株式会社レゾナック・ホールディングス

LLM比較検証と多言語対応チャットで実現する海外営業業務効率化
事例
  • クラウド
  • AI
株式会社レゾナック・ホールディングス

株式会社レゾナック・ホールディングス(以下レゾナック)では、海外営業における顧客からの問い合わせに対して、社内で製品担当者を探し回答することに時間と労力がかかっており、製品知識のある海外駐在員にも業務負荷が偏っていた。そこでアビームコンサルティングは、レゾナックの海外営業業務における製品問い合わせ対応の効率化と営業担当者の製品理解向上を目的に、Azureを活用した生成AIチャットボットのPoC(概念実証)導入を支援。製品、特許、担当者の情報を含むRAG(検索拡張生成)構成による多言語対応のAIチャットを実現し、問い合わせ内容に対して自然言語で即時回答が可能な仕組みを構築した。また、問い合わせ内容から製品提案する機能も実装することで、素材化学メーカー特有の用途提案型の営業スタイルにも配慮。PoCの段階で実業務に近い運用を想定しながら、6ヶ月で構築を実現した。

経営/事業上の課題

  • 海外代理店や現地顧客からの問い合わせに即応できないことによるビジネス機会の損失や顧客満足度低下の防止
  • 問い合わせ対応で求められる製品・担当者情報の翻訳・展開にかかるコストの削減
  • 営業担当者が提案活動や顧客関係構築などのコア業務に注力できる、問い合わせ対応の仕組みづくり

課題解決に向けたアビームの支援概要

  • クライアントの業務実態をもとに、AIが効果を発揮できるユースケースを整理。PoC段階から業務にフィットした活用方針を共に設計
  • 英語・中国語など多言語に対応したチャットUIとRAGに適したデータ構築
  • PoCから本番導入までを見据えた伴走型支援

支援の成果

  • 製品・担当者情報検索、ニーズからの製品提案の回答精度は80%で、製品・担当者を探し回る手間が削減され、問い合わせ対応の業務負荷が軽減。
  • 顧客からの問い合わせから営業による一次回答までのリードタイムが短縮されることにより、提案機会損失の回避が期待される。

クライアント課題の難所

属人化した問い合わせ対応を生成AIで標準化 “探さずに、知れる”仕組みづくり

■製品・担当者情報の翻訳・展開にかかるコスト
海外代理店・現地顧客からの問い合わせ対応に必要な製品情報・担当者情報は日本本社に存在するものの、日本語で各部署に散在している状態であった。そのため、海外の営業担当者情報を提供するにしても、情報の収集、翻訳、担当者への情報展開まで時間や人的コストがボトルネックとなっていた。

■海外駐在員のコア業務時間の圧迫
海外での営業業務においては、現地セールスパーソンと現地駐在員との間で製品知識に差があり、専門知識が求められる素材メーカーの問い合わせ対応では、知識のある駐在員に問い合わせ対応業務が集中し、コア業務の時間を圧迫するようになっていた。
本来は、新規の開拓、市場調査、現地取引先とのリレーション構築などに時間を費やすべきであるが、問い合わせの該当製品の特定や製品の担当者探しなど、直接的な付加価値を生み出しにくい業務に時間が割かれていた。

そのような背景から、本プロジェクトでは問い合わせ対応に必要な情報を関係部署から収集し、日本語から英語、中国語にデータを翻訳のうえシステム的に展開・運用できる仕組みを導入し、製品情報をタイムリーに把握できる仕組みを構築した。

プロジェクトの重要成功要因

事前評価でのLLM比較と改善プロセスの高速化

1. 複数LLMによる比較検証で得た共通理解と判断力
本プロジェクトでは、初期段階でGoogle Cloud Platform(GCP)のGeminiを用いた精度検証を行い、その後Azure OpenAIによる本格的な実装へと移行した。複数の大規模言語モデル(LLM)を比較検証したことで、生成AIの精度や出力傾向に対する関係者間の共通認識が形成され、プロジェクトを通じて「AIで対応可能な領域」と「人が担うべき領域」を客観的に判断する基準を確立することができた。これにより、PoCから本番設計への移行がスムーズに進んだ。

2. 業務ニーズを起点としたユースケース設計
単なる技術検証にとどまらず、実際の問い合わせ対応業務を丁寧に可視化した上で、「どの業務フローのどの部分に生成AIを適用するか」を明確に定義。ユースケース単位で適用範囲を整理することで、AIの役割と限界を現場と共有しやすくなり、回答の粒度や範囲の適正化に寄与した。業務視点でのユースケース設計が実務への定着と成果創出につながる土台となった。

3. ユースケース単位での検証・改善サイクルの高速化
生成AIという新しい技術領域においては、精度や使い勝手に関する“実際の挙動”を素早く確認し、改善につなげるサイクルが重要だった。本プロジェクトでは、ユースケースごとに検証範囲を明確にし、改善すべきポイントを優先順位づけしたうえで短サイクルで対応。改善は、まず画面上の動作・回答内容を実際に確認した後に設計ドキュメントへ反映する“アジャイル的アプローチ”を採用し、現場と開発間の認識ズレを最小限に抑えながら、スピーディな改善を実現した。

アビームの貢献

実用性と継続活用にこだわった、生成AI導入のトータル支援

1. 実用性を最優先にした、迅速な構築と評価主導のPoC支援
GCPおよびAzureにおけるシステム構築の知見を活かし、RAG構成でのAIチャットボットの初期構築を迅速に実施。技術検証よりも“評価そのものに時間をかけられるプロジェクト設計”とすることで、限られた期間でも実用性の検証を十分に行える体制を整備した。また、評価手法の策定からユーザーによる実施支援、さらに精度課題が生じた場合には、AIモデル側の要因かナレッジデータ構成の問題かといった課題の切り分け支援を通じて、効果的な改善に結びつけた。

2. 回答精度を高めるための継続的な作り込み
本プロジェクトでは、80%の回答精度を達成。RAG(検索拡張生成)構成を前提に、ナレッジ文書の構造整理や意味の揺れを抑えるための用語整備など、生成AIに適した情報設計を行った。加えて、質問パターンに応じた回答ロジックの最適化や、継続的なチューニング体制の構築により、導入後も改善を継続できる精度維持サイクルを支援した。

3. 導入から定着、継続活用までを支える伴走型アプローチ
単なる技術導入ではなく、業務改革の一環として、当初より「AIが代替・支援できる業務領域」を明確化。検証段階では、クライアントが改善効果を実感しやすいよう評価基準やユーザー調査手法、フィードバック反映プロセスを共に設計した。また、運用設計ではナレッジ更新を効率化するデータ更新プログラムを構築し、継続的な活用に向けた運用負荷の軽減にも寄与。本番導入判断に必要な情報整理や経営判断の支援まで、一貫して伴走した。


2024年から弊社内で製品・人検索システムの構想を企画し、アビームコンサルティング様とはPoCを通じて課題整理と実現方法の検討を進めてきました。製品名の一部や用途、品番などの断片的な情報からでもAIの言語処理を活用して該当製品や担当部署を特定できる仕組みを構築。さらに、ユーザーの声を反映したUI改善など、実用性を重視した開発をご支援いただきました。ユーザーテストで目標を上回る回答精度を達成したことを受け、2025年9月に社内展開を開始。海外のみならず、国内営業部門からも、現場での活用に期待する声が寄せられています。
今後も、高度な専門性が求められる領域や新たなチャレンジにおいて、ご支援いただければ幸いです。

経営企画部 経営企画グループ
グループリーダー
佐藤 健介

Customer Profile

会社名
株式会社レゾナック・ホールディングス
所在地
東京都港区東新橋1-9-1 東京汐留ビルディング
設立
1939年6月
資本金
182,146百万円(2024年12月31日現在)
株式会社レゾナック・ホールディングス

2025年10月14日

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