金融機関におけるインドGCCの新たな活路

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2026.07.24
  • 銀行・証券
  • 人材/組織マネジメント
  • グローバル
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執筆者情報

  • Makoto Noda

    Makoto Noda

    Principal
  • Ryoya Sato

    Ryoya Sato

    Manager
  • Yuichiro Takayama

    Yuichiro Takayama

    Manager

1. 「コスト拠点」から「戦略拠点」へ ~変貌するインドGCC

「インドGCC(Global Capability Center)」と聞いていまだに多くの金融機関が思い浮かべるのは、オフショア開発やBPO、すなわちコスト削減を目的とした業務委託先である。しかしながらその認識は急速に古くなっている。

現在インドには約1,800のGCCが存在し、世界のGCCの大半が集積している。さらに2030年には2,550拠点、市場規模は1,100億ドルに達するとの見方も存在する※1。バンガロール、ハイデラバード、プネー、チェンナイといった都市には、グローバル企業の開発・R&D・AI活用の中核機能が集まり、インドは単なる「安価な人材の供給地」ではなく、企業変革を実行するための戦略拠点へと変貌している。
では、金融機関にとってGCCとは何を意味するのか。ポイントは、GCCを「外注先」ではなく「価値創出の実働部隊」として捉え直すことにある。本稿では、欧米・アジアの先進事例からインドGCCの進化を捉え直し、金融機関がGCCを自社の変革力へと転換するための実践的な視点を示す。

2. GCCの進化 ~実行部隊から経営基盤へ

従来のBPOやオフショア開発では、本社側が要件を定義し、インド側がそれを実行するという一方向の関係になりがちであった。一方、GCCが担う領域は、業務改革、エンジニアリング、R&D、デジタル戦略、AI活用など、経営アジェンダに直結するテーマである。つまり、依頼された作業をこなすだけでなく、「この業務にAIを適用すれば、オペレーションを大きく変えられるのではないか」と提案し、構想から実装までを共に進める存在だ。

金融業界でも同様の動きが見られている。特に欧米の大手金融機関においては、インドGCCの位置づけはすでに大きく変化している。GCCを単なるオフショア拠点ではなく、AIやデータ分析、ソフトウェア開発、さらには規制対応やリスク管理といった統制機能に関連する業務まで担う中核拠点として位置づけ始めている。

なかでも特徴的なのは、GCCが「実行部隊」にとどまらず、業務の責任やオーナーシップそのものを担うようになっている点である。例えばCitiでは、生成AIの全社展開を支える実装の中心がインドGCCに置かれ、80カ国以上の業務を支えるグローバルなオペレーションの中核として機能している※2。また、Deutsche Bankでは、数万人規模の人材を擁するインド拠点において、AI活用と人材育成を一体的に進めるとともに、業務のオーナーシップをGCC側へ移管する動きも見られている※3

これらの事例に共通するのは、GCCが本社の指示を受けて業務を遂行する場所ではなく、グローバルオペレーションの一部を構成する「もう一つの経営基盤」として機能している点である。すなわち、GCCはコストを削減するための拠点から、AIを実装し、業務を高度化し、さらにはグローバル全体の生産性と統制を同時に高めるための中核拠点へと進化している。

3. ガバナンスと実務で見るGCC活用の実態

近年の金融機関におけるGCCの進化を理解するうえで有用なのが、ガバナンスの観点から整理された「3線防衛モデル」だ。
本来このモデルでは、

  • 第1線:業務の実行部門
  • 第2線:リスク管理・コンプライアンス
  • 第3線:内部監査

と役割が分かれ、相互牽制による統制が図られている。
従来のオフショア拠点は、第1線としての「作業実行」に限定されることが一般的であった。しかし現在の先進的なGCCは、この枠組みの中でより多層的な役割を担い始めている。
例えば某欧米金融機関では、インドGCCが業務の実行だけでなく、リスク管理やコンプライアンスに関わる第2線の機能や、データガバナンス・モデル管理といった統制領域にも深く関与している。AI活用の拡大にともない、モデルリスク管理や説明責任の確保が重要になる中でGCCがその実装と統制の双方を支える存在になりつつある。
これは、GCCが単なる効率化の手段ではなく、「業務高度化」と「統制強化」を同時に実現する基盤へと進化していることを意味している。

日系金融機関においても、インドGCC活用の動きが見られる。A社はインドGCCにて貿易書類の確認、信用格付、RPA開発・保守などを担い、APAC(アジア太平洋地域)だけでなくニューヨーク、ロンドンなど世界各地の拠点を支援している。さらにAI-OCRを活用し、フォーマットが多様で属人化しやすい貿易事務の効率化にも取り組んでいる。

同社の取り組みで興味深いのは、GCCを「事務集約の場」にとどめていない点である。同社のインドGCCはRPA開発・保守で240件以上の実績を積み、6,000時間以上の労働時間削減につなげたとされている。現在も200以上のプロジェクトが進行し、受託先は15カ国に及ぶ。将来的には社員数を1,000人規模へ拡大する構想も示されており、インド拠点がグローバルネットワークの生産性向上を支える中核になりつつある。

シンガポール系ではB社のインドGCCが特に示唆的だ。B社インドGCCは同社にとってシンガポール外で初かつ最大のオフショア技術センターであり、現在では4,000人超のテクノロジー人材を抱える「戦略的エンジニアリング組織」と位置付けられている。同拠点はAI、データ、クラウド、サイバーセキュリティ、SRE(Site Reliability Engineering:システムの信頼性を維持する運用手法)、決済、コアバンキング、ウェルスマネジメント、機関投資家向け銀行技術などを担い、単なるIT開発・保守拠点ではなく、B社のデジタル変革そのものを支える中核拠点となっている。近年は生成AI、Agentic AI、ブロックチェーンを含む次世代技術の実装を推進する役割も担う。

一方で、日系金融機関がGCCを活用する際の難しさもある。日系金融機関は現場主導で緻密にオペレーションを設計し、高い品質を維持してきた。その強みは大切にすべきであるが、本社側の期待値や仕事の進め方をそのままインド側に求めるだけでは、現地の実行力を十分に引き出せない。

4. グローバル連携と成功に向けた実践アプローチ

GCC活用は、本社とインド拠点の二者だけで完結する取り組みではない。

実際にGCCを拡大し、成果を上げている企業は、本社とインドGCCの二者間のみで業務の移管・集約を計画するのではなく、欧米やアジアなど各地域の拠点や地域本部を含めた多拠点での連携を前提に運営している。
このような体制において重要なのは、特定の拠点のやり方に一方的に合わせるのではなく、各地域の業務特性や規制、顧客要件を踏まえて集約を進める点である。本社側の品質基準や管理手法をそのまま適用するのでも、インド側の効率性のみを追求するのでもなく、グローバル各拠点の実態に即した形で業務プロセスを設計していく必要がある。
その結果として、各地域の業務の特色を維持しながらも、共通化できる部分を標準化していくことで、効率性とのバランスを取ったオペレーションが構築されていく。言い換えれば、GCCは単なる集約拠点ではなく、グローバル全体の業務運営を最適化するための「調整装置」としての役割を担うことになる。
このようにして形成されるGCCの姿は、金融機関ごとに異なる。どの業務をどこまで標準化するか、どの地域の特性をどの程度残すかといった意思決定の積み重ねによって、それぞれの金融機関固有のGCCモデルが形作られていく。

一方で、最初から大規模な変革を目指す必要はない。むしろ、業務内容が比較的標準化されており、効果を測定しやすい領域から着手することが現実的である。金融機関においては、事務業務やシステム保守運用、データ整備といった領域を起点に、段階的に活用範囲を広げていくアプローチが有効だ。その過程で、RPAやAI-OCRによる効率化、データ分析支援、AI活用などを組み合わせながら、業務改善から業務改革へと発展させていくことができる。重要なのは、業務移管そのものを目的化するのではなく、実績と信頼を積み重ねながら、GCCを新たな価値創出を担うパートナーへと進化させていくことである。

特にAI時代において、GCCの価値はさらに高まっていく。AIを理解し、業務に実装できる人材は世界中で争奪戦になっている。自社内だけで必要な人材を確保し、育成し、変革を進めるには時間がかかる。だからこそ、インドの高度IT人材やAI人材とつながるGCCは、金融機関にとって「外にある開発拠点」ではなく、「自社の変革力を拡張する仕組み」として捉えるべきである。

インドGCCの新たな活路は、コスト削減の延長線上ではなく、本社・地域拠点・インドGCCが一体となって価値を生み出す「共創拠点」としての可能性にある。その可能性をどう引き出すかが、今後の金融機関に問われている。

5. アビームの視点 ~金融機関がGCCを活かすために

金融機関がインドGCCを活かす鍵は、業務を「移管」することではなく、本社・地域拠点・GCCが役割を分担して価値を生み出す運営モデルを「設計」することにある。つまずく要因の多くは、技術力やコストではなく、業務プロセスに埋め込まれた暗黙知と、拠点間の期待値のずれにある。現場が積み上げてきた品質基準を明文化せずに移管すれば、GCC側は判断の拠り所を失い、本社側は「品質が落ちた」と受け止める。この溝を埋める設計が、最初の関門となる。

アビームコンサルティングは、企業のグローバル業務改革と、アジア各拠点における実行支援の両面で知見を蓄積してきた。GCC活用にあたっては、三つの軸で支援する。第一に、現行業務の可視化と標準化である。属人化した業務を洗い出し、GCCへ切り出す範囲と標準化の水準を定義する。第二に、協働運営モデルの設計である。3線防衛の枠組みに沿ってGCCが担う役割と統制範囲を明確にし、本社・地域拠点との責任分担とレポーティングラインを整える。第三に、AI実装と定着の伴走である。RPAやAI-OCRなど効果を測りやすい領域から着手し、成果を可視化しながら、AI活用と業務改革へ段階的に広げる。
あわせて重要になるのが、拠点をまたいだ人材配置とチェンジマネジメントの設計である。GCCを実行部隊から経営基盤へ引き上げるには、現地に業務のオーナーシップを委ねる過程が欠かせない。そのためには、共通の業務言語と評価基準を整え、本社側にも「任せる」ための仕組みが要る。当社は、こうした組織・人材面の移行を、業務設計と一体で支援する。

金融機関にとって重要なのは、「GCCを作るべきか」ではなく、「どの業務・機能を、自社の競争力強化のためにGCCと共創していくべきか」を見極めることである。コスト削減だけを目的とした活用では十分な成果は得られない。一方で、人材確保やAI実装、業務高度化といった経営課題と結び付けて活用できれば、GCCは企業変革を支える重要な基盤となり得る。

インドGCCは、コスト削減の延長ではなく、自社の変革力を拡張する仕組みである。当社は、構想段階の業務設計から、現地拠点との運営体制の構築、AI実装の定着までを一貫して支援する。


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