ROIC向上を通じた経営変革の実現:経営目標と現場活動の連動(後編)

インサイト
2026.07.21
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  • 企業価値経営
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資本市場から資本効率を重視した経営が求められる中、ROIC(投下資本利益率)は企業経営における重要な指標となっている。
インサイト「ROIC向上を通じた経営変革の実現:経営目標と現場活動の連動(前編)」では、ROIC向上に向けた経営管理を現場に浸透させることに苦労している日本企業が多く、経営目標と現場活動の連動が弱いことや、部門間で揃えるべきルールや業務プロセスの非標準化、分析に必要なデータの未整備が壁となっていることを言及してきた。さらに、事業の多角化や海外売上比率の増加を背景に日本企業の経営管理が複雑化し、コーポレート機能の強化が重要視される中、戦略とオペレーションの連動を強化する上でSCM(サプライチェーンマネジメント)は重要な役割を担う。しかしながら、SCMを経営手法として認識しROIC向上を実現する重要な要素であると考えている経営層はまだまだ少ないのが現状である。
本インサイトでは当社クライアントの事例を踏まえながら、企業価値向上に向けSCMの観点から企業が取り組むべき経営管理における施策について提言を行う。

執筆者情報

  • 飯田 薫子

    飯田 薫子

    Director
  • Shingo Goto

    久留見 和政

    Senior Expert
  • Shingo Goto

    松永 泰明

    Senior Expert
  • Shingo Goto

    水島 岳瑠

    Manager
  • Shingo Goto

    池川 竣一

    Senior Consultant

日本の製造業が直面する課題

需給対応の悩み:日系食品メーカーの事例

ライフサイクルが短く、賞味期限という大きな制約のある商材を扱う日本の食品メーカーにおいて、需給管理業務は非常に難易度が高く、きめ細かな調整が不可欠である。特売のような突発需要や新製品需要が読みづらいことに起因し、日々の需要変動への生産・物流調整が求められる。その判断をよりタイムリーに実現するため、これまでの食品メーカー各社では、日別PSI(生産・販売・在庫)情報を可視化し、欠品や廃棄リスクを回避するため、製品在庫数量を主要なKPIとし、日々の需給調整を進められるように工夫してきた。一方で、目先の欠品や滞留回避においては、工場は工場、物流は物流と、それぞれの部門の効率性にフォーカスした調整になりがちである。

例えば、想定以上の売れ行きで追加生産が必要になった場合に、工場は休日稼働で、最大ロットで生産をしようとする。在庫確保という視点では決して間違った判断ではないが、集中生産により生じる保管コストなどは勘案できておらず、客観的判断とは言い難い。これは、各部門のKPIである「〇〇効率」と、トレードオフとして発生する他部門への影響(保管コストなど)を客観的に比較・評価できる材料がなかったことが要因と言える。

エネルギー費や物流費、原料価格などあらゆるコストが高騰している現在においては、各種コストの店頭価格への転嫁という判断や、より利益を生む商品への注力などの迅速な経営判断が求められている。在庫数量だけでサプライチェーンを評価するのではなく、SKU(商品の最小管理単位)別の各種サプライチェーンコストを、「金額」という共通言語で可視化することで、さまざまなトレードオフとなる制約の中でも何を優先すべきかを判断し、最大の利益を生むサプライチェーンの実現が求められている。

製造原価把握の悩み:日系消費財メーカーの事例

日系製造業では製造現場の強みを活かし、長年、継続的な改善活動を続けてきた結果、高品質な製品を安定的に提供しつづけ、“メイド・ イン・ ジャパン”ブランドを確立してきた。さらに、少しでもムダな作業を削減するなど、原価低減に対しても、製造現場が主体となって積極的に取り組んでいる。このように、現場で自主的な改善活動を行うことが日系製造業の強みのひとつであった。

しかし、こうした努力にもかかわらず、ある日系消費財メーカーは利益率の面で海外の競合消費財メーカーに遅れを取っていた。その原因の一つとして、SKU(商品の最小管理単位)別の利益率を正確に把握できず、素早い経営判断を行えていない点が挙げられる。
SKUによっては、歩留まり率が低い、手直し工数が大きい、段取り替え時間が長い、品質検査に工数がかかることがあるが、これらの費用は会計上の原価としてSKU別に反映できておらず、製造固定費として一括配賦されていた。また、製造現場は共通KPIを基準に改善対象SKUを選定していたため、経営視点から見た優先度との乖離が生じていた。さらに、改善効果も共通固定費の削減として吸収されるため、経営に対する定量的な成果が不明瞭になるという課題もあった。

これらの製造に要する費用をSKU別に正確に把握することによって、「①価格転嫁する」「②対象SKUをターゲットとした現場改善に取り組む」「③販売終了を検討する」といったアクションを取ることができ、本来の商品価値に見合った利益率の達成へとつなげることが可能となる。

調達リスク可視化の悩み:日系組立製造メーカーの事例

当社が実施した「日系組立製造業における調達・サプライチェーンリスク対応の実態調査」によると、コロナ禍以降、調達途絶の影響により営業利益計画に対して5%以上の損失影響を受けた企業は約半数を占め、20%以上の損失影響を受けたと回答した企業も約2割存在することが明らかになった(図1)。また損失影響を把握できないと回答した企業が約4割存在することも判明した。増大・ 多様化する調達リスクによる影響は大きく、リスクの可視化と影響把握を可能とする仕組み作りが企業には求められる。

図1 調達途絶危機により発生した損失影響
質問「調達途絶危機により営業利益計画に対して何%の損失が発生しましたか。」
(単数回答/N=100)

例えば、ある企業では調達途絶事象が発生した際にサプライヤーの工場所在地や保有設備、Tier2・3にさかのぼった情報が一元管理されておらず、迅速なリスク検知ができなかった。データ基盤が未整備であり調達部門に会計・ファイナンスに精通する人材もいないことから、収益へのマイナス影響の把握に時間を要し経営陣の迅速な意思決定を実行できなかった。
また、別の企業では調達途絶が発生した際、部材に紐づく製品を特定するためのBOM(部品表)をさかのぼる仕組みが構築されておらず、影響が見込まれる製品を特定することに時間を要した。また損益影響も概算把握しかできなかった。
各企業の調達部門は平時における調達リスク評価の重要性に気づき、リスク低減により回避できる影響金額をROIとして示すことでリソースやソフトウェアへの投資提案を行っている。しかし、想定リスクの発生確率や投資対効果が見えづらいという理由から経営からの承認を得られず、適切な投資判断が行われていないのが現状である。

このように平時からのリスク評価・ 低減の取り組みに投資が行われず、人海戦術的なリスク検知を強いられ、収益影響を把握するためのデータ基盤も未整備という日系企業は依然多く、それによりリスク発生時の対応が遅れマイナス影響の増大と回復の遅れに繋がっている。

日本企業が乗り越えるべき壁

SCMの観点から企業価値向上に向けた経営管理を行うにあたり、さまざまな企業の悩みに関する事例を紹介した。これらの事例を通して浮き彫りとなった、日本企業が乗り越えるべき壁として、以下のような点が挙げられる。

  • サプライチェーン全体最適の視点に基づく施策立案ができていない
    在庫にとどまらず、工場・物流を含むサプライチェーン全体のコストや調達リスクを踏まえ、利益最大化に向けた施策を立案・実行する必要があるが、個別最適になっている
  • 全体最適に必要な粒度・精度での製造原価データを把握できていない
    SKU単位の製造原価など、必要な粒度・精度で把握できていないため、収益性を踏まえた販売戦略や現場改善の取り組みに十分落とし込めていない
  • トレードオフを考慮した統合的な損益シミュレーションができていない
    各種コストの分析・精緻化、リスクの可視化を個別に実施しているものの、これらを統合した計画の見直しや、計画案ごとの損益のシミュレーションができていない

これらの壁を乗り越えるため、企業が取り組むべき経営管理における施策について解説する。

S&OPと経営管理機能の融合がもたらす企業価値向上

正確な製造原価把握のためのMES活用

製造現場では、現場の作業を支援し、実績情報を記録する仕組みとして、紙帳票、共有ファイル、各種システムが活用されてきた。原材料の投入量、設備稼働の状況、作業者の作業実績、良品率、歩留まり、各種異常など多岐にわたる。これらは、朝会などでの振り返りや申し送り、当日の作業指示・ 注意事項に役立てられてきた。
近年は、より迅速な状況把握とアクション、さらには蓄積されたデータの分析による課題抽出や現場改善などを目的として、MES(Manufacturing Execution System/製造実行システム)の導入が進んでいる。さらに一部の先進企業においては、作業品質の安定化、工程・ 作業間の連携、ライン・ 工場の横串比較、生産拠点のポータビリティ確保を目指し、MOM(Manufacturing Operations Management/製造オペレーション管理 )を導入するケースも増えている。
従来、MES/MOMは工場レベルでの可視化や作業効率化、現場改善を目的としたシステムとして位置づけられてきた。しかし、原材料投入量や作業実績、設備稼働状況といった現場データは、そのまま製造費用に直結するものであり、SKU別の正確な利益率を把握するためには、製造コストの情報が欠かせない。
つまり、MES/MOMは単なる現場改善ツールにとどまらず、製造現場と経営販売を結びつけ、製販一体で利益率向上を図るうえで中核的な役割を担うため、MES/MOMを経営視点から戦略的に活用することが、今後ますます重要となる。

Tier2以降も含めたサプライヤー情報、調達リスクの一元管理

需給変動対応のための計画シミュレーションでは、増大・ 多様化する調達リスクを考慮することが不可欠である。そのうえで企業が取り組むべきことは、グループ全体でのサプライヤーマスタの一元管理と部材から製品までをBOMで辿ることができる仕組みの構築である。
サプライヤーマスタを統合し統一的な評価基準を設けることで、グループ間の情報管理のバラつきを解消することができ、外部機関の財務リスク情報やESGリスク情報との紐づけも容易となる。
また、Tier2以降のサプライヤーをダッシュボード上に可視化し、自然災害や工場火災などのトラブル情報をリアルタイムに取得できるITソリューションと結合することで、リスク検知の精度と迅速性を大幅に高めることができる。その際、BOMを通じて製品への影響を即時に把握できる仕組みを整備することが重要である。
サプライチェーン計画システムは日々進化を続けており、調達制約を考慮した販売計画の反映機能が拡充されつつある。既に一部の日系企業では、Tier2以降のサプライヤーと計画情報を連携し、生販計画に展開する取り組みも始まっている。
このように、平時からの調達リスクの可視化と迅速なリスク検知を通じて計画シミュレーションのバリュエーションを広げ、調達制約を考慮したサプライヤーとの協働計画を推進することこそが、収益最大化とリスクマネジメントの高度化に直結する。

基盤となるデータ統合プラットフォーム構築

ここまでSKU別の利益率の把握、及び調達リスク可視化について述べてきた。これらのプロセスを実現するためには基幹システム(ERP)のみならずサプライチェーン計画システムやMES/MOMの活用、サプライヤーポータルといった各種ITソリューションを考慮したシステム全体像の整理が必要となる。そして、これらのシステム配置の一例として提唱したいのが、データ統合プラットフォームである。
具体的な構成イメージは図2の通りである。個別システム層、データレイク、データウェアハウス、データマートを活用したデータ管理層、そしてビジネスインテリジェンス(BI)ツールによるデータ可視化やAIなどによる分析を行うデータ活用層の3層構造から成る。

図2 データ統合プラットフォームのイメージ

このようにグループ全体のデータを蓄積し必要な情報を必要な粒度で利活用できる基盤を構築し、運用体制を整備、ユースケースの拡張やデータ活用のカルチャーの醸成に継続して取り組んでいくことが、データドリブンでの意思決定の実現に大きく貢献する。

SCM機能と経営管理機能の統合

ただし、こうした基盤を整備するだけでは、企業価値向上には直結しない。サプライチェーンの全体最適とは、SCM部門の最適化にとどまらず、会社全体の価値、すなわち経営価値を高めることである。そのためのプラットフォームは、現場のSCM担当者の日々の意思決定に組み込まれてこそ、真に価値を発揮する。
にもかかわらず、多くの場合、SCM担当者の意思決定は全体最適の視点ではなく、従来どおりの個別最適に基づいたものになりがちである。SCM担当者がなぜ全体最適ではなく個別最適に陥ってしまうのか、その背景にある要因について考察する。

第一に、現場のSCMは、実際に顧客が目の前にいて、SKU毎に在庫を切らさないようにモノを作り、運び、顧客に届ける活動を日々実施している。一方、全体最適である経営指標は、そういった現場の活動とは異なり、必ずしも現場の業務に直接紐づくものではない。そのため、現場サイドからは自分の作業がどのように経営指標へ貢献するのかというイメージが難しいという実態がある。
また、経営は中期・長期の経営成果を見据えた時間軸で数値を管理しているのに対し、現場は日々の業務や個々の顧客対応において、「今まさに何を優先すべきか」という判断を迫られている。
こうした時間軸と判断粒度の違いが、経営課題と現場課題の乖離として現れている。つまり、経営のKGIと現場のKPI はミッションの粒度が異なるため、上手くつなげること自体が難しいということである。それらを紐づけ、経営と現場SCMを真に連動させるためには、経営指標(例えばROIC) から逆ツリー展開して、ROICをブレイクダウンした現場KPI を設定し、経営と現場、各事業計画と経営計画の意思統一を図ることが必要となる。具体的には下記のようなアプローチである。

  1. 経営指標と現場KPIの関連性を定義
    経営指標の一つであるROICをブレイクダウンし、ROICに紐づく形で現場のKPIを定義することで、現場の業務と経営指標とのつながりを可視化する。
  2. 現場KPIの積み上げを経営成果として捉える
    現場で日々達成されているKPIの積み重ねが、最終的にどのような形で経営成果につながっているのかが見える状態を作ることも、現場と経営を連携させるうえで欠かせない。
    現場KPIと経営指標の因果関係を整理することで、現場は自らの活動が企業全体の成果に貢献していることを実感しやすくなる。

S&OPによる収益最大化とリスクマネジメントの実現

前述のアプローチを通じて各事業計画と経営計画の整合性が確保されれば、部分最適な発想から脱却し、利益最大化を志向した全社的なSCM計画の遂行が可能となる。
具体的には、営業部門はトップダウンで戦略的に決定された商品構成やPSI計画を前提に商談を行い、生産・物流・需給といった各部門は、それぞれに定義されたKPIを遵守することで、利益を着実に創出するサイクルを確立できる。
こうした状態であれば、事前に設定した目標に沿った計画立案と実行が可能となり、コスト低減施策についても戦略的な打ち手を講じやすくなる。その結果、これまで自部門の個別最適にとどまっていた改革を、全社視点で推進することができ、経営からの指示に対して後追いで数字を合わせるといった対応も不要となる。
一方で、想定外の需要変動などにより、中長期の戦略計画とは異なる選択肢を現場で急遽迫られるケースも少なくない。そうした状況においては、現場判断が本当に収益につながるのかを即座に検証できる仕組みづくりが重要となる。SCM各部門の計画がトレードオフの関係にあることを前提に、それらを連動させ、マルチシナリオで最終的な収益影響を瞬時に算出できるシミュレーション機能を備えておく必要がある。
まとめると、経営視点で策定した中長期的な利益最大化計画をベースに、現場が連動して需給プロセスを遂行する。そのうえで、各部門のミッションとKPIを策定し、実行部門が計画の遵守を徹底するとともに、有事の際にはマルチプランのシナリオを策定し、利益を作り出す意思決定を行える仕組み、すなわちS&OP(販売事業計画)を構築することが肝要である。

企業価値向上に向けた経営層への提言(まとめ)

AIやITソリューションの進化により、S&OPを含む経営管理機能の高度化に寄与する選択肢は大きく広がっている。先進企業では、これらを標準装備すべき経営インフラと位置づけ、需要予測やシナリオ分析、収益影響の予測といった高度な意思決定支援機能を含めた経営管理基盤への投資を積極的に進めている。特に近年、意思決定におけるAI活用が急速に進展しているが、こうしたAI活用を実効性あるものとするうえでも、経営管理基盤の整備は不可欠である。一方で、多くの日本企業はこの分野で依然として遅れをとっているのが現状である。組織、業務プロセス、システム×データ、人材といった包括的な改革は、部門横断的な取り組みが求められるため、相応の時間とリソースを要する。短期的にはキャッシュ面でFCF(フリーキャッシュフロー)が一時的に低下するなどのデメリットも想定されるが、経営層の強力なトップダウンのもとで早期に着手し、計画的に推進していく必要がある。そうした取り組みを先送りすれば、先進企業との差は今後ますます拡大していくだろう。

ただし、すべてを一度に進めることはリスクが高く、計画・ 実行局面で頓挫しかねない。そのため、改革の初期段階においては、現場や経営がその効果を実感できる成果を早期に創出することが重要である。その一つの手段として、改革推進をコミットしたうえで、特定の事業領域に対象を絞り、存在するデータを活用しながら、経営と現場を橋渡しできる人材育成と体制を構築する。そのうえで、スモールスタートで実行し、最終的には経営と各事業が横断的に、データとシミュレーションに基づいた意思決定、および、AIを活用した意思決定を行える状態を目指す必要があると考えられる。

アビームコンサルティングは、SCM領域で需要予測や在庫最適化、ERP導入などを通じてサプライチェーン全体の高度化を支援してきた。また、数多くのSCM改革プロジェクトを通じて、構想策定から実行まで一貫した支援実績を有している。本インサイトが、経営と現場の分断を乗り越え、全社視点でのSCM変革を前進させる一つの契機となれば幸いである。

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