食品企業のAIの活用と需要予測精度向上

 


食品企業にAIは本当に使えるのか? ~ 日本のビジネス文化を超越した暁には光が見える

 

背景

SCM(サプライチェーン)部門の方から当社に多く寄せられる悩みのテーマは、「需要予測が当たらない」「繁忙期に欠品、定番品が過剰在庫で賞味期限上廃棄ロスとなる」といったものだ。このような悩みはどの食品企業にとっても同様ではないだろうか。加えて昨今はAIがブームとなり、「AIを導入すれば本当に需要予測は当たるのか」という問い合わせも多い。そうした状況を踏まえ、今回は食品業界にみる需要予測向上におけるポイントについて解説したい。

食品メーカーを取り巻く環境

昨今の社会的なサスティナビリティ(持続可能性)重視へのシフトをうけ、食品メーカーにとってのお客様にあたる「消費者」や「小売り」による食品ロスの低減意識が高まり、売れ残りによる引き取りや、在庫ロスの低減が見込まれ、需給最適化に向かう環境は整いつつある。また、デジタルテクノロジーの進化により消費者に関する情報が様々なアプリサービスを通じて入手できるようになり、人間の行動だけでなく気象(自然)情報までもデジタル化され、ビッグデータ解析技術も向上し各段に需給予測精度が上がっている。環境が整う一方、なぜ欠品、過剰在庫が無くならないのだろうか。

食品メーカーを取り巻く環境

食品メーカーを訪問して多くの企業で見られること

以下は、食品メーカーにおける一般的な需給調整のプロセスだ。主な部門の特徴(文化)を整理すると、需給予測が機能しない原因が見えてくる。

需給調整プロセス

営業部門は、部門長などの主観に基づき達成が厳しい戦略目標を立て、それを売り切るんだ、という強い思いをもった販売計画を立案する傾向にある。一方で需給部門、生産部門においては、営業部門の目標にそって過度な生産を行った場合、売れ残りのリスクを抱えることとなる。そのため、営業部門が立案してきた販売計画とは別に、需給、生産部門が独自で販売予測をたて、その計画に見合った生産計画を立案する。また、企業によっては、需給・生産部門では、過剰な生産により売れ残ることが予想される場合でも、欠品した際に責任が問われることを避けるため、営業部門が立案する計画通りに生産しているケースもある。結果として、営業部門と、SCM部門(需給、生産)の計画・思惑が一致していない運用を取っている食品企業がほとんどだ。これは、企業文化上、営業部門のノルマ達成文化と、SCM部門の最適化追求文化が合っておらず、部門間で一体感を持った運営になっていない体質が影響している。

需要予測精度向上のポイント

① 営業改革と一体で行う
需要予測精度向上には、SCM部門が改革にメスをいれるのではなく、まずは営業改革にフォーカスを当て、営業部門の目標とするKPIやターゲティングを変更し、それに伴う営業の動き方や支援体制を改革することから取り組むべきだ。これまでは、営業部門で設定されているKPIとしては、売上、契約数、販売数等、トップラインを伸ばすことを主としているケースが多い。今後は、SCM部門との共通のKPIを設定し、需要的中率など、両部門の意識が統一できなければ達成できないKPIを達成指標として設定することが重要となる。まずはこうした、営業部門の意識改革、また営業―生産間の業務プロセス改革を実行し製販一体となった需給バランスが取れる組織、業務改革が必須である。

② 需要予測の高度化
食品企業では、過去と比較し多くのデータを取得・保持することが可能だ。それらのデータを活用する際に、AIにデータを投入すれば、自動的に答えが出るというブラックボックスとしての使い方を想像する企業も多い。この使い方では、需要に影響を与えている因子を特定することができないため、この先の予測精度の向上に向けた手立てを打つことが困難だ。このような事態を避けるため、当社が提唱するのは、過去実績から需要予測が外れたケースを分析し、影響を与える可能性のある因子を1つ1つ追加し予測精度の検証を重ね、予測モデルを作り上げる進め方である。この予測モデルが当てはまる商品をグループ化し、需要予測精度を上げていく。また多次元解析の手法であるHyperCubeアルゴリズムを使い、乖離要因や規則性を抽出し予測値の補正などを行うことでさらに精度を高めていく。
こうして作った予測モデルは、1度作って終わりではない。この先、今まで予期されていなかった因子が発生し、予測精度が悪くなる可能性もある。そのため、予測精度を保ち続けるための運用設計やモデルマネジメントの仕組みを導入することが重要な成功要因となる。

需要予測精度向上のポイント

最後に

需要予測精度を上げるためには、先に述べたように営業改革と合わせてAIの活用を検討していく必要がある。
アビームコンサルティングは総合コンサルティングファームとして、幅広い領域における業務知識とコンサルティングノウハウを活用し、お客様のデジタルトランスフォーメーションや組織改革をご支援している。

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