経営アジェンダとしてのロジスティクス再構築(後編)

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2026.01.15
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前編では、ロジスティクス分野の3つの経営アジェンダを提起し、デジタル基盤とロジスティクスオフィスの両輪を備えた司令塔を構築、ロジスティクス全体の最適コントロールを目指すことの重要性について述べた。

後編では、従来から指摘されているテーマにフォーカスし、さらなる改革を推進するための注意すべきポイントを掘り下げていく。

執筆者情報

  • 羽田 康孝

    島村 明文

    Senior Expert
  • 羽田 康孝

    足立 武志

    Expert

4章 現在進行中の物流改革のさらなる加速

協調・共創による新たな価値創出──共同配送への取り組み拡大

人手不足、環境負荷の増大、地域間の物流格差といった社会全体が直面する課題に対応するため、物流改革はこれまでも進められてきた。なかでも共同配送は持続可能な物流の実現に向けた解決策の1つとして期待されており、輸配送領域の戦略を描く上で欠かせない視点となっている。

共同配送は、主に小口集約や帰り荷の確保、車両台数の削減などの目的で取り組まれ、物流の効率化とコスト削減に一定の成果をもたらしてきた。一方で、業界全体への浸透は限定的であり、共同配送の拡大に向けてはいくつか課題もある。具体的には、荷姿の標準化や柔軟な配送時間設定、配送状況のリアルタイム共有、コスト構造の明瞭化と費用分担、トラブル発生時の責任所在の明確化といった課題だ。

これらは、単なる技術的な課題にとどまらず、企業文化や業界慣習、法制度など多面的な要素が絡むため、解決には業界横断的な連携と制度設計が鍵となる。共同配送のさらなる展開と進化のためには、次の3つの視点が肝要である。

運ぶ力を守る──ドライバー不足という現実

物流業界におけるドライバー不足は、一時的な人材課題ではなく、構造的かつ持続的な供給制約として深刻化している。高齢化の進行、免許制度の改正による新規参入障壁の上昇、若年層の自動車離れといった社会的要因に加え、2024年問題に象徴される働き方改革の影響により、労働時間の制限・収入減・職業魅力の低下が離職を誘発する懸念もあり、今後もドライバー不足は加速することが推察される。

輸配送能力は、ドライバー数 × 積載効率というシンプルな構造で定義できる。つまり、ドライバーの供給不足を補完するには、積載効率の最大化が不可欠である。こうした状況下において、共同配送の推進は、限られた人的・物的リソースを最大限活用するための戦略的手段として位置づけられる。

企業間の垣根を越えた輸配送統合は、車両稼働率の向上、空車率の低減、配送ルートの最適化を通じて、輸配送能力の実質的な拡張を可能にする。共同配送を単なるコスト削減施策として捉えるのではなく、人材供給制約に対応するオペレーション設計の中核として再定義することが必要だ。

デジタルと共創が開く未来

共同配送の推進においては、デジタル技術の導入と運用最適化が不可欠な要素である。
配送状況のリアルタイムトラッキング、AIによる動的ルート最適化、マルチステークホルダー間のマッチングを支援するプラットフォームの構築など、テクノロジーの活用は共同配送の実効性・柔軟性・拡張性を飛躍的に高める。
今後は、物流業界内外のプレイヤーが連携し、共創型のデジタル基盤と制度設計を融合させた新たな配送モデルの確立が求められる。

環境負荷低減と地域物流の維持

共同配送は、輸配送効率の向上に加え、環境負荷の低減にも寄与する。特にCO₂排出量の削減においては、車両台数の削減と輸送距離の短縮が不可欠であり、これは共同配送の基本的な設計思想と一致する。

また、過疎地域における物流課題にも共同配送は有効である。人口減少に伴う配送需要の縮小は、個口当たりのコスト上昇を招き、単独企業による配送維持が困難となる。こうした地域において、複数事業者が配送ルートを共有することで、サービスレベルの維持とコスト最適化の両立が可能となり、地域社会における物流インフラの役割を果たすことができる。

共同配送は、単なる業務効率化の枠を超え、戦略的価値を持つ物流モデルとして具現化が求められる。これまで共同配送は「販売物流」を中心に展開されてきたが、今後は調達や返品物流の領域にもニーズが拡大すると見込まれる。
調達物流の領域では、複数企業による原材料・部品の共同輸送を通じて、調達効率の向上、納入リードタイムの短縮、調達コストの最適化が期待できる。特に、製造業やサプライチェーンが複雑化する業種においては、サプライベースの集約や輸送統合が競争力強化の鍵となる。返品物流の領域では、製品回収・再流通プロセスの効率化を通じて、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への貢献が可能となる。共同配送による回収ルートの統合は、廃棄物削減、再資源化率の向上、環境負荷の低減に資する施策として、ESG経営やGX戦略との整合性も高い。

輸配送領域における共同配送の推進は、産業競争力強化と社会課題解決を両立する戦略的インフラとして位置づけるべきで、今後の物流戦略の中核を担う存在となる。

物流ネットワークと物流センター効率化

次に、物流ネットワークの再構築と物流センターの効率化について触れる。

事業環境はかつてないスピードで変化しており、物流に求められる役割も急速に高度化・複雑化している。これらの変化に対応するためには、サービスレベル向上、コスト削減、リスク管理・レジリエンス強化、環境負荷の低減など、既存の物流ネットワーク(拠点配置と輸配送ルート)を抜本的に見直し、持続可能かつ最適な形へと再構築することが不可欠である。

物流センターの効率化においては、「自動化の推進」と「運営管理の高度化」という2つの視点が必要である。
「自動化の推進」においては、知見と意思決定のための事前検証が不可欠だ。設備導入は、自社リソースだけでの遂行は難しい局面も多いため、外部の専門人材の知見活用が重要である。事前検証は、意思決定に重要な投資対効果を明確にするためにも必要で、事前検証スキーム(検証ツールの整備、技術者育成、外部人材活用など)の整備が欠かせない。
「運営管理の高度化」においては、デジタル活用による属人管理からの脱却が大きなテーマとなる。稼働状況の可視化や作業コントロールなど、統合的に管理・制御可能なデジタル基盤を整備し、全体を俯瞰しながらデータに基づく運営管理へと転換していくことが重要である。

こうした共同配送や物流センター効率化といったテーマについては、今後さらに取り組みを加速させることが求められる。物流改革では、全体最適を志向しつつ個別最適を実現することが重要である。そのためには、改革の羅針盤となるグランドデザインを明確に描く必要がある。

5章 経営アジェンダを支えるグランドデザインと改革実行

これからの物流改革は、単なる業務改善ではなく、企業の競争力を左右する戦略的アジェンダとして位置づける必要がある。経営アジェンダの実現に向け、まず取り組むべきは、自社の物流全体を俯瞰したロジスティクス改革のグランドデザイン策定である。

グランドデザインは、物流改革の全体像を描き、進むべき方向と取り組みの指針を示す”羅針盤”となる。具体性を欠いたアイデアや計画の域を出ない構想ではなく、実行可能な戦略として具現化されるべきもので、図1に示すような観点が重要となる。

図1 重点テーマと戦略領域

グランドデザイン策定における課題

これまでも多くの改革現場でグランドデザインは描かれてきているが、ゴールに辿り着く前に取り組みが頓挫するケースも少なくない。現場の複雑さや変化への対応力不足によって、次第に形骸化してしまうのだ。

その原因は、改革の取り組みを進めるにあたって以下のような視点が十分に考慮されていないことにある。

  • プロジェクト関係者が十分な時間を確保できず、片手間で取り組んでいる
  • 関係部門・ステークホルダーの巻き込みが不十分
  • 経営者と現場実務者の間で、目的とゴールのイメージが擦りあっていない
  • 自社の知見だけで構想が閉じており、外部視点が欠如している
  • 実現性・実行性の評価が甘く、現場での展開に耐えられない

いずれも体制や進め方に関する問題であるが、まずは体制が整わなければ、実効性のあるグランドデザインを描き切ることは困難である。

社長直轄の物流改革タスクフォース設置の重要性

物流改革を本気で推進するには、物流部門にとどまらず、関係部門から厳選された専任メンバーを集め、関係各署を動かせる強い権限を持つ社長直轄のタスクフォースを設置することが不可欠である。

図2 物流改革タスクフォースの位置づけ

タスクフォースに求められる3つの実行力

タスクフォースは、グランドデザインの策定から改革の完遂までを担う極めて重要なミッションを負っている。そのため、単に体制を整えるだけでなく、遂行に必要な高度な知見と実行力、そして多様なスキルが求められる。
ここでは、実行面における3つの重要なポイントについて整理しておきたい。

経営者と実務者の「目線合わせ」──改革成功の最重要ポイント

改革を推進する上で、経営者と実務者の目線を合わせることは極めて重要である。これができなければ改革の前進は困難だ。

両者の視点は本質的に異なる。

  • 経営者は「未来志向」かつ「マクロ視点」
  • 実務者は「現場志向」かつ「ミクロ視点」

この違いを前提としつつも、改革の方向性や施策検討における観点を双方が理解し、納得感を持って共有し、同じベクトルで取り組むことが不可欠である。
現実にはこの「目線合わせ」は容易ではない。
そのため、タスクフォースには、経営と現場の間に立ち、両者の視点を翻訳・橋渡ししながら、共通理解と納得感を醸成していくことが強く求められる。

社外知見の活用──視野を広げ、改革を加速させる鍵

社内メンバーだけで構想を進めると、現状の延長線上での発想に留まりがちになる。自分たちの経験に基づいて考えることで、無意識のうちに守りに入り、変革の可能性を狭めてしまう。
そのため、社外の知見を積極的に取り入れることが不可欠である。最新動向、他社の先進的な取り組み、業界を超えたベストプラクティスなど、自力では得がたい情報や視点にアクセスできるルートを確保することが、改革の質とスピードを大きく左右する。

タスクフォースに求められるスキル──多様性と高度性の両立

改革の現場では、以下のような複雑な役割が求められる。

  • 経営者と実務者の間に立ち、議論をリードし、視点の橋渡しを行う
  • 多様な意見を整理し、方向性を見出すファシリテーションをする
  • 施策の実現性・実効性を冷静に評価・分析する
  • 多くのステークホルダーを巻き込み、合意形成を推進する

タスクフォースが真に機能するためには、単なる人員の配置ではなく、場面ごとに求められる高度かつ多様なスキルの備えが不可欠である。必要なスキルを備えた人材を適宜登用できる柔軟な体制を構築することが重要となる。

おわりに

本稿では、外部環境の変化に対する短期的な対応を超え、企業競争力の持続的強化を目的とした「物流の戦略的再設計」の必要性を提言した。物流は、もはや単なるオペレーション領域ではなく、事業構造の変革や企業価値の向上に直結する経営資源として、再定義されるべきフェーズにある。
提示したロジスティクス経営アジェンダは、いずれも中長期的な成長戦略との整合性を前提とし、部分最適ではなく全社最適の視点から取り組むことが不可欠である。これらを実効性があるものとするためには、経営層が物流を戦略領域として明確に位置づけ、改革の方向性や評価基準を関係部門と共有し、組織全体で意思を統一した改革推進が求められる。
物流を経営戦略の中核に据え、事業の持続可能性を高めるロジスティクスを構築することは、企業の成長と価値創出に直結する重要な経営課題である。
本提言が、今後の物流戦略の検討に資する一助となれば幸いである。

アビームコンサルティングは、物流領域における多様な業務変革の知見を駆使し、改革組織設計・グランドデザイン策定から改革実行まで、企業の成長と価値創出の伴走者として、持続可能な物流を構築するためのロジスティクス変革を一貫して支援している。

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