原子力PPAが切り拓く新たな投資回収モデルの構築 ―価格形成・リスク分担から考える適用の論点―

インサイト
2026.09.14
  • 電力・ガス
  • 経営戦略/経営改革
  • 企業価値経営
142563425

生成AIの普及に伴うデータセンター需要の拡大や脱炭素化の進展を背景に、安定供給と脱炭素を両立する電源として原子力への期待が高まっている。一方で、新設・リプレースや長期運転には巨額の投資と長期回収期間を要し、その実現には将来にわたる収益予見性の確保が不可欠となる。このような事業環境の下、需要家との長期契約を通じて投資回収を支える仕組みとして原子力PPA(Power Purchase Agreement)への関心が高まりつつある。
本インサイトでは、原子力PPAの事業モデルと適用上の論点を整理し、新たな投資回収モデルの可能性を考察する。

執筆者情報

  • 山田 心治

    山田 心治

    Executive Expert

原子力を取り巻く事業環境変化

本章では、脱炭素と電力需要拡大という事業環境の変化を整理し、なぜ今、原子力と原子力PPAへの期待が高まっているのかを示す。

脱炭素と安定供給を両立する電源としての原子力

カーボンニュートラルに向けた脱炭素化に加え、データセンターや半導体工場の新増設による電力需要の拡大を背景に、原子力発電の重要性が高まっている。第7次エネルギー基本計画※1では、GX・DXの進展による需要増加を見据え、安全性を大前提として、再生可能エネルギーとともに原子力を最大限活用する方針が示された。また、中東情勢の緊迫化やホルムズ海峡を巡る地政学リスクは、輸入燃料への依存度が高い我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を浮き彫りにしており、エネルギー安全保障の観点からも原子力の必要性は増している。
とりわけ、原子力の新たな価値を顕在化させているのが生成AI普及に伴うデータセンター需要の拡大である。24時間365日の安定供給と脱炭素化を同時に求めるデータセンター事業者にとって、原子力は「安定供給」と「脱炭素」を両立し、再生可能エネルギーを補完する有力な電源であり、「24/7 Carbon-Free Energy(24時間365日の脱炭素電力利用)」の実現の観点からも需要家が選択する電源として再評価する契機となっている。

原子力PPAへの期待

原子力発電への期待が高まる一方、新設・リプレースや長期運転には巨額の投資と長期の回収期間を要するため、将来リスクを発電事業者のみで負担することは難しい。原子力の最大限活用に向けては、投資予見性の向上と収益安定化、それを支えるファイナンス環境の整備が不可欠となる。その手段として注目されるのが、長期PPAである。2026年7月31日に開催された第14回原子力関係閣僚会議において改定案が承認された「今後の原子力政策の方向性と行動指針※2」でも、大規模需要家による長期・安定的な脱炭素電源確保の観点から、原子力を含むコーポレートPPAへの期待が明記されており、既設炉の活用に加え、将来的な新規投資を支える手段としても期待されている。

原子力PPAの事業モデル

本章では、原子力PPAの現状を概観し、発電事業者と需要家の双方にとっての意義を整理する。市場価格に依存した収益構造を、需要家との長期契約を基盤とする事業モデルへ転換する枠組みを示す。

原子力PPAの現状

我が国において原子力PPAは初期的段階にあるが※3、米国では特に大手テック企業が生成AIの普及に伴うデータセンター需要増大を背景に原子力PPAを積極的に活用しており、その潮流は大手流通事業者など多様な需要家にも拡大しつつある※4
原子力PPAは、発電事業者の投資予見性の向上と収益安定化に寄与する一方、需要家にとっては脱炭素電力を長期安定的に確保する手段となる。すなわち、需要家による長期コミットメントを原子力の投資・運転継続につなげる収益基盤として機能しており、原子力事業を「市場依存型」から「需要家連携型」へ転換する新たな事業モデルとして注目される。

発電事業者側の視点~投資予見性の向上と収益安定化

我が国の原子力発電所の設備投資については、新設原子力を対象に長期脱炭素電源オークションによる固定費回収の仕組みが整備され、また2026年7月に成立・公布された改正電気事業法に基づき、原子力発電所の建て替え(リプレース)などに対して財政投融資などの公的資金を活用した新たな融資制度(対象:出力50万kW以上の大規模電源など)が創設されるなど、一定の整備が進みつつある。しかし、発電収入の多くは依然として電力市場価格に左右されるほか、電気事業制度の変更や安全対策などに係る規制の見直しによって収益構造が変化する可能性もある。このため、新設・リプレースに加え、安全対策投資や長期運転に必要な追加投資についても、将来の収益を見通した投資判断は容易ではない。こうした中、原子力PPAは従来の収益構造を補完する新たな事業モデルとなりうる。
具体的には、発電事業者は、データセンターなどの大口需要家と長期間にわたる電力販売契約を締結することで、販売価格や販売量を一定程度固定化でき、卸電力市場価格変動リスクを低減しつつ、安定的に収入を確保できる。これにより、発電事業者は、原子力発電に特有の多額の固定費や長期にわたる設備投資を着実に回収できる。さらに、長期PPAによる収益の安定化は、金融機関や投資家からみた事業リスクの低減にもつながる。信用力の高い需要家との長期契約によって将来キャッシュフローの確度が高まれば、資本コストやリスクプレミアムの低減、資金調達の円滑化が期待できる。
このように原子力PPAは、収益安定化とファイナンスの両面から、新設・リプレースや長期運転に係る投資判断を支える仕組みとなり得る。

需要家側の視点~調達の安定化とリスク分担

需要家は、原子力PPAにより、長期・安定的な電力調達と調達コストの固定化を通じて市場価格変動リスクを抑制できる。特に、電力消費量が大きいデータセンターなどでは、調達コストの安定化による収益予見性向上のメリットが大きい。
また、原子力PPAの意義としてより重要なのは、発電事業者が単独で負担してきたリスクを、需要家との長期契約を通じて適切に分担できる点にある。一方、需要家にとっても将来の需要変動が重要なリスクとなる。特に、データセンターなどでは事業拡大による需要増加だけでなく、省エネ技術の進展や設備稼働率の変化などによる需要減少も想定されるため、長期的な需要の不確実性を発電事業者との間でどのように分担するかが重要となる。
このように、原子力PPAは、発電事業者と需要家双方のリスク特性を踏まえ、長期に渡る収益構造とリスク配分を最適化する仕組みと位置付けられる。

※3 2026年7月、関西電力株式会社が国内初の原子力PPAとして、既設の原子力および水力発電所を活用したオフサイト型フィジカルPPAの取り組みについて発表。
<https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2026/pdf/20260709_1j.pdf>
※4 例えば、大手流通業者であるWalmart社がConstellation社との間で原子力PPAを締結。
<https://corporate.walmart.com/news/2026/06/23/constellation-and-walmart-announce-longterm-agreement-to-support-reliable-emissionsfree-nuclear-energy-in-illinois>

原子力PPA適用にあたっての論点

我が国では、再生可能エネルギーを対象としたコーポレートPPAを前提に制度や商慣行が形成されてきたため、原子力を対象とする制度・契約実務はなお整備途上にある。また、オフサイトのフィジカルPPAを念頭に置いた場合、電気事業法上、発電事業者と需要家の間に小売電気事業者が介在する必要があるため、発電事業者と需要家が直接リスクを分担する海外事例よりも契約構造が複雑となる。
本章では、原子力PPA適用にあたっての論点として、PPA契約における販売価格とリスク分担のあり方について論じる。

原子力価値を反映した価格形成

原子力PPAの販売価格における電力価値は、発電原価に加えて、スポット・先渡・相対卸などの市場価格を参照としつつ、PPAによる収益安定化効果や価格プレミアム(例: 安定供給価値や長期価格固定に伴うリスク移転など)を適切に評価する必要がある。
具体的には、各発電事業者が固定費と可変費の双方を踏まえながら当該原子力発電のレベニュースタックや投資回収方針に基づいて価格設定を行うが、固定費には運転維持費や減価償却費などが含まれることから、どの費用をどの程度織り込むかについては、各発電事業者が事業判断の下で決定することになる。
その際、既存の投資回収制度との整合も重要となる。通常の容量市場では、供給力への対価とPPAによる電力・環境価値への対価は併存し得る一方、新設・リプレースでは、長期脱炭素電源オークションによる固定費回収とPPA収入の整合が論点となる※5
環境価値についていえば、原子力は非化石電源であり、発電量に対応する「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」が発行される一方、再生可能エネルギーではないため、再エネPPAとは環境価値の訴求軸が異なる。特に既設原子力のPPAでは、新規電源の開発を促す「追加性(Additionality)」を訴求しにくい。このため、Scope 2削減や24/7 Carbon-Free Energy(CFE)などの需要家ニーズと結び付け、既存の脱炭素電源を維持する価値として評価・訴求することが重要となる。その実現には、発電所・時間帯を特定するトラッキングの高度化に加え、需要家が原子力由来の電力調達を自社の脱炭素化として対外的に説明できる制度・ルールの整備が求められる。

リスク分担のあり方

原子力発電は、定期検査に加え、設備トラブル、規制変更、自然災害、再稼働遅延などにより、低頻度ながら長期停止に至るリスクを抱える。このため、発電量の保証範囲や停止時の代替供給、その追加費用の負担を契約上明確化し、停止リスクを販売価格や予備供給料などとして適切に織り込むことが重要となる。一方、10~20年以上の長期契約では、需要家側にも需要量や事業環境、技術などの変化リスクが生じるため、Take-or-pay(最低購入義務)、価格改定、契約量の増減、中途解約などを組み合わせた柔軟な契約設計が求められる。
したがって、原子力PPAの契約にあたっては、上記のリスクを発電事業者と需要家、さらには小売電気事業者も含めた3者で再配分する契約として捉える必要がある。こうしたリスク分担を通じて将来キャッシュフローの予見性を高め、安全対策、運転延長、再稼働、新増設・リプレースなどの投資判断につなげることが重要となる。

※5 長期脱炭素電源オークションでは、落札電源に固定費水準の容量収入を原則20年間付与する一方、卸市場、相対契約、非化石価値などから得た「他市場収益」の90%を還付する仕組みが採用されている。このため、長期PPA収益の多くも還付対象となり、制度支援とPPAによる固定費の二重回収は抑制される。一方で、この還付制度は、需要家との長期契約を投資回収基盤として活用するインセンティブを弱める可能性がある。

まとめ

原子力は安定供給と脱炭素を両立する重要な電源として再評価される一方、新設・リプレースや長期運転には多額の投資と長期の回収期間を要するため、市場価格に依存した収益構造だけでは投資予見性の確保が難しい。原子力PPAは、需要家との長期契約を通じて価格・数量を一定程度固定し、発電事業者の収益安定化と需要家の調達安定化を両立する仕組みとなる。特にAIデータセンターは、原子力投資を支えるアンカー需要家となり得る。原子力に再生可能エネルギーや蓄電池を組み合わせ、脱炭素・安定供給・価格予見性を一体的に提供することで、新たな電力ソリューションへの発展が期待される。

これに伴い、原子力の投資評価も、市場価格中心の従来型から、データセンター需要、PPAの獲得可能性、容量収入などを織り込んだポートフォリオ型へ高度化する必要がある。PPA価格には、発電原価や市場価格に加え、非化石価値、安定供給価値、停止時の代替調達リスクなどを適切に反映するとともに、発電・小売・需要家間のリスク分担を明確化することが重要となる。

すなわち、原子力PPAは、原子力事業を市場環境に左右される「市場依存型」から、大口需要家との長期契約を基盤とする「需要家連携型」へ転換する仕組みと位置付けられる。その実現には、電源・市場・契約を一体的に設計し、既存の投資回収制度との整合を図りながら、需要家の長期コミットメントを原子力投資につなげる仕組みを構築することが重要となる。

アビームコンサルティングの提供価値

原子力PPAの実装にあたっては、「どの需要家に、どの価値を、どの価格・契約条件で提供すれば、原子力投資の回収につながるのか」について検討する必要がある。具体的には、戦略策定に加え、需要家開拓・案件組成、商品・スキーム設計、プライシング・経済性評価(リスク管理含む)などが必要であり、将来的には原子力PPAを投資回収・リスク管理・需要家戦略を一体的に実現する事業基盤として活用することが期待される。
この課題に対し、アビームコンサルティングは、以下の領域において原子力PPAの構想策定から実装までを一貫して支援している。

アビームコンサルティングは、本領域における制度・市場・契約の各論点を踏まえ、持続的な投資回収モデルの構築を支援している。原子力PPAの導入や事業化をご検討の際は、ぜひご相談いただきたい。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ