパにおいては、2024年にESPR(持続可能な製品のためのエコデザイン規則)が発効しました。さらに、製品の持続可能性や循環性に関する情報をデジタルで一元管理する制度として、産業セクターによっても異なりますが、DPP(digital product passport:デジタル製品パスポート)が段階的に導入されようとしています。これらに対しても、業界全体で対応していくことになるのでしょうか。
中田:DPPなどのルールメイキングに関しても、業界各社と連携して積極的に取り組むことが重要と考えています。DPPのような公的な規制は、複数の業界にまたがってできるだけ共通する規格をつくろうとします。受け身の姿勢で制度の完成を待っていると、業界にとって不利な内容となりかねません。
先ほど、事業収益性を確保するためには「リスクを最小化」することが重要と言いました。規制は将来のリスクですから、一社単独ではなく複数社が協力し合って積極的に提案することで、業界にとって有利な展開に導くことができると感じます。
山中:DPPはサプライチェーン全体に関わるため検討範囲が非常に広く、またステークホルダーも多く登場するため、ルールメイキングも非常に苦労するのではないかと想像します。たとえば、MFP業界として求めていくルールメイキングには、どのようなものを想定していますか。
中田:DPPの狙いの一つには、製品のトレーサビリティを確保してサプライチェーンを見える化することで、消費者が環境負荷の少ない製品、倫理的に違反のない製品を選べるようにするというものがあります。これがMFPにうまく適用されることになれば、交換する共通部品のトレーサビリティが実現します。すると従前のように市場にある製品の修理を自社のみで請け負うのではなく現地のパートナー企業にも情報を提供し、ビジネスチャンスを開放することにつながります。
こうした仕組みの実現によって、世界中にある自前のサービス網や修理拠点を整理統合して最適化し、パートナーと協働して対応していく選択肢も見えてきます。
これを実行するには、情報が大きなカギを握ります。ブロックチェーン技術を使って部品や製品の情報を改ざんできないようにしたり、プラットフォームで共有すべき情報のフォーマットを策定したりする必要もあります。そうしたルールを、他の産業に先駆けて私たちの業界から提案できるよう、協働するメーカーの方々と議論しているところです。
山中:ルールメイキングに関与することの重要性は、他の業界が苦戦する様子から私も痛感しているところです。MFPはグローバルにおいて日本企業のシェアが高い業界です。そのため日本がリードしやすい面もあるかと思いますが、勝機はどの辺りにあるとお考えですか。
中田:確実に協調する領域として市場に問いながらルールをつくるところだと考えます。後手に回ることだけは避けなければいけませんが、前例がないことに挑むわけですから、先手を取れば失敗のリスクも高くなります。ただ、早く動けばフィードバックやリカバリーも早くなりますし、そこから得たノウハウは資産になります。
ご指摘の通りMFPはグローバルにおいて日本企業のシェアが高い業界だからこそ、日本企業が先んじて行動を起こせる数少ない業界だと感じています。だからこそ、我々が日本の製造業のロールモデルをつくる意気込みで推進したいと考えています。