日本企業が培ってきた品質、耐久性、保守、回収、リサイクルの強みは、循環価値を高めるための有力な資産である。高品質な製品をつくる力は、長寿命化や再使用、再製造の前提となる。保守サービスや部品供給の仕組みは、製品価値を維持する基盤となり、回収やリサイクルの経験は、使用済み製品を再び事業の中に戻すための入り口となる。
しかし、これらの強みが自動的に競争力につながるわけではない。従来の売り切り型モデルでは、販売後の使用状況や修理履歴、回収後の状態が十分に把握されていない場合も多い。回収された製品が、品質や残存価値に応じて再使用、再整備、再製造、リサイクルへと適切に振り分けられていなければ、価値を最大限に活かすことはできない。
さらに、社内の評価指標や組織構造が新品販売を中心に設計されている場合、修理、再使用、再製造、再販といった取り組みは、成長領域ではなく周辺業務として扱われがちである。新品を一台多く売ることが評価される一方、一台を長く使い続けてもらう取り組みが評価されにくい構造では、循環価値を残す事業は育ちにくい。したがって、サーキュラーエコノミーを事業変革につなげるには、これらを単なる環境施策やアフターサービスではなく、ライフサイクル全体で価値を生み出す収益機会として捉え直す必要がある。
その意味で、今後の競争軸は、「価値を失わせない循環」をどう構築できるかに移っていく。これはリサイクルを否定するものではなく、従来の取り組み基盤を活かしながら、より高い価値を残せる循環ループへと拡張していくことである。
こうした発想は、サーキュラーエコノミーを環境対応から経営戦略へと引き上げる。企業に求められるのは、すべての循環手段に一律に取り組むことではなく、自社がどの価値を残せるのか、どの循環ループで競争優位を発揮できるのか、どの段階で収益化できるのかを見極めることである。
まずは自社製品が図2のどの層で価値を損失しているかを可視化することが出発点となる。そのためには、販売時点から使用・保守・回収に至る製品情報をデジタルにつなぎ、個体ごとの残存価値を可視化することが必要となる。そのうえで、再使用・再整備・再製造・リサイクルへ振り分ける判断基準と、価値保持そのものを評価する指標を組織に組み込むことが求められる。
アビームコンサルティングは、DPPを単なる規制対応ではなく、材料・製品・機能の残存価値を可視化し収益化する経営インフラと捉え、その情報開示支援を通じて、日本企業が培ってきた品質・保守・回収の強みを循環価値へ転換する取り組みを支援している。
第2回では、この問いを考えるためのフレームとしてR-Ladderを取り上げる。R-Ladderは単なる環境対応の分類ではなく、企業がどの価値を残し、どの収益構造で戦うかを考えるための戦略フレームとして活用できる。日本企業が持つ品質、保守、回収、再資源化の強みを、どのRで活かしどのような事業機会へつなげるのか。その選択こそが、サーキュラーエコノミー時代の競争力を左右する。