重点化すべきRを見極めるには、第2章で示した4つの視点、とりわけデータ取得能力について、自社の実態を把握することが出発点となる。その入口として、いま製造業で関心が高まっているのが、デジタルプロダクトパスポート(DPP)への対応である。
2024年7月にEUのエコデザイン規則(ESPR)が施行されて以降、製造業のクライアントから、DPPへの対応に関する相談が増えている。DPPの実装には、従来のものづくり工程で流通してきた情報だけでは、想定される要件を十分に満たせない可能性が高い。準備には相応の時間を要するため、何から着手すべきかが課題となっている。
そこで、アビームコンサルティングは、製造業のサプライチェーン改革、製品ライフサイクル管理、環境価値の可視化に関する知見を活かし、クライアントの各種システムに蓄積された情報を精査して、DPPの想定要件とのギャップを可視化する支援を進めている。
たとえば、電気・電子機器のクライアントでは、はじめに規制を実務データ項目まで翻訳した上で「必要最低限の水準」と、市場動向・当局要求の厳格化を見込んだ「競争優位性観点の水準」の二段階のターゲットを設定し、プロジェクトを推進した。その上で、保有するデータの要件適合性とギャップを明らかにし、DPPの実装に向けた具体的な課題の可視化を伴走支援した。法規制にどう備えるかという課題に向き合うところからプロジェクトはスタートしたが、今後は明らかになった課題への対応やデータ取得能力の強化を通じて、自社がどのRで競争優位を築くかを見据えた将来の事業戦略の検討にも伴走していく。
この事例が示すように、もっとも重要なのは、まず自社の実態を把握し、強みを再点検することである。その上で初めて、サーキュラーエコノミーの実装に向けた検討に着手できる。さらに具体的な検討フェーズでは、すべてのRに一律に取り組むことが目的ではなく、どの価値を残せるのか、どの循環ループで競争優位を発揮できるのか、どの段階で収益化できるのかを見極めることが重要である。こうした問いに向き合える企業こそが、サーキュラーエコノミーを競争力へ転換できる。
企業は、環境上望ましい取り組みを網羅的に並べるだけではなく、自社が重点化すべきRを選ぶ必要がある。その選択は、事業領域や製品特性だけでなく、顧客接点や保守体制、回収網、データ基盤、品質保証能力によって変わる。つまり、R-Ladderは外部から与えられる正解ではなく、自社の強みと市場機会を照らし合わせて読み解くべき戦略フレームである。
第3回では、R-Ladderの中でも特に上位に位置づけられるRethinkを取り上げる。Rethinkは、単なるサービス化やサブスクリプション化ではない。設計や販売、保守、回収、データ、KPIをつなぎ直し、製品ライフサイクル全体から価値を生み出す経営変革である。売り切り型事業から循環型収益モデルへ移行するには、何を変える必要があるのか。次回は、その実装に向けた論点を整理する。