AI時代における基幹システムの再定義 ― 「水と油」から紐解くERPとAIの新たな役割分担とアーキテクチャ ―

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2026.06.25
  • AI
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生成AIやLLM(大規模言語モデル)の急速な普及により、データ分析や意思決定支援の領域でAI活用が加速している。少子高齢化による労働力不足が深刻化する昨今、これまで人が担ってきた業務をAIが代替し、人はより付加価値の高い業務へシフトする流れが、企業の生存戦略として不可欠となっている。
一方で、AI活用を真の競争力へと結びつけるためには、企業活動の根幹を支える基幹システムとの連携が欠かせない。正確性・一貫性・安定稼働が求められる基幹システムと、確率的処理や柔軟な解釈を強みとするAI――両者は「水と油」とも言える性質を持つ。だからこそ、単なるAIツールの導入にとどまらず、人とシステムの役割分担を再定義し、両者の強みを引き出すアーキテクチャ設計が問われている。
本稿では、基幹システムにおけるAI活用の現在地と課題を整理した上で、AIを前提とした次世代の経営基盤設計の考え方を提示する。

執筆者情報

  • 柳川 豪

    Senior Manager

基幹システムにおけるAI活用の現在地と課題

これまでの企業におけるAI活用を振り返ると、従業員からの問い合わせに自動応答するFAQシステムの導入や、AI-OCRによる特定部門のマニュアル作業の自動化など、個別の業務プロセスにポイントを絞ってAIに置き換えるといった「局所的な活用」にとどまるケースが多かった。しかし、AI時代を本格的に迎える今、多くのCIOや情報システム部門は、「日進月歩で進化するAI技術を、企業の心臓部である基幹システムにどう組み込むべきか」「単なるツールの導入で終わらせず、自社の競争力向上にどう直結させるか(AIを前提とした変革のプラットフォーム化)」という課題を抱えている。
さらに、実際のシステム実装にあたっては、自社の独自ルールや事業特性に合わせて柔軟に構築できるGoogleやOpenAIなどの「汎用AI」を採用するべきか、あるいはERPなどのソフトウェア製品にすでに組み込まれており即効性が高い「特化型AI(組み込みAI)」を利用すべきかといった、アーキテクチャ選定の悩みや新技術導入にともなう「セキュリティリスクへの対応」に関する課題も尽きない。
この悩みを一層深めているのが、AI技術の進化のスピードである。現在は特定の業務に特化した特化型AI(Narrow AI)が主流であるが、2030年頃までには汎用型AI(General AI)が実現する可能性が高いとの見方がAI研究の主要プレイヤーや有識者の間で共有されつつあり、ビジネスの現場で本格的に活用され始めるのは開発から数年の普及期間を経た2030年中頃と考えられる。その中間的な位置づけとして、近年では「Agentic AI(エージェント型AI)」が注目されている。これは人間の指示に応答するだけでなく、複数のタスクを自律的に実行し、業務プロセスを横断して意思決定を支援するAIであり、従来の単機能型AIから一歩進んだ存在である。こうしたエージェント型の活用が拡大することで、AIは単なる補助ツールから「業務の一部を担う主体」へと変化しつつある。こうした状況においては、目先の機能追加に終始するのではなく、将来的な技術リプレースを前提とした「柔軟かつ疎結合なアーキテクチャ」の青写真を描くことが、将来の企業競争力を左右すると考えている。
この不可逆なタイムラインから逆算すれば、現在のCIOに求められているのは、現状の特化型AIを組み合わせて疑似的な汎用性を担保しつつ、数年単位での新技術へのリプレースを前提とした、中長期的なアーキテクチャを構想することである。

基幹システムとAIの「水と油」の性質から導く役割分担

基幹システムへのAI組み込みを成功させるためには、まず基幹システムとAI、それぞれの技術的特性の違いを正しく理解し、両者の関係性を再定義するところから始める必要がある。
基幹システムに絶対的に求められる要件は、「正確性」と「ロジックの透明性(トレーサビリティ)」、そして「安定的な稼働を継続すること」である。一方で、生成AIは自然言語を深く理解する反面、その思考プロセスがブラックボックス化しやすく、時には「誤った出力(ハルシネーション)」を引き起こす特性を持っている。
昨今、「あらゆる業務をAIに置き換えてしまえばよい」といった主張も散見されるが、企業活動の基盤として高い正確性が求められる基幹システムは、AI時代においても不可欠な存在であり続ける。したがって、このような「水と油」とも言える特性を持つ両者を単純に置き換えることはリスクが大きい。
また、AIにすべてを委ねるのではなく、意思決定や最終判断といった責任は人間が担い、AIは情報収集や入力補助に特化させる役割分担が不可欠である。AIによって収集・生成されたアウトプットの妥当性を「判断」し、そこから新たな価値を「創造」することこそが、現時点で人間が最も注力すべき領域である。

AIの選択肢・セキュリティの考え方と、システム導入アプローチ

前章で述べた役割分担を見据えた上で、基幹システムへAIをどのように組み込むかを検討する際には、どのようなAI技術を採用するかのアーキテクチャ選定が最初の壁となる。現時点ではGoogleやOpenAIなどが提供する基盤上で開発される「汎用AI」と、SAPをはじめとする各種ソフトウェア製品にすでに実装されている「組み込みAI」の2種類に大別される(図1)。
ここで注意すべきは、一口に「組み込みAI」と言っても、その性質はさらに二つに分かれる点である。一つ目は「ベンダーが提供する標準機能を前提としたAI」である。これはパッケージベンダーが想定する使い方の範囲内で機能するため、パッケージが前提としている業務に、自社業務が適合する場合はそのまま利用できる。二つ目は「顧客が自社業務に合わせて自由に構築できる、組み込みAIの中の汎用的なAI」である。こちらは一定のカスタマイズが可能だが、あくまでその特定システム(例えばERP)の中に閉じた、完結した世界での活用となる。

図1 汎用AIと組み込みAIの特徴

これらに対し、個社特有のルールや事業特性に合わせ、複数の業務やシステムを横断して柔軟に連携させるためには、基盤となる「汎用AI」を用いてAPIなどで疎結合的に作り込んでいくアプローチが必要となる(図2)。すなわち、ERPが想定している標準業務に合わせることができる業務(Fit to Standard)は、ベンダーが提供する「標準の組み込みAI」、ERPの中で企業独自の使い方をしている業務については、組み込みのAI構築ツールを使って、「汎用的な組み込みAI」を、競争力の源泉となる複数システム横断の業務には「汎用AI」を適用するなど、適材適所で使い分ける設計が重要である。

図2 汎用AIと組み込みAIの機能配置

また、AIを実装する上で決して避けて通れないのが、「セキュリティリスク」への対応である。ここでは大きく「外部への情報流出」と「内部での情報流出」の2つに分けて考え方を整理したい。
一つ目の「外部への流出」とは、社員が無償のAIサービスなどを利用した結果、入力した機密データがAIの学習に用いられ、社外に漏れてしまうリスクである。これを防ぐためには、単に利用を禁止するのではなく、バリューチェーンに関わるすべての人々に「入力データが学習されない安全なエンタープライズAI環境」を提供すること、そして同時に「何をAIに入力してよいか」というAIリテラシー教育を徹底することが不可欠である。特に、前者は自社の社員のみならず、バリューチェーンに携わる人全体がエンタープライズ環境を利用することが前提となるため、ステークホルダー全体でのセキュリティ担保という視点が重要である。
二つ目の「内部での流出」とは、給与情報や未公開の人事情報など、本来知るべきでない社員に対してAIが回答を提示してしまうリスクである。AIは社内の膨大なデータを横断して回答を生成するため、従来のシステム以上に厳密な「権限制御」と、そもそもAIに「学習・参照させるデータ自体の取捨選択」を慎重に行う必要がある。
こうしたアーキテクチャやセキュリティの前提に立った上で、基幹システムへAIをどう組み込んでいくべきか。その導入アプローチは、「システムの導入タイプ(既存システムのエンハンスか新規システム構築)」と「業務プロセスの変革度(部分的改善か全面見直しか)」の2軸からなるマトリクスで整理すると分かりやすいと考えている。具体的には、大きく以下の二つのアプローチに大別される。
一つ目は、「既存システム + 既存業務プロセス」の領域に位置づけられる「既存アプリケーションへの組み込み」である。既存システムは既に業務プロセスが定着しており、独自のシステム改修が幾重にも積み重なっていることも少なくない。システムの中身を変更するのではなく、「入力支援」や「情報収集」といった局所的な領域にフォーカスし、既存の規程類などを、AI学習のもととなる「教師データ」として活用しながら「スモールスタート」で費用対効果を見極めるアプローチが現実的である(図3)。

図3 既存アプリケーションへの組み込み

二つ目は、「新規システム + プロセス再設計(AIネイティブ化)」の領域に位置づけられる「新規システム構築」である。基幹システムを新しく構築する場合には、AIが業務を実行・補助することを前提に、業務プロセス自体をゼロベースで再設計(AIネイティブ化)し、個別の作り込みを最小限に抑えてシステムを身軽に保つことが志向される。ここで最も重要になるのが、単にAIを導入することに留まらず、AIを「育てる」仕組みを業務の中に組み込むことである(図4)。
AIの精度は、現場から生まれるデータの質に依存する。そのため、業務の中で質の高い「教師データ」を生成し、それをAIが学習して精度を上げ、再び現場に返すという「データの循環」を回し続けることが不可欠である。このサイクルを繰り返すことで、AIは自社独自の暗黙知を学び、時間とともに進化していく。

図4 新規システムの構築

さらに、いずれの場合も「業務の切り方(検討単位)」の再定義が必要となる。従来の機能群単位ではなく、「受注から債権計上まで」といったエンドツーエンドのプロセス単位で設計することが望ましい(図5)。なぜなら、機能間の「つなぎの部分」――これまで人間がマニュアルで補っていた領域にこそ、AI導入による改善余地が大きく存在するためである。

図5 AI活用を前提とした業務プロセスの検討単位

経理領域におけるAI活用の具体像とプロセス変革

では、これらを実際の業務に適用した場合、どのような変化がもたらされるのだろうか。企業のバックオフィスの中核をなす「経理領域」を例として取り上げる。
経理業務は大きく「情報収集系」「入力(登録)系」「計画・見通し・開示系」の3つのプロセスに因数分解できる。まず、既存システムでも着手しやすいのが「入力系」および「情報収集系」である。例えば、取引先から受領した請求書をAI-OCRで読み込み、過去のERPの履歴と照合して伝票情報を自動で提案する仕組みが考えられる。
ここで重要になるのが、現実的な運用と統制の両立である。AIの出力をそのまま処理に流すのではなく、AIが提案した内容に対して人間が最終確認を行う「サンプルチェック」の仕組みなどを導入することで、正確性と効率性を両立させることが可能となる。

さらに、新規システム導入などにおいては、より高度な「計画・見通し・開示系」の領域でのAI活用が期待される。例えば、過去の予算情報に基づく投資シミュレーションの立案や、財務情報と非財務情報を横断した収益貢献要因の分析などが挙げられる。これまで人間が膨大な時間をかけていた経営報告のサマリー作成や、株主総会用の事業別ストーリー(増減理由)のドラフト作成までも、今後はAIを活用しながら進めることができる。
AIによる入力補助が進むことで、データ転記などの定型業務は減少する。その結果、経理人材の役割は、AIが整理した情報に対し、会計的視点から「妥当性を判断」し、経営戦略への「示唆・提言(創造)」を行う高付加価値業務へ完全にシフトしていくことになると考えられる。

まとめ:AI時代を勝ち抜くための次世代経営基盤に向けて

これまで見てきたように、AI時代における次世代経営基盤の構築とは、単なる最新AIの導入ではない。基幹システムとAIという「水と油」の特性を踏まえた「人とシステムの役割分担の再定義」であり、機能間のつなぎ目を意識した「エンドツーエンドでの業務プロセスのリ・デザイン(再設計)」に他ならない。
そこに「システムの簡素化」という指針を持ち込み、データを循環させてAIを育てていくこと。さらには、機密データを守るセキュリティ対策や、人材育成を含めて包括的にデザインすることが、人間が本来担うべき「判断」と「創造」に集中するための基盤となるのである。
しかし、これほど広範かつ複雑なテーマを、日進月歩で進化する技術に対応しながら自社単独で推進することは決して容易ではないだろう。正解のないAI時代において、自社のビジネスに最適な次世代経営基盤を描くためには、最新テクノロジーに関する知見のみならず、現場の業務実態や制度的背景までを踏まえた上で、客観的な視点から議論できる「壁打ち相手」の存在が有用になると考えている。
アビームコンサルティングでは、こうした「客観的な視点からの議論」と「実装までの一貫した支援」を両輪として、業務・システム・テクノロジーを横断した知見をもとに、企業の次世代の基幹システムを構築するための最適化されたアーキテクチャ設計と実行支援を提供している。

企業が持つ「独自の強み」をAIによって最大限に引き出し、真のビジネス変革を実現すること。本インサイトが、次世代システム構築に取り組むCIOや情報システム部門にとって、有益な示唆となれば幸いである。


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