では、なぜいま多くの企業がパーパス経営への対応を迫られているのか。その背景には、次の4点の要因がある。
- 投資家からのニーズ(ESG投資の拡大)
- 社会の価値観変化(企業の「姿勢」への注目)
- 収益構造の変化(社会課題解決型ビジネスの台頭)
- リスクマネジメント(炎上・不祥事への備え)
以下、それぞれについて見ていく。
(1)投資家からのニーズ(ESG投資の拡大)
1点目は、投資獲得の観点からパーパス経営の重要性が高まっていることである。
世界全体のESG投資残高は、一説には40兆ドルを超える規模に達していると言われており、投資家は財務指標だけでなく、「社会にどれだけ価値を生み出しているか」「パーパスに基づいて経営しているか」を投資判断の基準とし始めている。
もはや企業側としても、この問いに「答えないわけにはいかない」状況になっており、そのため従来の経営理念を社会的な観点から高度化し、パーパスを起点にした価値創造ストーリーを、統合報告書などを通じて社外に説明することが求められている。
(2)社会の価値観変化(企業の「姿勢」への注目)
2点目は、社会全体の価値観の変化である。
近年の酷暑や異常気象などを背景に、自然環境に関する不安や、社会課題への関心が一層高まっている中、「自社の利益だけを追求する」経営は、もはや社会から許容されにくくなっている。
企業に対しては、「社会に対して責任を持って経営しているのか」「どのような姿勢で社会課題に向き合っているのか」が、消費者・従業員・地域社会から厳しく問われている。
パーパスは、そうした企業の姿勢を言語化し、「自社は何のために存在し、社会にどう貢献しようとしているのか」を内外に示す役割を担うようになっている。
(3)収益構造の変化(社会課題解決型ビジネスの台頭)
3点目は、「社会への貢献責任」にとどまらず、社会課題の解決そのものがビジネスチャンスになりつつある点である。
講義では、パーパスを掲げ、社会価値の創出に貢献するブランドの成長率が、社内の他ブランドに比べて2倍に達していた、という海外の事例が紹介された。社会課題の解決を軸にしたブランドや事業の方が、むしろ高い成長を遂げているということだ。
このように、「社会課題の解決」は、企業にとって単なる責任やコストではなく、収益機会そのものになりつつある。
自社はどのような社会課題に向き合い、どのような強みで解決に貢献していくのか——その方向性を定める羅針盤がパーパスであり、新たなビジネス機会を構想する出発点にもなっている。
(4)リスクマネジメント(炎上・不祥事への備え)
4点目は、リスクマネジメントの観点である。
「社会的・道義的な責任と反する経営をしているのではないか」という疑念を、世の中から一度持たれてしまうと、ブランド毀損や信頼低下など、企業のレピテーション(評判)に深刻なダメージを与え、中長期的な経営リスクにつながる。
パーパスを明確に定め、その実現に向けた行動原則を社内で共有しておくことは、日々の意思決定やコミュニケーションの拠り所となり、予防的なリスクマネジメントの仕組みとしても機能する。
しかし、多くの企業はここで共通の壁に直面している。
経営陣が議論を重ねて「パーパス」「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を定義し、文書としては整備できているものの、ある調査では6割以上の経営者が「従業員が自社のパーパスをうまく行動に落とし込めていない」と回答している。つまり「MVVは策定できたが、現場の行動変容まで至っていない」というギャップの存在が明らかになった。さらに、以下のような課題も挙げられる。
- パーパスの内容が抽象的でわかりにくい
- パーパスに触れる機会が少ない
- どのように発信すればよいかわからない
- 浸透状況を測る指標や目標が定まっていない
本質的な推進課題は、パーパスやMVVを策定することではなく、それらをいかに行動にまで落とし込むかという点にある(図2)。