経営・事業戦略として捉えるAIエージェントを巡る論点-顧客接点から描かれる金融機関のあるべき将来像

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2026.09.15
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AIエージェントは、生成AIの活用領域を利用者に対する回答や情報提供、アイディアの提案にとどまらず、利用者の意思や権限範囲に基づく自律的な判断や実行支援に広げつつある。これにより、金融機関におけるAI活用の焦点は、業務効率化から顧客体験の設計や新たな付加価値の創出へ移行することになる。本稿では、国内外の動向を踏まえつつ、金融機関が経営テーマと位置付けてAIエージェントの活用を目指す際の論点と今後の展望について考察する。

※週刊金融財政事情 2026/8/25号に寄稿したもの

執筆者情報

  • 鈴木 雄大

    Director
  • 射場本 翔

    射場本 翔

    Manager

判断・実行フェーズに移ったAIの活用

金融機関のAI(人工知能)活用は、生成AIの登場から数年で新たな局面に入った。これまでは、利用者の問いに対して回答や情報提供、アイディアの提案などを行うことが中心だった。しかし足元では、目的を理解し、必要な手順を組み立て、複数のシステムや外部サービスと連携しながら「自律的に判断し実行するAI」、すなわちAIエージェントに対する関心が急速に高まっている。

すでに多くの企業では、その利活用方針の検討が進みつつある。ここで重要なのは、AIエージェントを単なる効率化・自動化ツールとして捉えないことだ。社内業務の自動化は、引き続き有望な適用領域である。一方で、経営・事業企画上の本質的な論点は、顧客接点と金融取引プロセスにどう組み込むかにある。

なお、本稿で対象とするのは、オープンAIなどが提供する汎用AIエージェントや、エージェンティック・コマース/ペイメント領域における金融機関以外の活用ではない。金融機関が自ら提供する金融サービスにAIエージェントを組み込み、顧客との接点や金融取引をどのように再設計していくのか。そのことに焦点を当てていく。

今後、顧客の日常生活にAIエージェントが浸透していく中で、金融機関はどの顧客に対し、いかなる局面で、どのような金融体験を提供するのかを設計する視点が求められる。このことは、DX(デジタルトランスフォーメーション)・AI企画部門だけのテーマではなく、中期経営計画やチャネル戦略、収益モデル、リスク管理を担う各部門を横断する経営テーマとして位置付けられる。

金融取引における人とAIの協働モデル

AIエージェントの活用は、金融サービスをどのように変容させるのか。金融サービスは、データに基づく判断と手続きの連続で成り立っている。顧客属性や取引履歴、収支、資産残高、ライフイベント、リスク許容度などを踏まえ、顧客に最適な選択肢を継続的に提示するサービスは、AIエージェントとの親和性が極めて高い。

ここではユースケースとして、個人向けの家計管理や資産形成、住宅購入、教育資金、退職準備、相続など、ライフイベントを起点にした金融コンシェルジュが想定される。口座情報や取引履歴、資産状況、各種ライフイベント、グループ企業内外の情報をインプットし、AIエージェントによる顧客理解が深まれば、顧客は自ら金融商品や手続きの方法を探すのではなく、自らの状況に応じた金融サービスの提案や手続きの支援を受けられるようになる。金融機関が金融商品を販売する際に、こうした変化は、顧客のライフイベントや意思決定への継続的な支援を当該金融機関に促す。

法人向けでは資金繰りや与信、決済、為替、リスクヘッジといった経営・事業課題を踏まえ、日々変化する状況下で最適な選択肢の提示や実行支援を行うことが考えられる。その際に金融機関は、経営課題を起点に、法人との接点を継続的に構築・維持できるかが重要になる。

従業員の役割も変化する。AIが定型的な照会や一次説明、事務処理を担うことで、人は複雑案件や例外対応、専門的なコンサルティング、信頼関係の構築に集中できる。つまり、AIが顧客接点の裾野を広げることで、人がより高付加価値領域に注力する「協働モデル」が現実解といえる。

もっとも、こうした変化は一足飛びに実現するものではない。AIエージェント活用は、まず提案支援や情報提供から始まり、次に判断支援、さらには利用者の承認または事前に定めた条件・権限範囲に基づく手続き・取引実行へと段階的に広がっていくとみられる。
実行形態には、人による承認を前提とするものから、一定の権限の下で利用者に代わって自律的に実行するものまで幅がある。ただ、将来的には単一の取引や手続きにとどまらず、金融機関によるAIエージェントがグループ内や非金融を含む外部サービスを横断的に連携・調整しながら、利用者を支援するかたちに発展するだろう。

AIエージェントの役割が提案から手続き・取引実行へと広がる中で、その実行基盤として親和性が高いのがステーブルコインやトークン化預金、RWA(現実資産トークン化)などを活用したオンチェーン金融である。AIエージェントが「考える主体」として利用者の意向や状況変化を踏まえて方針を判断し、ブロックチェーンやスマートコントラクトが「実行基盤」として送金、決済、資産移転、条件付き取引をリアルタイムに処理する。こうした24時間365日稼働の金融サービスに発展する余地は大きい。

また金融機関は、こうした世界で商品提供者だけにとどまらない。AIを通じて安全に接続できる金融APIや認証、カストディー、オンチェーン実行基盤の提供者にもなり得る。

このようにオンチェーン金融は、プログラムに基づく自動執行やリアルタイムな資産移転を可能にするが、AIエージェントが組み合わされることで、利用者の意向や状況変化を継続的に踏まえながら判断を行い、その結果をリアルタイムな執行につなげることが可能となる。これにより、24時間365日で稼働する新たな金融サービスの実現可能性も広がる。

これらの変化は、金融機関の提供価値を「商品を販売すること」から「顧客の意思決定を支援し、その判断に基づく手続きや取引の実行までを継続的に支えること」へ変える。金融機関によるAIエージェントの活用が進めば、商品提供に加え、顧客やAIエージェントとの継続的な接点を通じて価値を提供するサービス設計が競争力の源泉となり得る。

国内外で模索されるユースケース

AIエージェント活用を巡る動きは日増しに拡大しているが、発展段階や重点領域は国や事業者によって異なる。金融業界でも、業務効率化から顧客接点への活用まで幅広い取り組みが進み始めており、各社がユースケースを模索している。
海外金融機関では、生成AIを活用した業務高度化に加え、AIアシスタントやAIエージェントを活用した取り組みを進めている。業務支援だけでなく、リサーチ・分析や顧客対応支援、顧客のニーズや状況に応じたその他サービスの提供に活用範囲が広がり、人とAIが協働しながら顧客価値を高める新たなサービスモデルが模索されている。
一方、国内金融機関では、顧客資産を扱う上で金融サービスにAIエージェントをどのように安全に組み込むかという観点から、認証や権限管理、説明責任、制度整備などが検討されている。問い合わせ対応や営業支援に加え、AIエージェントを活用した新たな顧客接点による金融サービスなど、各社が異なるアプローチで将来像を模索している(図表)。

もっとも、現時点の主戦場は業務効率化や生産性向上にあり、金融取引そのものをAIエージェントが担う事例は限定的である。特に日本では、顧客資産を扱う社会インフラとしての信頼を損なわないことが重視される。そのため、顧客保護や説明責任、責任分界、個人情報保護、モデルリスク、データガバナンス、セキュリティーへのより慎重な対応が必要になる。
もちろん、こうした慎重な対応は導入速度の制約となり得る。一方で、顧客保護と利便性を両立する仕組みとして設計できれば、信頼を前提とした新たな金融サービスの競争優位にもつながる。加えて、データ連携、外部サービスとの接続、エージェント間連携のルール、利用者保護や権限確認の在り方など、金融機関単独では整理が難しい論点も多く、業界横断での考え方の整合や共通ルールの形成が求められる。

こうした領域では、技術分野の標準化団体やプラットフォーム事業者等によるルール形成の動きに加え、業界団体や関係当局による制度面での整理も重要となる。7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」においても、AX(AI Transformation)の推進が成長戦略上の重要テーマとして位置付けられている。金融庁がAIエージェントの実証事業を進めるほか、与党である自由民主党内でもオンチェーン金融に関する検討が進むなど、今後の環境整備の進展も期待される。顧客接点では差別化を図りつつ、競争領域と共創領域を切り分ける視点が欠かせない。

顧客接点の前提を変える可能性

AIエージェントの整備・普及が進む中で、金融機関が第一に行うべきは、AIエージェントを何のために使うのかを経営課題として定義することである。コスト削減だけを目的にすると、既存業務の部分最適にとどまりやすい。事業企画の観点では、顧客獲得や取引深耕等の顧客価値創出、トップライン向上に対する貢献仮説を明確化すべきである。

第二に、自社の強みからユースケースを絞り込む必要がある。リテールに強い金融機関であれば「家計や資産形成、決済をつなぐ日常接点から」、法人基盤に強い金融機関であれば「資金繰り予測や経営課題に応じた提案支援から」というように、PoC(概念実証)の容易さではなく、自社アセットをベースに収益化と顧客価値につながる起点を選ぶことである。

第三に、ガバナンスを初期段階から設計する必要がある。AIエージェントは情報提供にとどまらず、提案や実行に関与し得るため、誤回答や不適切な勧誘、権限逸脱が顧客の資産や信頼の損失につながる恐れがある。従って、権限設計や認証、外部システムとの接続、ログ管理、人による監督・介入、苦情対応、モデル評価などをユースケースごとに整理し、適切な統制を組み込むことが求められる。こうしたガバナンスにおいては法務やコンプライアンス、リスク管理、システム、営業の各部門を巻き込んだ組織横断的な検討体制の構築が不可欠である。

第四に、実サービスを見据えた小さな実装から始めることである。顧客がAIエージェントに何を任せられるか、どこに不安を感じるかは、実利用環境での検証を通じて初めて見えてくる。限定顧客・商品・権限から開始し、利用データと顧客の声を踏まえて継続的に改善することが重要である。その上で、PoCで終わらせず、MVP(最小限の機能の製品)開発や商用化、機能拡張までを見据えたロードマップを描くことが欠かせない。事業戦略上の価値仮説やユースケース、ガバナンス、人材育成等の観点を踏まえながら、業務や組織、システム基盤を計画的に整備しなければならない。

あくまでもAIエージェントの活用は、価値提供を実現するための手段に過ぎない。当然、既存システムや人による対応の方が適する領域もある。だからこそ、AIと人、既存システムの役割分担を見極め、どの接点をAI前提に再設計するかを経営として決める必要がある。その際に顧客・収益・リスク・必要投資を一体で捉え、実装に向けた道筋を早期に言語化することが出発点となる。

インターネットやスマートフォンが金融のチャネルを変えたように、AIエージェントは顧客接点の前提を変える可能性がある。AIエージェント時代の競争軸は、AIを導入したか否かではなく、AIを前提に顧客から選ばれるサービスモデルを構築できるかで決まる。将来的には、顧客接点におけるAIエージェントの活用が進み、金融機関と顧客との関係性や、金融サービスの提供形態そのものを変化させる可能性もある。こうした変化を見据え、経営として着手すべきは、未来予測にとどまらず、自社の顧客接点をどこから再設計するのかを決めることである。


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