経理財務(ファイナンス)PMIにおけるアドバイザー選定のポイント─会計の枠を超えた視点が成功の鍵

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2025.03.31
  • 経営戦略/経営改革
  • M&A
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M&A後のPMI(Post-Merger Integration)において、経理財務の統合はCFOや経理部長にとって重要なプロセスであり、制度会計、管理会計体制の構築など、短期間で幅広い対応が求められる。特に制度会計の観点では、連結決算体制の構築や開示対応が必要であり、多くの企業が監査法人の公認会計士を主体としたアドバイザーを起用することを検討すると考えられる。

もちろん、会計基準の統合などの専門知識が求められる場面も多く、監査法人アドバイザーの起用は正しい選択肢の一つである。しかし、「専門性が高すぎるがゆえの課題」も生じやすく、実務的なプロジェクト推進が難航するケースも少なくない。

本記事では、経理財務(ファイナンス)PMI対応を効果的に進めるためのポイントについて解説する。

1. PMIにおける制度会計対応は時間との戦い──外部活用が成功の鍵

① 短期間での対応が求められる

上場会社は、金融商品取引法の要請により有価証券報告書、四半期報告書などの開示が義務付けられている。このため買収対象会社が非上場会社であったとしても、上場会社グループがM&Aを実施した場合、制度会計対応(連結決算・開示対応)を短期間で完了しなければならない。親会社がIFRS適用企業の場合、買収企業の財務諸表は原則Day1時点で親会社の連結決算に取り込む必要があり、JGAAP適用企業でみなし取得日を採用した場合でも、最長3か月以内の親会社の四半期決算で取り込む必要がある。

制度会計対応が間に合わない場合、Day1の遅延につながる可能性がある。M&Aを市場に公表している状況でスケジュールが遅延すると、投資家や市場の評価が悪化するだけでなく、シナジー効果の発現が遅れるうえ、従業員の混乱やモチベーション低下による人材流出などが生じ、企業価値の毀損リスクがある。

② 高度な専門知識が必要となる制度会計PMI対応経験を持つ人材が不足しがち

制度会計対応を行う経理部が潤沢に人員を抱えていることは稀であり、単体決算・連結開示などの通常業務でリソースがひっ迫していることが多い。そのような中でもPMIにおける制度会計対応には、以下のような高度なタスクが含まれる。

  • 会計基準の差異分析・統合方針の決定
  • 連結方針の策定(BS/PLの取り込み、開示対応)
  • 監査法人を含む多くの関係者との調整

特にM&Aの経験が少ない企業では、PMIの制度会計対応経験を持つ人材が不足しており、既存の経理部門のリソースだけでは短期間で適切な対応を進めることが困難なことも多い。

初年度に実施すべき制度会計対応事項例

③ 経理財務PMI専門アドバイザーへの依頼というオプション

上記①、②を踏まえて内部リソースでの対応が難しい場合、最初に述べた通り監査法人アドバイザーの起用を考えるだろう。しかしながら、「制度会計の専門家=最適な経理財務アドバイザー」とは限らないためメリット/留意点を踏まえた検討が必要である。
公認会計士を中心とする監査法人アドバイザーを起用する場合、以下のようなメリットがある。

  • 会計基準統合に強い(JGAAP / IFRS / US GAAP など)
  • 連結決算・開示対応の知見が豊富(PPA・減損テスト対応など含む)
  • 監査法人との連携がスムーズ

一方で、以下の留意点もあると考えられる。

  • 監査法人の法定監査業務が「独立した第三者」として批判的な検討・監査が求められる性質上、クライアントの要望に寄り添うアプローチに慣れていない可能性がある

経理財務PMIにおける各対応は、「これをやれば成功する」というフォーマットがあるわけではないので、対象会社と適切なコミュニケーションを取り、状況に応じてカスタマイズを行いながらプロジェクトを推進できるアドバイザーを選定することがポイントとなる。

2. 経理財務PMI専門アドバイザー選定のポイント

では、経理財務PMI専門アドバイザー選定にはどのようなポイントがあるのか。会計の専門知識に加えて、次の3つの視点が求められると考える。

① 実務的な業務プロセスの理解と調整力

PMIの実施にあたり親会社と対象会社の業務プロセスが完全に一致していることはない。そのため、親会社の要件を明確に定義し、それに適合する形で対象会社の業務プロセスを修正・構築する必要がある。
また買収後、親会社は対象会社に対して指示や依頼を行える立場になるが、対象会社の従業員もまた人間であり、一方的な指示には反発が生じることがある。特に、対象会社が非上場企業の場合、バックオフィスの体制が脆弱で、対応するリソースが不足しているケースも少なくない。

そのため、単に画一的なフォーマットを渡して「親会社に合わせる」よう求めるだけでは不十分である。対象会社の実態を十分に理解し、現場で運用可能な業務フローを構築することが重要となる。実務レベルで機能する「現実的な落としどころ」を見出し、それを形にする調整力が求められる。

② ビジネスとの連携・橋渡しができるか(ビジネス感覚)

PMIの目的は、単なる「会計基準の統合」にとどまらない。経理財務(ファイナンス)分科会の担当範囲はプロジェクトごとに異なるが、一般的に、過去の数値を収集・開示する制度会計対応に加え、予実管理など将来の数値を扱う管理会計も含まれる。
そのため、経理財務(ファイナンス)分科会には、正確な決算開示を行うだけでなく、全体PMOや戦略系ワークストリームと連携し、数値を起点に過去の実績から将来のビジネスまでを橋渡しできるアドバイザーが求められる。

③ 会計知見×オペレーションの総合的な視点

制度会計対応や管理会計対応のいずれにおいても、PMIの過程ではオペレーションの変革が求められることが多くある。例えば、制度会計の領域では、親会社に比べて対象会社の決算確定が遅いケースが多いため、決算の早期化が一般的な課題となる。しかし、その実現には経理部門だけでなく、営業や購買など他部門のオペレーション改革も不可欠だ。

また、PMIではERPや会計システムの統合が求められることも多いため、会計基準の統一のみならず、業務プロセス全体を踏まえた総合的な視点が必要になる。会計知見とオペレーションの両面を統合的に捉え、現実的かつ実行可能な形で変革を推進できるかどうかが、PMIの成功を左右する。

上記3点を踏まえて経理財務PMI専門アドバイザーとしてふさわしい人材は、当該要素を持ち、協調性と柔軟性を兼ね備え、状況に応じた適切なコミュニケーション/対応ができる人材であると考える。保持していると望ましい経験は下記となる。

経理財務PMI専門アドバイザーとしてふさわしい経験例

3. ディール段階から経理財務PMIも見据えた予算確保が不可欠

PMIのディール段階では、経営企画などのメンバーが実行の中心となることが多く、経理財務PMIの実務対応はDay1直前になってようやく話題にのぼることが少なくない。
しかし、経理財務分科会が最初に取り組むべき制度会計対応は時間との戦いであり、たとえアドバイザーを起用したとしてもDay1直前からの対応では初回開示が適切にできないリスクがある。そのため、M&Aの実行段階(DDを実施している段階)から経理財務PMIの計画を早期に検討し、内部リソースだけでは対応が難しい場合は、適切な経理財務PMI専門アドバイザーとコンタクトを取り、選定を進めることが重要となる。
また、M&Aにおいてはクロージングがゴールとされることが多く、投資予算もクロージング時点までしか確保されていないケースが多々ある。その結果、PMIで必要となる対応事項が多岐にわたるにもかかわらず、新規採用や外部アドバイザーの活用に十分な予算がなく、内部リソースのみで最低限の対応を行わざるを得ず、PMIがうまくいかないことも少なくない。例えば、PMI予算を事前に確保していなかったため制度会計対応を自社リソースのみで進めたものの、初回開示対応に向けた連結決算体制の構築プロセスが難航し、その結果、最悪の場合Day1の遅延を招く可能性もある。したがって、PMIの初期段階から、新規採用や経理財務PMI専門アドバイザーの活用を見据えた投資予算を確保することが不可欠である。

まとめ:経理財務PMIは「会計の専門性+α」が求められる

これまで述べてきたように、経理財務PMIは単なる会計基準の統一にとどまらない。会計知見に加え、業務プロセスの整備や、数値を起点としたビジネスとの連携を通じて、多岐にわたる課題を包括的に解決する必要がある。

したがって、内部リソースでの対応が難しい場合、単に「会計の専門家」を選ぶのではなく、「適切なコミュニケーション能力を持ち、業務やビジネスの視点を兼ね備えた経理財務PMI専門アドバイザー」を選定することが、経理財務PMIを成功に導く鍵となる。

アビームコンサルティングは、経理財務(ファイナンス)PMIにおいて豊富な支援実績と知見を有しており、会計のみならず、業務やビジネスの視点を踏まえた総合的な支援が可能である。現在、デューデリジェンスを実施中でPMIを検討中の企業、またはPMIを進める中で経理財務PMI専門アドバイザーをお探しのCFOや財務部長の皆様にはぜひご相談いただきたい。


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