近年、日系企業のグローバル展開を取り巻く環境は大きく変化している。ASEANをはじめ新興市場が「補完拠点」から「成長の主戦場」へと位置付けを変える中、優秀な現地人材の獲得競争が激化し、ブランド力だけでは人材を確保できない時代が到来した。働き方の多様化や賃金上昇、為替・インフレといったコスト圧力、ESGや人的資本開示への対応など、企業が直面する課題は一層複雑化している。
こうした状況下で成長のカギを握るのは「人材」であり、現地の優秀人材を惹きつけ、活躍してもらう仕組みづくりが欠かせない。従来、日本人駐在員は事業立ち上げや統制・品質確保に大きな役割を果たしてきたが、事業モデルの多様化やDXによる環境変化にともない、駐在員の存在が現地主導の経営を阻む要因となるケースも増えている。
ところが、こうした現地主導経営を阻害する要因については、日本本社側では漠然とした認識にとどまっており、具体的に「何を本社で担い、何をRHQ(地域統括機能)や海外各社に委ねるべきか」という役割分担の設計にまでは至っていないケースが多い。結果として、本社は現地化の必要性を認識しながらも、実行に踏み出せない状況が続いている。さらに、現地では意思決定の遅延や人材育成機会の阻害といった深刻な副作用が顕在化している。こうした現行の駐在員モデルが抱える「見えていない問題」の存在こそが、本社と現地の意識ギャップを拡大させ、ひいては事業全体の競争力低下を招くリスクとなっている。
アビームコンサルティングは、日系企業のグローバル展開において、現地人材の登用・育成こそが企業成長の持続的な原動力であり、市場理解を踏まえた迅速な意思決定や長期的な経営基盤の確立につながると考える。駐在員依存から脱却し、真に現地主導の経営体制へ移行することが、今後の競争力確保に不可欠であると考える。